あの正確無比のキックのごとく、ど真ん中をストレートが射抜いた。
「完璧です。100点です。初めて投げたんで。どこに飛んでいくかわからなかったんですが(事前に)山崎さんに丁寧に教えていただいたので」。もちろん背番号は10。始球式を務めたラグビー日本代表の田村優は、初めて握った野球のボールを見事に操った。スタンドには沖縄県在住の母方の祖父母を招き「いいところを見せられた」と喜んだ。
この晴れがましいマウンドに立つまでに、彼が乗り越えてきたものがある。年間240日に及ぶ代表合宿とハードワーク。耐えられたのは「何を犠牲にしてでもその舞台(日本開催のW杯)に立ちたい」という強い思いがあったからだ。国を背負うには犠牲が伴い、重圧がかかり、結果を出せてようやく誇りをもてる。
日本代表がなぜ心を打ったのか。勝ったことはもちろん大きいが、彼らの思いが伝わってきたからだ。国歌斉唱で感極まって泣く姿、仲間を信じて倒れながらつなぐパス、負傷交代に流す悔し涙…。たとえ「にわか」でもファンはそこに競技者の生きざまを感じ取ったはずだ。
激闘の傷を癒やす間もなく、田村は28日に台風被害を受けた千葉県内に入り、ボランティア作業を行っている(29日には他の5人の代表選手も駆けつけている)。競技を愛し、代表に尽くし、国を思う。心優しきラガーマンは、侍たちへのエールも忘れなかった。
「種目は違っても、代表としてやっているのは同じ。目標は(8強だった)僕らより高い位置に置いていると思いますが、有言実行で頑張ってほしい。日本に力を与えてくれると思う」
長い1年を終え、心身ともに負担は大きいだろうが、彼らは代表の招集に応じた。相応の「犠牲」を払っている彼らが、重圧の先に、世界一という栄誉と称賛を得られると思いたい。