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衝撃的な報道が流れた。中国とロシアが「事実上の軍事同盟締結を検討しているとの見方が強まっている」。両国の軍事協力はどのようなレベルにあるのか。同盟に至る蓋然性はどれほどか。日本への影響は。ロシアの軍事政策を専門とする小泉悠氏に聞いた。

(聞き手 森 永輔)

竹島の領空を侵犯したロシアのA50(提供:防衛省統合幕僚監部/ロイター/アフロ)

共同通信が10月29日、中国とロシアが「事実上の軍事同盟締結を検討しているとの見方が強まっている」と報じました。両国の軍事面での協力関係は現在、どのような状況にあるのでしょう。

小泉:相互防衛義務を伴うNATO(北大西洋条約機構)のような軍事同盟を締結する意図は両国ともにないでしょう。

小泉悠(こいずみ・ゆう)
東京大学先端科学技術研究センター特任助教。専門はロシアの軍事・安全保障政策。1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科を修了。外務省国際情報統括官組織の専門分析員などを経て現職。近著に『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』など。(写真: 加藤康、以下同)

 この記事が引いている「両国指導部は『軍事同盟締結』の方針を決定済み」とのコメントはロシア国立高等経済学院のマスロフ教授によるもので、両国政府が公式に発したものではありません。両国政府は今年6月、「包括的・戦略的協力パートナーシップ」を発展させると宣言しています。この時の文書で「軍事同盟」を明確に否定しています。この宣言は、国交樹立70年を記念する行事に参加すべく中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席がモスクワを訪れた時に出したものです。

 否定する理由は明らかです。どちらも、いたずらに米国を刺激したくはない。加えて、もしいずれかの国が米国との軍事紛争に入れば、これに巻き込まれる懸念が生じます。そのような事態は避けたい。同盟に伴う「巻き込まれのリスク」は負いたくないのです。

 ただし、このことは「軍事協力をしない」ことを意味するわけではありません。両国はむしろ軍事協力を着実に深めています。例えばロシア軍が主催する大規模軍事演習に中国の人民解放軍が参加するようになりました。2018年に極東地区(東部軍管区)で実施した「ボストーク2018」に人民解放軍が初参加。今年も中部(中央軍管区)で行われた「ツェントル2019」に参加しています。

 今年7月に中ロの戦略爆撃機4機が日本海と東シナ海を共同で飛行したのは記憶に新しいところです。

 また同月、両国の国防省は軍事協力協定を締結しました。内容は明らかになっていないのですが、軍艦の寄港や士官学校の学生の相互派遣について定めたものとみられます。もしかしたら機密情報の保護を含んでいるかもしれません。