11月5日(火)まで開催されている第32回東京国際映画祭で1日、ジャパニーズ・アニメーション部門『白蛇伝 4Kデジタルリマスター版』の上映が行われた。上映前のトークショーに本作の4K復元に携わった東映ラボ・テック特別顧問の根岸誠、東映アニメーション制作技術室長の近藤修治、東映アニメーション第一映像企画部の伊藤志穂が登壇した。
東映アニメーションの前身である東映動画株式会社の創立に携わった藪下泰司監督がメガホンをとった本作は、中国に古くから伝わる民話をもとに、幻想的な音楽と美しい物語と共に、多彩な登場人物と愛嬌たっぷりの動物たちの姿を描きだす。日本初の長編カラーアニメーション作品として知られ、宮崎駿をはじめ後に日本アニメ界を牽引するアニメーターたちに多大なる影響を与えた作品でもある。
「いまから2年前の“日本アニメ100周年”の年に、国立映画アーカイブさんから東映に『白蛇伝』を4K化して収蔵したいという依頼がありました。弊社でも劇場長編のネガを将来的に保存するにあたって、4Kスキャンが必要だという話があがっていて、そのタイミングが合致してプロジェクトを始めました」と、今回の4K修復に至った経緯を明かす近藤。
具体的な修復のプロセスについて根岸は「古い作品をリマスタリングする時には、実際の作業よりも方針を決めることに時間がかかる」と、今回の作業でもその大半が当時のままの状態にするのか直していくのかを決めていくことに費やしたと告白。「直せと言われれば全部直せます。皆さんに観ていただく時には観やすくするのも大事ですが、公開当時の状態にできるだけ近くすることも大事」と、映画保存の技術が進歩する中でも、作り手の意図や制作当時の技術の片鱗を残していくことの重要さを語った。
実際に修復を終えた作品を観た近藤は「いままでDVDとかで観てきましたけど、格段に色の仕上がりが違う。これが当時の映像なんだろうなと思いました。ひと言で言えば観やすい。若手の社員にも観てもらったんですが、こんなにわかりやすいと思わなかったという声もあり、若い人たちにも響くような仕上がりになりました」と自信をのぞかせていた。
連続テレビ小説「なつぞら」が放送されたことで、アニメーションの歴史への関心が高まっている昨今。また同作ではこの『白蛇伝』からヒントを得た「白蛇姫」という作品も登場している。「『なつぞら』は非常に大きい影響があったと思います」と語る近藤は「アニメーションがこうやって作られているんだとか、経験者がいない状況で試行錯誤しながら作っていたことも描かれていて、いままでアニメに興味のなかった方にも関心を持っていただいた。本作も色々なところから上映をしたいという声をいただいていて、『なつぞら』に感謝しています」と満面の笑みで語る。
そして「なつぞら」と同様に若い世代の育成に取り組んでいる東映アニメーションでは、その育成プログラムとして『ジュラしっく!』という約1分の短編アニメーションを制作したとのことで、制作に携わった伊藤が登壇。制作段階での苦労を振り返りながら「ベテランの方が支えてくださって完成したので、とても有意義な企画だったと思います。今後はストーリーを広げて、皆さんに観ていただけるように活動をしていきます」と今後の展望を目を輝かせながら語った伊藤。『白蛇伝』の上映前に『ジュラしっく!』が上映されると、会場は割れんばかりの大きな拍手に包まれた。
取材・文/久保田 和馬
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