パンドラズ・アクターの冒険   作:kirishima13

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第29話 聖王国の銃器事情

 ローブル聖王国、首都であるホバンスにロフーレ商会初の店舗が出店されていた。看板には『ガンショップ・シズ』と書かれている。

 しかし店の中には誰もが見たことのない奇妙なものばかり。鉄や木などで作られた重火器というものが主な商品らしいのだが、そのほかにもまるで小さいパイナップルのような奇妙な鉄の塊や使い方の分からない奇妙な器具の数々が置かれている。

 当然、それを見ても買う者はなく聖騎士団長は一度見に来ただけで鼻を鳴らして帰って行った。そしてそこには一人の可愛らしいメイドが椅子に座っている。1円と書かれたシールを張られた迷彩柄の変わったメイド服にはその頭に乗せた黒い軍帽が非常に映えていた。

 赤金色のストレートの髪にエメラルドの瞳の片方にはアイパッチをしており幼さを残しつつも非常に整った顔立ちは見る者の保護欲を刺激している。

 

 パンドラズ・アクターの変身したプレアデスの一人、シズ・デルタ外装である。人間のように見えるがその種族は自動人形(オートマータ)という。ユグドラシル時代は後半のパッチによりガンナーやスナイパーなどのユグドラシルとしては珍しい職業(クラス)とともに追加された種族であり、銃器のエキスパートである。

 

「みんな、はじめて」

「「「「はい!」」」

 

 そして今、店舗に併設された射撃場で狙撃の練習をしているのはネイア以下、聖騎士見習いの中でもレンジャーやハンターの才能がある者達であった。

 

「目標をセンターに入れて……」

「スイッチ!」

 

 シズの指導のもと、聖騎士見習いたちは着実に重火器の扱いと命中精度を上げている。彼女たちは誰もが最初は驚いていた。引き金を引くだけで遥かに離れた対象を攻撃できる。しかも弓と違ってほぼ一直線に飛び狙いも付けやすく腕力を必要としないなどまるで魔法のようだ。

 

「じゃあ次。投てき訓練開始」

「はっ!」

 

 聖騎士見習いは一斉に敬礼をシズに返す。軍人でもないシズがなぜ敬礼を求めるのか分からなかったが、これをやるとシズはニコリと笑ってくれて可愛いので誰も怠ろうとはしない。

 今、練習をしているのは手りゅう弾やスタングレネードなる変わった投てき武器だ。その威力についてもまさに魔法そのもので驚きを隠せない。相手を爆破させたり、気絶させたりする広範囲魔法にしか見えなかったのだ。しかし、これは魔法ではないという。

 しかし、見習いたちには魔法の才能も剣の才能も乏しい者達が多いと言うこともあって、これらの武器の存在は魔法を使えない自分たちでも戦闘で役に立てるのではという希望になりつつあった。

 ネイアたちはシズの指示のもと、仲間たちとともにトラップ作成技術や戦術なども学んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

「これは……美味しいわね」

 

 聖王国の王城、その一室でテーブル席に3人の女性が座っていた。一人は聖王国の女王カルカ・ベサーレス。聖王女とも聖女とも呼ばれ、愛らしさと凛々しさを備えた花のような美しい顔は「ローブルの至宝」とも評されている。

 もう一人の茶色の長髪の女性はケラルト・カストディオ。レメディオスの妹であり、第5位階魔法まで行使する信仰系魔法詠唱者である。そしてレメディオスとともにカルカの昔からの友人でもあった。

 

「ルプー魔道具店という店でもらったお菓子とお茶だ。美味しいだろう?」

 

 自慢げにしているのはそれらをルプー魔道具店から持って帰ってきたレメディオスだ。正確にはレメディオスが店を後にしたとグスターボが色々と交渉をして手に入れたアップルティーとツアレ謹製のクッキーであったがグスターボから取り上げて今この女子会の場で提供されていた。

 

「これは材料がいいんですね」

「カルカ様、それだけじゃなく作った方が非常に丁寧な仕事をされていますね」

「そうだろう、そうだろう。なんとか農園というところで取れたそうだものをなんとかと言う店員が作ったそうだ」

 

 もはや説明にもなっていないがまるで自分が作ったように自慢げにレメディオスが語っているがこれも二人にとってはいつものことだった。優しく見つめるだけだ。

 

「それでバハルス帝国から来られたロフーレ協会の方のことなのですけど……」

「もぐもぐ……グスターボが何やらやってたな……もぐもぐ」

「亜人に対する武器を開発したと言ってましたけど本当なのですか?」

「さぁ……もぐもぐ……グスターボがそう言ってたからそうなんじゃないか?」

「ちょっと姉さん食べすぎです!」

 

 みるみるクッキーを平らげていくレメディオスを見かねたケラルトが皿を引き寄せる。

 

「ああ!何をする!」

「姉さん、カルカ様の話を聞いてください」

「話を聞くのはグスターボの役目だ!」

 

 カルカとケラルトは顔を見合わせる。カルカにとって友人であり、ケラルトにとって姉であるレメディオスはこと戦闘のことであれば非常に頼りになるのであるが、その成長過程で考えると言うこと放棄してしまったところがあり中々話が通じないのが悩みの種なのだ。

 

「その銃……という武器はどのようなものなのですか?」

「盾に穴が開いていたな」

「は?」

「あと大きな音がした……」

「……」

「カルカ様……これは直接その効果を検証したほうがよろしいのではないでしょうか」

「そうね……まだそれが亜人に対して有効なのかも分からないことだし力を確かめる必要はあるでしょう」

「いきなり実戦使用は不安ですね。やはり実際使ってみてもらうのが一番です。模擬戦などで効果を確かめられたらどうですか?」

「それがいいわね。レメディオス、あなたにも協力してもらうわよ」

「それは分かったが……」

 

 二人の話を聞いているのかいないのかレメディオスは遠ざけられたクッキーの皿を名残惜しそうに見つめるている。

 穏やかな昼下がり。今のレメディオスは普段の騎士のしての彼女ではなく甘いものを物欲しそうにねだる一人の女の子のようだった。それを見てカルカとケラルト顔を見合わせると普段の騎士としての彼女とのギャップに笑ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

「我々に実力を見せるだと?」

「んっ、戦闘準備は整った」

 

 聖王国軍の演習場、そこに聖騎士見習い率いるシズと聖騎士団を率いるレメディオスが対峙していた。グスターボを通して依頼されていた聖騎士見習いに重火器の技術伝承の成果を示すと言ってきたのだ。

 なお、聖騎士見習いへ支給しているの重火器についてはレンタル扱いであり、その成果が認められれば買い取られることになっているため、商店としては商品アピールの場である。

 

「そのような貧弱な飛び道具などが聖騎士の剣を凌ぐと本気で言っているのか?」

「んっ」

 

 無い胸を張って下から見上げて来るシズの自信に満ちた目を見てレメディオスは眉間にしわを寄せる。聖騎士の誇りを馬鹿にされたように思ったのだ。

 

「いいだろう!では10体10の模擬戦だ!」

「んっ、場所はこちらで()()()()()()

 

 演習場には数々の岩が置かれており、実際の亜人との戦闘で使われるアベリオン丘陵を模して配置されていた。実践を想定したものだと言うことだろう、準備の良いことだ。

 

「こちらはペイント弾、そちらは木刀を使う。一撃喰らってたら戦線離脱」

 

 実弾や真剣を使うのはさすがに危険であるためそれぞれ模擬武器をしようすることとしていた。これは騎士見習い側から提示された条件である。

 

「そちらの攻撃を盾や剣で防ぐのは当然いいんだろうな?」

「んっ」

「よし!聖騎士とはどういうものかその目に焼き付けておくがいい!」

 

 レメディオスがその鋭い眼光で聖騎士見習いたちを睨めつけ、開始の合図を告げた。

 

 

───そして数十分後。

 

 

 演習場でレメディオスは悔しさに歯を食いしばっていた。ともに出撃した聖騎士たちは早々に遥か遠距離からスナイパーライフルで狙いをつけられ、近接ではアサルトラフルによる弾幕で避ける間もなく体中にペイント弾を食らって宣戦を離脱させられていた。

 残りの人数は当初の半数もいない。レメディオスはさすがと言うか天性の間でそれを避けつつ、死角となる岩陰に隠れている。

 

「団長、私が右へ敵を引きつけます!」

 

 聖騎士の一人が自分がおとりとなろうと岩陰から走りだそうとしたその時、足元からペイントが噴出する。

 

「なっ!?」

 

 全身をペイントまみれにされた聖騎士は戦闘不能を宣言される。戦闘前に演習場に仕掛けておいた対人地雷だ。

 

「罠……だと!?卑怯な!」

「戦争に卑怯もなにもない」

「まぁそれはそのとおりですね……」

 

 そう。戦闘前に戦場を確認しなかった相手が悪いのだ。勝敗は戦う前から決まっている。入念に事前に準備をし、相手のことを調べ上げ、勝つべくして勝つ。至高の存在たちはそうして勝利をおさめていた。 

 そして審判役として今回の戦闘に参加していないガンショップ・シズの店主は悠々と演習場を見下ろして講評を行っていた。それに同じく審判役のグスターボが納得しているのに腹が立つ。

 

「団長!ここは相手が焦れて出てくるまで待ちましょう!」

 

 罠があるのであれば相手が来るのを待てばいい。そう言った矢先、その聖騎士の足元にはコロコロと金属の筒が投げ込まれていた。そしてそれが発光とともに爆音を鳴らす。スタングレネードである。

 音と光による衝撃で聖騎士は気絶し戦闘不能を宣言されて運ばれていく。残るはレメディオス一人だけだ

 

「おのれ……なんだそれは!ずるい!ずるいぞ!」

「ずるいって……」

「まぁ兵は詭道なりっていいまるからね……」

「ん」

 

 またしても審判席ではグスターボは相手の味方をしていた。それを聞いてあとで覚えていろよとレメディオスは心に決める。グスターボの苦労は絶えない。

 

「だが……私は負けん!絶対に負けんぞ!」

 

 レメディオスは立ち上がると敵陣めがけて一気に走り出す。武技を含めたその速度に見習い陣は狙いがなかなか定められない。

 それでもアサルトライフルによる連射により何発かはレメディオス体へと向かう……がそれを全てレメディオスは剣で弾き飛ばした。

 

「なっ!?」

 

 まさか銃弾を剣で防がれるとは思わなかった見習いたちは焦ってさらに照準がぶれる。その隙にレメディオスは見習いの陣へと突き進む。

 足元で地雷が爆破するがレメディオスはそのペイントを被る前に察知し空中へと身をひるがえしてそのすべてを避けて、さらに駆けていく。一直線に向かっていくその姿はまさに一振りの剣そのものだった。

 それでも見習いたちには戦力が残っている。最奥にてスナイパーライフルを構えているネイアがいた。木刀を打ち付けられ前衛の見習いたちがやられていくがそれでも落ち着きを失わない。

 これは幼いころ父に教えてもらったレンジャーの心得の賜物だ。獲物を倒すにはまずは落ち着くことこそが大切、その教えの元に心を静めレメディオスの眉間に狙いを定める。

 もしレメディオスが発砲音に反応して避けようとしたとしてもこのライフルの弾速は音速を超える。聞こえたと思った時には弾が額に当たっているだろう。

 ネイアは必中を願い……そして引き金を引いた。

 

「甘い!」

 

 しかし、レメディオスは音速さえも超越した。ライフル弾をも聖剣で一刀両断すると、無防備になったネイアのいる本陣へと突っ込み……。

 

 

 

───そして

 

 

 

 その姿が消えた。いや、消えたように見えたに過ぎない。上から見下ろしているグスターボ達には良く見えていた。レメディオスはあと一歩と言うところで地面の下へ下へと落下してゆくのが。

 

「落とし穴……ですか!?シズ殿」

「んっ、作戦通り」

「ひ、卑怯だぞおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 深い穴にはまり逃げ場のなくなったレメディオスはネイア達により放り込まれた手りゅう弾とアサルトライフルによる追撃により全身をペイント弾で染め上げられるのだった。


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