笠りつ子の暴言事件に思う、日本のプロゴルファーを「裸の王様化」ではなく「本物化」する必要性

写真:日刊スポーツ/アフロ

 日本の女子プロゴルファー、笠りつ子がゴルフ場のバスタオル提供を巡って副支配人に暴言を吐いた出来事は、せっかくの女子ゴルフ人気に水をさす残念な出来事であり、人気選手の理想像と現実の姿の違いにショックを受けたファンは多かったことだろう。

 女子プロゴルフ界の側から見れば、笠の言動によってLPGA全体、あるいは所属する女子選手たち全員のイメージが失墜しかねないこの現状は、ひどくショッキングに違いない。

 笠自身、起こしてしまったコトの重大さを今は痛感していることだろう。だからこそ、反省文を書いて公表したのだと思う。もちろん、反省文を書けば済む話ではなく、さらなる猛省が求められることは言うまでもない。

 だが、笠本人のみならず、反省すべき人々は他にも多々いるのではないかと私は思う。

【閉鎖性】

 日本のプロゴルフ界には、昔から「ゴルフが上手い者が人間としても上」と見なす傾向が明らかにあった。

 かつて私が日本でゴルフの書き手を始めたばかりだった80年代後半ごろ。あるベテランの男子選手を数人のベテラン男性記者たちが取り巻き、その選手とウエッジの話をしていた。

 そこに私も近寄り、選手の冗談めかした話を他の記者たちと一緒に聞き、他の記者たちと一緒に笑った。すると、その選手は初めて見る私を睨みつけ、「オマエ、誰だよ?何、笑ってるんだよ?オマエなんか知らねえから、向こう行けよ」。

 その場にいた他の記者たちは、そうやって私が追いやられる場面を、ただ黙って眺めていた。

 それから数年後、私は渡米し、米ツアーで取材するようになった。当然ながら私にとっては全選手が「初顔合わせ」だったが、選手に近寄って話を聞いていて「オマエ、誰?」「向こう行けよ」と追いやられることは決してなく、むしろ「ウエルカム」と手を差し延べてくれた。

【裸の王様】

 米ツアー選手たちは、下積み時代も、米ツアー選手になってからも、自力でビッグな賞金を掴み取るまでは、ぼろぼろの車を運転し、安モーテルや安ホテルに宿泊し、食事はファーストフードやテイクアウトのピザやパスタで済ませるのが一般的だ。

 苦労して苦労して自力で這い上がる。その段階で手を貸してくれた人々に心の底から感謝の念を抱く。周囲の人々は、ときに「頑張れ」と激励し、ときに「そんなことではダメだよ」と叱咤する。みんなで支え、みんなで育てる。そういう土壌と風潮が米ゴルフ界には古くから醸成されている。

 だからこそ、自分がプロとしての成功を勝ち取り、スポットライトが当たるようになったとき、サポートしてくれた人々はもちろんのこと、プロゴルフという興行を支えてくれている世の中のすべての人々に彼らはありがとう」と自然に頭を下げる。

 一方、日本はどうかと言えば、「プロ」「シード選手」といった称号を手にした途端、高級外車に乗り、宿舎も食事も贅沢になっていく選手があまりにも多い。

 スポンサー契約を結べば、本来なら選手の側がスポンサー様に「ありがとう」と感謝すべきなのに、成績や人気が上がるにつれ、スポンサー側が「選手様様」と崇めるようになり、選手のほうもすっかり思い上がる。

 天狗になっていく選手の変化に気付く人々はもちろんいる。だが、仕事上の損得勘定がどうしても先に立ち、選手に対して「そんなことではダメだよ」とは誰一人言わない。

 つい先日、通算82勝を打ち立てた王者タイガー・ウッズは、王者でありながら、自らハンドルを握って移動するのが常である。米ツアー選手の大半が、運転は自分で行なっている。だが、日本人選手の多くは移動のための運転をマネージャーなどの世話人任せにすることが多い。それが安全上の理由ということであれば、仕方がない面はある。だが、だからと言って、選手が後部座席にふんぞり返る必要はないはずだ。

 以前、選手から運転を任されていたマネージャーがうっかり道を間違え、ホテル到着が大幅に遅れたとき、マネージャーを殴った選手がいた。キャディの仕事ぶりが気に入らず、テレビカメラや記者の目に触れないフェアウエイの対岸側の土手下で、キャディをなじった選手もいた。

 それでも誰も選手に苦言を呈することはない。そうやってプロゴルファーが「裸の王様」と化していった例は多々あった。もっと始末が悪いのは、選手の周辺の人々まで含めて「裸の王様軍団」と化してしまうパターンだ。

 程度の差はもちろんあるが、笠選手の勘違いと暴言は、結果的には、そういう環境の中から生まれたものだと私は思う。

【みんなで育てる必要性】

 近年、米ツアーやメジャー大会に出場する日本人選手が以前より増え、彼らが欧米での見聞を日本へ「輸入」することで、日本人選手の姿勢や態度は、以前より格段に改善されている。情報も増えている。私自身も欧米選手たちの「理想的な姿」を日頃から積極的に伝えているつもりではある。

 だが、日本ツアーという土台があって、さらに海外ツアーにも挑戦できる機会が増え、日本人選手の環境がどんどん恵まれていく中で、もちろん全員ではないのだが、一部の選手たちの思い上がりの度合いが上がってしまっていることが、きわめて残念である。

 ゴルフは心技体が揃ってこそのゲームだ。プロゴルファーは上手いだけでは不足だ。身も心も磨き、人間としての魅力を身に付けなければ、本物のスターにはなれないだろう。

 選手たち本人の意識改革と努力が先決であることは言うまでもない。だが、日本のプロゴルファーたちを「裸の王様化」ではなく「本物化」させるためには、「いいものはいい」「悪いものは悪い」と周囲がはっきり通達し、我が子を育てるように選手たちを育てていく勇気をみんなが持つべきである。

 メディアもそうした事実を一丸となって報じていくべきである。せっかくウッズの歴史的瞬間が日本で達成され、「この日本で勝てたことがうれしい」とウッズが言ってくれたのだから、日本のゴルフ界をもっともっと向上させていきたいではないか。

 そのための努力が、今、みんなに求められているということを、私自身、自戒も込めて、ここに記した。  

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て、89年に独立。93年渡米。以後、米ツアー選手たちと直に接し、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの魅力を独特の表現で発信し続けている。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。26年間の米国生活に区切りを付け、2019年から日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、さらには武蔵丘短期大学客員教授を務めるなど活動範囲を広げている。

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