2019年現在、川崎市の人口が神戸を抜き全国市町村で6位と増加傾向にあり、各区内で都市開発が進み街に活気が溢れています。そんな川崎市を代表するサッカークラブが川崎フロンターレです。中でも、地域貢献に力を入れて面白い取り組みをしていると話題になっています。
今回はそんな川崎フロンターレの地域貢献について分析していきます!
目次
川崎フロンターレは地域貢献で集客UP?
川崎フロンターレは1996年に創設された川崎市をホームタウンとするサッカークラブで、クラブネームの「フロンターレ」は イタリア語で「正面」「前飾り」を意味しています。これは常に最前線で挑戦し続けるフロンティアスピリッツ、正面から正々堂々と戦う姿勢を表現したものだそうです。
ホームグラウンドは等々力陸上競技場で、収容人数は現時点では26,232人ですが、改修工事が進められており、2020年以降には35,000人になると発表されています。今後ますます盛り上がりが期待できるクラブです。
そんな川崎フロンターレですが、クラブが創設される以前は川崎市ではスポーツチームが根付かず、発足当初の観客動員数は3,000人しか集まらないこともあったそうです。
そんな川崎フロンターレが今の人気を築けたのは、地域貢献が大きな要因を担っていると考えられます。
地域貢献度9年連続1位!そのワケは?
Jリーグが毎年行っている「 Jリーグ スタジアム観戦者調査 サマリーレポート」で川崎フロンターレは「ホームタウンで大きな貢献をしている」という項目で9年連続1位に輝いています。
参考 J.LEAGUE™ FAN SURVEY 2018SUMMARY REPORTJリーグ スタジアム観戦者調査2018 サマリーレポート・Jクラブはホームタウンへ貢献していると評価している
・Jクラブがそれぞれの地域で重要な役割を果たしていると感じている
上記の質問の両方で、川崎フロンターレは Jリーグ内でトップの割合となっており、地元に大いに貢献していることが分かります。ではどのような活動を行っているのでしょうか。
川崎フロンターレでは1年に5~6回ほど選手が全員参加で地元の各イベントに参加しています。更に、選手たちが3~4人のグループになって参加するものもあり、合わせると年間20回以上の社会貢献活動を行っており、2週間に1回は選手と地元の方の交流があります。
更に川崎フロンターレでは、「地域の行事には無償で参加する」というニュアンスの文言が入団契約書に盛り込まれています。
参考 川崎フロンターレ編/Jリーグの社会貢献活動には特別な理由がある【特別企画】dmenu ニュース川崎フロンターレでは2009年から市内113校の小学6年生を対象に算数ドリルが配布されています。また、ドリルを題材にした算数ドリル実践教室も開催されており、選手のシュートスピードの計測や事前に計算した上で選手と同時にゴールできるように走るなどを、子供たちの成長にも様々な角度から寄与しています。なお、この算数ドリルは川崎市内の小学校で、副教材として73%の採用率を誇っています。
参考 2018 川崎フロンターレ算数ドリル実践学習川崎フロンターレ公式サイトこの他にも、川崎フロンターレではスペシャルサプライヤーである「株式会社ドール」の協力で「かわさき応援バナナ」というブランドを立ち上げています。川崎市内の量販店で売られているバナナ1パック(1房)販売につき3円がフロンターレに寄付され、その全額を「 等々力陸上競技場全面改修の費用 」として川崎市に全額寄付しています。
参考 かわさき応援バナナ川崎フロンターレ公式サイトクラブ創設23周年を記念して川崎市、日本郵便株式会社協力のもと川崎市7区にそれぞれ1つずつ歴代ユニホームをあしらったフロンターレポストの設置を行いました。市内全区で Jリーグクラブのラッピングポストが設置されるのは全国初で今注目を集めています。
このような施策は他チームも行っていますが、前例のない取り組みを多く行い地域と密着することで市民からの支持が集まり、今の地位を確立しています。
川崎に根付かなかったスポーツチームの歴史
今でこそ地域に愛されていますが、実は川崎フロンターレ創設以前は川崎にスポーツは根付かないと言われていました。ここで川崎市をホームタウンにしていたチームの歴史を追求していきます。
現在の横浜DeNAベイスターズは1955年~1977年まで川崎市を本拠地とし、大洋ホエールズとして活動していました。ホーム球場は川崎球場でした。
70年代に入ってから球場の老朽化が加速し、施設や立地、集客力などの問題もあり1977年で本拠地を隣接する横浜市にしました。
大洋ホエールズが横浜市に本拠地を構えた年に川崎ロッテオリオンズが移転し、1978年から1991年まで活動を行いました。
川崎市は積極的な誘致を行いホームタウンとなりましたが、肝心な川崎球場の改修はあまり行われませんでした。その後、1989年のダブルヘッダーを機に工事に着手し、1991年の春に完了しました。
ですが、同時期に千葉市が千葉マリンスタジアムを竣工させ本拠地誘致を行ってしました。長年にわたり川崎市が改修を行わなかったことから、ロッテオリオンズは1992年に本拠地を千葉市に移転しました。
親会社に読売グループを持つヴェルディは当初、「スター選手を集めてTVで毎試合中継を行い、全国にファンを作る」方針をとっていました。また、スポンサーの意向で
・チーム名に「読売」をいれること
・ホームタウンを東京にすること
が求められていましたが、Jリーグの理念として「企業色を排し地域密着型運営を志向」することと明記されており、チームの方向性とは一致していませんでした。創設当時、条件を満たすスタジアムがなかったことからホームタウンを東京に近い川崎市にしました。
1994年~1995年に観客席の改築を行いますが、ヴェルディは1995年までチャンピオンシップでの主催試合を国立霞ヶ丘陸上競技場で開催していました。
また等々力陸上競技場の芝の環境が悪く、芝の剥がれや枯れを隠すため、一時期は緑色に塗装した砂をピッチに散布していました。そして、東京スタジアム(現:味の素スタジアム)が完成後、本拠地を移転しました。
3つものプロスポーツチームが本拠地を川崎から移転しており、「川崎ではスポーツは根付かない」というイメージが市民に定着してしまったのでしょう。
ではどのようにして今のようなスタイルを定着させたのでしょうか。当時の戦略をフレームワークで落とし込んで川崎フロンターレが行った施策を分析していきます。
フレームワークで分析!川崎フロンターレの地域貢献と集客の関係性
では、川崎フロンターレがここに至るまでに行った施策を分析していきたいと思います。注目するのは以下の点です。
- 川崎市民の顕在ニーズ
- 川崎市民のインサイト
- 川崎フロンターレの競合
- 川崎フロンターレでできる体験
川崎市民の顕在ニーズ
上記でも述べましたが、川崎市をホームタウンにするチームは多くあったものの中々根付きませんでした。そこで川崎市民の顕在ニーズはこちらだと考えました。
・川崎はスポーツ不毛の地
・どうせホームタウン変える
何度もプロスポーツチームが本拠地にするもの、中々定着しなかった経緯から考えました。ですが、インサイトはどうなっているのでしょうか。
川崎市民のインサイト
建前としては、「どうせまたいなくなるだろう」と考えていた川崎市民のインサイトはどうなのでしょうか。以下のように考えました。
・地元で根付いてほしい
・地元のことを見てほしい
・集客が少ないからって諦めないでほしい
建前としては諦めていた市民の方々も潜在意識として、川崎で日本を代表するチームが欲しかったのではないでしょうか。また Jリーグの理念にも地域密着とあります。
地元に対する人々の傾向として
・帰属意識が高く
・愛着がある
傾向が見られます。そんな地元のことを見てくれている存在を人は応援したくなるのではないでしょうか。ファンになればリピーターとなり多くの試合を観戦してくれます。そういったファンを多く作るにはまず地元に愛させるチームになることが大事だと川崎フロンターレは考えたと思います。そこで川崎フロンターレが行った地域貢献への施策を見ていきます。
川崎フロンターレの競合
地域住民をターゲットにする上で川崎フロンターレの競合となるものをピックアップしました。
・レジャー施設
・ショッピングモール
・他のサッカークラブ
・他のスポーツ(野球など)
などが挙げられます。上記の競合と比べて地元の人が川崎フロンターレの試合を見に行きたくなるような体験はどのようなものなのでしょうか。次に川崎フロンターレでできる体験をみます。
川崎フロンターレでできる体験
【1】スタジアムに行くまで
川崎フロンターレの最寄り駅や付近の駅周辺では川崎フロンターレのポスターや装飾が飾られています。
また、先程ご紹介した算数ドリルや応援バナナに加え、自動販売機もあります。こうした工夫で町中に川崎フロンターレの雰囲気が彷彿されます。
【2】スタジアム周辺
等々力競技場の周辺には「フロンパーク」と呼ばれる川崎に因んだイベントやアトラクション、グルメが楽しめるイベント会場があります。こちらはホームゲームが開催される時は必ず行っています。こちらでは各テーマに沿ったイベントを多く行っており、主にファミリー層で楽しめるコンテンツが多く見られます。またグルメも川崎市の一部地域で盛んなグルメを取り扱っており、多くの人に川崎市の魅力が伝わる空間となっています。
【3】スタジアム内
スタジアムに入ると、スタジアムグルメが楽しめます。また座席にもこだわりがあり、「ファミリーシート」では席の前方に遊び場があり小さいお子様が遊んでいる姿を見ながら観戦することができます。座席はベンチシートでテーブルもついているため家族向けのシートとなっています。
そしてスタジアム内には田園調布大学協力の託児室もあります。他のクラブでも実施されていますが、利用者が2~3名程に対し川崎フロンターレは、事前予約制で定員が15名で毎回満員になるほど人気です。また利用料金が1000円と安い価格なのも支持されている要因の一つと言えるでしょう。
【4】イベント
川崎フロンターレと言えば地域貢献の他にも有名なものがあります。それは風変りなイベントです。これは、元プロモーション部部長の天野春果さんも仰っており、
「川崎フロンターレのプロモーション企画を考えるとき、僕にとって不可欠な軸が6つある。①地域性、②話題性、③社会性(公共性)、④低予算、⑤営業という5つの要素と⑥ユーモアというひとつのプラスアルファだ。」
※出典:スタジアムの宙にしあわせの歌が響く街 天野春果 著
天野さんは川崎フロンターレでの活躍によって、2017年から東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に出向しています。そんな川崎フロンターレが今まで行ってきたイベントとはどのようなものなのでしょうか。
「川崎の車窓から~東急グループフェスタ~」 では川崎フロンターレの最寄り付近を東急電鉄が走ることから地域性が高いコラボレーション企画となっている。記念一日乗車券などのグッズ販売や貸切臨時列車ホームツアーなど多彩な企画で大井に地元を盛り上げました。
「宇宙強大2DAYS」ではクラブ創設20周年を記念してJAXAと人気漫画「宇宙兄弟」とのコラボレーションが話題を呼びました。宇宙をイメージしたユニホームの着用・販売や宇宙との生交信が行われ他にも様々なイベントを行い、子供から大人まで楽しめるイベントになりました。
これらの体験から地元の方は川崎フロンターレの試合を見にいくのではないでしょうか。ですがいくら話題になっても実際に数字で成績を出さないと意味がありません。これらの施策でどれだけ影響があったのでしょうか。
データで見る!川崎フロンターレ
これらの施策を行った結果、川崎フロンターレはどのような推移を辿ったのでしょうか。地域貢献度が Jリーグで1位になった2010年からのデータを見てみました。
次に、ファンクラブの会員数の推移をグラフ化しました。
地域貢献度が1位になった2010年からどの数値も増加傾向にあり、施策の効果はあったと見れます。
また、スタジアムの満員率を調査した記事では J1では2位になっています。つまり、スタジアムに行きたくなるような施策の数々は成功と言えるでしょう。
まとめ
分析を進める中で、多くのプロモーションの記事を拝見しました。これだけ「地域貢献がすごい」と言われるのには地域に寄り添った、地域のことを考えた行動があったからと感じました。今後の活動やプロモーションにも注目していきたいです。