きっかけ
妻の死と脳の萎縮
高校の同級生と25歳で結婚。妻はがんを患い、モルヒネで意識が遠のく中「殺して」と叫んだ。
50年間連れ添った妻が「故郷」の代わりであった。その喪失は、自分の心身の少なくとも半分が崩落する、という感覚を僕にもたらす
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人間生きていれば良いというものではないし、自分がこれ以上生きていたら社会になんの貢献もできない。死に方ぐらい自分で選ぶ。
司法解剖の結果、西部の脳の萎縮が確認された。
長男 自分の脳が壊れていく様を見るなんて、頭だけで生きてきた父にとってはその事を考えると恐ろしかったんじゃないですかね
長女 (最期の何週間かが壮絶だったので)どうしても早めに、という気持ちに決めてしまったのはわかるかな、と思ってます。父の気持ちはわかるけど、もう少し違う形はなかったのかな...
晩年、頚椎が神経を圧迫し思うように文章が書けなくなったので、長女が口述筆記をしていた。
自分の娘智子には口述筆記の謝辞を述べるのは二回目と思うが、三回目は断じてないので安心してくれと言っておきたい。
このあとがきの場を借りて、グッドバイ。そしてグッドラックと言わせていただく。
あの日、娘と行きつけのバーで飲み「人と会う」そう言って別れたのが最後。家族が見つけやすい場所を選んだ。
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あの日夜遅く一緒にコーヒーを飲んで話を聞いてやってたら、と娘さんは後悔している。
長男:(自殺を)一生懸命に止めてきたつもりでありますが、決定的な止め方、方法がわからなかった。きっかけは母の死。もうひとつぐらい決定的な何かがなければね。なんでこの人こんなに「死にたい死にたい」というのだろう。まだまだ人の役に立てることはいっぱいあるのに。
冒頭、アルバムを開く場面から何とも言えない気持ちになった。同い年なんで。アルバムも70年代そのもの。
自殺を完璧な形で止められる言葉は、あるのだろうか。ないのでは。どれだけ言葉を尽くそうとも聞きいれようとしないのではないか。すくなくとも美談じゃない。
脳が萎縮しすぎてものが言えず寝たきりになった父は、病室で何を思っているだろう。我々が行っても眠ったままなのに、年に2度だけ帰省する坊主が訪ねると、クララのように上体を起こし、あーうーと唸った。驚いた。実家にいる頃は何度か死にたいと漏らしていた。父が望む形でないにせよ、やることはやった。もういいんじゃないか。