ナルシストはストレスを感じにくく、うつ病になりにくい:研究結果

人間関係においてネガティヴに捉えられがちであるナルシシズム。ところが、社会から排除されないどころか、近年は増加の傾向にあるという。その背景についてふたつの研究が明らかにしたところによると、どうやらナルシストは“強靭なメンタル”をもっているおかげでストレスを感じにくく、うつ病にもかかりにくいらしいのだ。

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CAIAIMAGE/PAUL BRADBURY/GETTY IMAGES

もしあなたの知る誰かが、自分の優越性を信じて疑わず、自信過剰で傲慢で、恥知らずで、さらに他者に共感などせず、危険な行動をとり、おまけに良心の呵責すら覚えない人格の持ち主だとしよう。その誰かは周囲に迷惑がられ、“ナルシスト認定”されている可能性が高い。それもそのはず。ここで挙げた特徴は、心理学でサイコパスと並ぶ負属性(闇属性)の人格的特性のひとつだからだ。

ナルシシズムは、多くの人間関係においてネガティヴに捉えられがちである。社会で犯罪を起こすリスクが高く、社会的苦痛を引き起こし、組織に深刻な問題を起こす可能性がほかよりも高いとされるからだ。しかし、このような好ましくない特性は、社会から排除されないどころか、近年は増加の傾向にあるという。それはいったいなぜなのだろうか?

その理由を明らかにしたのが、このほど『European Psychiatry』『Personality and Individual Differences』で発表されたふたつの研究論文だ。これらの研究は、ナルシストたちのポジティヴだと思われる側面に着目した。その結果、興味深い関連性が浮かび上がった。どうやら強靭なメンタルをもっているおかげでストレスを感じにくく、うつ病にもかかりにくいらしいのだ。

なお、ここで議論されているのは、病的な「自己愛性パーソナリティ障害」のことではなく、臨床診断ではあくまで“普通”の範囲にとどまるスペクトラムのナルシシズムである。

ナルシシズムは社会では本当に悪なのか?

「ナルシシズムは、マキャヴェリズム、サイコパシー、サディズムを含む“ダークテトラッド(負または闇の四大人格)”と呼ばれる人格特性のひとつです」と、北アイルランドにあるクイーンズ大学ベルファスト心理学部のコスタス・パパジョージオ博士は説明する。「ナルシシズムには、ふたつの主要な側面があります。誇大と脆弱ナルシストです。脆弱ナルシストは防御的で他人の行動を敵視する傾向があるのに対し、誇大ナルシストは通常は過度に誇張された自己重要性を感じ、地位や権力に執着します」

今回の論文が対象としているのは誇大ナルシストのほうで、地位や権力への固執に加えて冒頭で紹介したような負の特性をもつ。そこで研究者らは次のように考えた。ナルシシズムの特性が社会にとって真に有害ならば、それらはおのずと淘汰されるはず。しかし実際はそうではなく、近代社会においてナルシシストは逆に増加傾向にあるという。ならば、社会にとって有益な側面があるのではないか──。

ナルシシズムにはポジティヴな側面がある

そこで研究チームは、3つの異なるサンプル合わせて748人の被験者(35パーセントが男性、65パーセントが女性)に、ナルシシズム要素、うつ病の症状、メンタルの強さなどを評価する質問に答えてもらった。続いて、どのようにストレスに反応するのかを調査した。

すると興味深いことに、誇大ナルシストの傾向がある人たちはストレスの認識レヴェルが低く、自分の生活がストレスフルだとみなす可能性が低かった。どうやら誇大ナルシストたちは精神的にとてもタフにできており、このメンタルの強さがうつ病の症状を相殺するうえで役立っているようなのだ。

「われわれのすべての研究結果からは、誇大ナルシシズムにおける『自信』や『目標への志』は肯定的な要素である『精神的な強さ』と相関が強いことがわかります」と、パパジョージオ博士は言う。「もちろんナルシシズムのすべての要素がよいわけではありませんが、ある側面はよい結果をもたらすということです」

人生における困難をハードルとみなすか、挑戦と捉えるか。誇大ナルシストたちは、困難を挑戦と認識できる強メンタルがあるのだ。それはストレスや摩擦の多い人間社会において、とても示唆に富んでいる。

研究者チームは、ナルシシズムは善悪では簡単に推し量れないもので、それらは状況に応じて変わりうると主張する。いかに世間で“負(または闇)の人格特性”と認識されようが、これらは人間の多様な人格特性のひとつとして内包されるべき進化の産物なのだ。またこの研究は、社会の利益のためにナルシシズムのよい側面を促進させ、“負の特性”を抑制させる方法を見出す第一歩だとしている。

いずれにせよナルシシズムは、直接関与しなくてはならない人にとっては付き合いづらい特性かもしれないが、本人にとっては周囲から煙たがられようがなんのその。そう悪いことではないようだ。少なくとも“鉄のメンタル”のおかげで、うつ病患者のように世界を“灰色”に認識することはなく、カラフルに色づけて見ることができるのだから。

※『WIRED』による研究結果の関連記事はこちら

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ひとりよがりを脱した「真のダイヴァーシティ」へ:「MASHING UP vol.3」開催

社会の急速な多様化に対応すべくダイヴァーシティの推進を目指すビジネスカンファレンス「MASHING UP vol.3」が、11月7日と8日の2日間にわたって開催される。身近な問題から宇宙への展開を見据えたトークセッションまで繰り広げられる今回のカンファレンスは、いままでの生き方にスパイスを与えてくれるような、あらゆる価値観に触れられる絶好の機会となるはずだ。

TEXT BY ERINA ANSCOMB

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IMAGES BY MASHING UP

ダイヴァーシティのルーツは公民権運動にまでさかのぼる。それから60年以上がたったいま、社会の多様化は急速に進み、ダイヴァーシティの推進は、2015年に国連で行動計画として採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」で掲げられた17の目標のいくつかにも関連してくる。これは、これからを生きるわたしたち全人類にとって、ダイヴァーシティが変わらず重要なテーマであることを物語っている。

海洋国家であることや言語の壁といった観点から、ともすれば他国の思想の隔絶を助長してしまいがちな日本の現状はどうだろう。企業の障害者雇用数は増えつつあるものの、世界経済フォーラムが発表した「ジェンダー・ギャップ指数」(2017年)によると、男女平等ランキングは世界114位で、3年連続で順位を落としている。日本企業の女性の役員数は、女性に厳しいイメージをもたれているイスラム圏の国々よりも少なく、出産を機に離職する女性の数もまだ少なくないなど、課題は尽きない。

こうした問題意識から、「ダイバーシティという言葉が必要のない世界」を目指して発足したプロジェクトが「MASHING UP」だ。その3回目となるビジネスカンファレンスが、今年は11月7日(木)と8日(金)の2日間にわたって渋谷の「TRUNK(HOTEL)」で開催される。本プロジェクトは、年に一度のカンファレンスやイヴェント、オンラインメディア、コミュニティを通じてあらゆる人々を混ぜ合わせ、インクルーシヴな社会の創出を目標としている。

関連記事勇気と共感が生む新しい社会にむけて:「MASHING UP」レポート

3回目となる今回のテーマは、「Reshape the Perception ──知らないを知って、視点を変える」である。ダイヴァーシティ推進の現場において、多様な個人が互いの背景や視点を理解し合いながらコミュニケーションを図ることは欠かせない。そこで当日は、世界が注目する女性社会起業家をはじめ、国内外から約100名のスピーカーを招き、ジェンダーの平等からSDGs、障害者雇用、教育、フェムテック(Femtech)にまつわるセッションを実施する。さらに、ワークショップやエキシビション、メンタリングやネットワーキング、起業家の卵たちによるピッチコンテストなど、さまざまなプログラムが用意されており、新たな視点を取り入れるにはまたとない機会になることだろう。

常識を疑うことから始まるイノヴェイション

過去2回の実績を経た「MASHING UP」では、これまで以上に多様なスピーカーたちによる、身近な問題から宇宙への展開までを見据えた幅広いトークが繰り広げられる。

キーノートスピーカーのひとりである理論物理学者・科学技術者のアドリアーナ・マレは、ほかの惑星への移住に向けた技術開発を目指す組織「プラウドリー・ヒューマン(#ProudlyHuman)」を2019年に設立し、ヴェンチャープロジェクトの「オフワールド(Off-World)」を通じて、2020年12月から南極という過酷な環境で宇宙への移住に向けたシミュレーションを実施する予定だ。また、彼女が南アフリカ・ケープタウンに本拠を置く非営利団体「宇宙開発財団(Foundation for Space Development)」で取り組む「アフリカ・トゥ・ムーン(Africa2Moon)」は、アフリカ初の探査機を月に送るためのクラウドファンディング・プロジェクトで、発展途上国の若者に、教育と科学によって自分たちも月に行けるという勇気をもってもらいたいという願いが込められている。

そして、2017年に世界有数の社会起業家として「アショカ・フェロー」に選出されたスイン・リーは、障害をもつ子どもや開発途上国の子どもの能力を高める学習アプリを開発している。開発途上国の子どものための学習キット「Kitkit School」は、2019年にイーロン・マスクも支援する教育ソフトウェア開発コンテスト「Global Learning XPRIZE(グローバル・ラーニングXプライズ)」で優勝作品に選ばれた。

そのほか、フード界の最先端の取り組みや、ダイヴァーシティ時代の都市・サーヴィスを生みだすための事例を紹介。過去の教育システムを分析し、時代や社会が変われば「常識」が「非常識」になる可能性を探るトークや、2025年までに500億ドル規模にまで成長するといわれるフェムテック市場の理解を深めるトークなど、豊富なセッションが設定されている。

昨年開催されたMASHING UPカンファレンスでは、「Bravery & Empathy ──勇気と共感」をテーマに縦横無尽なトークが繰り広げられ、2日間の動員数は1,000人を超えている。世界におけるウェルビーイングの立ち位置について語るセッションでは、モデレーターを務めたヘンジのディレクター廣田周作が、日本の組織におけるウェルビーイングについて「押しつけになったり、横並び的なものになったりしては不本意だ」と語っていた。

ダイヴァーシティも同じではないだろうか。“知らないを知って、視点を変える”ことでしか、ひとりよがりを脱して人々に望まれるかたちでのイノヴェイションを社会に実装することはできない。あらゆる角度からダイヴァーシティについて深掘りしていくこの2日間で、参加者それぞれに開眼の瞬間が訪れることを期待していい。

「MASHING UP vol.3」
日時
 2019年11月7日(木)13:00-20:55、11月8日(金)13:00-21:00
場所
 TRUNK(HOTEL)
 東京都渋谷区神宮前5-31
主催
 MASHING UP 実行委員会、株式会社メディアジーン、mash-inc.
公式サイト
 https://conference.mashingup.jp/
チケット
 2dayチケット 18,000円(税抜)、1dayチケット 10,000円(税抜)、ナイトチケット 3,000円(税抜)
(※チケット詳細はこちらから
読者割引コード
 MU1911wired(2dayチケット ¥16,000(税抜))

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