自分の子どもに予防接種を受けさせるかどうか、迷ったことのある人もいるのではないでしょうか。
国は、風疹や百日せきなど、罹患(りかん)や重症化を防ぐワクチン接種を推奨していますが、最近、接種をためらう人がいて問題となっています。
背景にあるのは、SNSなどで拡散している「根拠のない危険」を過剰にあおる情報の拡散です。
ネットでの情報に惑わされ、我が子を感染症のリスクにさらしてしまったという山本亜紀子(やまもとあきこ)さん(仮名)。
今年(2019年)に入るまで、4歳の次男に「4種混合(百日せきなど)」や「水ぼうそう」など、国が子どもに推奨するワクチンを接種させていませんでした。
ワクチンを“忌避(きひ)”するようになったきっかけは、近所の母親サークルで「ワクチンは危険」だと聞いたことでした。
山本亜希子さん(仮名)
「長男は、ワクチンをほとんど自費のものとかも全部打ってたんですけど、その話をしたら『(長男が)かわいそう』って、まず言われたんですよね。
ワクチンを打つことによって、副作用もあってとか。
すごくショックでした。」
当時、夫は単身赴任中で子どもと二人きりの生活。
孤独な中、真偽を確かめたくて頼ったのが、インターネットでした。
SNSなどを使って、「ワクチン危険」などのキーワードで調べると、「ワクチンの水銀で自閉症になる」、「ワクチンは製薬会社の陰謀」といった“誤情報”や…、
「ワクチンは危険、効かない」、「絶対に打ってはいけない」など、危険性を過剰にあおる情報ばかりがヒットしたのです。
山本亜希子さん(仮名)
「フェイスブックの情報なんかも、危険だという情報ばかりになってるので、どんどんどんどん傾倒していって、打たなかったっていう感じです。」
ネット上での誤った情報は、欧米などでも拡散。
はしかなどのワクチンを忌避する動きは、世界中で広がっています。
春にはニューヨークの一部の地域で、接種していない人たちを中心にはしかが大流行し、大きな問題となりました。
WHOは今年2月、「世界の健康の10の脅威」のひとつにあげ、警鐘を鳴らしています。
“ワクチン忌避”に危機感を覚え、自ら発信を始めている、森戸やすみさんです。
母親たちが、誤った情報を信じ込んでしまうのを放っておけないと、科学的根拠のある情報をネット上でわかりやすく伝えています。
例えば副反応を恐れ、おたふく風邪のワクチン接種をためらう人に向けては、
ブログに、合併症が「ウィルスに感染した時に発症する確率」と、「ワクチンを接種し、副反応として出る確率」をそれぞれ示しています。
「無菌性髄膜炎」では、ウィルス感染で発症する確率に対し、ワクチンの副反応として出る確率は格段に低くなっています。
一度かかると死亡したリ、重い後遺症が残る恐れのある感染症。
ワクチン接種で防げることも、わかりやすく伝えています。
小児科医 森戸やすみさん
「専門家が複数の目で検証して、いいって思ってるのが、いま一番ベター、ベストに近いものなので、それにどうアクセスするか、ネットの情報は玉石混交なんで玉にあたる確率を増やしたい。」
子どもにワクチンを接種させずにいた山本さんは去年(2018年)、ネット上で森戸さんの情報を見たことをきっかけに、接種に踏み切りました。
当時、日本では風疹が流行。
子どもが感染しないか心配になり、今度は「ワクチン必要性」などのキーワードで検索しました。
すると、森戸さんのページが目に止まり、感染症の恐ろしさを初めて痛感したと言います。
山本亜希子さん(仮名)
「これは風疹だけじゃなくて、ほかの予防接種も受けないと本当はまずいんじゃないか。
打ってなくて、もしなにか疾患にかかってしまってた場合のことを考えると恐ろしいというか。
発信してくれた先生方に、本当に感謝しかないです。
それ見なかったら、本当に今も受けてなかったと思うので。」
「予防接種法」で乳幼児に推奨しているのは、麻疹、風疹など10以上あり、いずれも感染すると後遺症が残ったり、最悪の場合、死亡することもあります。
これらのワクチンは、世界中の専門家が検証を重ね、感染や重症化を防ぐ効果が高いと判断したものです。
副反応のリスクはありますが、ほとんどは感染症にかかるデメリットよりも軽いとされています。
東京オリンピック・パラリンピックに向けても、国は選手が風疹などに感染しないよう、大会関係者は無料でワクチンを受けられるよう対策を打ち出しました。
中には、体質や病気などでワクチンを接種できない人もいて、まわりの人が接種することでウイルスの流行を防ぎ、そうした人も感染症から守ることができるとされています。
自分や家族の健康にかかわることだけに、危険と聞いたらどうしたらいいんだろう、と悩むのは当たり前。
ワクチンに限ったことではなく、根拠が不確かな医療情報に惑わされることは多い。
SNSなどの情報をどう見極めたらいいのか、そのヒントを伝える活動も始まっています。
ネット上で発信を続ける3人の医師が、ネットでの医療情報について考える市民講座を開催。
気になる情報を目にしたとき、確認すべきポイントを伝えています。
「複数の専門家が関わり、検証したものかどうか」、「情報に科学的根拠があるかどうか」、などです。
判断に迷ったら、まずは厚生労働省など、公的機関が出している情報を確認して欲しいとしています。
消化器外科医 山本健人さん
「公益性の高い声明とかは、かなり大勢の専門家が関わって、ディスカッションを重ねて作っているわけです。
かなり大勢の人の手が入っている、というところで信頼してもいいだろう。」
医師たちがあげたポイントを整理すると、「個人の体験談や、“なんとかは絶対危険”、“何とかすると病気になる”といった、大げさに表現しているものはすぐに鵜呑みにしない。」
「厚生労働省や、WHOなど公的機関が発信している情報は科学的裏付けがあるので、まずは、それを参考にしてほしい。」
「それでも不安な人は、複数の専門家の情報をみて、共通して言っていることは何か、見極めた上で、判断して欲しい」としています。
医師たちが最も強調していたのは、「ネットでの情報はあくまで参考程度にし、疑問などは、直接かかりつけの医師などに納得いくまで聞いてほしい」ということです。
直接は聞きにくい、と感じる人もいると思いますが、命に関わることなので、遠慮せずに確認してほしいとしています。