Interview

家入レオが告白。自身の覚醒と『東京での1stアルバム』の実感

家入レオが告白。自身の覚醒と『東京での1stアルバム』の実感

 当たり前のことではあるけれど、人は変化もするし、なおかつ、たくさんの顔も持っている。やさしく穏やかな人のなかにも黒々とした闇はあり、強面だからといって怒りっぽい人であるとは限らない。だから、ともに過ごす時を重ねるほど、意外な一面が次々に現れる。人とつきあう愉しさは、もしかしたら、そういうところにあるのかもしれない。

 家入レオの新しいアルバム『WE』は、まさしくそういう「意外な愉しさ」がたっぷり詰まった1枚だ。ひりひりした感情を歌った初期の楽曲からは思いもつかない、遊びに満ちたサウンドと言葉が次々に繰り出されていく。聴く人によっては、そこに置いてけぼりな気持ちを感じるかもしれないけれど、どんな洋服を着ようが、どう髪型を変えようが、その人にはその人だけの個性がある。そこをたぐりながら聴いてみると、意外さや新しさのなかに、これまでの家入レオもちゃんといる。   

 そうしたことも含めて、今を生きて歌う一人のシンガーソングライターの姿がリアルに見えてくる『WE』。聴くほどに手応えを感じる、家入レオ4枚目のアルバムである。

インタビュー・文 / 前原雅子 撮影 / 森崎純子


予想していた以上に、これまでとは、かなり印象の違うアルバムになりましたね。

はい、変わりましたよね。自然体になったと思います。

自然体ということでは、以前もそうだったのではないですか。

そうだったんですけど、闇のところにだけスポットライトが当たってたというか。もちろんそこがあったから、今の自分もあるんですけど。人って闇と光の両方を持ってるのに、私の場合、歌詞の内容もあってパブリックイメージ的に闇のところばっかりにスポットが当たるようになっちゃって。「友達とパンケーキを食べに行く」って言っただけで、「えぇー!?」みたいに驚きの声が上がったりして。

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「家入さんが、パンケーキ食べるんですかぁ?!」って?

そう(笑)。そのとき、「これ、まずいぞ」と思って。話すだけじゃなく、やっぱり歌でも言わないと説得力がないなと。

これまでもカップリング曲などでは、パンケーキに通じる家入レオも出ていたように思いますが。

そうなんですけど、そこも闇が基盤になっての光っていう感じだったと思うんです。だけど今回は、光と闇の両方を同じように伝えることができたかなって。だから「『WE』で変わった」というより、自分としてはより自然体になったっていうニュアンスのほうが近いんですよね。

自分のなかの一部分だけがクローズアップされていくって、居心地が悪いことではなかったですか。

そういうもんだと思ってたし、それを疑問に思う暇もないまま走ってたというか。逆に20代になって、周りのことを知って、自分はホントに恵まれた環境でやってたんだなって思うようになりましたね。

何かきっかけがあって、そう思うようになったのですか。

一番大きかったのは、『ボクらの時代』っていうテレビ番組。前田敦子さんや高畑充希さんが話してるのを見たときに、衝撃を受けて。みなさん、10代からお仕事してるじゃないですか。だから私と同じような生活だと思ってたんですね。遊びとか、いろんなことを我慢してるから芸能活動ができる、歌を歌えるみたいな。でも前田さんも高畑さんも、10代のときからご自身なりに自由に生きてきたっていうトークをしてて。それを見て、私、ほんと後悔しちゃって。「私の10代……、あれ?!」って。かなり制約のあるなかで過ごしてた……? って思ったとき、すごいショックだった。

自分にとって当たり前と思っていたことが、どうやらそうではなかったと。

そうなんです。いきなり鎖国から解き放たれた感じ(笑)。

で、解き放たれたら。

パーンって弾けちゃって。ホントに溜まってたものがガーッと出て、この『WE』ができたので。今はもう本当に音を出すのが、すごい楽しくて。自分の作った楽曲が、いろんな人のエッセンスでどんどん大きくなっていくのがホントに楽しかった!

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そうなるとアルバムのレコーディングも、過去3回とは大きく違いました?

まったく違いました。レコーディングとか、制作の全工程に立ちあったのも今回が初めてなので。改めて舵を切るのは自分なんだって思いました。だから『WE』は東京に来てからの1stアルバムって感じですね。今までのアルバムは、どこか福岡時代を引きずってたような気がするので。

そういった違いは、制作の現場では言葉で言う以上に大きな変化なのでしょうね。

ですね。あとは難しいことを考えずに、いいと思うものや自分が普段聴いてる音楽をそのまま音に出そうって思ってました。前は、いつの時代に聴いてもいい音楽っていうのを目指してたところがあったんですけど。2016年に音を出してる自分が、今いいと思ってるもののエッセンスも取り入れていきたいなって。そこがすごく大きかった。例えば「僕たちの未来」もそうだし、「シティボーイなアイツ」もそうですね。ガリレオガリレイってバンドがすごい好きなんですけど、彼らのアルバムをクリストファー・チュウ(USロックバンド、ポップ・エトセトラノボーカル)がプロデュースしてて。すごい音がよかったのでアレンジを頼んだら、いい返事をいただけて実現したり。

この曲は出だしの歌詞もいいですねぇ。ついに、こういうことを言っちゃうようになりましたか(笑)。

あはははは。言っちゃいま~す。“恋人はチューイングガム 味がなくなれば、次”って(笑)。

歌詞だと「Party Girl」も、こういうことまで書いちゃう?と思いました。

今回「Party Girl」を作って歌えて、すごいラクになりました。やっと言えた、これで両面を歌で出せたなって。でもかなりストレートな歌詞になっちゃったので、書きながらファンの人たちが……と思って。「嫌いにならないでね」っていうのを、ちょっとお茶目な感じで書き添えてみました。

サウンドで言うと「恍惚」も新しいですね。

これはサカナクションのライブに行って、ドラムンべースっていうジャンルにすごい興味を持つようになって。私、リズムから曲を作ったことがなかったんですけど、ああいうクールなイメージの曲も作りたいなぁと思って。それを別の曲のレコーディングをしてるときに言ったら、盛りあがって。やろう!やろう!ってできた曲なんです。今回のアルバムは、自分的にはスタイリッシュにもなりたかったので。

それもアルバムの一つのキーワード?

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はい。「家入レオの曲を聴くと、なんか懐かしい」って言われるのが、嬉しくもあり、ちょっとう~ん……っていうとこもあって。だから、今回はけっこうハジけたいっていう思いもあったんです。でも「恍惚」みたいな、無機質で表情をあまり見せないようなボーカルは、けっこう突き詰めていきたいと思ってて。こういう感じの楽曲、もっと作っていきたいなぁって思うんですよね。

それにしても今回は、さまざまな手応えがあるアルバムになったのでは?

なんていうか……成長できたし、自信がつきました。1stアルバム『LEO』はメジャーデビューする前に作ってた曲もあって、まだ余裕があるなかで作曲作詞できてたんですね。でもそれ以降は言い訳みたいになっちゃうけど、日々に精一杯で、どんどん作曲からも手を引いて、歌詞だけを書くようになってて……。だからシンガーソングライターって言われることが重かったというか。

ソングライターの部分は半分しかできてないじゃないか、って?

そう。だけど今回は胸を張って、シンガーソングライターだって言えるので。

今回、そういった気持ちが歌詞にも反映していますね。例えば「Every Single Day」とか。

「Every Single Day」の歌詞は初めてのアプローチかもしれないです。しかもこの曲は「僕たちの未来」と対になってる曲で。「僕たちの未来」は「みんながいるから私は歌えてる」って気持ちを歌ってるんですけど、「Every Single Day」では「一人ひとりの人が支えてくれてるから、私は家入レオとして歌えるし、みんなの前に立てるんだ」っていうことを書いてるので。

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ということは、歌詞のテーマ的に最初と最後の曲が対になってるという。

そうですね。もっと言うと「we」はA面の最後の曲っていうイメージがあって、ここに置きました。最近、LPにハマってよく聴くんですけど、A面B面の感覚が好きで。だから「Hello To The World」がB面最初の曲っていうイメージだったりします。

「we」も言葉数は少ないけれど、とても深いことを歌っている曲だと思いました。

今回、最後に書いた曲なんです、5月29日に。歌詞のプロットしかできてない状態だったのに、明日の朝までにないといけないっていうタイミングで。テレビの収録、取材を終えて徹夜で完成させたっていう。私、ずっと人は一人だと思ってきたんですけど、この1枚を作るなかで、そうじゃないって思った瞬間があって。そのとき思い出したんですね、かつて私が音楽に救われたときのことを。すがるような気持ちで音楽を聴いてたとき、もしそこでアーティストからも「人は一人だよ」って言われてたら、私、今ここにいないなって。なんかそういうことも、素直に歌いたくなって書きました。

ところでアルバムタイトルの『WE』ですが、これは早い段階で出てきていた?

中盤くらいでしたね。自分にとって大っきな変化ってなんだろって思ったときに、やっぱり“みんな”を感じられるようになったことだなと思ったので。シンプルに『WE』でいこうって思いました。

昨年の「君がくれた夏」あたりから「みんなを感じるようになった」って、よく言葉にするようになっていましたよね。

そこが前の3枚までと、まったく違うと思います。本当に楽になったので。ずっと大人になりたくないとか言ってたけど、大人のほうがずっと楽しいじゃん!って(笑)。

これだけ違う気分になると、ツアーもだいぶ違うものになりそうですね。

そうですね、決め込むのも大事だと思うんですけど、その日しかできないこともリアルに追求していけたらいいなって思ってます。でもツアーが終わった3日後、22歳なんですけど!みたいな。やだぁぁぁあ~~!

大人になるの、楽しいんじゃないですか(笑)。

いや、楽しいんですけど……。とにかく時が経つのが早すぎて。これじゃ、あっという間に30歳だぞ、おい!と思って(笑)。

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