ダイエットというと、とりすぎた栄養を減らすこと、と考えられがち。ところがミネラルやビタミンの不足で代謝が下がることが太る原因になることが多いとわかってきた。不足した成分をサプリメントで補えば、冷えや疲労感までまとめて解決できる可能性も。詳細をご紹介します。
「飲むだけでやせる」と評判のダイエットサプリメント。試したことがある読者も多い。ところが、「効果があまりなかった」と答える人が半数を超える。いったいなぜ?
ダイエットサプリメントの大部分は、食べたものの糖質や脂質などの吸収を抑える。ところが、「むしろ現代女性は栄養素の不足により、代謝が下がっていることの方が問題」というのは松倉クリニック&メディカルスパの松倉知之院長。
本来、糖質や脂質などの栄養素をとると、細胞内のミトコンドリアという部分でATPというエネルギーが作られる。このエネルギー産生が十分なら、栄養をとっても活動エネルギーに変えられるが、ここが滞るとエネルギーに変えられずに、余分なカロリーが脂肪として蓄えられてしまう。
特に問題になるのが、30代の後半から。「もとより年齢とともに、代謝は下がる。さらにエネルギーを作り出すために必須な鉄分やビタミンB群が不足すると代謝低下が深刻に」と松倉院長。中でも月経のある女性にとっては、「鉄不足はほとんどの人に当てはまる。まず補っておきたい」(松倉院長)。
サラシア、ギムネマ、白インゲン豆エキスキトサン、βグルカン、代謝アップ、カプサイシン、L-カルニチン
→ →
従来「ダイエットサプリメント」といえば、食べたものの糖質、脂質の吸収を抑えたり、代謝を上げる成分が代表的だった。これは栄養のとりすぎを前提にしたサプリの選択だ。ところが、食べすぎていないのに体重が減らない、体調が悪いという現代女性特有の現象は、実はカギとなる栄養素不足が原因のことが多いとわかってきた。特に、細胞がエネルギーを作り出すのに欠かせない鉄やビタミンB群の不足が目立つという。また、冷え、疲労感、眠りが浅い、生理不順の陰にも、この2成分の不足が関わっている。新たな視点で太らない体を手に入れよう。
鉄は、「細胞のエネルギー、ATP産生に欠かせないばかりでなく、肌や腱、靭帯などの主成分であるコラーゲンの産生にも関わり、ホルモン分泌、細菌やウイルスへの抵抗力にも関わっている。月経のある女性は毎月鉄を失うのでほぼ全員が鉄不足。“女性特有の”と言われている症状が実は鉄不足によって引き起こされている可能性が高い」と、松倉院長は鉄の重要性を解説する。
鉄不足と聞いて、まず連想するのは貧血だが、冷え、疲労感といったエネルギー不足が原因の不調のほか、爪がもろい、腱鞘炎になりやすい、風邪を引きやすいなどの症状も鉄不足が一因ということもあるという。
さらに「鉄は筋肉を収縮させるのにも必要。筋肉が収縮せずに月経がだらだらと続く不正出血と診断され低用量ピルを処方された女性が、鉄をサプリメントで補って不正出血が治まったというケースも」と、満尾クリニックの満尾正院長は話す。
月経のある間は、常に鉄不足に注意したい。
●赤血球を強くし、酸素と栄養を多く運べるようにする●細胞のミトコンドリアのエネルギー(ATP)産生に関わる
鉄が関わるのは、細胞内のミトコンドリアでのエネルギー産生。不足すると疲れやすい、冷えやすい、眠りが浅いといった全身症状が出るほか、筋肉を収縮させられなかったり弛緩させられなかったりする。コラーゲン産生にも関わるので、肌や爪の状態が悪化する。また、血液中の鉄だけでなく貯蔵鉄まで不足すると、立ちくらみ、息切れ、顔色が悪いといった“貧血症状”も悪化する。
鉄と並んで、同じく細胞のエネルギー産生に欠かせないのが、ビタミンB群だ。「エネルギー産生を支えるメカニズムは複雑。その多くの場面で異なる種類のビタミンBが必要とされる。1種類のBだけでは、メカニズム全体を担えないので、補うときはB群をまんべんなく補って」と、満尾院長は解説する。
さらに、ビタミンB群は神経伝達物質の合成にも関わり、「抑うつや、統合失調症改善などのデータも報告されている。気分の落ち込みや集中力の低下がビタミンB群不足で引き起こされていることも」と、満尾院長。
松倉院長は、栄養素の体内の働きに注目した『分子栄養学』に基づく手法で、血液検査データを解析しているが、これにより肝臓の酵素の数値などから女性の多くがビタミンB群が足りていないことがわかるという。
なお、ビタミンB群は水溶性なので、排出されやすい。「1日数回に分けて補ったり、体力の消耗が激しい人は多めに補うのも良い」と、松倉院長は話す。
●細胞内のミトコンドリアのエネルギー(ATP)産生の各ステップに必要とされる●皮膚や粘膜を正常に保つ●アルコール代謝に関わる●ホルモンや神経伝達物質の合成に関わる
細胞のエネルギー産生のほか、赤血球を作る(葉酸、B12)、脂質代謝(B2)、アルコール分解(B3)、ホルモン合成(パントテン酸)、神経伝達物質の生成(パントテン酸、B12、葉酸)などに関わっているので、不足すると全身あちらこちらで不調につながる。B群すべてを積極的に補おう。
太らないためだけでなく、元気な体に丈夫な骨や筋肉は必須。骨や筋肉の維持にもミネラル類が重要だ。
各種の栄養の調査で、不足が指摘されているのが、カルシウムと亜鉛だ。カルシウムが不足すると、筋肉の収縮力が弱くなり、日常活動も活発にできなくなる。もちろん、骨の強さを維持するミネラルでもある。
亜鉛もたんぱく質合成やホルモンに関与し、筋肉を保つのに必須。
カルシウムは、体内でマグネシウムと密接に関わりながら働く。そのため、サプリメントも体内バランスに沿って、カルシウムとマグネシウムを2対1で含むものが多い。また、亜鉛を同時に摂れるもの、骨を作るのに必要なビタミンDを加えたものもある。上手に活用しよう。
松倉院長が行っているのが、血液検査と尿検査から体内の不足栄養素、過剰な栄養素をチェックする診断だ。鉄に関しては、健康診断では通常検査されない貯蔵鉄「フェリチン」の値も調べる。今回ライターI(42歳・女性)が検査を体験したところ、「最低でも50~60、できれば100は欲しい」(松倉院長)という貯蔵鉄分を表すフェリチンの値は「9」。通常の検査でわかる血清鉄の値も低く、日頃の疲労感の理由が極度の鉄不足と判明した。ほかに、肝臓の酵素「GOT」「GPT」の値からビタミンB群の体内バランスもわかる。
(ライター 岩田るみ)
[日経ヘルス2013年11月号の記事を基に再構成]
本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。