【COLUMN】WECを通じて見たミシュランの本質。

2018/10/21 11:55

MICHELIN ☓ WEC

 

 

ライバルがいなくても課題を持つべき。

 

10月13日(土)から14日(日)にかけて開催されたWECことFIA 世界耐久選手権 第4戦 「富士6時間耐久レース」。熱き闘いは予選で最速タイムをたたき出しながらもペナルティによりLMP1クラス最後尾スタートとなった7号車のトヨタTS050ハイブリッド(小林可夢偉/マイク・コンウェイ/ホセ・マリア・ロペス)が、レース序盤から見事な追い上げを開始し、ポールポジションスタートの同朋8号車(セバスチャン・ブエミ/中島一貴/フェルナンド・アロンソ)を逆転。総合優勝を飾って幕を閉じた。

 

今年はいわゆるワークス参戦のチームがトヨタ以外になく、結果だけを見れば2台のTS050ハイブリッドが勝利を分け合う形が続いている。しかしだからこそ、チームオーダーのない今年は闘いが熾烈であり、なおかつ「勝てるレース」を取りこぼすことはできないという、強烈なプレッシャーと共にドライバーたちは闘いを演じていた。特に第2戦ル・マン24時間耐久レースでの戦いは相当な重圧がのしかかったはずだ。

 

そんなトヨタ同様、WECではタイヤの世界でも己との闘いを演じているメイクスがある。それがミシュラン。WECは現在タイヤメーカーの参戦に対してはオープンな姿勢を取っている。しかし実質はミシュランの一人勝ち状態にあり、他メーカーの追従を許さぬ状況となっている。

 

とはいえ「LMP1クラスが実質のワンメイクだからといって、タイヤメーカーとして手を抜いてよいわけではない」と、今回富士でインタビューした小田島モータースポーツダイレクターは語った。

 

「ライバルがいない状態でも、そこに課題を持つべきと我々は考えます」

 

たとえばル・マン24時間のような長いレースでは、性能が低下せずなるべく長いスティントを走れるようなタイヤが求められる。なぜならレギュレーションによりピット作業は大幅なロスを生み出すからだ。

 

 

WECではタイヤ交換に際して「タイヤ交換作業にはふたりのメカニックしか関与できないという」レギュレーションが存在する。よってピットでは、タイヤ交換の際にメカニックが片側二人がかりで古いタイヤを外し、新しいタイヤをはめ、エアツールでナットを締める。これが終わると逆サイドで同じことが繰り返され、その間に片側を済ませたふたりが残りのタイヤにかけて行き・・・という慌ただしい状況が展開される(そのやり方はチームによって異なる)。これはWECのひとつの見所となっている。

 

しかしミシュランは、タイヤの性能でピットストップそのものを少なくしてしまった。1回のピットストップでタイヤを交換したときの損失は、ル・マンの場合で20〜25秒だと言われている。

 

対してタイヤを交換せずに走った場合、仮にタイヤにデグラデーション(性能低下)が起きたとしても、それで失う損失が1スティントあたりのタイヤ交換作業でのロスタイムに満たなければ、当然優位となる。

 

これをレース時間で割っていったとき、2スティント分を連続で走ることによってレースは大きく動く。それをやってしまったわけである。またこうしたタイヤの性能向上は、環境負荷を減らすことにも通じている。ちなみにミシュランタイヤが今回富士ラウンドに持ち込んだタイヤは4000本。その内訳はスリックタイヤ(ドライ)が2600本、レインタイヤが1400本となっている。もちろんこれは全ユーザーに供給する本数だが、想像を絶する数だ。しかしこれはレースで各チームに供給する本数としては、非常に少ない本数なのである。

 

 

ミシュランはタイヤの本数を削減するにあたって、様々な手段を講じてきた。今年こそワークス参戦がトヨタだけになってしまったが、ポルシェやアウディが参戦していたときでさえ、各社の特性に合わせた開発は行うものの、その構造部材やコンパウンドになるべく共通項を持たせることで資源を節約してきたという。

 

こうしたタイヤ本数の削減は、タイヤそのものの資源消費を抑えるだけでなく、ロジスティックス(輸送システム)の効率化にも貢献した。タイヤの本数が少なくなればそれだけ空輸やトラックでの輸送回数が減り、結果的に排気ガスを中心とした物流による資源損失が減らせる。そして環境負荷にも役立つ。

 

つまりミシュランタイヤはWECやスーパーGTを初めとしたレースで、環境負荷という見えない大きな相手とも闘っているのである。

 

 

PHOTO & REPORT/山田弘樹(Koki YAMADA)