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ただいま表示中:2019年10月29日(火)人事・転職ここまで!? AIがあなたを点数化
2019年10月29日(火)
人事・転職ここまで!? AIがあなたを点数化

人事・転職ここまで!? AIがあなたを点数化

今、AI(人工知能)を使って膨大な個人データを分析し、1人1人の能力などを点数化する動きが広がっている。あるITベンチャーは、ネット上の個人データをもとにエンジニアなどの能力をスコア化。転職人材を求める企業向けに有償で提供している。こうした流れに冷や水を浴びせたのが、就職情報サイト「リクナビ」をめぐる問題だ。番組では、最先端の現場を取材するとともに、専門家の協力を得てリクナビ運営会社の手法を細かく検証。今起きていることの問題点を掘り下げ、データ活用のあり方を考える。

出演者

  • 大湾秀雄さん (早稲田大学 教授)
  • 宮下紘さん (中央大学総合政策学部 准教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

ネット情報で…あなたの能力・人格を点数化

あなたがネットでつぶやく何気ないひと言や個人情報が、知らないうちに集められ、AIによって、能力や人格まで点数化されてしまう。そんなことが現実のものとなっています。

栗原:AIを使った人材のマッチングサイトを運営する会社です。キャッチコピーはこちら…。

“あなたのことを、あなた以上に知っています。”

SNSのつぶやきから、転職の兆しを把握。

AIによる人材マッチング会社
「仕事に対して、疲れているかもしれないことが分かるので、『転職どうですか?』って。」

栗原:転職したいっていう気持ちまで、AIが見つけてくる時代なんですね。

今、ブログの内容や閲覧履歴など、ネット上のさまざまな情報をAIが分析。能力や人格が評価され、会社の人事や転職などに使われはじめています。

AIによる人材調査会社 社長
「90%ぐらいは、ネット上の情報で、その人の人物像が分かる。」

一方、AIによる点数化が問題に発展する事態も。就活生が内定を辞退する可能性を、勝手にAIで予測し、企業側に売り渡していたのです。知らない間に、自分たちの将来が脅かされたのではないか。学生たちが不信感を抱いています。

内定辞退率を予測された学生
「憤りを通り越して、すごい不安というか、ちょっと寒気がする。」

AIが人事にまで応用される時代。私達に何をもたらすのか考えます。



去年転職した、システムエンジニアの室谷真里さん。
転職のきっかけは、知らない企業から突然届いた、「ヘッドハンティングのメール」でした。

“はじめまして。IT技術の知見が特に豊富でカバー範囲が広い点に、とても感銘を受けました。もしよろしければ、一度弊社オフィスに遊びに来ませんか? ”

差出人は、室谷さんが勉強中だった最新のプログラミング技術のことや、海外で働いた経験のことまで、詳しく記していました。

システムエンジニア 室谷真里さん
「どうやって見つけたんだろうって、まずひとつ、びっくりした。今、自分がやっている技術や、精通しているものを的確に把握されている。」

自分の能力を高く評価してくれていると感じた室谷さん。メールをきっかけに、能力を存分に生かしたいと転職を決意。今、新規ビジネスのシステム開発を一手に担っています。

ENECHANGE エンジニア 室谷真里さん
「(転職して)ものすごくよかった。今まで持っていたスキルを使いながら、さらにスキルアップしつつ、仕事ができる。」

実は、室谷さんの能力を見いだしたのは、別の企業が開発した「AI=人工知能」でした。都内にあるこの会社は、インターネット上の公開情報をAIで分析し、隠れた優秀な人材を発掘するサービスを展開しています。

LAPRAS 島田寛基CEO
「個人が『天職』を得るというところに、ちゃんと機能していない。より、今よりいい環境に行けると、逆にこちらから突然提案する。」

AIが分析するのは、ツイッターフェイスブックといったSNSや、ブログの記事です。

LAPRAS 島田寛基CEO
「キーワードを自動的に、機械学習という技術で抽出している。」

栗原:機械学習ですか?

LAPRAS 島田寛基CEO
「いわゆるAIというものです。」

AIを使った人材発掘の仕組みです。室谷さんは、ネット上のさまざまな場所で、システムエンジニアの仕事について投稿していました。システムは、バラバラに投稿された情報をつなぎあわせ、室谷さんという人物像を生成。得意な技術や技術セミナーへの参加歴、メールアドレスなどの情報を割り出していきます。

この会社では、143万人分のデータベースを構築しています。みずからのブログに、最新のプログラミング技術について、たびたび投稿を続けてきた室谷さん。AIは、その投稿を分析し、どのプログラミング言語を、どの程度使えるのか、10点満点で評価していました。ブログ記事についた「いいね」の数。そして、それをつけた人の技術的レベルも計算した上で、室谷さんの能力を見極めていったといいます。

LAPRAS 島田寛基CEO
「初心者からの“いいね”と、上級者からの“いいね”は重みが違う。エンジニアにとっては、履歴書より、実際どういう活動をネット上で行っているのかの方が重要。」

今回、室谷さんの同意を得て、評価シートを見せてもらいました。

栗原:技術力が3.39。

LAPRAS 島田寛基CEO
「3.39というのは、結構高め。全体の140万人のデータベースのうちのトップ10%。」

栗原:トップ10%、かなりいい人材ということ。

LAPRAS 島田寛基CEO
「ネット上の自分の流してきたデータを使って、趣味嗜好も含んだデータをマッチングに使えば、その人の天職に近いものをレコメンド(おすすめ)してあげたりできる。」

このサービスを利用して、室谷さんをヘッドハンティングした採用担当者は、AIを使った人材発掘システムの効果を実感しています。

ENECHANGE 採用担当 川西智也さん
「転職市場が非常に過熱している状況ですので、中堅以上のレベルの採用は、非常に難しくなっているのが現状。(室谷さんの獲得で)非常に助かっている。」

AIを活用し、表からは見えにくい、採用予定者や社員のリスクを見つけだそうという会社もあります。

調査担当者
「ネット上に、いろんな情報があるので、それを収集し、スコアリングして、どういうリスクがあるのかというのを出しています。」

調査は、企業から提供された履歴書に記された名前、年齢学歴といった情報をもとに行われます。対象者の同意を得た上で、調べているといいます。SNSで公開されている投稿の言葉遣い、投稿した時間まで把握。本人も気づいていない、攻撃性や自己顕示欲社会性などを「数値化」していきます。

栗原:攻撃性ってどういうこと?

調査担当者
「これは暴言を吐いたりとか、そういった投稿が多いと、このスコアが上がっていく。」

栗原:自己顕示欲というのは?

調査担当者
「自分の写真を多く投稿したり、毎日、何投稿もする。(こういう人は)入社してから、会社の情報とかをネットに書き込んだりする傾向が強くなる。」

AIが解析する際に用いる、独自の“ネガティブワード・リスト”を見せてもらいました。犯罪やコンプライアンス違反に関わる言葉だけでなく…。「は?」や「何言ってんの」など、何気なく発する言葉にも、対人関係のトラブルにつながるリスクが潜んでいると言います。

調査担当者
「700キーワードぐらいある。『名前』+『キーワード』をAIで自動的に検索していって、情報を読み込んで、そのあとにAIで、本当に本人のものなのかを判断していく。この数を人力でやろうとしたら、到底できない。」

さらに…。

栗原:TWと出ましたが、これは?

調査担当者
「これは、ツイッターのアカウントが見つかったということ。」

この会社では、匿名のアカウント、いわゆる“裏アカ”の投稿も、フォロワーなどを分析することで特定していくと言います。

調査担当者
「友達とかが発言した内容、情報をもとに、裏アカウントを特定したりします。」

栗原:友達のことも見る?

調査担当者
「そうですね。これ(やり方)はあの…あまり、これは言えない…。裏アカウントで発言する場合、本当に自分の本性が出やすい。」

実際、裏アカウントから、情報漏えいや暴言が見つかることもあったと言います。

現在、このサービスを利用している企業は、大手も含め100社以上。年間、およそ1万人ほどの調査を行っています。

ソルナ 三澤和則社長
「90%ぐらいは、ネット上の情報で、その人の人物像が分かると思う。ネットの情報で、信用をはかっていくような時代になってきている。」

AIが、能力から人格までもあぶりだそうとする時代。私たちは、どう向き合えばいいのでしょうか。

武田:AIを使った企業の人事に詳しい大湾さん、ネット上の情報で人格まで分かる。企業にとってはメリットもあるんでしょうけど、慎重に扱ってほしいなと思うんですが、いかがですか?

ゲスト 大湾秀雄さん(早稲田大学 教授)

大湾さん:特にネガティブチェックのために、ネット上の情報を使うというのは、2つの問題があると思います。
1つは、先ほど出てきた裏アカウントの特定も含めて、間違うことがあると思うんですね。そうしますと、まれなケースでも、間違った人が自分の意図しない形で不利益を被ってしまうことが第一の問題です。
2つ目に、ネット上での発言で萎縮してしまうと。これによって、オープンなコミュニケーションをとれなくなることが2つ目の問題かと思います。個人的には若干、疑問を感じます。

武田:そうした中、企業がなぜ採用にAIを使うようになってきているのか。大湾さんによると、「最適な人材の発掘・定着」そして、「採用業務の効率化」。それぞれどういうことでしょう?

大湾さん:もう1つの背景としては、企業の中にさまざまなデータが蓄積されてきたということもあるんですね。「最適な人材の発掘・定着」は、人材の確保が非常に深刻になってきたということです。ですから、どうやって優秀な人材をひきつけ定着させるかということが、企業の存続を脅かすような重要な課題になってきたと。そのために、活躍予測とか定着予測とか成長予測といった、定量的な指標を使って、人事管理をしていこうという動きが出てきています。
2つ目の要因としては、働き方改革の影響が大きいと思います。人事部というのは働き方改革の旗振り役を務めてきたわけですけど、人事部自身、非常に長時間労働が恒常化していた部署であったと。そうした中で、自分たちの部署で何か生産性を高めていこうといったときに、採用における書類選考の自動化とか、あるいは、人材配置案の作成の自動化といったものに目を向けていったということです。これまで何百時間もかかっていた、例えば書類選考といった仕事が自動化できるようになれば、空いた時間をより丁寧な面接ですとか、内定者のフォローといった、ほかの業務に使えるといったメリットがあります。

ネット情報で能力・人格を分析 どこまでOK?

武田:そして、もうひと方。個人情報保護法に詳しい宮下さんによりますと、法律では、不正な手段による情報の取得や病歴、思想、出自といった、要配慮個人情報の取得は禁止されている。一方、ネット上で公開されている情報などをもとに、その人の能力や人格を分析することは果たしてどうなのかとなっているわけですね。

ゲスト 宮下紘さん(中央大学総合政策学部 准教授)

宮下さん:現状の個人情報保護法では、公開情報であっても規制の対象とはなっています。ただし、AIの分析などをするときには、利用目的、プライバシーポリシーなどで、企業がしっかりとどういう目的で使うのかということを記載しておけば、AIによる分析能力や人格等を分析することは、現状では認められております。ただし、多くの利用者はプライバシーポリシーを読んでいない。そのようなことから、本当にどこからAI分析が行われているかということが1つ、現在、議論になっているのではないかと思います。

武田:きちんと利用目的を示して活用されているかどうかが今、少しあいまいな状況になっている。グレーな状況になっているということなんですね。

栗原:今回取材した2つの企業も、独自に個人情報保護の取り組みを進めているということでした。
まず例えば、どのように情報を集め、分析しているか。採用される側にオープンにしたり、情報の取り扱いについて問題がないか、弁護士に確認したりしています。2つの企業によりますと、ルールにあいまいな部分があるとして、それぞれが自主的な対応を迫られているということでした。

“リクナビ問題”学生の情報が…

武田:AIの利用の在り方に、重い問いを突きつけたのが就職情報サイト、リクナビをめぐる問題です。学生がリクナビに登録して、企業情報を見ていたところ、運営するリクルートキャリアという会社が閲覧履歴などから、AIで内定辞退率をはじき出し、それを企業に販売していました。学生にとっては、味方だと考えていたリクナビによって、将来が左右されかねない事態が起きていたんです。

この春、リクナビを利用して就職活動をしていた大学4年生の学生です。リクナビに掲載される企業のページで、毎日のように情報収集をしていました。

大学生(4年)
「(リクナビを)全く使わない就活というのは、本当に手間もすごいかかりますし。」

8月に入り、リクナビを運営するリクルートキャリアから突然、謝罪のメールが届きました。

信頼して使っていたリクナビが、内定を辞退する可能性をAIで勝手に予測し、企業に売っていたというのです。この学生は、志望する企業の内定が決まっていたものの、裏でこうしたことが行われていたことに不信感を募らせています。

大学生(4年)
「憤りを通り越して、すごい不安というか、ちょっと寒気がする感覚になりますね。」

リクナビは、どのように内定辞退率を算出したのか。
利用したのは、前年度に就職活動を行った学生たちのビッグデータです。学生がリクナビで、どの企業を何回見たのかといった閲覧履歴を集め、志望の傾向をつかみます。その上で、内定を辞退した人と辞退しなかった人とに分類。両者の違いをAIに分析させ、独自のモデルを作成したのです。そこに、今年度就職活動を行う学生のデータをあてはめることで、内定辞退の可能性を点数化。契約した企業1社につき、年間400万円から500万円で販売していました。

リクルートキャリア 小林大三社長
「本当に申し訳ございませんでした。」

学生の就職支援をうたいながら、学生の不利益になりかねない情報を企業に販売していたことに、批判が集中。リクルートキャリアは謝罪し、内定辞退率のビジネスは廃止に追い込まれました。

この学生が不合格となった企業のうち2社は、内定辞退率を購入した企業でした。リクルートキャリアからは、辞退率は採用の判断には使われていないと説明を受けましたが、納得できずにいます。

大学生(4年)
「こういうデータがありますよと(企業側が)言われて、もう見た時点で、忘れる、頭から全部取り去るというのは不可能なので、全く選考に影響していないと言い切ることは、さすがにできないんじゃないかな。」

今回の問題では、内定辞退率を購入していた企業の倫理も問われています。辞退率の購入にあたっては、学生から受け取ったエントリーシートの内容や学生の性格を分析するSPI、慎重な取り扱いが求められるこうした個人情報を、リクルートキャリアに提供した企業もあったのです。

企業側の認識を問うため、NHKは、内定辞退率を購入した企業にアンケートを行いました。購入前に、社内でどのような検討をしたか尋ねたところ、回答した17社のうち、社内で法的に適正であるか検討したと回答したのは5社のみ。検討すらしなかった企業も1社ありました。

さらに、NHKが独自に入手した資料からは、学生のネット上の履歴を把握しようとする、巧妙な手口が浮かび上がってきました。リクルートキャリアは、企業側に学生を対象にしたネット上のアンケートをするよう促していました。
「回答内容ではなく回答完了が必要」という文字。その狙いとは…。
学生がアンケートの回答を終えると、「クッキー」という学生の識別情報が得られる仕組みになっていました。リクルートキャリアがそれを得ることで、学生のネット上の履歴を、より詳細に分析できるようにしたのです。しかし、企業側はこうした目的については、学生に知らせていませんでした。

情報法制研究所 高木浩光理事
「誰がこれを主導してやっているか。もちろんリクナビ側が、やりませんかと提案しているのはそうですけど、最終的な主体は求人企業側が自らやっている。大変問題があると思います。」

学生の閲覧履歴をもとにAIが導き出す、内定辞退率。そもそも、その数字の正確さについても、学生から疑問の声が上がっています。
内定辞退率を勝手に算出されていた学生です。

栗原:今、見ているサイトは?

大学生(4年)
「外資就活ドットコム。」

就職活動中、この学生は「外資就活ドットコム」というサイトをたびたび閲覧していました。さまざまな業界の動向を調べるためで、外資系企業を志望していたわけではありませんでした。しかし、このサイトもAIの分析の対象となっていたことが明らかになっています。

大学生(4年)
「単に、外資就活ドットコムの掲示板を眺めているだけの就活生で、たいして外資系は受けていないかもしれない。実際に私は、外資系の企業は1社も受けていないので、そもそも、内定辞退率の予測を出す計算式が間違えているんじゃないか。」

学生不在の中、生み出された内定辞退率のビジネス。厚生労働省は、学生の就職活動に不利に働く恐れが高いとして、職業安定法に違反していると判断しています。

情報法制研究所 高木浩光理事
「たまたま(AIによって)学習されたモデルに当てはまらない人というのは、どこに行っても一切採用されない。原因も分からないということが起きうる。謎の条件による差別というのが、いっぱい出てくるかもしれません。いわば『マイクロ差別』とでもいう、名前も付いていないような条件による、人の差別というのが起きてくる可能性があると思います。」

AIが個人の将来を左右する現実に、私たちはどう向き合うべきなのか。

“情報の売買”問題は?

武田:宮下さん、リクルートキャリアのビジネスには法的な問題があったと指摘されているわけですが、企業がこういった情報を買っていたということにも問題があるんじゃないかと思います。どうでしょうか。

宮下さん:法的な問題と倫理的な問題に分けて考えることができると思います。まず、法的な問題で考えますと、本来であれば同意を取得していなければいけなかった。学生から同意を取得して、購入することを明示しておくべきでしたが、委託をしてリクナビから購入しておりました。この委託により、AI分析、人の人格や能力まで分析を委託で任せることが許されるのか。依然として、これは法的にもグレーな問題です。
倫理的な問題としては、学生の生き方、人間の生き方を点数化して、能力・資質を点数化するということ自体が、果たして許されるかどうかという問題が残されていると思います。

“AI活用”何が問われているのか?

武田:データやAIを活用する流れというのは、今後も拡大していくものと思われるんですが、大湾さんが企業側に求められる責任としては、こんな言葉を挙げています。「人間主体のデータ活用」。これはどういうことでしょうか。

大湾さん:2つ意味を込めていまして、1つは先ほど、マイクロ差別という言葉が出てきましたけれども、AIの活用に伴って、統計的な差別が新たに生み出されると。それから、バイアスの再生産という問題があります。予測をするために、過去のデータをAIに学ばせるということが必要になります。そうなると、過去のデータは人間の過去の意思決定ですから、そこにバイアスがあると、AIも人間のバイアスをまねて、それを再生産する。例えば、女性の評価が低いというバイアスがあった場合、AIが同じことをするという問題があります。そういったことを避けるためには、活用する人のAIリテラシーを高めていくことが必要で、それと合わせて、データサイエンティストを育成していくと。そういった知識を持った人たちが、バイアスとか差別をできるだけ補正しながら使っていくことが、まず大事だと思います。
2つ目には、社員あるいは利用者が不安を感じて、労使関係とか、あるいは利用者との関係が毀損されてしまうことが、一番怖いんですね。こういったことを避けるためには、やはり企業はプロセスを透明化すること。それから、企業の説明責任を果たすということ。それから、重要な意思決定には、必ず人間が関与するという原則をきちっと守っていくことが必要だと思います。こういった、人間主体のデータ活用を達成するためには、企業の方もきちんと基本理念を確立して、社員の幸福、働きやすさのためにデータを活用するんだ。社会的なものを向上させるために、AIを活用するんだというビジョンを、しっかり固めていくことが大事だと思います。

栗原:ここで紹介したいのが、ヨーロッパの事例です。EU=ヨーロッパ連合では、AIによる個人情報の分析について、分析の対象とされない権利、そして、分析結果に異議申し立てする権利が認められているんですね。

武田:宮下さん、それぞれ、もう少し詳しくご説明いただけますでしょうか。

宮下さん:ヨーロッパでは、個人データの保護、それ自体が基本的人権として位置づけされています。AIによって分析をされ、機械のみによって、結果が、人生が左右される。その場合、人間の介入を求める権利が明文化されました。また、不正確な結果に基づいて不利益を被った場合、異議申し立てをする権利が明文化されております。

武田:これは、今後の日本の在り方を考える上でも、十分参考になるということですね。

宮下さん:我が国でも、来年、個人情報保護法の改正が予定されていますけども、このような動きが、ぜひとも参考になるかと思っています。

武田:AIによって人々が点数化される時代。どう向き合えばいいと思いますか。

宮下さん:データによって、人生の生き方が左右される、差別される、偏見を受ける。このような社会ではなくて、プライバシーの倫理と哲学を持った形で、人間中心、利用者中心の社会、AI技術の発展を迎えるべきではないかと思っています。

2019年10月24日(木)
ドローン兵器の衝撃~新たなテロの時代~

ドローン兵器の衝撃~新たなテロの時代~

サウジアラビアの石油関連施設への攻撃であらわになったドローン兵器の脅威。今回、明らかになったのは、これまでアメリカなどの軍事大国が独占してきた軍事用無人機=ドローンの技術が、イランを中心に中東各地に拡散し、テロや紛争に使用出来るようになったことだ。なぜ、ここまで高度な技術を手に入れることが出来たのか?番組では、イランや共闘する武装勢力が、いかに安価な部品を入手して、飛距離などの性能を伸ばしてきたのか、その秘密に迫る。さらに、ドローン兵器が世界中に拡散し、世界の原発や、来年の東京オリンピックもリスクにさらされているという。テロの手法を根本から大きく変えると言われるドローン兵器、その波紋に迫る。

出演者

  • 岩本誠吾さん (京都産業大学法学部 教授)
  • 保坂修司さん (日本エネルギー経済研究所)
  • 武田真一 (キャスター) 、 合原明子 (アナウンサー)

世界や日本を脅かす“新たなテロの時代”

「ゴルゴ13」の作者さいとう・たかをさん。
4年前に予見していたことが、現実のものとなりました。ドローン兵器の脅威です。

先月、サウジアラビアの石油施設に対して、ドローンによる攻撃が行われたのです。

サウジアラビア国防省 報道官
「これは、石油施設で見つかった、ドローンの残骸です。」

劇画家 さいとう・たかをさん
「もう戦争を人間同士でやらなくなるでしょう。機械の戦争になってきたら、もう、まさに破滅でしょうね。」

無人航空機、ドローン。今、各国で開発が進み、戦争やテロに使われる兵器となっています。
NHKの取材で、世界中から集めた民生品が転用され、拡散する実態も見えてきました。
イギリスでは、空港にドローンが進入。身近な施設が標的になっています。
来年オリンピックを迎える日本でも、対策を迫られています。
世界に拡散するドローン攻撃の脅威。進化する、新たな兵器の実態を追います。

徹底追跡!中東で急速に拡散 驚きの実態

先月、ドローンと巡航ミサイルの攻撃を受けた、サウジアラビアの石油施設。世界の原油供給量のおよそ5%が一時生産を停止し、世界を不安に陥れました。

大手商社は警戒感を強め、中東に代わる原油の調達先も探り始めています。

シンガポールのグループ会社
「寝耳に水というか、こういった攻撃に対する備えが、そもそも必要だという認識すらなかったので。」

サウジアラビア政府は、ドローンの残骸を公開。世界最大規模の石油施設を襲ったのは、18機のドローンだとしたのです。

サウジアラビア国防省 報道官
「これは、石油施設で見つかった、ドローンの残骸です。イランの無人航空機によく似た三角形の翼です。GPSも使われていて、より正確な攻撃を可能にしています。」

攻撃を行ったと声明を発表したのは、サウジアラビアと敵対する、イエメンの反政府勢力でした。しかし、サウジアラビアと同盟関係にあるアメリカは、この声明を認めず、攻撃に直接関与したのはイランであるとの主張を強めています。一方で、イランは言いがかりだとして関与を全面的に否定しています。

なぜ、サウジアラビアはドローンによる攻撃を防げなかったのか。世界の軍事用ドローンの研究を行っているゲッティンガー所長は、ドローンの特性をよく利用した攻撃だったと見ています。
被害を受けた石油施設には、ミサイル攻撃に対応した防空システムがあったと見られています。しかし、ドローンは低空で侵入する上に、小型であるため、従来のレーダーでは捉えにくいというのです。

バード大学ドローン研究センター ダン・ゲッティンガー所長
「ドローンは小さいので、鳥のように見えるのかもしれません。つまり、現在の防空システムのありかた故に、ドローンを識別するのが難しいということです。」

さらに、今回のドローンには、極めて高い性能が備わっていることも分かってきました。防衛省の装備品に詳しい、東京理科大学の平塚三好教授に、ドローンの残骸を分析してもらいました。

東京理科大学 平塚三好教授
「これは、比較的わかりやすいと思うんですけど、ウィングレッドと呼ばれる、垂直の羽が非常に高い。この羽の高さが高いということは、それだけスピードが出る。時速200キロ以上は出るだろうなと。時速200キロ以上出すということは、それなりの大きさのエンジンを使わなくてはいけない。」

エンジンの残骸を見ると、アメリカの軍事用ドローンのエンジンによく似ていると、平塚教授は指摘しました。

東京理科大学 平塚三好教授
「ここら辺の部分、この排気ダクト。この排気ダクトと、ここのダクトが、ほぼ同じですよ。ほぼ同タイプの、同じレベルのタイプのものだと考えていい。」

中東では、攻撃手段として、高性能のドローンが最近頻繁に使われています。
ドローン開発に力を入れるイランで、その背景を探りました。交渉の末、イラン革命防衛隊のキャナニモガダム元司令官が取材に応じました。イランのドローン技術の源流。それは、敵対するアメリカにあったと語りました。

イラン革命防衛隊 キャナニモガダム元司令官
「イランは、アフガニスタンで墜落したアメリカのドローンを捕獲し、利用しました。部品を分解することで、ドローンの造り方を習得したのです。」

2000年代、アメリカはアフガニスタンの戦場にドローンを投入。当時、ドローンの高度な技術は、アメリカやイスラエルがほぼ独占しており、山岳地帯に潜伏するアルカイダなどの動きを偵察し、攻撃に活用しました。この時、イランは、各地でアメリカのドローンを回収し、機体を分解して、その技術を習得したと言うのです。

イラン革命防衛隊 キャナニモガダム元司令官
「イランは、世界の5本の指に入る、ドローンの技術大国になったと言えると思います。今や私たちにとって、ドローン製造は、おもちゃ作りのようなものです。おもちゃです!誰もが、ドローンの技術を使える時代なのです。」

ドローンをつくるための部品は、世界中から集められることも分かってきました。イランの支援を受ける、イエメンの反政府勢力のドローンを調査した、国連の報告書です。ドローンを分解すると、使われていたのは、ほとんど民生品でした。プロペラは中国製。GPSセンサーはウクライナ製。制御装置は韓国製でした。

私たちは、制御装置を製造した企業を韓国で探しました。企業は、無線機器の部品を扱う世界的なメーカーでした。企業に尋ねたところ、製品が軍事用のドローンに使われていたことを知りませんでした。価格は1万2000円ほど。通常は、無線で操縦する飛行機などの進行方向を制御するための部品でした。

国連の報告書によれば、制御装置はテヘランの会社に、最終的に輸出されていました。テヘランの中心部にある会社を訪ねてみると、そこはプラモデルや無線操縦の模型の店でした。世界各地の模型の部品が売られていました。

店主
「部品は世界中から仕入れるよ。アメリカ、ドイツ、韓国、日本からもたくさん来るよ。」

無線操縦の模型に使われる、誰でも手に入れられる部品が、軍事用のドローンに使われていたのです。

もともと、中東で高度なドローンを独占していたのは、アメリカの同盟国イスラエルでした。2000年代から、本格的に軍事用ドローンを活用し、パレスチナに対して攻撃を続けてきました。今、その状況は変わりつつあります。イランは、ドローンの製造技術を中東各地の武装組織に伝え、イスラエルなどアメリカの同盟国への攻勢を強めています。

これはイスラエルが公開した映像です。今年8月、隣接するシリアから、ドローンを飛ばそうとする複数の人影。イスラエルは、イラン側が攻撃をしかけてくると判断し、この後、殺害しました。

イスラエル軍 報道官 ヨナタン・コンリクス中佐
「いったんドローンが飛び立てば、攻撃を阻止するのは難しくなるので、その前に止めなければなりませんでした。」

殺害されたのは、23歳のレバノン人、ハサン・ズベイブとヤセル・ダヒル。イスラエルは以前から2人をマークし、その行動を警戒していました。

2人はどのような人物だったのか。それを探るため、私たちはレバノンに向かいました。イランの支援を受ける、武装組織ヒズボラが勢力を張り、イスラエルとの戦闘状態が続いています。2人の行動を、ヒズボラに近い地元紙の記者が取材していました。

アハバール紙 フセイン・アミン記者
「2人は高校卒業後、イランに留学しましたが、明確な目的を持っていたのは確かです。それは、航空工学を学び、ヒズボラの武装闘争に加わるためでした。」

2人は、ヒズボラのドローン技術者でした。ヒズボラの使命を帯び、奨学金を受けながら、イランでも特別な大学に通っていました。
イマーム・ホセイン大学。イラン革命防衛隊が管理・運営する大学です。学生の卒業式とされる、ホームページの映像です。直接の撮影は禁じられていて、内部の様子を詳しくうかがうことはできません。

取材に応じた革命防衛隊のキャナニモガダム元司令官は、この大学の設立にも関わったといいます。

イラン革命防衛隊 キャナニモガダム元司令官
「我々の考えやイスラム革命をよく理解する科学者なら、誰でもこの大学に招待します。彼らは、ここで学び、イスラエルに対抗する国々に技術を移転するのです。最高指導者ハメネイ師は、それを奨励しており、我々は支援を惜しみません。」

レバノンで中東情勢を長年分析している、ムハンナド・ハッジアリ氏。イスラエルやアメリカの軍事的な優位性を、ドローンが揺るがすと指摘します。

カーネギー中東センター ムハンナド・ハッジアリさん
「ドローンは確実に、地域の情勢を一変させています。ドローンを飛ばして、アメリカが支援する地域の中心部を攻撃する能力があり、それに対して、アメリカに、なすすべがなければ、それはイランの能力を物語るものとなるでしょう。ドローンは、地域の抑止力のバランスを塗り替えることになると思います。」

新たな“貧者の兵器”その脅威

武田:中東情勢に詳しい保坂さんは、その脅威について、このように見ていらっしゃいます。まず、「新たな貧者の兵器」。これはどういうことでしょうか。

ゲスト 保坂修司さん(日本エネルギー経済研究所)

保坂さん:ドローンは、非国家主体にとっては安価で、簡単で、効果的で、なおかつ正確に空からの攻撃ができるという、極めて大きな脅威になるわけですね。これまで中東のテロ組織でいうと、自爆テロというのがよく思い浮かぶと思いますけれども、自爆テロは、しばしば貧者の誘導爆弾というふうに言われていたんですが、実際、自爆テロリストは警戒厳重な場所には近づけないわけで、必然的に彼らは、いわゆるソフトターゲット、警備の緩い場所にしか攻撃できなかったわけですね。それが、ドローンを使うと一気に攻撃の場所が拡大していくと、選択肢が増えるということだと思います。

武田:サウジの石油施設のようなものも狙えるようになるということですね。

保坂さん:実際、2006年にサウジアラビアの同じ施設がアルカイダによって攻撃を受けたんですけど、そのときには実際、治安当局によって撃退されています。ほとんど被害はなかったんですけど、サウジアラビアのように、ばく大な軍事費用を使って防衛体制を築きながら、今回のように非常に安いドローンで攻撃を受けて、しかも、それが世界経済を揺るがすぐらいの影響を与えたという点は、やはり大きいと思います。

武田:そして中東ですが、ドローンの実験場になっているということなんですね。

保坂さん:もともと中東は非常に不安定で紛争地だったので、テロ組織も含めて、多くの新しい軍事技術を使おうとしていたわけですね。特にアメリカが2000年代になってから、実際、軍事ドローンを中東で使うようになって、それが効果を上げたわけです。それを見て、イランもドローン開発にどんどん加速していくと。その結果、中東がまさにドローンの実験の場になったということなんですが。ただ、今はもはや、実験の段階を通り過ぎて、実践の場になっているということですね。

武田:そしてもう一方、ドローン兵器の現状を研究されている岩本さんは、その脅威についてこの点を強調しています。「民生品は規制が難しい」。

ゲスト 岩本誠吾さん(京都産業大学法学部 教授)

岩本さん:ドローンというのは、民生用と軍事用に分けられていますけれども、境があいまいなんですね。例えば、民生用で災害用でも使われますし、趣味として、おもちゃとして使う場合もある。最近の民生用のドローンは高性能なんですね。それに例えば、カメラだけじゃなくて、爆薬をつけるだけで、それが自爆ドローンになるわけで。またVTRでもありましたように、各センサーとかプロペラとか、制御装置も通常の貿易で入手可能なわけです。ですから、テロリストのレベルでも、ホームメードの手作りの武装ドローンが造れるということですね。

世界に拡散 背景に米中対立

合原:実は、ドローンの拡散というのは中東だけではないんです。こちら、アメリカのバード大学ドローン研究センターが今年発表しました、軍事用のドローンの拡散を示す地図なんです。大型の攻撃用だけでなくて、小型の偵察目的などのタイプも含まれています。2010年には60だったんですけども、今年は95の国と地域と、およそ1.5倍に拡大していると指摘しています。日本も赤く塗られていますが、自衛隊が防衛装備品として、偵察や災害対応などのために7機種運用しています。今後、さらに導入が予定されています。

こうしたドローン拡散の大きな要因が、中国とアメリカの存在なんです。近年、中国はドローン開発に力を入れ、輸出を急拡大しています。今月、行われた建国70周年のパレードでも、人工知能を備えたものなど、最新のドローンが公開されました。バード大学によりますと、今や中東やアフリカを中心に、軍事用としておよそ30か国へ輸出しています。

これに対抗する形で、アメリカも動いています。去年、トランプ大統領は大型ドローンの輸出規制を緩和する措置を発表しました。これまでは、テロ組織への流出を防ぐことなどを理由に輸出を規制していたんですが、国内の防衛産業から中国のシェア拡大を懸念する声が広がりまして、輸出の緩和に踏み切りました。さらに、トルコやロシアも独自に開発をして、輸出に乗り出していまして、ドローンの拡散まだ続くとされています。

武田:岩本さん、こうして米中、各国が競うようにドローンを輸出するような状況になっているわけですけど、この拡大のリスク、どうご覧になっていますか?

岩本さん:国際社会においては、国際条約で武装ドローンの規制というのはないんですね。ただ、自主規制という国際的な枠組みがございます。アメリカは、その枠組み内で厳格な輸出規制をしていたわけですね。例えば、サウジは武装ドローンが欲しいんですけど、アメリカは売らない。その隙を突いて、中国がサウジに武装ドローンを輸出していると。そうなると、アメリカにとっては軍事産業からの突き上げといいますか、圧力があって、貿易の機会を奪われるということで、アメリカもトランプ政権になってから武装ドローンの規制を緩和し始めた。米中がそろって武装ドローンの輸出を加速させているというのが現状かと思います。

武田:今、ドローンの脅威は身近なところまできています。日本は、これからどう対応していけばいいんでしょうか。

空港・原発…さまざまな施設が標的に

ドローンは、さまざまな施設を標的にしています。
今年1月、イギリスの空港に何者かが民生用のドローン1機を侵入させ、運航が1時間以上ストップしました。

乗客
「ドローンが飛んできて、着陸できなかったの。」

イギリスでは、航空機にドローンが接近したという報告が、去年だけで125件と急増しています。

さらに、こちらは、去年フランスの環境保護団体がネット上に公開した映像。「スーパーマン」を模したドローンが向かったのは、使用済み核燃料が保管される原発の建屋です。ドローンを使って、原発の安全管理に疑問を投げかけました。

“フランス電力は発電所の安全管理を徹底するべきだ”

東京五輪・パラリンピックも…日本はどう備える?

こうした中、来年オリンピックを控えた日本でも対策が始まっています。東京オリンピック・パラリンピックで警備を担当する会社です。

セコム技術開発本部 高須雅勝マネージャー
「こちらが、不審なドローンの飛行を検知する、ドローン検知システムです。」

この会社では、3年前にドローンを検知するシステムを実用化。高性能のカメラやレーダー、マイクによって、150m先までのドローンを探知し、追尾します。来年のオリンピックを見据えて、さらなる改良を進めたいとしています。

セコム技術開発本部 高須雅勝マネージャー
「どこからどうやられるか分からないっていうのが、一番の脅威だと思っています。早期検出して、人が対応する時間を稼ぐっていうのが一番の課題。」

一方、海外から新たな防御兵器を売り込む動きもあります。2000年代からドローン兵器を使い続けてきた、イスラエルにある企業です。

「こちらのドローンは、妨害されてコントロールができない状態です。私たちがドローンのGPSを妨害しているのです。」

開発したのは「妨害電波」によってドローンを撃退するという新兵器。
まず、半径5km以内のドローンをレーダーやカメラで検知。危険と判断した場合は、電磁波を発射しドローンのコントロールを奪うことができるといいます。現在、紛争地域などで実戦配備を進めています。

ラファエル社 開発責任者
「こうしたシステムを必要とする顧客は世界中にいます。もちろん、わが社は日本のオリンピックも視野に入れています。」


4年前にドローン兵器の脅威について作品にした、さいとう・たかをさん。ラストシーンで描いたのは、主人公が電磁波を使ってドローンを撃退する姿でした。兵器が、新しい兵器を生み、悲劇が繰り返されていく現状に、やるせない思いを感じています。

劇画家 さいとう・たかをさん
「人間のばかばかしさは描いているつもり。こんなことしていたら、どうしようもないぞという。戦争ばかりにもし、いってしまったら、突き詰めて、人間が全滅するまでになる。もうそろそろ、気が付いてもいい。」


合原:関西空港でドローンのようなものが目撃されたという情報がありました。一時的に離着陸が見合わせとなり、39便に遅れが出るという事態も起きています。

武田:そのドローンへの対策ですが、防衛省は来年度の概算要求で、およそ28億円を計上しています。妨害電波で飛行をできなくする装置や、網で捕獲する機材を導入することが有効かどうか、検討する費用として盛り込んでいるということなんですが、取りうる対策として、岩本さんが挙げているのがこちらです。まずは、競技会場や主要空港上空での飛行禁止。それに加えまして、やはり電波妨害は検討されているということですね。

岩本さん:飛行禁止は、今の現行法で規定されているんですけど、※注 違法な飛行をしているドローンに対する対抗措置の具体的な規定がないんですね。電波法では、電波妨害が違法となっていますので、例えば警察とか自衛隊が電波妨害装置を使用することが、合法か違法かということは不明確で、例外規定として認めるような法改正が必要だと思いますね。もう1つは、今は誰でも購入できて使用できると。それを例えば、ドローンの購入者の年齢制限とか免許制とか、ドローン本体の機体の登録制といったことで、誰が使用して誰が購入したかということを明確にして、軍事転用されないようにする法規制が、今後、必要になるだろうと思います。


※注 この発言について、誤りがありましたので、訂正します。電波法では、電波の妨害をしてはならないとされていますが、地震などの災害や暴動、その他の非常事態においては、「非常通信」として適用除外となります。そのため、現行の電波法でも、違法な飛行をしているドローンへの対応については、「非常通信」として、電波妨害をすることは可能です。従いまして、現行法の中に対抗措置の具体的な規定はあります。

どう向き合う?“新たなテロの時代”

武田:ドローンが軍事目的やテロに使われる事態が拡大していますけれども、こうした状況にどう歯止めをかけるべきなのか。キーワードを書いていただきましたので、お示しください。

岩本さん:「共通認識」ということで、我々は、やはり武装ドローンの拡大が国際緊張を増幅させるということを、もう一度、共通認識を持つ必要があるだろうと。そして、国際規制の自主的な国際枠組みを、もう一度、再構築する必要があるというふうに思います。

武田:保坂さん、新たな貧者の兵器というお話がありましたけど、その貧者の兵器を使ったテロの時代に、どう向き合えばいいのか。キーワードをお願いします。

保坂さん:私のキーワードは、「ヒトゴトではない」ということです。軍事ドローンの利用を減らすためには、そもそも紛争を解決しなければならないというんですけれども、これは多分なかなか難しいので、そういう時代に今、我々がいるということを意識することが重要なんだと思います。かつて、官邸、あるいはアメリカのホワイトハウスにドローンが落ちるという事件もありましたし、最近ではデンマークで警察がドローンによって襲撃を受けるという事件。また、ISによって感化された人が、シリアにドローンを密輸しようとしたこともありました。それが、ヨーロッパ、あるいは中東での出来事ではなくて、場合によっては日本にもやってくる可能性があるということを、やはり認識する、意識することが重要だと思います。

武田:さまざまな利便性があるドローンですけれども、それが世界の分断や混乱を、さらに深める可能性があるということを自覚しなきゃいけない。

保坂さん:そうですね。ドローンは技術としては、日本の未来にかかっているものなので、非常に悩ましいところではあると思います。