Windowsの脆弱性「BlueKeep」を狙った攻撃が、ついに始まった

自己感染力をもつマルウェアの一種に悪用される恐れがあるWindowsの脆弱性「BlueKeep」。今年5月にマイクロソフトが公表したこの脆弱性を狙った攻撃が、ついに始まった。現在の攻撃の波が世界的流行にまで拡大する可能性は低いというが、それでも将来は破滅的な結果をもたらす可能性がある。

Security

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単独で活動でき自己感染力をもつマルウェアの一種(ワーム)に悪用される恐れがある脆弱性「BlueKeep」についてマイクロソフトが明らかにしたのは、今年5月のことだった。そして数百万台のWindowsデヴァイスがリスクを抱えていると判明したとき、グローバルな攻撃が発生するのは時間の問題だとみられていた。

そして予想通り、ついにBlueKeepを利用した攻撃が発生した。しかし、これまでのところ最悪な事態には至っていない。

セキュリティ研究者たちは、マルウェアの発生を検出して分析するように設計されたハニーポットと呼ばれるおとりのマシンが、BlueKeepを利用した大規模な不正アクセスを受けている証拠を発見した。ハッカーはWindowsの画面共有機能「リモートデスクトッププロトコル(RDP)」に存在するこのバグを利用して、パッチが適用されていないマシンの完全なリモートコードの実行権限を獲得できる。

破滅的な結果をもたらす可能性

このバグは、これまで概念実証の目的でのみ利用されていたが、将来は破滅的な結果をもたらす可能性がある。2017年にWindowsマシンをターゲットにした別のワームであるランサムウェア「NotPetya」による攻撃は、世界中に100億ドル以上の損害をもたらした。

しかし現時点でのBlueKeepを狙ったハッキングは、仮想通貨(暗号通貨、暗号資産)のマイナー(発掘ツール)をインストールすることで、仮想通貨の“発掘”のためにマシンの処理能力を奪う程度にとどまっている。また、コンピューターからコンピューターへと自律的に感染するワームとは異なり、BlueKeepを用いた攻撃者は悪用できる脆弱なマシンを探すためにインターネットをスキャンしただけのようだ。そこから判断すると、現在の攻撃の波が世界的流行にまで拡大する可能性は低い。

「BlueKeepはしばらく前から存在していましたが、大規模に利用されている事例は初めて見ました」と、セキュリティ企業Kryptos Logicのマルウェア研究者であるマーカス・ハッチンスは言う。彼はBlueKeepによる実行可能な概念実証環境を世界で初めて構築した研究者のひとりである。「攻撃者はターゲットを漁っているわけではありません。インターネットをスキャンしてエクスプロイトをばらまいているだけなのです」

パンデミックには遠く及ばない?

ハッチンスは、BlueKeepを利用したハッキングの発生を、同僚のセキュリティ研究者であるケヴィン・ボーモンから最初に聞いたという。ボーモンは自分のハニーポット用マシンが数日前からクラッシュしていることに気付いていた。それらのデヴァイスは、RDPが使用するポート「3389」のみをインターネットに開放していたため、ボーモンは直ちにBlueKeepを利用した攻撃を疑った。

次にボーモンは、クラッシュしたマシンから取得したクラッシュダンプのデータを、証拠としてハッチンスに共有した。ハッチンスはBlueKeepが原因であること、ハッカーが被害マシンに仮想通貨の採掘ツールをインストールしようとしていたことを確認した。その詳細は、Kryptos Logicのブログに掲載されている

ハッチンスは、ハッカーがどの仮想通貨のマイニングを試みているかは、まだ突き止めていないと言う。また、標的となったマシンがクラッシュしている事実は、エクスプロイトの信頼性が低い可能性を示しているとも指摘している。ハッチンスによると、マルウェアの作成者は、オープンソースとして9月に公開されたハッキング・侵入テストフレームワーク「Metasploit」に含まれていたハッキング手法を使っていたようだ。

実際に何台のデヴァイスが影響を受けたのかは不明だが、現在のBlueKeepを狙った攻撃の発生は、多くの人が恐れていたパンデミックには遠く及ばないとみられている。「攻撃の急増は見られましたが、ワームによる被害といって想定していたレヴェルではありません」と、セキュリティ企業のRendition Infosecの創業者ジェイク・ウィリアムズは言う。「BlueKeepを狙ったハッキングは、まだ本格的な規模には達していません」

脅威は過ぎ去っていない

さらに大規模なBlueKeepを狙ったハッキングの波が発生していない事実は、BlueKeepという脆弱性に関するマイクロソフトの対応が奏功している可能性があるのだと、ウィリアムズは言う。だとすれば、予期せぬハッピーエンドになるかもしれない。

「ワームの発生がないまま時間が過ぎれば、より多くの人がパッチを適用し、脆弱なマシンの数が減少します」と、ウィリアムズは言う。「Metasploitのモジュールが公開されてから2カ月が経ちますが、まだ誰もこのモジュールを使ってワームを作成していないことを考えると、費用対効果を分析した結果、モジュールを“兵器化”することに大きな利益がなかったのだと思われます」

だが、数十万台ものWindowsマシンにBlueKeepが与えている脅威は、まだ過ぎ去ったわけではない。セキュリティ研究者でErrata Securityの創業者であるロブ・グラハムが実施したスキャンによると、8月の時点で約73万5,000台のWindowsコンピューターが脆弱な状態のままになっている。

また、いまなお残存するこの脆弱性を悪用する、より重大で悪性のマルウェアにそれらのマシンが攻撃される可能性はまだある。そして、それらはNotPetyaやWannaCryを手本にしたランサムウェアのようなかたちをとる可能性がある。WannaCryが2017年5月に拡散したときは、ほぼ25万台のコンピューターが感染し、40億から80億ドル相当の被害が発生した。

深刻な攻撃の前兆になる

一方で、BlueKeepを狙って仮想通貨の採掘ツールが広まっている現在の状況は、マイニングによってコンピューターがクラッシュしたりハイジャックされたりする人々にとっては不愉快な出来事になる。しかし最悪でも、差し迫るさらに深刻な攻撃の前兆になる程度だろう。

「BlueKeepを狙うエクスプロイトは、仮想通貨のマイニングに利用できるシステムを増やすには最適です」と、ハッチンスは言う。「しかし、誰かがどこかの段階でランサムウェアのワームを作成しているのかどうかに、必ずしも影響するわけではありません」

BlueKeepが最終的にもたらす被害が、最悪でもハッカーが多少の仮想通貨を採掘する手助けをする程度だったとしよう。そのときは、言ってみればインターネットが惨事を免れるということなのだ。

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ナルシストはストレスを感じにくく、うつ病になりにくい:研究結果

人間関係においてネガティヴに捉えられがちであるナルシシズム。ところが、社会から排除されないどころか、近年は増加の傾向にあるという。その背景についてふたつの研究が明らかにしたところによると、どうやらナルシストは“強靭なメンタル”をもっているおかげでストレスを感じにくく、うつ病にもかかりにくいらしいのだ。

TEXT BY SANAE AKIYAMA

narcissist

CAIAIMAGE/PAUL BRADBURY/GETTY IMAGES

もしあなたの知る誰かが、自分の優越性を信じて疑わず、自信過剰で傲慢で、恥知らずで、さらに他者に共感などせず、危険な行動をとり、おまけに良心の呵責すら覚えない人格の持ち主だとしよう。その誰かは周囲に迷惑がられ、“ナルシスト認定”されている可能性が高い。それもそのはず。ここで挙げた特徴は、心理学でサイコパスと並ぶ負属性(闇属性)の人格的特性のひとつだからだ。

ナルシシズムは、多くの人間関係においてネガティヴに捉えられがちである。社会で犯罪を起こすリスクが高く、社会的苦痛を引き起こし、組織に深刻な問題を起こす可能性がほかよりも高いとされるからだ。しかし、このような好ましくない特性は、社会から排除されないどころか、近年は増加の傾向にあるという。それはいったいなぜなのだろうか?

その理由を明らかにしたのが、このほど『European Psychiatry』『Personality and Individual Differences』で発表されたふたつの研究論文だ。これらの研究は、ナルシストたちのポジティヴだと思われる側面に着目した。その結果、興味深い関連性が浮かび上がった。どうやら強靭なメンタルをもっているおかげでストレスを感じにくく、うつ病にもかかりにくいらしいのだ。

なお、ここで議論されているのは、病的な「自己愛性パーソナリティ障害」のことではなく、臨床診断ではあくまで“普通”の範囲にとどまるスペクトラムのナルシシズムである。

ナルシシズムは社会では本当に悪なのか?

「ナルシシズムは、マキャヴェリズム、サイコパシー、サディズムを含む“ダークテトラッド(負または闇の四大人格)”と呼ばれる人格特性のひとつです」と、北アイルランドにあるクイーンズ大学ベルファスト心理学部のコスタス・パパジョージオ博士は説明する。「ナルシシズムには、ふたつの主要な側面があります。誇大と脆弱ナルシストです。脆弱ナルシストは防御的で他人の行動を敵視する傾向があるのに対し、誇大ナルシストは通常は過度に誇張された自己重要性を感じ、地位や権力に執着します」

今回の論文が対象としているのは誇大ナルシストのほうで、地位や権力への固執に加えて冒頭で紹介したような負の特性をもつ。そこで研究者らは次のように考えた。ナルシシズムの特性が社会にとって真に有害ならば、それらはおのずと淘汰されるはず。しかし実際はそうではなく、近代社会においてナルシシストは逆に増加傾向にあるという。ならば、社会にとって有益な側面があるのではないか──。

ナルシシズムにはポジティヴな側面がある

そこで研究チームは、3つの異なるサンプル合わせて748人の被験者(35パーセントが男性、65パーセントが女性)に、ナルシシズム要素、うつ病の症状、メンタルの強さなどを評価する質問に答えてもらった。続いて、どのようにストレスに反応するのかを調査した。

すると興味深いことに、誇大ナルシストの傾向がある人たちはストレスの認識レヴェルが低く、自分の生活がストレスフルだとみなす可能性が低かった。どうやら誇大ナルシストたちは精神的にとてもタフにできており、このメンタルの強さがうつ病の症状を相殺するうえで役立っているようなのだ。

「われわれのすべての研究結果からは、誇大ナルシシズムにおける『自信』や『目標への志』は肯定的な要素である『精神的な強さ』と相関が強いことがわかります」と、パパジョージオ博士は言う。「もちろんナルシシズムのすべての要素がよいわけではありませんが、ある側面はよい結果をもたらすということです」

人生における困難をハードルとみなすか、挑戦と捉えるか。誇大ナルシストたちは、困難を挑戦と認識できる強メンタルがあるのだ。それはストレスや摩擦の多い人間社会において、とても示唆に富んでいる。

研究者チームは、ナルシシズムは善悪では簡単に推し量れないもので、それらは状況に応じて変わりうると主張する。いかに世間で“負(または闇)の人格特性”と認識されようが、これらは人間の多様な人格特性のひとつとして内包されるべき進化の産物なのだ。またこの研究は、社会の利益のためにナルシシズムのよい側面を促進させ、“負の特性”を抑制させる方法を見出す第一歩だとしている。

いずれにせよナルシシズムは、直接関与しなくてはならない人にとっては付き合いづらい特性かもしれないが、本人にとっては周囲から煙たがられようがなんのその。そう悪いことではないようだ。少なくとも“鉄のメンタル”のおかげで、うつ病患者のように世界を“灰色”に認識することはなく、カラフルに色づけて見ることができるのだから。

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