
今月のPower Pushに選ばれたのは、家入レオのデビュー・シングル「サブリナ」。彼女は福岡県で生まれ育ち、昨年3月に単身上京した17歳のシンガーソングライターだ。十代の満たされぬ心の渇きや街に彷徨える孤独感をソリッドなロック・サウンドで解き放つ「サブリナ」は、家入レオというアーティストの存在を印象づけるに十分なインパクトがある。丁寧かつ気丈な語り口でインタビューに応えてくれた。
音楽の興味は“いつの間にかはじまっていた”というニュアンスなんです。
最初に音楽の興味を覚えたのはいつごろですか?
家入:小さいころから自分の感情を表現するのが苦手で。でも、小さいころから歌を唄っているときだけは自分の気持ちを解放できていたんですよね。だから自分のなかで音楽の興味は“いつの間にかはじまっていた”というニュアンスなんです。いちばん最初の記憶でも唄っていましたし。
それは何歳のときですか?
家入:4歳くらいだと思います。部屋で唄っている記憶ですね。小さいころから家にひとりでいることが多くて。寂しくて唄っていたというのもあると思います。音楽好きの母の影響でビートルズとかも小さいころから聴いていて、家にひとりでいるときはよくCDを流しながら唄っていました。自分の歌声が壁に跳ね返って反響するのがすごく心地よかった覚えがあります。
必然的に幼いころからシンガーになりたかった?
家入:そうですね。私が表現できるものは音楽しかないんじゃないかって思っていて。生意気ですけど、漠然といつか歌手になるんだろうなって思っていました。まだ曲を書けなかった小さいころから——それこそ保育園のころからポエムを書いていて。とにかくめんどくさい子どもだったんですよ。先生にいつも“なんで? なんで?”って聞くような。当時書いていたポエムは“ウサギはなんでウサギなんだろう?”とか“トマトはなんで赤なんだろう?”とか。
片っ端から疑問を抱いて、それを大人に聞いていた。
家入:そうなんです。曲作りをするきっかけになったのは13歳のときに“音楽塾ヴォイス”の門を叩いたことでした。自分で曲を作りたいと思った理由は……中学が女子校だったんですけど。やっぱり独特の雰囲気があるんですよね。朝“おはよう”って教室のドアを開けると、“格付け”されているムードを感じるんですよ。
クラス内のヒエラルキーが。
そうなんです。口には出さないけど、ハッキリとそういう空気があって。あの子はかわいくてスポーツもできるから順番が上で、あの子はちょっと地味だから下とか。それを怖いなと思う自分と絶対に負けたくないと思うもうひとりの自分がいつも格闘していて。でも、そのときはみんなの前でジョークとか言うタイプだったんですけど。
みんなの機嫌をとるように?
そうなんです。そこでみんなが盛り上がるのはすごくうれしかったんですけど、心のどこかで“順番が落ちずに済んだ”って安心する自分がいて。その一方で“なんで?”って疑問を大人にぶつける感じもそのころがピークだったんですよね。反抗期も同時にあって。そんなときに母のCD棚から見つけた尾崎豊さんの「15の夜」という曲を聴いたときに涙が止まらなくなって。
音楽だけには絶対に嘘をつきたくない
当時抱いていた葛藤にジャストに響いた?
はい。尾崎さんの曲が、私が声に出して言いたかったことをすべて代弁してくれていたんですよね。そのときに曲を書きたいと強く思うようになって“音楽塾ヴォイス”に入学したんです。それからアコースティックギターを弾くようになりました。
自分でどういう曲を書きたいと思いましたか?
今でもそうなんですけど、私は音楽だけには絶対に嘘をつきたくないと思っていて。曲を書きはじめた13歳のときも素直になれる場所がなかったから、音楽だけが拠り所だったんですよね。親に対しては反抗期、友だちには弱みを見せたら格付けを落とされるような気がしたし。素直になれる場所が歌詞やメロディのなかにしかなかったから。音楽だけには嘘をつくわけにはいかなかったんです。例えば「サブリナ」のカップリングになっている「ripe」という曲は「サブリナ」とは違うテイストなんですけど。
これは、片想いの幸福感を唄う日だまりのような曲ですよね。
はい。私のなかで明るい自分と暗い自分がちょうど半分ずついるんですよね。どちらが多くても苦しくなってしまう。だから、暗い曲だけじゃなくて、明るい曲も同じくらい作っていけるようなアーティストになりたくて。両方のバランスが均等に取れているのが私にとってベストな状態だと思っています。
サブリナは私自身でもあり、他人でもあるんです。
今回Power Push!に選ばれた「サブリナ」は15歳のときに書いた曲なんですよね。サブリナというひとりの少女を俯瞰で捉えながら、当時のレオさんの心境もかなり色濃く反映されているのではないかと思います。
そのとおりですね。この曲を作るまでは“なんで私ばっかりこんなに寂しい思いをしなくちゃいけないの?”っていう疑問を常に抱いていて。でも、ある女の子と話したときに--その子は普段はすごく派手で明るい子なんですけど--あるとき“ホントは私も寂しいんだよ”って言ったんですよ。それがすごく衝撃的で……。“ああ、寂しいのは私だけじゃないんだ”って思ったんですよね。だから、歌詞にも“私が、私が”って書くのではなくて、サブリナという架空の女性を設けることで、リスナーが感情移入できるような曲にしようと思ったんです。
そこに自分の思いも重ねながら。
そうですね。だからサブリナは私自身でもあり、他人でもあるんです。学校と家を行き来する小さな世界で信じられる人はいなかったし、ホントの自分を見られるのを怖いと思っていた私の思いも歌詞のなかに入ってますね。
ただ、街に出て、自分を汚してくるような存在と対峙して、闘うような強い意思も歌詞のなかに滲んでいると思いました。それもレオさんがもっているものだと思う。
唄うことで強くなれているのかもしれないですね。今、私は17歳なんですけど、大人でもなく、子どもでもない年齢じゃないですか。それってすごく怖いんですけど、そういう時期にしかもてない強さもあるのかもしれないと思うので。そのときの自分の一瞬一瞬を閉じ込めるような歌を唄いたいですね。去年の3月に上京してもすうぐ1年が経つんですけど、サウンドやメロディがちょっと都会っぽくなったり、テンポの速い曲ができたり、ロック・テイストの曲が多くなったり……今を生きてるんだなって自分自身で感じています。
「サブリナ」はソリッドなロック・サウンドが鳴っていますが、アレンジ作業やレコーディングはどうでしたか?
はい。はじめてのことばかりで緊張したんですけど、特にサウンド・チェックやアレンジ作業はすごく刺激的でしたね。歌詞のなかでサブリナが自分自身の気持ちを吐露している描写はないんですけど、その分どこかでサブリナの叫びを入れたいと思ってギター・ソロのアレンジを考えたんです。
ミュージック・ビデオも曲の芯の強さを具象化したような仕上がりですね。
ありがとうございます。フクロウが重要な役割を担っているんですけど。ホントの愛がほしいという気持ちや寂しい気持ちを心にしまって、自分を締めつけてしまっている人って多いと思うんですけど。もっとその気持ちを解放してもいいんだっていうこの曲に込めたメッセージが、鎖に繋がれたフクロウが最後に飛び立っていく描写を通して表現されています。あと、私の芸名って“顔がライオンに似ている”と言われたことに由来しているんですけど、今回の撮影をきっかけに“フクロウのほうが似てるんじゃないか?”という話になったんですよね(笑)。私も撮影でフクロウをまじまじと見て“似てるなあ”って思いました(笑)。
最後に、あらためて家入さんが音楽で貫きたいことを教えてください。
傷みを傷みとして叫ぶことはやめたくないです。それがどんなにグロテスクだと言われても、闇が深すぎると言われても、それだけは絶対に譲れないですね。
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