2020年の東京オリンピックは、ロシアのハッカーに狙われている

ロシアのハッキング集団による攻撃が活発化している。直近のターゲットは世界各地の反ドーピング機関で、ロシア選手に対するドーピング調査への報復とみられている。ロシア側がさらなる攻撃に踏み切ることもありうると専門家たちが指摘するなか、2020年の東京オリンピックが狙われる可能性も現実味を帯びてきた。

Olympics

FENG LI/GETTY IMAGES

ロシアの国家的な支援を受けたハッカーの標的として、いくつか想定できるものがある。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の大使館やヒラリー・クリントン、ウクライナなどがそうだ。ところが、可能性の低そうな標的も3年以上にわたって視界に入っている。それがオリンピックだ。特にロシア選手の不正行為を糾弾するような者なら、相手が誰であろうと標的になる。

マイクロソフトは10月28日(米国時間)に公開したブログ記事で、「Fancy Bear(ファンシーベア)」または「APT28」「Strontium(ストロンチウム)」と呼ばれるロシアのハッキング集団が世界の少なくとも16の反ドーピング機関を標的とした攻撃を仕かけ、いくつかは成功したことを明らかにした。

これらのハッカーは、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)と呼ばれるロシアの軍事諜報機関の下で活動していると、長らく考えられてきた。マイクロソフトによると、ハッカーたちは9月16日に攻撃を開始したのだという。これは世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が、ロシア選手のアンチ・ドーピング規定順守に「矛盾」を見つけたという報告が出る直前のことだった。こうした報告が出れば、2018年の平昌冬季オリンピックのときのように、ロシアは2020年の東京オリンピックで国としての参加が禁止される可能性がある。

ロシアによる“報復”

オリンピック関連の攻撃で注目されるのは、目新しさではない。強い執着性だ。GRUは結局のところ、ロシアのドーピング調査への報復として、WADAも含めた反ドーピング機関に2016年以降ハッキングを繰り返してきた。その過程で、窃取した大量のファイルや選手の医療記録までもリークしている。

そして昨年、これらの攻撃に関連してGRUグループのロシア人諜報員が数人起訴されたあとも、同国のサイバースパイや工作員はオリンピックへの執着を捨てられないようだ。「これはリヴェンジマッチなのです」と、戦略国際問題研究所のディレクターを務めるジェームズ・ルイスは言う。

反ドーピング機関をハッキングする際、ロシア人ハッカーの頭にはふたつの目標のどちらかがあるのだと、ルイスは指摘する。過去にそうであったように、ハッカーはそれらの機関を困らせるように意図された文書を戦略的にリークする能力がある。もしくは、WADAのような標的の秘密情報の入手など、従来のようなスパイ行為を実行しようとする可能性もある。そこにはWADAの薬物テストの具体的内容や、それをくぐり抜ける方法が記されているかもしれない。

「過去数十年にわたり、ロシア人は薬物を使って運動選手の能力を強化してきました。そしてWADAが支援を中止すると、ロシア側は激怒しました。ロシア人はWADAの行為を決して許したことはなく、またWADAが把握していることを探ろうともしているのです」と、ルイスは言う。「相手が求めているものがわかれば、自分たちのドーピング対策を調整するうえで有利になるでしょうから」

すでにオリンピックを“攻撃”したロシア

マイクロソフトは最近の反ドーピング機関への一連の攻撃に関して、さらなる詳細を共有することは拒んでいる。だが、ファンシーベアのハッカーは、スピアフィッシング攻撃や総当たりによるパスワードの推測、ネット接続されたデヴァイスへの直接攻撃など、世界各地の政府や政治キャンペーン、市民社会に対する攻撃で長年駆使してきたものと同じような手法を用いているという。

GRUによるスポーツ関連のハッキングは、2016年秋に初めて表面化した。このときハッカーは、シモーネ・バイルズやセリーナとヴィーナスのウィリアムズ姉妹の医療記録などをWADAから盗み出し、一連のファイルをウェブサイト「FancyBears.net」で公開している。

このときのリークでハッカーは、運動能力を向上させる薬物を米国の選手も摂取していたと示すことで、WADAの信用を落とそうとした。例えば、バイルズは幼少期から注意欠陥・多動性障害(ADHD)の薬を摂取していたが、WADAは競技中の使用を許可していた。18年はじめに冬季オリンピックからロシアが締め出されたあと、ファンシーベアは、今度は国際オリンピック委員会のネットワークからさらに情報をリークして報復に出た。

これらのすべての事件は、ロシアの最終的な復讐劇への序曲にすぎなかった。平昌オリンピックの開会式が始まったまさにその瞬間、「Olympic Destroyer」というマルウェアがオリンピックのITシステムのバックエンド全体をダウンさせ、発券システムやWi-Fi、オリンピックアプリなどを混乱に陥れたのだ。

関連記事平昌冬期五輪を襲ったマルウェア「Olympic Destroyer」の正体

攻撃を仕掛けたハッカーは、中国や北朝鮮を陥れるように意図された偽のフラグをマルウェアのコードに仕込んでいた。しかし、セキュリティ企業のFireEyeが、このときの攻撃と16年に米国でふたつの州の選挙委員会に侵入したハッカーとのつながりを示す痕跡を見つけることに成功した。このときもロシアのGRUの仕業だったのである。

「東京」への攻撃が現実味を帯びてきた

こうした経緯から、ロシアは直近のオリンピック関連攻撃において、単なるスパイ行為や情報リーク以上のことを計画している可能性があると、FireEyeで情報分析部門のディレクターを務めるジョン・ハルトクイストは指摘する。それどころか、さらなる破壊的な攻撃を準備しているかもしれない。結局のところOlympic Destroyerの件で、告訴や制裁は言うまでもなく、ロシアは西側政府から公に非難すらされていないのだ。

これらすべてのことが意味するのは、日本での来年の夏季オリンピックに対するサイバー攻撃には現実味がある、ということだろう。「ロシアは、これらのツールの使用を止めるつもりはありません。東京で再び試さないと考える理由はないのです」と、ハルトクイストは言う。「オリンピック団体の信用を失墜させるさらなる試みだけでなく、オリンピックに対する破壊的な大規模攻撃の試みに対しても、わたしたちは気を引き締めるべきなのです」

※『WIRED』によるハッキングの関連記事はこちら

RELATED

SHARE

“地獄”からやってきたフォント「Hellvetica」、その恐るべき破壊力

デザインをめちゃくちゃにする“邪悪”なフォント「Hellvetica」が、このほど公開された。世界で最も有名なフォント「Helvetica」のデザインを変えずにカーニングに手を加えたパロディ企画として生まれたものだが、その視覚的な破壊力ゆえに話題を集めている。そして、この「“地獄”からやってきたフォント」に対するオリジナルの開発元の反応は意外なものだった。

TEXT BY ARIELLE PARDES

WIRED(US)

Helvetica

MATTHIAS KRETSCHMANN/GETTY IMAGES

ザック・ロイフがオフィスでまったく平凡な一日を過ごしていた10月25日の金曜日、職場のハロウィンパーティーへの招待メールが届いた。テーマは「Hellvetica」──世界で最も有名なフォントの邪悪なる変身だった。

ニューヨークの広告代理店RGAのアソシエイト・クリエイティヴ・ディレクターであるロイフには、このシャレが理解できた。そして彼は考えた──この悪夢が現実になったらどうなるだろう。「こういうちょっとした冗談をもっと大きくやったら面白いはずだと思いました」

ひらめいたロイフは、同僚で同じくアソシエイト・クリエイティヴ・ディレクターのマシュー・ウッドウォードと仕事をちょっとだけサボり、ロイフが「最強の怪物フォント」と呼ぶ書体づくりに取りかかった。そしていま、このデザインを地獄に突き落とすようなフォント「Hellvetica」がダウンロード可能になったのである。

Hellvetica

「Hellvetica」のウェブサイトのトップページ。黒と赤のコントラストが印象的だ。

Hellveticaの視覚的な破壊力は明快かつ微細だ。単語は一見きちんとしているものの、だんだんおかしく見えてくる。文字はまるで混雑した地下鉄で押し合いへし合いしているような詰まり具合だ。Hellveticaで書かれた文章を見ていると、酔って文章を読むときのように頭がくらくらして何がなんだかわからなくなってくる。

「ヤバい。めっちゃ落ち着かない」と Twitterに書いた人もいた。また「グラフィックデザイナーにとっての短編ホラーストーリー」と呼んだ人もいる。

まるで優れたホラーのような体験

優れたホラーが常にそうであるように、Hellveticaも馴染みのある普通のものを恐怖の対象に変身させる。オリジナルのフォントである「Helvetica」は世界でも最もよく使われる書体のひとつだ。ニューヨーク市地下鉄の表示から、アメリカン航空やアメリカンアパレルのブランディング、所得税申告書の文面にまで使われている。2015年まではiPhoneのOSの初期設定フォントでもあった。NASAもHelveticaを地球上から宇宙まで幅広く使っている。

だからHelveticaに歪みが生じると違和感を感じる。開発者のティム・ホルマンは昨年、同じような発想でHelveticaから生まれた「大嫌いな敵に送る」フォント「Smelvetica」を作成している。カーニング(文字間の空き)は「悪く、ひどく、嫌らしく、苦痛になるように特別に変更してある」と、ホルマンはGithubに書いている(Smelveticaはその後、HelveticaのライセンスをもつMonotypeから削除を通告された。MonotypeにHellveticaについてコメントを求めたが、回答は得られなかった)。

ウッドウォードによると、Smelveticaと同様にオリジナルに手を加えた部分はただひとつ、カーニングだけだ。「それぞれの文字のカーニングをほんのちょっと変えるだけで、きれいだったものが視覚的にめちゃくちゃになってしまうって、本当にすごいことですよね。見ていると『フォントが壊れた』っていう感じがします」

Hellvetica

「Hellvetica」の作例。カーニングの工夫によって、視覚的な破壊力が増している。

もちろん、そこがミソだ。普通に見えていたものが、めちゃくちゃになったように見える。ロイフとウッドウォードがHellveticaを公開して以来「数千件」のダウンロードがあったという。HelveticaをHellveticaに自動変換するChrome機能拡張を作成した人までいる。

「職場でシステムフォントをHelveticaからHellveticaに変えちゃって上司を怒らせた人たちにも会いました」とロイフは言う。「それにシステムフォントをHellveticaに変えちゃうコーダーもいますよ」とウッドウォードも続ける。

Monotypeからの回答

それにしても、Monotypeに“つぶされる”という恐怖はないのだろうか? ロイフは「削除については心配していません」と言う。「もし削除されても、HelveticaがHellveticaを地獄に還すとしたら、もっともなことですから」

幸いなことに、Monotypeもファンになったようだ。この記事を最初に公開したあと、『WIRED』US版にMonotypeから回答があった。「Hellveticaは最高です! Helveticaに対する新しい視点は、わたしにとってどれも素晴らしい」と、Monotypeのタイプディレクターであるチャールズ・ニックスは語っている。「文字の空きが気になるか、恐怖を感じるか、ですって? 『21歳のわたし』はゾッとしています! 『実年齢のわたし』は、Hellveticaがチャーミングだと思っていますよ」

※『WIRED』によるフォントの関連記事はこちら

RELATED

SHARE