グッドイヤー、FIA世界耐久選手権に復帰。グッドイヤーレーシングのキーマンに勝算を訊く

グッドイヤーレーシングタイヤ1

第2戦富士6時間耐久の予選でグッドイヤーが首位に立つ

 

グッドイヤーが国際レースシリーズに帰ってきた。参戦の舞台に選んだのは、伝統のル・マン24時間レースをシリーズの一戦に含むFIA世界耐久選手権(WEC)だ。グッドイヤーは9月に開幕した2019/2020年シーズンから、LMP2クラスに参戦する8チーム8台中、3チーム3台にタイヤを供給している。他はミシュランを履く。

 

グッドイヤーレーシングのキーマンに勝算を訊く、イオタ・スポーツのオレカ

グッドイヤーはFIA世界耐久選手権(WEC)に復帰するにあたり、ドイツのハナウとルクセンブルグのコルマーベルグにあるイノベーションセンターで1年以上にわたりル・マン用のプロトタイプ用タイヤを開発・今回は4種の新型タイヤを開発し全8ラウンドのWECシーズンに挑む

 

ドライタイヤはシーズン中に3種類提供することが可能。このうち2種類を各イベントに持ち込むことが許されている。さらに、水膜の薄い状態に適したインターミディエイトタイヤと、水膜が厚い状況に適したウェットタイヤを供給する。

 

10月4日〜6日に富士スピードウェイで行われた第2戦富士6時間耐久レースでは、ジャッキー・チェン・DCレーシング(37号車)が、グッドイヤー勢として初めてポールポジションを獲得した(決勝ではクラス2位)。

 

その富士で、グッドイヤーレーシング ディレクターのベン・クローリー氏(以下、クローリー)と、セールス&技術サポートマネージャーのマイク・マックレガー氏(以下、マックレガー)に、WEC参戦の目的や開発状況について聞いた。

 

EMEA グッドイヤーレーシングのディレクターを務めるベン・クローリー氏

 

なぜWECに参戦しようと思ったのでしょうか?

 

クローリー「私たちグッドイヤーはブランドのイメージを再確立したいと考えました。ヨーロッパおよびインターナショナルな観点で、知名度を拡大したいと考えたのです。それも、パフォーマンスに直結した形で。耐久レース用のタイヤとロードカー用のタイヤは、性能を長時間維持しなければいけない点で共通しています」

 

「そう考えたとき、WECは素晴らしいプラットフォームだと判断したのです。世界的にとても大きなイベントであるル・マン24時間を含んでいるのが大きい。私たちのブランドをPRするのにふさわしいイベントであり、シリーズだと考えています」

 

久しぶりのレース復帰となるグッドイヤーだが、予選ではいきなりグッドイヤー装着車両がトップに立つなど、確かなポテンシャルをもつことが証明された

 

事実上ミシュランが独占しているシリーズに参入し、競争力を発揮するのは並大抵のことではないように思えます。

 

クローリー「すべてのクラスでミシュランが強い存在感を示していることはもちろん承知しています。私たちグッドイヤーはその世界に入り込んでプレゼンスを確立しようとしているのです。LMP2カテゴリーで競争力を発揮し、優勝する自信があります。タイヤの競争力については、マイクが補足してくれるでしょう」

 

EMEA グッドイヤーレーシングのセールス&技術サポートマネージャーを務めるマイク・マックレッガー氏

 

マックレガー「LMP2は私たちが参戦を始めるのにふさわしいカテゴリーだと思っています。ル・マンでは5スティントもたせる性能を担保する必要があります。これはとてもチャレンジングです」

 

いつから準備を始めたのですか?

 

マックレガー「およそ12ヵ月前です。すべてのサーキットにマッチするタイヤを開発し、製造する時間を考えれば、準備を始めるタイミングが遅かったのは承知しています。実際、開幕戦シルバーストーンに向けた最終プロダクトの確認は間に合いませんでした。富士のレースの後、アメリカのセブリングでテストを行います。そこでは消化した2戦を振り返ると同時に、2020/2021年シーズンに向けた開発を行います」

 

グッドイヤーレーシングタイヤ2

今回の富士6時間耐久レースに持ち込まれたグッドイヤーのレーシングタイヤ。手前からウェット、インターミディエイト、ドライ

 

LMP2向けタイヤを開発する際の「基準」はあったのですか?

 

マックレガー「LMP2のタイヤは購入可能です。買おうと思えば、ミシュランのタイヤを購入することができます。前シーズンのタイヤを研究することで、どこから始めれば競争力を確保できるのか、基準を設定することが可能です。この基準に対し、グッドイヤーが過去に他のカテゴリーで蓄積した経験を照らし合わせ、仕様を絞り込んでいきました」

 

「私たちは各地のサーキットに実際に行って、路面をスキャンし、ミクロとマクロの視点でラフネスを計測しました。そのデータをベースに、どのコンパウンドが最適なのか分析しました。年間3種類に規制されているドライタイヤのコンパウンドで、バーレーンの暑さにも耐えなければなりませんし、冬の寒さにも対応しなければなりません。前回のスパでは気温が摂氏4度まで下がりました」

 

覚えています。雪が降りましたね。

 

マックレガー「ル・マン24時間は最もタフなレースです。どんな天候になるかわからないし、雨が降ったとしてどれほどの水量になるかもわからない。すべての環境に対して準備しなければならないのです。だから、とても多くの仕事を短い時間でこなさなければなりません」

 

広い温度域で性能を発揮することが求められるウェットタイヤ。今回の富士6時間耐久でも各チームはウェットとドライの対策に追われた

 

ウェットタイヤのトレッドパターンについて説明してください。

 

マックレガー「ウェットタイヤのトレッドパターンは、ロードタイヤの開発部門と密接に連携して開発しました。検討したトレッドパターンの数は25種類に達します。設定したレンジのなかで異なるモデルを振って、どのような反応を示すのか確認しました。ウェットタイヤは、広い温度域で作動することが求められます」

 

インターミディエイトのグルーブはドライバーを心理的に安心させるために過ぎず、本来グルーブは必要ないとマイク・マックレガー氏は語る

 

インターミディエイトタイヤはいかがでしょう。

 

マックレガー「インターミディエイトタイヤの場合、トレッドパターンは重要ではありません。コンセプトは溝なしのドライ用スリックと同じです。重要なのは排水性ではなく、熱を発生させることです(筆者注:コンパウンドを適正作動温度領域に持ち込むため)。トレッドパターンは、ドライバーに視覚的な安心感をもたらすためのものでしかありません。スリックと同じデザインだと、濡れた路面で機能するように感じられないからです。機能の点からいえば、グルーブは必要ないんです」

 

富士6時間耐久レースでは優勝こそ果たせなかったが上位につけるだけの実力の片鱗を見せた。今後のWECではタイヤ戦争の行方も興味深い

 

なるほど。最後に、参戦1年目のターゲットを教えてください。

 

クローリー「私たちは短期的な結果を求めていません。グッドイヤーのWEC参戦は長期的なプランです。将来的には、トップカテゴリーやLMGTEに参戦する可能性もあると思っています」

 

 

PHOTO&REPORT/世良耕太(Kota SERA)

PHOTO/日本グッドイヤー