先週は体調不良のため、おやすみをいただいた。
今週も体調はたいして改善していない。でも、今回は書かないといけないと思っている。自分のためだけではない。この国の未来ために……と、別に恩に着せるつもりはないのだが、おおげさなことを言ってしまった。忘れてください。
萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言関連のニュースを眺めつつ、すでにうんざりしている人も少なくないことだろう。
なにしろ報道の量が多いし、その伝え方があまりにもカタにハマっている。そう思って大臣に同情を寄せている人もいるはずだ。
私自身、少なからずうんざりしている。
理由はいくつかある。
第一の理由は、萩生田発言をとらえて、自分が当欄に書くであろう原稿の内容が、あらかじめわかりきっているからだ。
いったいに、原稿を書く人間は退屈を嫌う。私も同じだ。自分が何を書くのかが、あらかじめ見えているタイプの原稿には、なるべくかかわりたくない。
できれば、脱稿するまで自分が何を書くのか見当がつかない原稿の方を書きたいと思っている。その方がずっと執筆意欲を刺激する。
むろん、書きながらあちこちに脱線するタイプのテキストは、そのまま失敗して終わるケースが少なくないのだが、それでも、書き手にとってはその種の扱いにくい原稿に取り組んでいる方がスリルを味わえることはたしかで、だから私は、この10年ほど、あえて自分ながら考えがまとまらないでいるネタをいじくりまわすことを選んでいたりする。
今回は違う。
書き始める前から、何を書くべきなのかが明瞭にわかっている。しかも、どうやって書き進めればよいのかについても手順が見えている。
つまり、執筆は手続きにすぎない。
となると、退屈してしまって、なかなか手をつけることができない。
おかげで、デッドラインが致死的な線に近づいてきている。逆に言えば、締め切りという物理的な圧力を借りないと書き始めることができなかったわけだ。
書くことがはっきりしている理由は、萩生田大臣の失言をめぐる論点が誰の目にも明白だからだ。
わざわざ自分が書くまでもないとさえ思う。誰だってわかっているはずじゃないか、と。
とはいえ、世間には、萩生田発言をめぐる明らかな論点をいまだにとらえきれていない人たちが依然として残っている。
今回はそういう人たちのために書く。
「なにをオダジマがわかりきったことを」
と、そう思った人は、読み飛ばしていただいてかまわない。
そうでない人たち、たとえば安倍総理大臣閣下には、できれば熟読をお願いしたい。そして、萩生田発言の何が問題で、どうして人々があんなに憤っているのかについて、ぜひ考えてみてほしい。
コメント42件
momotaro
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姫神山麓の住人
隠居
次の世代の基礎を作る機能と、産業に必要な人材を育てる機能を混同しているよう思います。本来の大学に求める機能は、職業訓練でなく未来を予見して社会に示すことと思います。
momotaro
河野大臣の話し、個人的には大臣の発言自体よりも、あれで声出して笑っていた連中に強い嫌悪感を抱きました。
さんたま武ちゃん
特になし
日本人は自分が賢いと勘違いしていないかと危惧するのは私だけではないはずと思いたい。基礎教育をしっかり受けた者でなければ、実践教育に耐えられない、人それぞれの特徴や才能があるにせよ。ところで、偉大な哲学者も言っていたが「バカそのものが罪」。先
週休まれたので小田嶋先生の体調が心配、来週お会い出来るのを願っています。ご自愛ください。...続きを読むAndy 1st
某私立大学理工系学部の基礎実験(教養に近いもの)は、実験内容そのものは物理、化学、工学、の様々を大学教育の基礎レベルで確認させてくれるとてもためになるものでした。しかし、その評価は、結果を膨大なレポートにまとめて提出し、それをそれぞれの専門
の院生が教授の手伝いで一通りのチェックをするだけ、実験の内容が毎年そんなに変わるものではないので、過去のレポートを持ってきて、データだけ実際の実験結果に差し替えれば単位は取れるものでした。今ほどPCが発達していない時代だったので、グラフを書く能力と、過去のレポートの文章を目と頭を通して手で出力する能力があり、期限内に提出すれば科目のA(最高評価)がもらえる、実験内容の意味を理解するより、手引きに従いデータを取って、書式にのっとった報告を期日内に提出することが基準という、まさに、当時の理工系の職業訓練とも言えるかもしれない。...続きを読む下宿に理系のT大生がいたので、実験のレポートはあるのかと聞いた所、そんなものより、実験をする数人のグループに一人ずつの助手(これも多分、院生の手伝い)が付き、実験後に数時間にわたりその内容について、徹底的に議論するのが大変なのだとのことでした。国立大学でもっともお金を使っているとは聞きましたが、なんとその教育に対する手のかけようがうらやましかったことか。しばらくして自分の専門外となれば忘れてしまうのかもしれませんが、その時は少なくとも理論、内容を理解し、実験での確証を得たことでしょう。
さて、わざわざ大学まで行って勉強する学生に対して、文化省はどうしてやりたいのでしょうか。そのためにはもちろん日本をどのようにしたいという方針が政権中枢にあるはず。どうもそれが、アメリカの属国の位置を確立し、国内的にはその立場で従順な貧乏人と一部のお友達で結託したお金持ちがいればよい、という風にしか見えないのが悲しい。その通りなら、どうりで、教養なんていらない、基礎研究のように地道に頑張らなくても良い、投機やコネ、中には運で右から左にお金を動かして稼げば良いという風潮になるわけだ。
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