平成26年4月1日
我が国でも、諸外国に遅れて(何と世界で100番目という遅さです)、2つの子宮頚癌予防ワクチン(HPVワクチン)が使用できるようになりました。
すなわち、2009年(平成21年)に承認されたサーバリックス(GSK社)と、2011年(平成23年)に承認されたガーダシルです(MSD社)。
サーバリックスもガーダシルも共に16型と18型のパピローマウィルス感染をほぼ100%予防します。なお、ガーダシルは6型と11型のパピローマウィルスによる尖圭(せんけい)コンジローマも予防します。
これら2つのワクチンは、全ての子宮頚癌を予防する訳ではありませんが、16型と18型の子宮頚癌の予防には極めて有効です。
子宮頚癌の原因となるパピローマウィルスの70%が16型と18型ですので、これらのワクチンで子宮頚癌の70%が予防できることになります。
HPV感染は性交渉と共に増加するので、性交渉を開始する前に接種するのが最も効率的です。我が国では中学1年生から高校1年生までが公費接種対象年齢です。
自治医大さいたま医療センター産科婦人科の今野教授らの研究でも、12歳児全員がHPVワクチンを接種した場合、子宮頚癌の発生数、死亡数を共に70%減少させると推計されています。
この推計を元に、女性がどの位の確率で子宮頚癌に罹(かか)り、どの位の確率で子宮頚癌で死ぬのか、計算してみましょう。
先月述べたように、我が国では年間約15,000人が新たに子宮頚癌に罹患(りかん)し、約3,500人が子宮頚癌で死亡しています。
日本の人口を約1億人として、女性はおよそ半分ですから約5,000万人です。
その内、年間15,000人が子宮頚癌に罹患するのですから、女性1人当たり、年間の罹患率は15,000/50,000,000 すなわち0.0003です。
従って、1年の間に子宮頚癌に罹らない確率は1-0.0003=0.9997となります。
女性の平均寿命を80歳とすると、一生の間に一度も子宮頚癌に罹患しない確率は0.9997の80乗の0.976282となります。
同様に、子宮頚癌で年間3,500人死亡するのですから、女性1人当たり、年間の死亡率は3,500/50,000,000すなわち0.00007です。
従って、1年の間に子宮頚癌で死なない確率は1-0.00007=0.99993となります。
一生子宮頚癌で死なない確率はこれの80乗で0.994415となります。
では、12歳児全員がHPVワクチンを接種した場合、これらの数値がどうなるか、計算してみましょう。子宮頚癌罹患数が70%減少するのですから、1,5000×0.3=4,500人となります。年間の罹患率は4,500/50,000,000すなわち0.00009です。
1年の間に子宮頚癌に罹らない確率は1-0.00009=0.99991です。
従って、一生の間に一度も子宮頚癌に罹患しない確率は、これの80乗で0.992826です。
同様に、子宮頚癌死亡数も70%減少するのですから、3,500×0.3=1,050人となります。
年間の死亡率は1,050/50,000,000すなわち0.000021です。
1年の間に子宮頚癌で死なない確率は1-0.000021=0.999979です。
一生子宮頚癌で死なない確率は、これの80乗で0.998321となります。
以上より、12歳児全員がHPVワクチンを接種した場合、人生を通じて子宮頚癌に罹患しない確率が0.976282から0.992826に改善し、子宮頚癌で死なずに人生を全うする確率が0.994415から0.998321に改善する事になります。
改善度は、前者が0.992826-0.976282=0.016544 (約17/1,000)、
後者が0.998321-0.994415=0.003906 (約4/1,000)です。
つまり、女性1,000人にHPVワクチンを打つと、その内17人が子宮頚癌に罹らずに済み、4人が子宮頚癌で死なずに済む訳です。
もちろん、正確には日本の人口は1億人よりも多いですし、女性の平均寿命も80歳より長いです。子宮頚癌の罹患数や死亡数も年齢層により異なります。
しかし、概算によりHPVワクチンの効果を具体的な数値で知る事ができました。
これは、次回以降の副反応の頻度と比較する事により、重要な意味を持ちます。
次号へ続く