耳の覇権争い始まるーー知っておくべき音声市場45社スタートアップまとめ(前編)

by Takashi Fuke Takashi Fuke on 2019.11.2

Screen Shot 2019-11-01 at 11.15.49 PM
Image Credit: Apple

「こんな魔法、聞いたことがない」

10月30日、Appleから華々しいデビューを飾った「AirPods Pro」。ノイズキャンセル機能が搭載され、より没入感のあるサウンドを味わうことができるようになりました。「Hey Sir」と呼びかけるだけで音楽・通話・音量調節もできるスマートアシスタントの機能も担っています。外部音取り込みモードが追加され、周囲の音も自然と聞こえるように。価格は249ドル。

Googleは先んじて「Pixel Buds」を発表しています。従来モデルとは違い、完全無線タイプとなりAirPodsと直接競合となる製品。環境音に合わせて自動的に音量を上げ下げする機能を搭載。「OK Google」でアシスタント機能を呼び出すことができます。最大の特徴は目の前の相手の内容を翻訳するGoogle翻訳機能を搭載している点。2020年春に価格179ドルで販売予定です。

Amazonも9月末に「Echo Buds」を発表。音響アシスタントAlexa機能とノイズリダクション機能を搭載。SiriやGoogleアシスタントと連携可能。価格は129.99ドルとApple、Googleと比較して最も手頃なもの。そしてMicrosoftも完全ワイヤレスイヤホン「Surface Earbuds」を発表。Officeソフトと連携ができ、たとえばPowerPointの資料情報を翻訳できるとのこと。価格は249ドルとAppleと同額。

3つの“聴く”習慣

man holding a skateboard
Photo by Feruz Matkarimov on Pexels.com

こうして直近1か月ほどで発表されたスマートイヤフォン製品を見るとGAFAM5社のなかでFacebookを除く四つ巴状態であることがわかります。世界のインターネットを支配すると言っても過言でもない巨大企業らを急速にキャッチアップさせる音声市場にはどのような魅力や成長性があるのでしょうか。考えられる理由は3つほど挙げられます。

1つはスマートスピーカーの普及。Amazon Echoシリーズが市場シェア約70%を占めている中、次のようなデータが公表されています。こちらの記事によると、全世代平均で週17時間ほどオーディオコンテンツを消費するとのこと。Podcastやラジオ、ストリーミング音楽などが該当します。なかでもスマートスピーカー所有者は、非所有者と比較してプライムアワー(8-10PM)に47%以上多くの時間をオーディオコンテンツに割いているそうです。

スマートスピーカーがプライムアワーに使われるシチュエーションを自宅リビングであると仮定すると、私たちがより多くオーディオコンテンツに増える機会は増えるでしょう。2019年6月時点で7,000万台のスマートスピーカーが流通していますが、次の3-4年で1億台を数えるはずです。こうしたスピーカーによってリビングで消費するオーディオコンテンツ時間は比例して増えると想像できます。

adult beautiful blur casual
Photo by Burst on Pexels.com

2つ目は「観る」から「聴く」行動へ私たちの習慣が変わりつつある点です。これは先述したハードウェアによって提供されるオーディオ体験とは違い、習慣という最も力強い市場成長を支える要素となります。

読者の方で、スクリーンオフにした状態でYouTubeを聴き流した経験のある方はいないでしょうか?筆者はYouTubeの有料ユーザーなのですが、ざっと見積もって利用時間の7-8割は聴き流しており、そのためにお金を支払っています。私がこの記事を書いている間もYouTubeを聴き流しながら4-5時間ほど作業に当たっています。こうしたユーザーの新たな行動様式が自然と構築され、習慣化されることほど強力な市場要因はありません。

実際、著名VCであるMarc Andreessen氏も同じような点を指摘しています。同氏曰く、YouTubeの視聴者は職場で仕事をしながら動画コンテンツを聴く習慣ができていると語ります。1日8時間ほど労働時間があるとすると、週平均40時間ほどオーディオコンテンツの視聴時間が発生する計算です。これは前述した世代平均のオーディオコンテンツ消費時間17時間の6倍にも匹敵する市場です。

action adult blur car
Photo by Tobi on Pexels.com

3つ目は運転時間。米国では月間1.1億回の自動車通勤が発生。合計走行時間は25億時間にも及ぶといいいます。これから自動運転技術がさらなる発展を遂げ、完全自動運転化が実現すれば車内の運転時間がそのまま余暇時間として新たな市場に成り代わります。

そこでオーディオコンテンツは市場シェアの大半を占めると考えられます。というのも、動画視聴をしては仮に事故を起こした際に運転手が過失を取られることが予想され、非常にリスクの高いコンテンツになるためです。オーディオであれば視界を逸らさずにコンテンツ消費できます。

ここまで音声市場の成長性を3つの視点から説明してきました。ここからは音声市場で活躍するスタートアップ45社を4つのカテゴリーから簡単に説明していこうと思います。

1. 音声SNS

Screen Shot 2019-11-01 at 8.47.02 PM
Image Credit: Spoon Radio

声で繋がるSNSが流行の兆しを見せています。その最先鋒が「Spoon Radio」。2013年に韓国で創業したSNSスタートアップ。累計調達額は1,960万ドル。口パク動画SNSとして米国市場で台頭し、後にTikTokに買収されたMusical.lyの投資家も出資しています

Spoon Radioは「音声版SHOWROOM」といえるでしょう。ユーザーはタイトルと背景画像を設定するだけで自分のライブ配信ができます。ホストユーザーは音声で配信をし、ゲストユーザーとチャットをしながらやり取りをします。最大の特徴は音声のみの配信。動画とは違いどんな場所からでも配信ができる手軽さが売りです。

日本上陸初期の頃から私も使っており、ライブ・ランキングTop10位前後に毎回入るほど好んで配信をしていました。Spoon Radioは間違いなくオンラインで友人を最短、かつ最も簡単に作るためのツールであったのは間違いありません。その理由が2つ。「配信体験」と「Facebook・Twitter以上のフレンドネットワーク」です。

たとえば自室のベッドで横になりながら配信・聞けるシチュエーションを独占できる点は、他社ライブ配信アプリにはない大きな強みでした。街を歩きながらでも電話感覚で配信ができます。動画配信より手軽に配信できる参入障壁の低さは大きな魅力。そして前述したように他ユーザーのライブ配信をどんな環境下でも気軽に「聴き流せる」体験は余暇時間の大半を支配できます。この点、Spoon Radioを通じて音声が次なる巨大市場になると確信できました。

魅力的な音声配信体験に加えて、FacebookやTwitter以上のソーシャルフレンドの繋がりが大きな魅力として挙げられます。お互いの配信枠に遊びに行き、手軽に声で直接繋がることで知らないユーザーとより親密になれます。こうした力強いネットワークエフェクトがユーザーを逃がしません。事実、筆者はFacebookやTwitter以上にのめり込んでしまい、ソーシャル中毒状態になるほどはまってしまったためアカウント削除してしまいました。ですが、仕事が一区切りついて時間や気持ちの余裕ができればいつでも戻っていきたいと思わされる製品でした。

Screen Shot 2019-11-01 at 8.51.19 PM
Image Credit: TTYL

さて、アジアにおけるライブ音声市場ではSpoon Radioの独走状態であると感じています。一方、欧米市場では深く浸透していません。この市場機会を狙ったスタートアップが多数登場しています。その1つが「TTYL」です。2018年にロサンゼルスで創業し、累計調達額は200万ドル。

TTYLは累計7,000万ドルを調達してエグジットした多人数動画チャットアプリ「Houseparty」の音声版と呼べます。Spoon Radioが一方的な配信であるのに対して、複数人の双方向音声チャットの場を提供しています。

リアルタイムで音声配信されている枠にユーザーがジャンプインする体験が用意されています。知らない人との会話も楽しめることができます。似たようなプロダクトに「Chalk」が挙げられます。しかしどちらのアプリも近しい友人との会話を想定しているため、ユーザー同士のネットワークが広まるのかという点に課題が残ります。

一方、特定のトピックを事前に設定して配信するのが「Dabel」。日本人起業家である井口尊仁氏が仕掛ける音声SNS。TTYLとは違い、見知らぬ人同士との対話に軸を置く製品。配信枠にタイトルが入っているため事前にある程度どんなトピクが話されているのか想像できます。また、いきなり音声対話が始まるわけではなく、ホストユーザーがゲストユーザーを指名することで双方向の音声チャットが始まるため、ユーザー心理的に自然と会話を始められる導線が用意されています。

Screen Shot 2019-11-01 at 8.53.44 PM.png
Image Credit: Playlist

音声SNS市場の中でも少し違った切り口を出しているスタートアップもいます。たとえば「Playlist」は事前に用意されている音楽ライブラリの中から好きな曲を選んで友人と一緒に聞くサービスを提供。チャットをしながら感想を述べ合ったりできます。

友人が投稿した音声コンテンツを聴くことで繋がるサービスも一般的です。一般ユーザーが投稿するコメントを聞いてやり取りし合います。2014年にニューヨークで創業し、累計600万ドルを調達した「HereMeOut」が代表的。また、同じようなコンセプトの「Koo!」も登場しています。短い音声データをシェアする体験はSnapchatの流れに乗っているといえるかもしれません。

前編はここまで。後編では他3つのカテゴリーを、Spotifyの戦略を説明しながら紹介しようと思います。

ニュースレターの購読について

毎日掲載される記事の更新情報やイベントに関する情報をお届けします!

----------[AD]----------

Google、Fitbitを21億米ドルで買収へ

by Paul Sawers Paul Sawers on 2019.11.2

Fitbit Versa Lite

噂は事実だった。—— Google はフィットネスウェアラブル企業 Fitbit を21億米ドルで買収しつつある。これは Fitbit の現在の時価総額に、30%のプレミアムがついた金額だ。

Fitbit の株式は2015年の IPO 以来下落しており、今年は約50ドルの高値から3ドル未満の低値となった。今週、Alphabet が買収を準備しているという報道を受けて、Fitbit の株式は40%超の6米ドル以上となった。Google は、株主と規制当局の承認を待って、2020年に完了する予定の全額現金取引で1株当たり7.35ドルを支払う。

Fitbit を傘下に持つことで、Googleは「最高のハードウェア、ソフトウェア、AI」を組み合わせたウェアラブルを構築する計画」だと述べた。

Fitbit は業界の真の先駆者であり、素晴らしい製品、エクスペリエンス、活気のあるユーザコミュニティを生み出してきた。

Fitbitの素晴らしい人材と協力し、最高のハードウェア、ソフトウェア、AIを組み合わせて、世界中のさらに多くの人々を支援するウェアラブルを作り出すことを楽しみにしている。(Google デバイスおよびサービス担当上級副社長 Rick Osterloh 氏)

これまでの話

Fitbitは元々、フィットネストラッキングバンドで知られていたが、2017年にはスマートウォッチに進出し、Apple などウェアラブル分野の新しい参入者と歩調を合わせた。 Fitbit は、より手頃な価格のトラッカーを市場に投入した中国の Huawei(華為)や Xiaomi(小米)など、フィットネストラッキング文にゃで増え続ける競合他社と相まって、混雑した分野での厳しい戦いに取り組んでいる。実際、今年初めに Fitbit は2019年の売上予測を下方修正し、新しい(そして最も安い)スマートウォッチである Versa Lite の販売落ち込みを嘆いた。

Google はソフトウェアメーカーとして誕生し、以来、ラップトップやスマートフォンを含むあらゆるハードウェアデバイスに拡大しているものの、スマートウォッチはまだ市場に出ていない。ただし、Google は舞台裏でスマートウォッチの開発に取り組んでいると伝えられており、ウェアラブルデバイスの OS である Wear OS を既に提供していることも注目に値する。

そのため、ウェアラブルが Google の製品ラインナップで明らかに欠落していることを考えると、多くの点で、Fitbit の買収は大きな驚きではない。また、Fitbit の最近の混乱にもかかわらず、ウェアラブル分野では主要な認知度の高いブランドであり、世界中に約2,800万人のアクティブユーザがいる。Google はこれを活用したいと考えている。

Fitbit の観点から見ると、現在の競争力のあるウェアラブルの世界で成長することは、特に株主をなだめるための課題だった。そのため、Google エコシステム内の非公開企業になることは豊かな地位を与える。

Google は私たちの使命を前進させる理想的なパートナーだ。

Google のリソースとグローバルプラットフォームにより、Fitbit はウェアラブルカテゴリのイノベーションを加速し、より高速に拡大し、誰もが健康にアクセスできるようになる。(Fitbit の CEO兼共同設立者の James Park 氏)

データを取得するのか?

規制当局がこの買収を阻止しようとすることを示唆する具体的なものはないが、イギリス労働党の政治家で、〝影のデジタル・文化・メディア・スポーツ長官〟の Thomas Watson 氏(訳注:野党所属であるため「影の……」と呼ばれる)は、この買収を「data grab(データ取得)」と呼んだ。Google が Fitbit の買収を計画しているとの報道が最初に浮上した後、Watson 氏は10月29日、テクノロジー業界の反競争的慣行に関して、より広範な調査が完了するまでの間介入するよう、イギリスの規制当局に書簡を送った。

Google など、テクノロジー市場を支配するデータ独占について長い間懸念してきた。

これらの企業は、ユーザに関する前例のない量のデータを保持・収集し、マイクロターゲティングと広告でマネタイズし、莫大な利益と力を蓄積する。一方、デジタル大手企業は、自分たちを説明責任が無く、規制対象でなく、法の則っている考えている。彼らは規制をめぐってあまりにも長い間うまく立ち回ってきた。(Watson 氏)

フィットネスデータを収益化する能力は明らかに Google にとって大きな魅力であり、この取引が国内市場の規制当局の注目を集めるかどうかは興味深い。 Googleは、この取引がどのように認識されるかを十分に認識しており、広告を販売するために使用しないなど、新たに取得したデータを管理する方法の一部をすでに概説している。

Osterloh 氏は別のブログ投稿で次のように述べている。

あなたが当社の製品を使用するとき、あなたの情報を扱うことに関して、あなたは Google が信頼している。

これは大きな責任であることを理解しており、お客様の情報を保護・管理し、データについて透明性を提供するように努めている。他の製品と同様に、ウェアラブルを使用すると、収集するデータとその理由について透過的になる。我々は個人情報を誰にも販売することはない。Fitbit の健康とウェルネスのデータは、Google 広告には使用されない。また、Fitbit ユーザにデータの確認、移動、削除の選択肢を提供する。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

:)