2019/05/14

「いつでもつながる」携帯電話であるために “電波と基地局の番人”の24時間に密着

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都内某所にあるKDDIの「モバイルオペレーションセンター」、通称「MOC」の模様である。

モバイルオペレーションセンター

ここでは、携帯電話の通話やデータ通信の拠点となる日本全国約20万カ所の基地局が正常に稼働しているかをチェックし、常にお客さまが安心して携帯電話を使えるように、24時間365日体制でネットワークを監視し続けている

携帯電話の通話やデータ通信が滞ってしまった時など、日本全国のauの通信インフラのトラブルを検知するのがこの場所なのだ。情報をいち早くキャッチし、サービスを途切れさせないよう、あらゆる対応をとる。

ここでの判断と対応如何で、auの通信サービスに影響が出る可能性もある。MOCのスタッフたちは常にシステムを監視し、影響が及ぶ恐れがある場合には迅速な対処が求められている。

今回「TIME & SPACE」はMOCに潜入し、携帯電話サービスを正常に提供し続けるための仕事に密着してみた。

MOCの監視対象は「基地局」「交換機」「データ通信」

MOCには、全国の携帯電話基地局や、それらを束ねる交換機の動作状況、リアルタイムのデータ通信量といった情報が寄せられている。全国の携帯電話基地局一つひとつの正確な場所はもちろん、それぞれの動作状況や、どれくらいの端末がアクセスしているかまで確認することができる。

MOCは3つのグループに分かれて携帯電話の通信を見守っている。

①無線グループ
②交換グループ
③パケットグループ

まずここで、携帯電話がつながる仕組みを簡単に説明しておこう。携帯電話は発信した電話機から、かけた相手の電話機に直接つながるわけではないのだ。

携帯電話のつながる仕組み

日本のあちこちには「基地局」と呼ばれる無線通信装置が設置されている。その数は約20万局。携帯電話から発信すると、まず、その携帯電話にいちばん近い基地局につながる。

基地局では電波を信号に変換し、光ケーブルを通じて交換機へ送る。交換機は通信相手の最寄り基地局に対して、信号を送る。目当ての基地局に送られた信号はまたそこで電波に変換され、相手の携帯電話に届く。

「無線グループ」が監視するのは、まず携帯電話がつながる全国の基地局。そして、基地局どうしをつなげる交換機を監視するのが「交換グループ」の役割だ。

また、携帯電話では通話以外にも、メールやSNS、動画やインターネットコンテンツ閲覧なども行われる。そうしたデータ通信が正常に行われているかどうかを監視するのが「パケットグループ」の役割である。

これら3つのグループがそれぞれの対象を日夜見守り続けているからこそ、携帯電話は安心して使えるというわけだ。では、それぞれの仕事を順番に見てみよう。

基地局を見守り、トラブルに対処する「無線グループ」

「基地局が正常に機能しているかをモニターで監視しているのです」というのは「無線グループ」の卞小鵬。

 KDDI運用本部モバイルオペレーションセンター運用2G 卞小鵬 KDDI運用本部モバイルオペレーションセンター運用2G 卞小鵬

「監視はモニターで行います。基地局にトラブルが発生すると、アラームがでるんですが、モニターに色と音で示され、表示が赤ならばすぐに対処が必要ということがひと目でわかるようになっています」

モバイルオペレーションセンターで、次々届くアラームを確認するスタッフたち モニターに表示されるアラームは、重要度によって色分けされている。白色の事項は問題なし。黄色、およびオレンジ色のラインは経過観察事項。これが赤になると即対処すべき事項になる

「どこの基地局からどんなエラーが発生したのかはモニターで確認でき、そのほとんどはMOCからの遠隔操作で修復できるようになっています」

無線グループの管轄において、遠隔で対応できないトラブルが発生した場合にはMOCから、各地域の基地局の管理・修繕などを担当する全国にあるテクニカルセンター(TC)へ出動要請し、現地のスタッフが現場に向かうことになる

数万か所の基地局を束ねる交換機を見守る「交換グループ」

「全国約20万か所ある基地局からの信号を集約する交換機は、全国にあるTCに配置されています。交換機ひとつで数万の基地局を受け持つので、仮に交換機がひとつダウンすると、通信には莫大な影響が出ることになります」

そう語るのは「交換グループ」の舩倉洸太朗。

KDDI運用本部モバイルオペレーションセンター運用2G 舩倉洸太朗 KDDI運用本部モバイルオペレーションセンター運用2G 舩倉洸太朗

トラブルが発生すると甚大な影響が出かねないため、そもそも交換機はダウンすることのないように構成されている。もし万が一仮に交換機にトラブルが発生した場合でも、通信が途切れないよう、事前にバックアップシステムが準備されている。そして、すぐにMOCから遠隔でオペレーションできるようになっているのだ。

「交換機のトラブルを遠隔制御できないケースは稀です。万が一の場合でも、全国のTCに配置されている交換機設備に対して、MOCとTCとが連携して現地対応することで即座に復旧することができる環境を整えています」

「パケットグループ」は安定したデータ通信の監視

MOCではデータ通信に関しても24時間365日監視を続けている。メールやSNSで安定的にコミュニケーションができ、動画やインターネットコンテンツを楽しめる背景には「パケットグループ」による、たゆまぬ監視と日常的な“準備”があるのだ。

MOCで「パケットグループ」を担当する飯田直人は言う。

KDDI運用本部モバイルオペレーションセンター 飯田直人 KDDI運用本部モバイルオペレーションセンター 飯田直人

「たとえば花火大会や音楽フェスなど、普段は人が少ないところに一時的に大勢が集まって一斉にデータ通信を行うような場合は、そのエリアにある基地局のデータ許容量をあらかじめリサーチしておきます。通信障害が発生しそうな場合は、臨時の基地局を準備したり、他のグループと連携し車載型基地局を派遣してもらうこともあります」

また、特定の場所だけでなく、イベントや年末年始の「あけましておめでとう」メッセージなど、全国的にデータ通信量が急増しそうなタイミングも常に予測し、事前にサーバーを増設するなどの準備を行っている。だが、予想外の事態が発生することもある。

「勉強になったのは、日本海側のある港町の通信量が突然上がったときの話ですね。データ通信量が上がっていたのは、旧日本軍の軍港がある場所ばかりで……。調べてみたら、戦艦を擬人化したある人気ゲームの聖地巡礼イベントだったそうなんです。つながらなくなったわけではないんですが、こうした異常が発生した場合は、グループのスタッフで情報を収集し、とにかく原因究明を急ぐことを学びました。そして、場合によってはMOCから制御などをかけて、円滑にデータ通信ができるようオペレーションが必要なんです」

そういった経験が以降の監視の知見ともなる。

KDDIのその他の部署が業務を離れても、いついかなる時でもMOCでは日本全国の携帯電話の通信状況を見つめ続けている。そして届けられるアラームに応じて、的確な判断を行い、通信をつなぎ続けている。たゆまぬ監視へのプレッシャーは相当なものだ。

「MOCで私たちは、まずリアルタイムで発生している障害に直面します。モニターに次々と現れるアラームを目にすると、“的確な対応をしなければ”というプレッシャーに押しつぶされそうになりますが、ここでの判断ミスが日本全国の通信に対して影響を及ぼすと考えると、責任感に背筋が伸びます」

KDDI運用本部モバイルオペレーションセンター 宮里梨亜 KDDI運用本部モバイルオペレーションセンター 宮里梨亜

と、MOC無線グループの宮里梨亜。入社後最初に配属されたのがMOCだった。当初はプレッシャーからリアルに「お腹が痛くなることもあった(笑)」というが、今では着実に業務を遂行している。

MOCから遠隔で対応できないトラブルにはTCが出動

ここまではMOCから遠隔対応するケースだけを見てきた。だが、基地局の故障や障害など、物理的な作業を伴う場合は、現地スタッフが現場に赴く。ここで、昨年発生したふたつの現場対応について、各TCが知識と経験を頼りに臨機応変に作業を展開する模様を紹介しよう。

愛媛県・松山市の基地局トラブル対応

MOCにアラームが出たのは、2018年1月の夜のことだった。松山市と高知市に連なる山中にある基地局にトラブルが発生したのだ。すぐさまMOCは、このエリアを担当する西日本TC 高松フィールドグループに出動を要請した。

西日本TC 高松フィールドグループの中村裕一は言う。

西日本TC 高松フィールドグループ・中村裕一 西日本TC 高松フィールドグループ・中村裕一

「本来ならば、基地局へは徒歩1分の距離までクルマでアプローチできるのですが、前年秋に発生した土砂崩れのために、道路崩落現場より先は徒歩で基地局まで行かざるを得なかったんです」

そのため夜間の出動は困難。加えて、障害発生の翌日は荒天のため、出動を断念することになった。実際に出動することができたのは翌々日の朝になってからだった。

クルマで接近できるところまで行き、そこからは徒歩。
下の写真が、その徒歩のスタート地点だ。ここから基地局までは約2.6kmの道のりだ。

基地局への道のり

時おり雪が舞うなか、現場スタッフ8名は道なき道を進む。

基地局への道のり

トラブルの解決に必要な機器は総重量80kg。それだけの荷物を背負い、作業時に着用する重い安全靴で山道を登らなければならない。

基地局への道のり

ときに、ロープを使って崖を登り、約60分かけて、ようやくトラブルに見舞われた基地局に到着。

トラブルに見舞われた基地局に到着

約1時間の作業で、基地局の部品の交換は完了した。ここで、基地局が正常に動作しているかどうかを確認するのは、遠く離れた東京のMOC『無線グループ』。その後、MOCではトラブルのアラームが消えたことが確認された。

「悪路のなか、重い荷物を担ぎ、体力的にも精神的にもつらい状況でした。このレベルの現場作業は、年に1度あるかないかですが、お客さまのために少しでも早く不具合を解消したかったので、無事対応ができて本当に良かったと感じたことを覚えています」

中村の顔は晴れ晴れとし、充足感に満ちあふれたものだった。

北海道・礼文島の基地局復旧対応

香深(かふか)は北海道礼文島東岸にある礼文町の中心集落。トレイルコースとしても知られる桃岩近くの山頂にある基地局が2018年3月、北海道を襲った爆弾低気圧の影響でトラブルに見舞われた。

この時、復旧対応した基地局がこちら。

礼文島の雪深い山頂に位置する基地局

札幌TCの中村健志は説明する。

「礼文島は、春から夏にかけては約300種の高山植物が咲き乱れ、“花の浮島”とも言われる島なのですが、冬場は環境が厳しく、針葉樹すら育つことができないような場所です。この時に対応した基地局は、冬季間は積雪により車両での進入が困難な山頂に設置されていました」

札幌TC・中村健志 札幌TC・中村健志

札幌TCから礼文島までは、まずクルマで稚内まで7時間の移動。その後フェリーで2時間を要する。MOCでアラームが表示された翌朝、現地保守班2人が復旧機材を準備し、札幌を出発。

「冬の夕暮れは早く、礼文島に到着した時間からの雪山登頂は危険と判断し、その日は礼文島に宿泊。翌朝の対応としました。また、基地局対応に加えてトラブルの長期化を考慮して、車載型基地局も別班にて出動しており、礼文町役場で立ち上げを行うべく準備をしていました」

ちなみにこちらが車載型基地局。

車載型基地局

これは礼文の対応時の様子ではないが、車載型基地局はこんなかたちで立ち上げられる。アンテナなどの通信設備を搭載し、それ1台で基地局を開設できるのだ。

一方、保守班が向かう山頂の基地局は、約1.2 kmの徒歩での“登頂”が必要になるため、翌日は早朝から準備を開始。

礼文島の基地局を見舞う爆弾低気圧に伴う吹雪

だが、爆弾低気圧に伴う荒天に行く手を阻まれ、待機を余儀なくされた。

ようやく晴れた礼文島の基地局近辺

天候が回復し、登頂を開始することができたのは出発してから5時間30分後のことだった。約1時間で基地局に到着。機器を交換し、現場でもMOCでも基地局の復旧を無事に確認したのである。

「北海道の冬は路面凍結および吹雪、ホワイトアウトなど、ただクルマで移動するだけでも大事故につながる恐れがあります。このときも天候は荒れており、重量のある車載型基地局での長距離移動も非常に慎重に対応しました。基地局へは、都合2回の登山を試みましたが、ここでも慎重に慎重を期して行動しました。今後も安全第一を心がけ、早期復旧に努めていきたいと考えています」

東京のMOCでは24時間365日、お客さまが安心して快適に携帯電話を使い続けることができるように、携帯電話ネットワークを見守り続けている。そして、全国には現場に赴くプロフェッショナルたちがいる。なにかトラブルが発生すれば、素早く現場に駆けつけ、早急に復旧、通信の安定した供給に全力を注いでいる。

モバイルオペレーションセンターの面々

携帯電話は今、日本中のほとんどの場所でつながる。それが当たり前の世の中になった。だが、その当たり前を維持するために、現場ではたゆまぬ地道な努力が続いているのである。

写真:稲田 平
文:武田篤典

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