パンドラズ・アクターの冒険   作:kirishima13

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第28話 聖騎士団襲来

 リ・エスティーゼ王国。

 かつてはバハルス帝国に勝利し、勝利の美酒に浮かれていたのも今は昔の話だ。今や敗軍の王として怒りを振りまいているのはリ・エスティーゼ王国、国王バルブロであった。酒を飲んでいるのかその顔は赤い。

 

「くそ!どうなっている!?なぜ我々が負けるのだ!」

 

 1年前の戦争では圧勝を誇ったボウロロープ侯の私兵団。その攻撃は見事に防がれ、逆に押し返されてしまったのだ。勝利を確信していただけにその屈辱は計り知れない。

 

「おまえのせいだぞ!ガゼフ・ストロノーフ!」

 

 不動の姿勢でそれを聞いていたガゼフの顔にバルブロは手にしたコップを投げつける。しかし、投げつけられてもガゼフは表情一つ変えず不動のままだ。言い訳一つしないその態度がさらにバルブロを苛立たせる。

 

「おい!何とか言ったらどうなんだ!」

「申し訳ございません。出来る限りのことはしたつもりですが力が足りませんでした」

 

 実際はガゼフが不利になった戦争を引き継ぎ、遅滞戦闘に移行させたからこそ帝国軍の進軍を抑えきれたとも言える。しかし、戦術などと言うものを持ち合わせていないバルブロはそんなことは夢にも思わない。すべての責任をガゼフに押し付ける形で周りへ吹聴していた。

 

「しかしあの武具が役に立たないとは……いや、待て……あれを買ったのはロフーレ商会……ルプー魔道具店?」

 

 バルブロはガゼフが戦場で言ったことを思い出す。そう、ガゼフはあの場でなぜかメイドの話をしだしたのだ。馬鹿馬鹿しいと一笑に付していたが今思うとあれが敗北の前兆であったような気がする。

 

「ガゼフ・ストロノーフ。そういえばおまえは戦場でメイドを見たと言っていなかったか?」

「はぁ……いえ、遠くでしたので見間違いであったのかも……」

「それでもいいから答えろ。どんな格好をしていた?」

「どんなと言われても……白と黒を基調としたメイド服に見えたような……」

「それ以外の特徴だ。髪の色は?頭に何か被ってなかったか?」

「ああ……そういえば頭に軍帽のようなものを……髪の色までは見えませんでしたが……」

「軍帽の……メイドだと!?」

 

 バルブロは苦い過去を思い出す。勝利に浮かれ、ロフーレ商会の美人メイドを自分のものにしようした時のことだ。娘を八本指に預けたはいいが、そのまま行方不明になってしまった。誰かに奪われたのか、それとも逃げだしたのかは分からないが腹立たしい思いをしたものだった。

 先の戦争で使用した武具はその店員ルプーから購入したものだったのだ。そして今回は相手方に軍帽のメイド。そしてこの敗北。偶然とは思えない。そこからバルブロは一つの答えを導き出す。

 

「あの……あの女ああああああああああ!いや!諸悪の根源はロフーレ商会か!くそ!くそ!くそ!許さん!絶対許さんぞ!死の商人どもが!」

「死の商人ですと……?」

「そうだ!あの商人ども!武具を売りつけて戦争させ、負けたほうにさらに良い武具を売り渡すことで利益をむさぼっていたのだろう!戦争を商売にしてる死の商人に違いない!」

 

 バルブロは自分の出した結論が間違いないと確信した。もし自分がすぐれた知性のない人間であったならこのような結論はだせなかっただろう。だが、自分は知性に溢れた一流の人間だ。そんな商人どもに操られるような愚か者ではない。

 

「王都のロフーレ商会のものどもをひっ捕らえよ!そして尋問を行うのだ!」

「なっ!?何を根拠に!?」

「やかましい!おまえのような愚か者に説明する必要はない!黙っていろ!そうだな……まずは商会長のロフーレを捕らえよ!そして店員も全てだ!」

 

 怒り心頭となったバルブロを止められるものはもはやいない。そしてその命令どおり王都のロフーレ商会の人間たちはすべて捕らえることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

「一番いいのを頼む!」

 

 バハルス帝国のルプー魔道具店本店。そこに現れた奇妙な客は開口一番そんなことを言った。言われたツアレは戸惑うばかりである。

 現れたのはどう見ても騎士、それも聖紋が武具に刻まれているのを見る限り『聖騎士』と呼ばれる神聖魔法まで使用できる騎士の一団と思われた。

 先ほどの発言をしたのは鋭い眼光をした茶髪の若い女性だ。銀色の全身鎧とサーコートを身に着けている。

 

「あの……いらっしゃいませ。ルプー魔道具店へようこそ」

 

 ツアレは営業スマイルとともに敬礼をする。するとなぜか目の前の女性もそれに倣って敬礼をして名乗りを上げる。

 

「いきなり失礼した。挨拶が先であったな。私はローブル聖王……」

「ちょっ!?いきなり何を言ってるんですか!カストディオさん待ってください!」

 

 後ろから男が現れその女性の口を塞ぐ。前髪を短く切りそろえた男で苦労しているのかその顔には疲労の色が濃い。

 

「何をする!グスターボ!私を呼ぶときは団長と呼べ団長と!」

「だからちょっと黙ってください!交渉は私がすると言ったでしょう!?」

「だが、自己紹介くらいはいいだろう。私は聖騎士団……」

「だーーー!!ほんとやめてください!あの、この人はレメディオス・カストディオといいます。私はグスターボ・モンタニェス。よろしくお願いします」

 

 大声で無理やりレメディオスを黙らせたグスターボは話を戻す。

 

「それで……我々はこの店で一番いい装備を売って欲しいのです」

「剣がいいな!剣が!」

 

 横からレメディオスが横やりを入れて来る。やめてくれと思いつつもお腹の胃のあたりを押さえグスターボは辛抱強く耐える。

 

「さようですか。それでしたらこちらなどはいかがでしょうか」

 

 ツアレが奥から持ってきたのはアダマンタイト製の剣であり、今この店に置いてあるもので一番高い商品だ。

 

「これは……抜いてみても?」

「はい、どうぞ」

 

 グスターボが抜いたその剣は最高の金属とされるアダマンタイト製のものだ。仄かに魔法の輝きを放っており、その刃渡りを見ても一級品であることが分かる。

 

「おい、頼む」

「はっ、《道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)》」

 

 グスターボは後ろにいた魔法詠唱者に声をかけ、鑑定の魔法を唱えさせる。

 

「どうだ?」

「確かにいい剣です……が、我々で手に入らないほどのものではありません」 

 

 仲間の言葉にグスターボは言いにくそうにツアレを振り返り告げる。

 

「この剣が本当にこの店で一番いいものなのですか?」

「はい……今この店にあるものではたぶん一番ですが……」

 

 ツアレのその言葉に我慢できなくなったのかレメディオスがグスターボを押しのけて前に出る。

 

「そんなわけがないだろう!聞いているぞ!ルプー魔道具店の商品で王国と帝国の決戦の勝者がきまったと!その際、強大な力を持った武具を売ったと!なぜそれを出さない!」

「だんちょ……いや、カストディオさん!こっちはお願いしてる立場ですから!」

「何がお願いだ!これは人類が生きるか死ぬか!正義の心が守られるかどうかの話なのだぞ!協力して当然ではないか!」

「ああもう!本当にお願いしますから黙って……」

 

 

 

───胃をキリキリと痛めながら土下座でもしようかとグスターボが思ったその時

 

 

 

「何してるっすか?」

 

 場違いな声がその場に全く気配もなしに現れた。そしてその声を聴いたとたん店員は弾かれたように立ち上がる。

 

「ルプー支店長閣下!おかえりなさいませ!」

 

 カッと足をそろえるとツアレは見事な敬礼をルプーへと送る。そしてルプーも同じように敬礼を返していた。そして何故かレメディオスまで敬礼をしている。

 

「だ……カストディオさん、何をしてるのですか」

「ん?ああ、見事な敬礼であったのでついな……」

 

 自由気ままなレメディオスにグスターボは頭が痛くなる。

 しかし、まるでそれが当たり前の事であるように敬礼を返したレメディオスに何を思ったのか、ルプーは笑いかけた。

 

「私がこの店の店長っす。良ければ中で話をきくっすよ?」

「望むところだ!」

 

 何が望むところなのかグスターボには分からなかったが、ルプーによって開けられたドアからレメディオスが勇んで入り、そのあとを頭を抱えながら他のメンバーが入る。

 

 案内されたのは立派な応接室だ。そしてそのソファーに座ったとたん一同は驚きに目を丸くする。

 まるで雲に乗っているように柔らかく肌触り良く、しっかりと体を支える絶妙の座り心地。最高級のものに間違いはない。

 そして天井から部屋を照らすのは魔法の輝きの証明。その部屋にある棚や装飾品の数々を見てもどれも質が良くセンスも素晴らしい。

 

「あ……あの……お茶をご用意しました」

 

 カウンターで対応してくれたツアレがテキパキとお茶とお菓子を用意していた。

 旅の疲れから甘い物に飢えていた聖王国の面々は感謝とともにそれに口をつけた。その瞬間、得も言われぬ香りが口の中から鼻へと抜けていく。

 

「こ、この紅茶は……美味しいですね……」

「何という風味……この香りは林檎ですか?」

「はいっ、お疲れのようでしたのでアップルティーをご用意させていただきました」

 

 その香りと絶妙の入れ加減はまるでグスターボの痛めた胃を癒してくれるようであり、レメディオスに与えられたストレスが和らいでいく。

 

「これは……もぐもぐ……旨いな、もぐもぐ……」

 

 そしてグスターボの胃を痛めている元凶は早速菓子に手を付けていた。まるで遠慮のない団長を恥ずかしく思う。しかし物を食べている間は黙っているだろうと安心し、グスターボも興味をそそられ菓子を口にする。

 

「こ、これは……」

 

 口にした瞬間、幸せが口の中いっぱいに広がる。林檎の甘味とパイ生地のカリカリとした感触が絶妙に組み合わさってたそれはアップルパイだ。しかしただのアップルパイではない。これはそれまでのグスターボの常識を破壊するものだった。

 

「これが……アップルパイ……?もしかして最高級のものでしょうか?どこのお店で売っているのでしょう」

 

 あまりのおいしさに今回の目的とは別に買って帰りたいと本気で思ってしまう。

 

「これはツアレ……うちの店員の作ったものっす。いかがっすか?」

「こ……これが……素人料理?」

「素人と言っても食材にあったレシピを作ってもらったり色々してもらったっすからね。今じゃプロといってもいいんじゃないっすか?ねぇ、ツアレ」

「そ、そんな……恐れ多いです……」

 

 店長に褒められてツアレと呼ばれた店員は頬に手を当てて照れている。しかし、プロ以上と言われても納得してしまう味であった。

 事実、ツアレとともにトブの大森林で食材から料理の研究をした店員たちは今までに数々のレシピを新たに完成させていた。それはこの世界の料理に農園での食材を使ったものだけでなく、ユグドラシル由来のレシピを改良したもの等も含まれていた。そしてそれらは新たな人気料理としてロフーレ商会傘下のレストランのみで提供されている。

 

「というわけで普通の店には売ってないっす。ロフーレ商会傘下のレストランなんかでは出したりしてるっすよ」

「ロフーレ商会……」

 

 その名前は聖王国まで響き渡っている。最近ではとんでもなく質のいい食材の生産をしており、聖王国にもそれに魅了された貴族たちがいるとか。もっともほとんど輸出されることはないので聖王国内では相当の高値で取引されていると聞く。

 

「なんだ?グスターボもう食わないのか?」

 

 レメディオスはグスターボがあっけに取られているのを見て、もう食べないと判断したのかグスターボの分まで取り上げて食べ、それをアップルティーで流し込むと真剣な顔に戻りルプーへと向き直った。

 

「さて、馳走になった。それで本題なのだが、武具を売って欲しいのだ。剣がいいな、剣が……」

「ほー……武具っすか?《道具上位鑑定》!」

「なんだ……?」

 

 ルプーの鑑定魔法にレメディオスは怪訝な顔をするが特に何も起きることはない。

 

「ほぅー!良い武器を持ってるっすね!悪に対して効果を発揮する剣っすか!」

 

 ルプーは一言でレメディオスの持っている聖剣の効果を言い当てる。そう、レメディオスの所持する剣こそ四大暗黒剣と対となる四大聖剣の一つ、聖剣サファルリシアと呼ばれるものだ。

 しかし、当の本人はその効果を言い当てられた驚きよりそれに対する誇りのほうが上を行ったようで嬉しそうに剣を掲げて見せる。

 

「ほぅ!いい目をしているな!そう!これこそ聖王国の宝!女王カルカ様より授かりし聖剣サファルリシア!正義の象徴であり悪を斬りさく素晴らしい剣だ。聖騎士団長たる私に対するカルカ様の信頼の証でもある!」

「だあああ!団長おおおおおおおおお!」

 

 言わなくても良いことまでペラペラとしゃべるレメディオスにグスターボが叫ぶがもはや後の祭であった。

 そして対するルプーはと言うと物欲しそうに聖剣を見つめている。

 

「いいっすね!いいっすね!それ……売ってくれないっすか?」

「断る!」

 

 レメディオスは我が子を守る母親のように剣を抱き寄せた。けして手放したりはしないという断固たる意志がそこには見える。

 

「私は剣を売りに来たわけではない。買いに来たのだ。カッツェ平野の戦いで使われたような強い剣を売ってくれ!」

 

 それを聞いて聖王国の面々は顔を伏せ、ルプーは大声で噴き出した。

 

「あっはっはー。何言ってるっすか?他国の、それも軍関係の方に強力な武器を売るわけないじゃないっすか?この店は帝国の店っすよ?輸出してそれを手に侵略でもしてくるかもしれない他国にそんなものを売れると思うっすか?売ったとしても検問で捕まるだけっすよ?馬鹿なんすか?」

 

(馬鹿なんです……)

 

 グスターボは頭を抱えながら心の中でそう返事をする。他国の人間であることを隠して武具を手に入れ、そのまま隠れて国まで戻ろうという計画を散々話をして聞かせたはずであるがレメディオスは耳に入った瞬間反対側の耳から抜けていたらしい。

 

「おい、グスターボ。何か言われているぞ」

 

(あんただよ!)

 

 そう思いつつもグスターボは頭を働かせる。他国の人間と分かってしまったのであれば正直に言うしかない。情に訴えるのが得策と方針を変更する。

 

「実は……」

 

 ローブル聖王国。リ・エスティーゼ王国の南西に位置する半島にある国であり、万里の長城のような大きく長い城壁で国土を囲っている。それは東側にある多数の亜人の紛争地帯であるアベリオン丘陵を警戒してのものだ。

 現在でも散発的に亜人による襲撃を受けており、数年前に亜人連合による大侵攻があった時などは国家総動員が発令されたほどである。危機感を募らせた彼らは対抗する戦力を得るために噂のルプー魔道具店を訪れたのだ。

 

「お願いいたします!力を貸してくださらないでしょうか」

 

 しかしグスターボの必死の懇願もルプーの心を動かすことはなかった。

 

「でも店に何のメリットもないっすからねー。っていうかこっちも捕まるっすよ」

「なんだと!貴様それでも正義を愛する人間か!亜人が人間を襲っているのだ!我々人類が一致団結しないでどうする!我が国が倒れたらこの国にも亜人は襲い掛かるかもしれんのだぞ!」

「人間のためっすかー……?そうっすねー、じゃあその剣をくれるなら……」

「断る!」

 

 ルプーが言い切る前にレメディオスが拒絶する。話にならない。ならば力づくでもとルプーは提案する。

 

「じゃあ私と決闘(PVP)でもするっすか?私に勝ったら手を貸してもいいっすよ。その代わり……」

「いいだろう!相手になろう!」

 

 レメディオスは話を最後まで聞く前に返事をして剣を引き抜いた。

 

「その代わり私が勝ったらその剣をいただくっす」

「なんだと!?約束が違うぞ!」

「団長、最後まで話を聞いてください……」

「おい、グスターボ!こいつは勝負に勝ったら手を貸すといったな!?」

「団長……もう黙ってくださいませんか……」

 

 国の恥を晒しているようで顔を赤らめながらグスターボはレメディオスを席へとつかせる。

 

「団長、この際剣の1本で済むのであれば渡すのも手ではないでしょうか?」

「馬鹿を言うな!聖騎士にとって剣は己の誇りそのものだぞ!それもカルカ様直々に賜った聖剣を渡せるわけがないだろう!」

 

 ここにカルカでもいればレメディオスを説得出来たろうがこの団長は絶対に譲ることはないだろう。そう見たルプーは代案を出す。

 

「じゃあ交換ってことでどうっすか?そうすれば手を貸してもいいっすよ」

 

 そしてルプーがどこからともなく出したのは漆黒の剣だった。その刀身からは漆黒の炎のようなオーラが漂って竜の姿を形作ったと思うと消えてゆく。

 

「ある好敵手との再会の際自慢……じゃなく、真剣勝負をしようと作った魔剣キリネイラム改っす」

 

 これこそはルプーが趣味で作成した剣の一振り。放たれているオーラにはまったく何の効果もなく、データクリスタルもないため特殊効果も付いていない見せかけだけの剣だ。しかしその切れ味はレメディオスの聖剣を遥かに超えるものであり、何よりカッコよさを第一に考えて作っている。もしかしたら欲しがってオリジナルと交換できないかと考えて。

 

「こ、これは……おい」

「はっ」

 

 グスターボに言われて鑑定した仲間の魔法詠唱者は言葉を失う。その剣の能力は聖剣のを超えた計り知れないものだ。しかし聖剣より上とはとても口には出せない。

 

「その……団長の剣に匹敵しますね……」

「では交換……」

「断わる!」

 

 ルプーが言い終わる前にレメディオスは拒絶する。聞く耳を持たないとはまさにこのことだろう。そして万策尽きたグスターボは頭を下げるしかなくなってしまう。

 

「なんとか、そこをなんとかご協力いただけないでしょうか」

「そうっすねぇ……じゃあ……情報はないっすか?モモンガ様の情報があれば考えないでもないっす」

「モモンガ様?人でしょうか?聞いたことがありませんが……」

 

 創造主についての情報も持っていない。ジルクニフのようにその姿まで突っ込んで聞いてこないということは彼らは探す気もないとルプーは判断する。

 

「じゃあスレイン法国の上層部とのコネ等があれば口利きしてほしいことがあるんすけど無理っすか?」

「それも……それほど国交があるわけでもないので……」

 

 欲しい情報もコネクションも持っていない。ここで断るのは容易い。しかしあの聖剣は気になった。カルマ値が悪に傾いているほど威力を発揮する効果など初めて見るレアアイテムであり、しかも持つ者によってはカルマ値『極悪』の創造主を斬ることさえ可能なマジックアイテムである。是が否にでも手に入れておきたい。そのためにもルプーは話題を変える。

 

「ところでなんで剣なんすか?防衛のためなら飛び道具のほうがいいんじゃないっすか?」

「それは我ら聖騎士は剣を誇りにしているからだ!」

「それはさっき聞いたっすよ。聖騎士様は何人くらいいるんすか?」

「何人だ?グスターボ」

「自分のところの団員の数くらい覚えて下さい……見習いを除けば正規の聖騎士は500人程度です」

「たったそれだけで亜人の軍団を倒す気っすか?剣術の覚えのない大勢の人間たちが持てる力を求めるべきじゃないっすか?」

「なんだと!?貴様我々聖騎士を馬鹿にしているのか!?」

 

 ルプーの挑発にレメディオスは面白いように乗ってきた。これはうまく誘導できそうだとルプーはさらに挑発をする。

 

「例えば魔法や遠距離攻撃をされたらどうするんすか?」

「そんなものはまっすぐ行ってぶった斬る!」

「罠なんかが仕掛けられていたら?」

「まっすぐ行ってぶった斬る!」

「……」

 

 どうやらこの団長は脳まで筋肉で出来ているらしい。ルプーは話を別の人間に振ろうと考える。そこで目についたのが聖騎士団の中で一人だけ聖騎士には見えない小柄で金髪の人間だ。非常に目つきが悪く先ほどから睨みつけてきているのが気になっていた。

 

「へい!そこの彼女!」

「へっ?」

「あなたも聖騎士なんすか?」

「あ……あの……」

 

 急にオーバーリアクションで指を指されるとは思っていなかったのか戸惑っているその女の子の代わりにグスターボが答える。

 

「彼女は聖騎士見習いのネイアと言います。レンジャーの素質がありここまでの道中の索敵係として連れて来たものです」

「ほぅ……レンジャーっすか。じゃあ丁度いいっすね。これを持ってみるっす」

 

 ルプーがどこからともなく取り出したのはL字型をした鉄の塊だ。それをネイアに持たせるとその中に空いた穴に人差し指を通させる。

 

「ここを持って……ここが撃鉄っす。これを親指で引いて」

「は、はい?」

 

 ネイアは言われるがままに撃鉄と呼ばれる部品を引っ張りカチリという音が鳴る。

 

「では両手でグリップを握って……」

「はい……」

「標的は……この鋼製の盾でいいっすか。これに向けて引き金を引くっす」

 

 ネイアは言われた通り引き金を引く。すると手に痛いほどの衝撃が走ったと思うと爆音が発生して耳にキーンという耳鳴りが残った。

 

「な、なんですかこれは?」

「武器っすよ。それも聖王国を救う武器っす」

 

 ルプーが見せつけるように鋼の盾を掲げるとその中心に穴が開いていた。鋼の盾を穿つほどの威力。これは剣をもってしても出来るものはそうはいないだろう。

 

「こ、これは……この武器がやったのですか?」

 

 手のひらに収まりそうなくらいの何でもない鉄の塊。それがこれほどの威力を発揮したことにグスターボは仰天する。しかも戦士としての力量が不足している見習い騎士がだ。

 

「これは力のない人間でも扱うことができるマジックアイテムっす。多数を相手にするのならこのほうがいいんじゃないっすか?」

「こ、これを売ってもらえるのですか!?」

「さすがにここで売ることはできないっすね。それに私には使えない武器っすから……。もし許可をもらえるなら聖王国に新しい店を作ってもいいっすよ。もちろん指導する人間も用意するっす」

 

 目の前で二つ返事で了承するグスターボ。そして大切そうに剣を抱きかかえて憮然としているレメディオス。二人を見ながらルプーはほくそ笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 飛び道具など邪道だと主張するレメディオスをお腹を押さえながら何とかなだめたグスターボとともに聖騎士団の面々は店から帰っていった。

 

「ルプー様……。よく分かりませんが……凄そうな武器でしたけど……よろしかったんですか?あまり凄い武器は売らないって……言ってませんでした……?」

「いいんすよ。いずれ他国に支店を広げたいとは思っていたっすし……まぁ銃器っていうのは利点と欠点があるっすからね。そこはここの使いようっすよ」

 

 ルプーは頭を指さして笑っている。それを見てきっと女神様には何か素晴らしい考えがあるのだろうとツアレは納得した。きっとあの人たちにも素晴らしい未来が待っているのだろうと。

 

「それで……誰にその聖王国のお店を任せるんですか?」

「それは銃器に詳しい妹がいるっすからそれにね……ふふふっ、楽しくなりそうっすねー」


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