数学の未解決問題「双子素数の予想」が特殊な条件で証明! 素数の秘密に迫る
Point
■双子素数とは、連続した奇数がどちらも素数になるペアのこと
■素数が無限に存在することは紀元前に証明されているが、双子素数が無限に存在することは証明できていない
■新たな研究は多項式を使い、グラフ形状を比較することで双子素数が無限に存在することの証明に成功した
一般の私たちにとっては、落ち着きたいときに数えるくらいしか役に立たない素数ですが、数学者たちはこの素数の性質に長年魅了され続けています。
素数の難問として有名なのは、数学ミレニアム問題の1つ「リーマン予想」です。これが解決されれば素数の出現位置を予測できるようになると言われています。
逆に言えば、現在素数はどこでどういうタイミングで出現するのか法則が見つかっていないのです。
今回発表された研究は、こうした素数にまつわる問題の1つ「双子素数の予想」を限定的に証明したというものです。
双子素数とは、ある偶数を挟んで並んで存在する素数のペアのことで、こうしたペアはたくさん発見されています。数学者たちの予想では、この双子素数はおそらく無限に存在するだろうと考えられていますが、それはまだ証明されていません。
これを証明しようというのが、「双子素数の予想」問題です。
今回の研究者たちは、この問題を整数を使わずに多項式の形にした場合、グラフ形状を比較解析することで証明が可能だと発表しています。
この論文は米国コロンビア大学とウィスコンシン大学の二人の数学者によって発表され、現在はコーネル大学arXivで公開されています。
https://arxiv.org/abs/1808.04001
素数が双子ってどういう意味?
素数とは「1と自分自身以外では割り切れない数字」です。「1はそもそも割ってないだろ」と言えるので、簡単に言えば割り算で絶対割り切れない数字です。
すべての数字は素数の合成で作り出すことができます。これは数を物質と考えた場合、素数は数の原子にあたる存在と考えることができます。
素数は現在のところ、どういった法則で並んでいるのか明らかになっていません。そのため素数を見つけても、その次の素数がいつ現れるかは分からないのです。大きい数になってくると何百何千と数を進めていっても一向に次の素数が出てこない砂漠地帯も存在します。
そんな中で特異な存在が双子素数です。双子素数は偶数を挟んで並ぶペアの素数のことです。「3と5」、「5と7」「11と13」などがその例です。
双子素数の予想は、「こうしたペアが無限に存在するか証明しなさい」という問題です。
素数自体が無限に存在することは、紀元前にエウクレイデスによって既に証明されています。
この証明を簡単に説明すると「素数が有限と考えた場合、判明した全ての素数をかけ合わせて作る数字は、そこに1を足したとき既知の素数のいずれで割っても1余る新しい素数になってしまう。つまり素数は有限ではない」という理屈です。
しかし「双子素数が無限にあるか?」となるとちょっと話が違ってきます。
ちなみに現在発見されている最大の双子素数は「2996863034895 × 21290000 ± 1 」だそうです。
確かにこれを証明するのは一筋縄ではいかない予感がしますね。
多項式を使った証明
今回発表された論文で研究者たちは、問題を解くために整数の代わりに有限体という、数を限定した多項式を使って証明を行いました。
有限体は簡単に言えば時計を使った時間の計算のようなものです。時計は12以上の数がありません。例えば時間は3時から3時間経った場合「3+4」は7時ですが、9時から4時間経った場合「9+4」の答えは1時です。
有限体はぐっと計算をやりやすくします。コンピュータにとっては特にありがたい話になります。
こうした計算範囲を限定した有限体を使った多項式を作り、それを検証して証明を行ったのが今回の研究です。
多項式の場合でも、整数と同様に素数に類似した式を作ることができます。
中学校で教わったことですが、多項式は素因数分解というわり算のようなことができます。例えば「x2−1」は「x+1」と「x−1」に素因数分解できるので、素数ではないという感じです。
「なんでわざわざ多項式で考えるの?」と疑問が浮かびますが、それは多項式を使って考えた場合、それをグラフとして形で表現できるからです。
この場合幾何学的な手法によってグラフの形状を解析することで、整数では導き出せないような素数の性質について証明できるのです。
多項式でも、双子素数のような双生児を作ることができると言います。
整数と多項式には類似した性質があることがわかっています。多項式で確認できる性質は、整数にも存在していると言えるのです。
こうしたちょっと複雑な数学のテクニックを組み合わせて用いることで、双子素数の予想の特殊なバージョンの証明に成功したというわけです。
ただ残念ながら、今回の証明は幾何学に依存していて基礎となる数学があまりに違うため、本来の双子素数の予想には使えないということです。
「じゃあ何の意味があったの?」と思ってしまいますが、大きな証明を行うために小さな証明を積み重ねていくことは数学の基本的な手法です。フェルマーの最終定理のような難問も、こうした無関係に思える証明の積み重ねで解決したと言われています。
これは高く険しい山の頂の景色を眺めるために、近くのもっと小さい別の山を登ってそのルートを確認していることに等しいと言われています。本来登りたい山の頂は雲に隠れて見えませんが、いきなり険しい山に登って遭難するより、簡単な山の制覇を積み重ねてから挑むほうが、良い結果を生むことにつながるでしょう。
今回の研究者である、Shusterman氏とSawin氏は、今回の証明で学んだことを生かして今後も双子素数問題に取り組みたいと語っています。
数学者の場合、素数を数え始めると、その出現法則が気になって逆に気分が落ち着かなくなるのかもしれません。