卒業式で教職員に国歌斉唱や国旗に向かっての起立を指示した校長の職務命令が、思想・良心の自由を定めた憲法19条に反するかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(須藤正彦裁判長)は30日、「命令には必要性、合理性がある」として合憲とする初判断を示した。各地で多数争われている同種訴訟に影響しそうだ。
そのうえで同小法廷は、不起立を理由に退職後の再雇用を拒否した処分の取り消しや損害賠償などを東京都に求めた元都立高校教諭、申谷雄二さん(64)の請求を退けた二審判決を支持し、申谷さん側の上告を棄却。申谷さん敗訴が確定した。
判決理由で同小法廷は、起立・斉唱を求める職務命令は「個人の歴史観や世界観それ自体を否定するものではない」と指摘しつつ、日の丸・君が代への敬意を表明したくないと考えている人にとっては「思想・良心の自由を間接的に制約する面がある」と認めた。
ただ、卒業式や入学式などの学校行事の円滑な進行の必要性や、学校教育法に基づく学習指導要領で国旗国歌条項が定められていること、全体の奉仕者である公務員の職務の公共性などに照らすと、起立・斉唱は「教育上の行事にふさわしい秩序確保などが目的」と指摘。思想・良心の制約には「許容できる程度の必要性、合理性が認められる」と、4裁判官の全員一致で結論付けた。
一、二審判決によると、申谷さんは2004年3月の都立高の卒業式で起立せずに戒告の懲戒処分を受けた。その後は起立したが、定年退職後の再雇用選考で不合格とされた。
一審・東京地裁は09年1月、職務命令を合憲とする一方、再雇用の拒否は裁量権の乱用に当たるとして約210万円の支払いを命じた。これに対し二審・東京高裁は同年10月、裁量権乱用を認めず賠償命令も退け、申谷さんの逆転敗訴とした。
申谷さんは判決後、記者会見し「起立や斉唱を強制すれば愛国心が育つというのは薄っぺらい考えだ」などと強調。「静かな抗議として座っていただけなのに処分された。憲法で許される範囲の行動と思っていたが認められず、最高裁判決には失意がある」と話した。