本連載は、文房具の専門家2人がそれぞれお気に入りの新製品を互いにプレゼンし合う対談企画。専門家として対談を行うのは、テレビ番組「マツコの知らない世界」にたびたび出演する文具ソムリエール・菅未里さんと、文房具コラムサイト「森市文具概論」編集長のきだてたくさんの2人だ。
【プロフィール紹介】
●菅未里(かん みさと/左)……Webサイト「STATIONERY RESTAURANT」を運営する文具ソムリエールとして活躍。大学卒業後、文具好きが高じて雑貨店に就職しステーショナリー担当に。現在は、文房具の紹介、コラム執筆、商品開発、売り場企画などの活動をしている
●きだてたく(右)……1973年京都生まれのライター/デザイナー。自称「世界一の色物文具コレクション(3000点以上)」に囲まれながらニヤニヤと笑って暮らす日々を送る。文房具コラムサイト「森市文具概論」では、文房具魔改造講座などピーキーな記事を連発している
きだて 菅さんは、書類は立てる派? 寝かせる派?
菅 えっ! いきなりどういう話ですか。
きだて 要は、「机の上で書類がどうなっているか」という質問です。僕は仕事机が狭いので、A4サイズの書類を寝かせておくスペースというのがそもそも取りづらい。
菅 あー、なるほど! 了解しました。
きだて 実は2019年の秋に、書類を立てる系の文房具がいろいろと新発売されているんですよね。それらがなかなかによくできている感じなんで、今回は「書類はとにかく立てよう!」というお話をしようと思いまして。
菅 確かに、狭い場所だと書類を広げて置くのは難しいですもんね。わかります。
きだて あと、出先の喫茶店なんかで原稿を書くことも多いんですが、だいたいそういう場所も机が狭くて、ノートPCとコーヒーを置いたらもうスペースがない。でも、それにプラスして資料を見ながら作業をしたいんですよ。
菅 私も何か資料を見ながら……という場合は、クリップボードに台座を付けて、立てて使うことがあります。
きだて それもいいですね~。じゃあ、まさにそういう用途にベストなヤツから紹介していきましょう。
きだて 書類を立てる道具としては「書見台」というものが昔からあるんだけど、わざわざそういう専用のツールを買うのも面倒じゃないですか。でも、クリップボード自体が自立してくれたらそれで済む話ということで。
菅 確かに、スタンド付きの自立するクリップボードって、ほかのメーカーからも出てますよね。
きだて そう! その最新モデルがLIHIT LAB.(リヒトラブ)の「クリップボード<スタンド付>」です。菅さんはこれを知ってました?
自立機能を持った「クリップボード<スタンド付>」。公式サイト価格は、726円(税込)
菅 実はまだちゃんとは見たことがなかったんですよ。へー、見た目はまったく普通のクリップボードですね。薄くて軽いし、普通に使いやすそう。
きだて そうなんですよ。LIHIT LAB.は以前からABS製の軽くて頑丈なクリップボードを出しているので、そこは大前提として問題なく使いやすい。
菅 「スタンド付」っていう名前だから、これが立つんですよね? どうやるんだろう(ボードの裏面を探りながら)これかな? おっ、なんか外れましたよ。
手探り状態でスタンド機能を確認する菅さん
きだて そうそう。裏面の溝に樹脂製の細い棒がハマっているので、それをいったん外して、曲げてから溝に先端だけ挿し戻すんですよ。
菅 できた! こういうことかー。これだけで自立するんですね。
きだて 従来の自立型クリップボードって、カバーを折り返したり、ボードを厚くしてスタンドを埋め込んだりと、いろいろと工夫しているんですよ。でも、こんなシンプルな構造でよかったんだ、という。しかもこれで、タテ置きとヨコ置きに対応します。
菅 こんな細い棒だけならジャマにならないし、よくできてるなぁ。
きだて 先端を挿す場所が3か所あるのもポイントなんですよ。こうすると……。
菅 わかった。これでボードを立てる角度が変えられるんだ。
きだて おー、さすが菅さん、つかむのが早い。70/75/80°の3段階に角度が変わります。ヨコ置きは角度固定なんですけどね。これがすごく便利で、70°だとノートPCを開いたときの画面角度に近い。80°はデスクトップPCの画面角度と同じぐらい。
最も角度が大きい80°にセットした状態。これくらいがデスクトップPCのモニターとちょうど合う角度
菅 そうか、ボードと画面の角度が近いほうが見やすいから。
きだて 人間の目って、上下の視線移動があまり得意じゃないんですよ。だから、角度がズレていると目が疲れやすい。だから、できるだけ見やすい角度に変えられるのは便利なんです。
70°にするとノートPCの画面と角度がそろうため、目のピントも合わせやすい
菅 確かにそうですね。角度が変えられるの重要!
きだて もうひとつ、このボードがよくできてるのが、ボード側面の段差。
菅 スタンド棒が裏にハマっている部分ですよね。
きだて そう、構造上どうしても棒の厚み分が表側に出ちゃうんですけど、この段差が別の機能も果たしてるんですよ。書類の束をクリップに挟む前に、いったん束をそろえたいな~と思ったら、ここでトントンと。
スタンドを収納するための段差は、書類のカドを当ててそろえるのにちょうどいい
菅 あっ、これ、以前にこの連載でクリップボードを紹介したとき、同じLIHIT LAB.のクリップボードで、きだてさんがほめていたポイント!
きだて それそれ。あのときの製品「AQUA DROPs クリップファイル」は、バラバラの紙をそろえるためにわざわざ段差を作っていたけど、この「クリップボード<スタンド付>」はスタンド棒収納スペースの厚みがそのまま段差として使えるようになっているというわけで。
菅 なるほど、一石二鳥的な。よくできてる~。
きだて 実はこの段差が、ヨコ置きしたときも書類がズレ落ちてこない支えにもなっている。一石三鳥ですよ。
きだて 次も同じくLIHIT LAB.の製品。今、書類を立てたがるメーカーの筆頭ですね(笑)。「ALTNA スタンドホルダー」と言いまして……。
菅 これは、書類を持ち運ぶためのホルダーですよね。
クリアホルダーを入れて持ち運ぶための「ALTNA スタンドホルダー」。公式サイト価格は、880円(税込)
きだて 正確には、書類をクリアホルダーごとまとめて持ち運ぶホルダー。つまり“クリアホルダーホルダー”ですね(笑)。数年前からビジネスシーンで割と流行ってるやつ。
菅 コクヨさんもプッシュしているジャンルのやつ。
きだて 中は3ポケット+表紙裏ポケット収納で、書類をクリアホルダーに入れたままドサッといっぱい収納できるようになっています。
菅 ファイルを作っているメーカーだけあって、ポケットの溶着とか端っこの処理もていねいですね。マチも大きくてガバッと開くし、これならクリアホルダーを入れるのもラクそう。
ポケットの端がしっかりと溶着されているので、紙より硬いクリアホルダーを出し入れしても破損の心配が少ない
きだて 仕事の現場だと、やっぱり書類だけペラで持ち歩くことってあんまりなくて、やっぱりクリアホルダー単位になるじゃないですか。だから、こういうホルダーのホルダーは便利。
編集・牧野 クリアホルダーをそのままカバンに突っ込むと、意外と折れたり中身がグシャッとなったりしてテンション落ちるんですよね~。だから、便利さが超わかります。
きだて 表紙のフラップにゴムをかけて閉めたら、持ち運んでいる最中に中身にダメージがいくことはまずなさそうかな。で、会社に帰ってきたら、机の上で表紙をグルッと裏側に折り返して山型にしたら……ほら、この状態で自立するんですよ。
表紙を折り返して置くだけで、滑らず安定して立つ面白い機構
菅 おおー。これだけで普通に立ちますね。なるほど、このゴムパーツがポイントだ。
きだて 説明不要でラク!(笑)。一応、菅さん以外にちゃんと説明すると、表紙と裏表紙の端に小さなゴム製のストッパーが付いているんです。このストッパーの摩擦で、しっかりと立つという話です。
菅 LIHIT LAB.さん、リングノートにマンスリーのスケジュールが付いていて、山型に立てると卓上カレンダーになる製品も出していましたもんね。それと同じやり方だ。
きだて で、会社ではデスクの書類立てに挿して収納すると思うんですけど、フリーアドレスのオフィスだと、そういうのができないんですよね。デスクに書類立てが置けないから。あとは出先のカフェなんかで書類をちょっと整理しとこうみたいな場合もあるけど、狭い机に書類を平置きするのって無理でしょ。コーヒーをこぼして書類がダメになったりするかもだし。
菅 なるほど~。そういうシーンだと、書類持ち運び用のホルダーがそのまま書類立てになるっていうのは便利ですよね。
きだて で、じゃあ改めて外に出ようかというときも、書類をバサバサかき集める必要がなくて、ホルダーごとパタンとたたんでカバンに入れるだけ。
菅 そうか、さっきのクリップボードは「書類を見ながらの入力が便利ですよ」という話でしたけど、こっちは「書類の整理が便利」。同じ「書類を立てて便利」でも、用途やメリットは異なるんだ。
きだて そういうことです。ちなみに書類立てとして使う場合は、中身のクリアホルダーも立てて、ちょっとずつ横にずらして並べると検索性がアップします。
菅 ホントだ。これは使いやすそうですね~。あと、私としては、見た目がかっこいいのもポイントかな。「いかにも事務用品!」って感じがしないのがいい。
きだて LIHIT LAB.の「ALTNA」って、そういうハイセンス系オフィスツールブランドなので、その辺は間違いないです。
きだて 最後は、コクヨのオフィス通販「カウネット」から発売されたばかりのファイル「タテル」です。もう名前からして「立つよね、これ」って感じですけども。
自立する珍しい書類ファイル「クリヤーブック固定式 タテル」。「カウネット」価格は508円(税込)
菅 これ、私も買おうかどうしようか悩んで、まだ買っていないやつです。
きだて 2穴のリングファイルとクリアブックファイルの2タイプがラインアップされているんですけれど、とりあえず今回はクリアブックをセレクトしました。透明ポケットを20枚備えています。
編集・牧野 見た目は、まったく普通のファイルですね。
きだて これがちゃんと立つんですよ。そもそも、書類をストックしておくファイルが立つというのが割と便利で。過去の資料とかを閲覧しながら作業することってあるじゃないですか。それをいちいち取り出さずに、そのまま立てて見られるとラクなんだ。
菅 確かにありますね、そういうシーン。
表紙と裏表紙のフラップを合体させると……
きだて 表紙と裏表紙にそれぞれフラップが付いていまして、そのフラップ同士を噛み合わせると……ほら、こんな風に立ちます。
編集・牧野 はー、単純だけどちゃんと立ちますね。でもクリアブックのポケットってコシがないから、立たせるとヘニャッて崩れてきますね。
きだて そのためにゴムベルトが付いているんです。ここにポケットを差し込むと、固定できます。ただ、挟むページの量によっては、文字の上にゴムベルトがのっかっちゃうかもしれないので、そこは残念かな。
この通り自立する。クリアポケットはめくれないようにゴムベルトで固定
菅 これ、横向きにも立たせられるんですよね。横向きだとポケットが崩れてくる心配がないから、ゴムベルトすらいらないですよね。角度もヨコ置きのほうが見やすいし。
きだて うん。タテ置きは紙面が90°になっちゃうので、ちょっと見づらい。ただ、僕はメーカーリリースとか展示会でもらった紙資料をクリアブックにファイリングしているので、それを参照しながら原稿を書くのに、ファイルが自立してくれるとすごくありがたいんだ。
編集・牧野 そうか、そういう紙資料ってだいたい縦長の書類ですもんね。それが見やすくなるともっといいだろうな~。
きだて タテ置き用途は、まだ発展途上って感じは否めないですね。機能的にはまだ不満も多いけど、でも「ようやく出たか、欲しかったヤツ!」という喜びが大きいんですよ。ファイルを立てる運用方法をちゃんと考えてくれたんだな、って。
ヨコ置きは角度もついて、より見やすい
菅 私も、ファイリングした過去の資料を見ながら作業する状況が結構あるので、これはうれしい。だからタテ置きをもうちょっと頑張ってほしいな。
きだて そう。ファイルって、広げて置くとめちゃくちゃ場所を取るから、見ながらの作業って大変なんですよね。今までだと、ファイルをヒザの上に置いて見てましたもん。机の上に広げる場所がないから。
編集・牧野 うーん。僕はやっぱり文字の上にゴムベルトがかかるのが気になるなぁ。せめて透明のゴムにするとか?
きだて それだと多分、強度が足りないんですよね。紙より硬いクリアポケットが何度も擦れると、そこから切れてきたり。ゴムベルトの位置もポケットを挟む量を考えるとここから動かせなかったりで難しいな。今のところは、洗濯ばさみかクリップでポケットを表紙に固定しちゃうしかないかも。
菅 これだけ「ファイルを立てながら書類を見たい欲」ってのがあるわけだから、売れるといいですね。そうしたらメーカーさんも第2弾、第3弾と進化させてくれるだろうし。
きだて より使いやすくなる方向は見えてるんだから、ぜひ進化させてほしいなぁ、というアイテムです。
編集・牧野 僕はToDoリストをPCのディスプレイの横に立てたいんですよ。画面の中じゃなくて、外に立てておきたい。
きだて あー、そういう使い方なら、「クリップボード<スタンド付>」が便利だと思いますよ。リストにチェック入れるのもそのままできるし。
菅 自分が使うシーンを考えると、私は「タテル」が便利そうでいいですね。ファイルに保存してある資料を見やすくできるというのはすごく便利で。
きだて 僕も1番活躍しそうなのは「タテル」かな。
菅 ただ、タテ置きの角度を変えられるようにはしてほしい! 雑誌の記事とか切り抜いたのもタテ向きだし、やっぱり縦が見やすくならないと困るんですよ。
編集・牧野 そうですねー。やっぱり90°はちょっとつらい気がしますね。
菅 もういっそ、普通のファイルを角度をつけて立てられるパーツを作ってほしいぐらい。それなら、今までのファイルもそのまま使えるし。
きだて あー、ファイル自体の機能で立つんじゃなくて、立たせる専用の道具か。それぐらいやっぱりファイルは立たせたいんだよね。でもきっと、「タテル2」はちゃんと見やすい角度でゴムベルトもジャマにならないように進化するはずですよ。
菅 進化してください。
LIHIT LAB.
「クリップボード<スタンド付>」
タテ置き・ヨコ置きの両方向で立てて使えるスタンド付きのクリップボード。シンプルな機構ながらタテ置き時は3段階で角度調節が可能だ。軽量・頑丈でクリップボードとしての性能も高い。
LIHIT LAB.
「ALTNA スタンドホルダー」
書類をクリアホルダーごと収納して持ち歩ける3ポケットタイプの透明薄型ホルダー。山型に折り返せば表紙の滑り止めによって自立するため、整理収納が可能な書類立てとしても使える。
カウネット
「クリヤーブック固定式 タテル」
表紙と裏表紙を組み合わせることで自立し、狭い机の上でも書類を見ながらの入力作業がしやすいクリアブックタイプのファイル。タテ置き・ヨコ置き両方可能なので、書類の向きに合わせられるのがうれしい。
最新機能系から雑貨系おもちゃ文具まで、何でも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は大手文房具店の企画広報として企業ノベルティの提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。