話題になっていたので読みました
https://b.hatena.ne.jp/entry/s/togetter.com/li/1424079
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大学図書館(特に私立)はその大学や図書館のポリシーによってかなり利用方法に差があるので一概には言えませんが、自分の勤務する館のことを書きます。
自館は、原則として「大学に所属する者」以外の入館を認めていません(例外として提携大学の所属者や、ほかの図書館で発行した紹介状を持参している人などがありますが)。
そして自館の所属者も含め全ての人は、入館するときに身分証(学生であれば学生証)をゲートに通すか、受付の職員に提示する必要があります。
こうして一般開放を行わず身分を厳密に照会するのは、セキュリティ上の要求(盗難や盗撮を抑止するため)もありますが、自館が「校費で購入された資料や設備を、所属者が優先的に使える権利を守る」というポリシーを持っているからです。
そしてこのポリシーがあるからには、「乳幼児をもつ所属者が研究する権利も当然守らなければならない」ということで、数年前から子連れの入館を許可しています。
(このように、「子の権利」ではなく「所属者の(研究の)権利」を根拠としているので、保護者が常に同伴していなければならない必然性が低い小学生以上は入館できません。)
togetterなどのコメントを見ていると乳幼児による騒音等を警戒されている方が多いように、子の入館を認める制度は即座に始められるものではありません。
自館では、ざっくりまとめると以下のようなプロセスをとりました。
乳幼児の入館について賛成しがたい所属者の理解を得る(※後述のことと関係します)ために、「入館はできます」でも「大歓迎!ぜひ連れてお越し下さい!」ではないということを示す必要があります。そのために、「子連れ入館ができます」と並列で、「お子様とは常にご一緒してください」「場合によっては、一時的な退館をお願いする場合があります」などの内容を<どの方にも><失礼なく><やさしく>伝える文面を練ることから始まりました。
上記の内容をもとに、図書館の委員をつとめる先生方に承認を得る必要があります。自館では、「そういう時代だししょうがないね」的な皮肉未満を述べる教員はいましたが、反対意見は出ず進めていくことができましたが、「図書館に子供なんて言語道断」と権力のある教員が強く主張した場合、難しくなります。※ポリシーだの根拠だの頭固っと序盤で感じた方もいるかと思いますが、ここでそれらが必要になるのです。
大学図書館の設備は、そもそも大学生以上の年齢を対象に造られています。わかりやすく例えるならば、吹き抜けの手すりの柵などが、乳幼児であればすり抜けて落下してしまう造りになっている、というようなものです。
自館では、「双子用のベビーカーが乗れないエレベーターを大きなものに作り変えるといった大きな改修まではできないが、明らかに危険な場所があるのに放置したまま子連れの入館を始めるのは不誠実」ということで、専門家の点検とその助言による改修をいれました(上記の例であれば、柵のまわりに板を張る、あるいは柵自体を作り直すということになります)。ここに最も時間と費用がかかります。
乳幼児入館可になってからですが、特に問題は起きていません。というのは、いらしても、そのほとんどが返却期限間際の資料を返して退館(滞在時間3分以下)がほとんどだからです。幼児の声が響くことも、突然走り出した幼児が傷つく事故も起きていません。
だから、費用のかかった改修は、今のところ役に立っていません。悩みに悩んだ広報文で書いた、泣き声や騒ぎ声のための退館をお願いしたこともありません。でも、自分はどちらもやってよかったと思っています。来て大丈夫です、来ることになっても大丈夫です、と言える環境をつくれたからです(これは図書館職員を守ることでもあります)。
大学も図書館も、経済的に困っているところが多く、新しい制度をつくる余力も金もないところの方が多いのです。はてブのコメントでは、「寝てる赤ちゃんもダメなんて」というコメントが散見されましたが、寝てる、大人しい、静か、といった線引きで入館そのものを決めるというのは難しいと思います。この子は寝てるからオッケー、この子は泣きじゃくってるからダメ、という決め方では、上機嫌で喃語を発している子は?騒音かそうでないか人によって判断が分かれそうな声量の場合は?となってしまいますし、それらの判断は(カウンター業務をお願いする場合が多い)委託業者の職員では判断できない場合がほとんどです。乳幼児の図書館への入館を認めるには、ある程度の「制度」が必要で、それはどこでもすぐにつくれるものではないのです。