日銀、フォワードガイダンスに利下げ可能性明示-現行政策維持
伊藤純夫、藤岡徹-
長短金利は現行水準下回る推移も想定、物価モメンタムに注意必要
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19年度から21年度までの成長率・物価見通し下方修正-展望リポート
日本銀行は31日の金融政策決定会合で、現行の政策運営方針の維持を賛成多数で決めた。物価目標へのモメンタムが損なわれる恐れに引き続き注意が必要な情勢として、政策金利のフォワードガイダンス(指針)を修正し、将来の利下げの可能性を明示した。
声明文で示した新たなガイダンスは時期のめどを削除し、注意が必要な間は「現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」とした。片岡剛士審議委員が「物価目標と具体的に関連付けた強力なものに修正することが適当」として反対した。前回会合までは、「当分の間、少なくとも2020年春ごろまで、現在の極めて低い長短金利の水準を維持することを想定している」だった。
金融政策運営は、現行マイナス0.1%の短期政策金利と「ゼロ%程度」の長期金利目標を維持し、指数連動型上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J-REIT)の買い入れ方針も据え置いた。ブルームバーグのエコノミスト調査では、6割が金融政策の現状維持を決めると予想。3割がマイナス金利の深掘りを見込んでいた。
日銀
Photographer: Akio Kon/Bloomberg
第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、追加緩和・政策調整がなく「やや肩透かし」だったが、円の対ドル相場の安定を考慮すると、驚くことではないと指摘。ガイダンス変更については、「日本以外の国は緩和局面に入っており、日本だけ何もしないと市場に見透かされる」とし、円高リスクを回避するため、将来の利下げの可能性をにおわせたのだろうと分析した。
経済・物価見通しを下方修正
声明文と同時に公表した新たな「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、実質経済成長率と消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)の見通し(政策委員の大勢見通し)を、いずれも2019年度から21年度まで全て下方修正した。こうした経済・物価見通しは、引き続き「下振れリスクの方が大きい」としている。
実質GDP | 消費者物価指数(除く生鮮食品) | |
---|---|---|
2019年度 | 0.6%(0.7%) | 0.7%(1.0%) |
2020年度 | 0.7%(0.9%) | 1.1%(1.3%) |
2021年度 | 1.0%(1.1%) | 1.5%(1.6%) |
(注)対前年度比、政策委員の見通しの中央値、かっこ内は7月時点の見通し
日銀は今回会合で、前回会合で約束した経済・物価動向の再点検を行った。物価のモメンタムを構成する重要な要素である需給ギャップについて「いったんプラス幅を縮小する」ものの、「景気の拡大基調が続く下で、ならしてみれば現状程度のプラスを維持する」と分析した。
もっとも、海外経済の下振れリスクが顕在化した場合には、「需給ギャップなどの経路を通じて、物価にも相応の影響が及ぶ可能性がある点には留意しなければならない」と注意喚起した。
午後3時半に黒田東彦総裁が定例記者会見を行う。決定会合の「主な意見」は11月11日、「議事要旨」は12月24日にそれぞれ公表される。
長短金利操作(賛成7反対2) |
資産買い入れ方針(全員一致) |
- 短期金利:日銀当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%適用
- 長期金利:10年物金利がゼロ%程度で推移するよう国債買い入れ。金利は経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得る
- 片岡剛士、原田泰両審議委員が反対
- ETFとJ−REIT:保有残高がそれぞれ年間約6兆円、約900億円相当で増加するよう購入。市場の状況に応じて上下に変動し得る