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母が癌になり、末期ではありませんが現在治療中の身です。
わたしは20代でもう大人のため、母を安心させたい気持ちと生きる希望になればと思い、最近婚活を始めました。 というのも、今までろくな恋人もおらず心配をかけてしまっていた面もあるからです。 できれば病状が悪くなる前に子供を生んで孫の顔を見せてやれないかとも考えています。
ですが私自身、結婚はまだ先の話だと思っていたため、自分の趣味を蔑ろにしているストレスもあり、またこんな気持ちで子供産みたいと考えるのは不誠実ではないのかと思い、自分でどうしたいのか分からなくなってしまいました。 母は孫の顔を見るのが楽しみだと言っていたので、それを思うと心が苦しくなります。
もし幡野さんのお子さんが成人していたとして、その子が孫の顔を見せてあげたいと考えていたらどう思いますか?
(匿名 女性)
がんといっても胃がんとか大腸がんとかいろんながんがあって、どれくらい進行しているのか転移はあるのか、初めてのがんなのか再発なのか、治療方法もさまざまなのでまったくお母さんの状況がつかめません。
簡単にいうと助かる可能性が高いのか、亡くなる可能性が高いのかということです。奇跡は起きる! 必ず治る!みたいな希望的なものでも、神風が吹くみたいな根性論でもなくて、客観的なデータをもとにした天気予報のような可能性です。
お昼から大雨が降ります、降水確率は90%ですって天気予報のお姉さんにいわれたら、おおくの人は傘を持って出かけたり、コンビニでは傘を売る準備をするとおもうんです。降水確率は90%だと雨が降るっておもいますよね、でもがんになるとおおくの人が10%を信じてしまうんです。
そういうものなんです、それが普通なんです。不安や焦りがあると冷静さを失ってしまい、客観的なことって判断ができなくなってしまうものです。
あなたはいままでにろくな恋人がいなかったのに、結婚相手や子育てをするパートナーをどうやって見つけるんですか? 婚活で出会いはあるかもしれませんけど、どうやってその相手を見定めるのですか?
「ろくな恋人」というのが、いままでに付き合ったのがダメ男ばっかりだったのか、それとも付き合った経験が少ないのか、どちらの意味かわからないけど、どちらにしても結婚相手を探すうえで「ろくな恋人」がいないというのは、プラス材料にはまったくなりません。
そしてお母さんの病気のことがあります。つまりあなた自身に不安や焦りがあるなかで、自分の人生を左右する伴侶を探し、子どもの父親になる相手を探し、子育ての相棒になる人を探すわけです。冷静になって考えてみてください、客観的にみてできますか?
結婚相手ってとても重要です、重要な相手であるからこそ焦りや不安があるときではなく、余裕のあるときに探した方がぼくはいいとおもうんです。もしもダメ男だったらどうするんですか? もちろんサクッと離婚すればいいんだけど、あなたの目的はお母さんを安心させることなんですよね。
離婚自体は失敗でもなんでもないのだけど、あなたみたいなタイプはお母さんを安心させるために離婚をしないとおもうんですよ、ダメ男と子育てするのって本当に大変ですよ。チンパンジーとかちょっとかしこい犬と一緒に子育てしてた方がいいぐらいです。
あなたと出会う婚活男子だって、お母さんを安心させて生きる希望をあたえたいという理由では子どもはおろか、結婚もしないでしょう。どう考えても重すぎるよ。もしもこれでホイホイと結婚して子どもを作ろうとする男性だったら、それこそ「ろくに女性と付き合ったことがない人」でしょう。
生まれてくる子どもだって、自分が生まれた理由を知ったらショックだとおもいます。あなただって親から「おばあちゃんを安心させるために産んだのよ。」っていわれたらどうですか?
そしてもしも、ぼくの妻があなたとおなじ理由で、子どもがほしいといいだしたら「それは生まれてくる子どもの人生とは関係がないよね」と返すとおもいます、そのあとどういう話し合いになるかはわからないし、どういう答えを出すかはわからないけど、まず最初にブレーキはかけます。
ぼくもがん患者で3歳の子どもがいますけど、子どもがもしも成人していてあなたとおなじことをされたら、正直なところ困りますよ。ぼくのせいで無理をさせてしまって申し訳ないとおもうだろうし、孫を抱くことはきっとたのしいのだろうけど、それがぼくにとっての生きる希望なのかは不明だし。気持ちはすごくうれしいけど、うれしいからってやってほしいとはおもわないですね、気持ちだけでありがとうという感じ。
結婚していて子どもがいるぼくがいうとあまり説得力はないけど、結婚や子どもだけが人生でもないですよ、世界は広いです。孫を抱くのもいいのかもしれないけど、ぼくは広い世界をできるだけたくさん知りたいかな。最後は狭い病室で死んじゃうんだし。
がんになると日常が失われてしまうんですよ、仕事を失ったり、いままでできていたことができなくなったり、そして人間関係も崩れてしまうんです。みんな腫れ物を触るようによそよそしくなってしまうし、お通夜にいくような表情でお見舞いに来ちゃうし。がんっていうのはそういう病気なんです。
おおくの患者さんが普段どおり接してほしいとよくいいます。つまりお母さんが健康だったらしないようなことを、お母さんが病気になったからといって急にやらなくていいんですよ。
でもあなたの気持ちもわからなくもないので、反対をする気は無いのだけど、せめてあなたの考えは全員に黙ってやった方がいいよ。その方が物事はうまく進むとおもいます。それが一番いいんじゃないですか。
そもそも、あなたはお母さんのために結婚をして孫の顔を見せたいわけじゃなくて、本当は自分が結婚したくて、子どもがほしいんでしょ。そこをちゃんと目を逸らさずに見なきゃダメですよ。もうちょっといってしまうと、お母さんの病気のせいにしているのはズルいです。
ぼくの周りにも「あなたのために」ということをいってきた人が100人以上いたとおもいます。でもそういう人たちって本当はみんな「自分のために」なんですよ。本当にぼくのためをおもってくれる人ってぼくのやりたいことを応援してくれる人なんです。これは似ているようで全然違うんです。
そしてぼくは「あなたのために」という人とは関係を絶ちました。その人のために寿命を消費させられてしまうからです。生きる希望を感動ポルノの監督に作られたくないんだよね。ぼくの年齢が若いからなのか、みんな感動ポルノのデビュー作品なんです。
結婚=出産=しあわせ=安心という、しあわせ一年生で習う方程式ってじつは間違ってるんですよ。100組結婚したら40組は離婚をするし、残りの60組も円満家庭ってわけでもないです。
「孫の顔を見るのが楽しみ」ってお母さんはいっていたのかもしれないけど、それって健康なときにいってたことでしょ。がんになってからいうとはちょっとおもえないです。
一般的ながん患者になった親の感覚でいえば、まだ存在しない孫のことをおもうよりも、いま目の前にいるあなたのことを気にかけるとおもうんです。あなたは親の安心を考えないで、自分のしあわせを第一に考えて行動した方がいいです、それが結局のところお母さんの安心としあわせにもつながります。
彼氏ができて結婚するかどうか迷ったら、自分よりも立場の弱い人間に対して、どんな態度をとるかをよくみましょう。その態度はいつかあなたと子どもにする態度です。
そしてぼくのじゃなくてもいいから、人生相談のコラムを読ませてみましょう、人生相談って相談者と回答者の人間性がよく出るんだけど、じつはなによりも感想をいう読者の人間性がいちばんよく現れるんだよ。
いい人とであってください、余裕をもって冷静に。
今週の幡野さん
いつも卵3個で作るところを、4個で玉子焼きを作りました。
フライパンをクイってやって、玉子焼きをクルクルってさせたいんですけど、玉子焼きがジャンプするだけでなかなかうまくいかないんですよね。