車云耳音戈ノ言舌

Ryohei Tsuda
Oct 31 · 16 min read

メルカリ(以下、メ社)から転職する事になりました。ご挨拶に伺えなかった人、社外の知り合いに向けて記録を残しておきます。

今日2019年10月31日が最終出社で、正式な退職日は12月31日です。入社が2014年の9月か10月なので、5年くらい在籍した計算になります。アラサーからサーになりました。

やってきた仕事

最初は経理スタッフとして採用され、最後は社内の複数の Microservices から会計処理データを集めて保存し経理に報告するための Microservice を開発するチームで Product Manager の仕事をやっていました。

経理の話

Product Manager の話

まとめ

経理スタッフとしては、決算業務に加え開示資料の作成や財務諸表・内部統制監査、法人税や消費税の税務全般、上場準備などの様々な経験ができ、財務会計や税務について基礎的な知識を得られました。

Product Manager としては、メルカリ等のサービスから発生する会計処理の集計を全般的に担当しました。メルカリのデータ構造に詳しくなった他、アーキテクチャ上の課題を解決するための新たなサービスの企画、開発、リリース、運用まで携わることができました。詳しくは、上記の Engineering Blog をご覧ください。

どちらの仕事も様々な経験ができ、今後の自分の仕事にとって重要な示唆を得ることができました。私を採用して下さった掛川さん、小泉さん、進太郎さん、本当にありがとうございました。

転職先と転職理由

転職先ではいったん今までのキャリアから離れ、ソフトウェアエンジニアとして働きます。未経験なのでレベル1からのスタートです。転職先は社員が片手で数えられる会社なので、生きるためにできることは何でもするつもりです。暫くは Web アプリケーションを作る仕事をすることになりそうです。新しい会社では来年1月から働き始めるので、それまでに使い物になる最低限の技術力をつけたいと考えています。

転職活動を本格的にしてみようと考えていたのですが、希望の条件で1社決まった途端にやる気がなくなりました。オファーが早い is 正義です。以前から声をかけていただいた方々、申し訳ありませんでした。

主な転職理由は、働く中で私が中長期的に必要と考える能力を伸ばすために環境を変えようと思い立ったからです。社内でソフトウェアエンジニアにジョブチェンジする機会もあったと思うんですが(この記事の Steve さんという実例あり)、自分の仕事に対して社内外からより直接的なフィードバックを得られるような小さな会社で働くことにしました。今後の仕事についてはおいおい書いていきます。

私はどこで働いても不満を零してばかりの不穏分子なのですが、メ社は短期的な不満があっても長期的に見ると私にとって都合のいい方向に進んでいることが多く、5年間の長きに亘って働くことができました。しかし、会社や事業が自分自身よりはるかに早く成長していく中で私の効用が徐々に下がっていくことを日々感じており、新たな力を身につける必要があると考えるようになりました。そこで、入社から5年経ったのを機に新たな仕事に取り組むことに決めました。

今まで綺麗に辞めたことが無かったので、今回は円満に退職できそうでホッとしています。

ソフトウェアエンジニアへの転職

ところで、ソフトウェアエンジニアへの転職には他の職種よりも実績が求められることが多いと思います。こういう意見をよく見かけます。

私は恥ずかしながら自分で「開発した!!」と言えるものは特にないんですが(簡単な仕事を自動化するクソみたいなスクリプトだけ)、私服でリモートで技術の勉強ができて給与も自分の最低ライン以上のオファーを頂くことができました。あとは期待を裏切らないよう結果を出すだけかなと思います。

世界の誰もが何かしら他人とは違う経験や知識を持っているので、それを抽象化・言語化する能力を磨いて、少しのプログラミングの訓練と、あとは他人との信頼関係が築けていれば、この世界の片隅に自分の可能性に期待してくれる人がいるはずです。

私は素人からの転職なので、今後同じような道を選ぶ人の役に立つような目に見える成果を残して「未経験の30歳転職でもこれくらいのことはできるんだな〜」というところを見せていきたいと思います。少なくともそういう人を素直に応援できる存在になりたい。目標は dqneo さんです。

中長期的にやっていきたいこと

ソフトウェアエンジニアに転職しますが、会計という分野に興味を失った訳ではありません。むしろ会計とソフトウェアエンジニアのスキルが両方あるとできることが広がるなという実感があります。

私が中長期的に目指している方向性はほぼこの記事に書いた通りです。今まで取り組んできた会計の仕事は、本質的には3つの活動に分けることができます。

  • [記録] 会計主体の債権債務に影響する事象を記録する
  • [仕訳] 記録した内容に会計的な意味を付与する
  • [報告] 定期的に仕訳を集計して利害関係者に報告する

これら会計の本質は複式簿記の発明以来800年以上にわたってほぼ変わっていません。しかし実務は経済活動の規模拡大や会計理論の進歩に伴い、常により大規模でより複雑なデータを取り扱う方向に進化を続けており、今後もこの流れは変わらないと信じています。

大規模で複雑なデータを効率的に処理するためには、財務に影響する事象と会計処理の関係を抽象化し、関連する事象を一つにまとめ、データを前処理したり受け渡したり整合性をチェックしたり、自動で集計して報告したり…とソフトウェア開発で効率化できる要素がたくさんあります。

日本では MF クラウド会計や freee、海外だと Quickbooks 、 Xero 等のように銀行の入出金明細などから自動で仕訳を生成し財務諸表を作る SaaS が既に広まっていますが、今後はこの流れが銀行の入出金よりもビジネス上のイベントに近い方向に深まっていったり、ビジネスそのもののソフトウェアによる自動化が進み機械的な会計・税務処理の精度がより高まっていくはずです。

このような進化の中でソフトウェアの開発に触れることは、自分自身の将来の可能性を大きく広げると私は考えました。何かを始めるのに遅すぎることは無いとはいえ、未経験者として雇って教えてもらえる機会を得られるのは30歳くらいまでかなと思っていたので丁度いいタイミングでした。

Marc Andreessen が Why Software Is Eating the World という文章を書いたのが8年前です。この文章の存在自体は知っていましたが、「既存のビジネスの一部がソフトウェアで自動化されたら便利になるのは当たり前だろ」と思って読んでいませんでした。最近はじめて読んだのですが、とても良いことが書かれていますね。現在の私はどちらかと言えば be stranded on the wrong side of software-based disruption です。ビジネスそのものがソフトウェアに喰われていくと、ビジネスを表現するための手段である会計もソフトウェアに喰われていくのは当然のことです。

この文脈で、最近は LayerX と CEO の福島さんに勝手に注目しています。

興味のある分野

私はメ社で最初は経理、最後の1年ちょっとは CSE (Coporate Solutions Engineering)と呼ばれていた「経営課題をエンジニアリングで解決する」部署で Product Manager として働いており、人事や労務、経理などのコーポレート業務を自動化したり、あるべき姿を定義して根本的にデータ構造やワークフローを見直したりする仕事に興味があります。会計とは会社の行動を記録して報告する活動なので、将来的には会社という枠組みそのものを抽象化していきたいです。

なお、分野的に近そうと考えた SmartHR 社に興味があったので応募してみたのですが、書類選考で誠に恐縮ですが今回は貴意に沿いかねる形となり益々のご活躍をお祈りされました。ご期待に沿えるよう頑張ります!

また、半ば偶然ですが今まで働いた会社3社中2社がマーケットプレイスを運営する会社だった(一社は B to B でもう一社は C to C)ので、マーケットプレイスにも興味があります。

自分で手を動かして問題を解決していくとその先にさらに興味がある分野を見つけることができるので、暫くはただただ手と頭を動かしていこうと考えています。

守・破・離

突然ですが武道の話をします。

私は学生時代に少林寺拳法という武道をやっていたのですが、そこではよく「守・破・離」という概念が唱えられていました。

最初は師の教えを「守」り、技術が向上したらそれを自分で「破」り、そして最終的には師から「離」れて自分の道を歩む、という内容だったと記憶しています。

最近になって僅かながらその意味が理解できてきました。武道における本質的な動作はほんの一握りで、大部分は教える人が付け加えた「ノイズ」です。例えば少林寺拳法には多種多様な打撃技(剛法)、関節技・投げ技(柔法)がありますが、その多くは人体の大まかな構造や部品同士の関係性、人間の反射的な行動、そして高校レベルの物理の知識があれば説明できます。なお、説明できる即ち実践できる、では無いので当然ながら上達のための練習はたくさん必要です。

何を本質的な技術と捉えるかは人によって異なります。例えば、ボクシングのヘビー級には George Foreman と Muhammad Ali という2人の偉大なボクサーがいました。Foreman は「象をも倒す」と称された圧倒的なパンチ力で KO 勝ちを量産しました。しかし、実は 10 カウントでの KO 勝ちの割合はパンチ力に劣るとされていた「蝶のように舞い蜂のように刺す」 Ali の方が多く、逆に Foreman はスリーノックダウンやレフェリーストップが多かったそうです。 Foreman にとってのボクシングの本質は「圧倒的なパンチ力で相手を打ち倒す」、 Ali にとっての本質は「相手のパンチを躱し隙を見て急所に打ち込む」だったのでしょう。

本質的な技術に近づくためには、師の教えのどこに本質があるのかを『自分の』体で体験し『自分の』頭で考えなければなりません。それは人によって持って生まれたものや身に着けてきたものが違うからです。

「守・破・離」は最終的に師から離れることで、自分が心の底から理解していないことが時間と共に頭や体から抜け落ちて本質だけが残ることを指しているのかな、と私は解釈しました。

これは武道の話なので、仕事とは関係ありません。

会社と文化

メ社では会社での文化(culture)の重要性を学ぶことができました。

仕事とは課題の設定と解決の繰り返しです。周囲の環境に適応し生き残るためにはより効率的な意思決定と行動を繰り返し続けていく必要があり、そのためにはより多くの従業員が会社の取り組んでいる課題の背景や問題解決の指針を共有する必要があります。

しかし人間はたくさんのことを覚えられないので、ミッションやバリュー、社訓と呼ばれるような短い言葉で課題そのものや解決の方針を表現することが多いと思います。言葉自体というよりは、各従業員が『自身の』解釈に基づき『自身の』手で顧客にとって価値のある行動をどれだけ実践したか、その積み重ねが会社の文化と言えます。

逆に言えば、具体的な行動を導けないミッションやバリュー、社訓は全く無意味です。浸透の努力が足りない場合も同様です。また、会社の成長にとって良い文化が必ずしも言葉として顕されているとは限りませんし、会社の成長を阻害する悪い文化が生まれたり持ち込まれることもあります。文化が重要視される会社では、何が良い文化で何が悪い文化という議論が定期的に起こります。

私の立場としては、良し悪しは歴史が証明するので自分はただ目の前の問題に取り組むだけという考えです。

会社における文化の浸透は宗教に擬えられることもあります。ジム・コリンズの「ビジョナリー・カンパニー」では長期間継続して成長する会社の共通点として「カルトのような文化」を持っていると書かれていました。これはどういうことかというと、会社が役員や従業員に文化を浸透させようとする手法(理想への熱狂的な支持、教化、同質性の追求、異端者の排除)がカルト宗教に似ているから、という理由です。

カルトのような文化も最初からそうだった訳ではなく、会社が大きくなり多様な人間が入り全体像が見えにくくなる中で、従業員が具体的な行動をより迅速に取れるようにするための一つの手段として発展したのかもしれません。

残念ながら、ビジョナリー・カンパニーにはその後没落してしまった会社もあります。人間の集団の発展や衰退についてより普遍的な法則が知りたいという方には、イブン=ハルドゥーンの「歴史序説」がお勧めです。原著を読むにはイスラム教や地理の知識が必要なので、まずは日本語訳をした森本氏によるまとめを読むのがよいと思います。

文化の重要性

なぜ文化が重要かというと、会社や事業にはうまく行くときと行かないときがあって、うまく行かなくても顧客のためになることを続けていれば自分の心が救われるからです。その結果うまく行くようになることもあります。経理のような主として社内向けの仕事も同様で、何か失敗したときに、行動や意思決定の基準になるようなものがあると建設的な再発防止策を話し合うことができます。

うまく行かないことがあると人は迷うので、無駄な時間を減らして顧客のための具体的な行動を呼び起こす文化やそれを明文化したミッションやバリュー、社訓などが重要になります。

How to Create Your Business Culture

ちなみに会社における文化については、私の文章を読むより Ben Horowitz というとても苦労したおじさんが一昨日発売したこの本を読んだ方が勉強になるので、この記事を読んだ人は全員買ってください。アフィは無いです。

私のような何も持ってないヒラ社員より Marc Andreessen と共に Netscape の成長を牽引し自分で作った会社を NASDAQ に上場させた上で Venture Capitalist として Facebook / Twitter / Skype / Okta / GitHub / AirBnB その他数々の成長企業に投資してきた Ben Horowitz の方が万人に通用する法則を文章として表現できると思います。

振り返り

振り返ってみると上司や同僚、そして環境に恵まれた5年間でした。

特に最初の上司だった掛川さんには、私のような輩を拾って育てていただき給料もめっちゃ上げてもらったので、本当に感謝しています。判断を仰いだときの意思決定の早さや優先順位づけの的確さ、採用の厳しさが特に印象的で、成長するスタートアップにおける管理職として適切な資質を備えていると感じました。上から目線ですみません。

逆に私は態度が悪く、やる気にもムラがあって理想的な部下とは言い難かったので、いつか別の形で恩返しができればと思っています。

メ社は経営陣がクローズアップされることが多いと思いますが、取締役や執行役員、著名な方々以外にもたくさんの優秀な社員がおり、そういった人たちと一緒に仕事ができて私はとても幸せでした。新卒採用の方々は私と比べると本当に優秀で、見ていて辛い気持ちになります。

年明けまで2ヶ月くらいは有休消化しながら送別会で貰った本を読む予定なので、お時間ある人はぜひご飯でも行きましょう。 Twitter とか Facebook Messanger とか LINE とかでご連絡いただければ嬉しいです。

送別会で貰った本

最後に私がメ社で取り組んだ最大の仕事であるオフィス入口のガンダム試作3号機(GP-03: 通称「デンドロビウム」)の写真を貼ってこの記事の締めといたします。今までありがとうございました。

…待っていたのか…俺のために!!

余談: この GP-03 は休日に会社の会議室にあるプロジェクターでガンダムビルドファイターズを流しながら作ってたんですが、全25話見ても全く終わらずコードギアスを見はじめて1期が終わったあたりで完成したんですよね。特にある程度パーツを組み上げた後の塗装とかオーキス組み立てとかがしんどかったです。説明書では綺麗にハマってるところがハマらなかったり、デカ過ぎて買ってきた塗装用のスプレー使い切ったり。完全に見積もりを誤りましたが、それも今では良い思い出です。送別会ではトリプルドムを貰ったので、有給消化中に作ろうと計画しています。ガンプラ作るの久々なので、新宿西口のヨドバシに道具とか買いに行こう。

Ryohei Tsuda

Written by

Tokyo, Japan / Fluent in 日本語 / Learning English

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