「本当に怖い、でも戦い続ける」普通の香港市民が抱く、心震える思い

「長期戦」への覚悟が固まった
ふるまい よしこ プロフィール

――その気持ちというのは、やはり政府や警察に対しての怒り?

黄:そうですね。わたしの場合はとても大きな挫折感でした。数ヶ月間もデモ活動や訴えが繰り返し行われているのになんの反応もない。逆に事態はますます悪化し、対応する側の暴力もますますエスカレートしている。ものすごい無力感に苛まれました。

多くの人たちが毎日のように、それも若い人たちを中心に2000人以上が逮捕されているんですよ。そこにはローティーンすら含まれていて、殴られ、あるいは銃で撃たれる様子を目にして、助けの手も差し出せない。どうしたらいいのだろう、と。

 

中国の親戚は理解してくれない

――奥さまは中国にご実家の家族がいらっしゃるんですよね、心配しておられるのでは?

黄:例年通り今年も夏休みに一家で里帰りしたんですが、実家の家族と顔を合わせるたびに大議論になりました。

彼らの情報環境はとても狭くて、彼らが目にするのは中央電視台が流す、ニセのニュースだけ。政府が見せたいもの、伝えたいものだけを流している。

里帰りはとにかくそんな人たちと大議論ばかりしてました。家族、友だち、同級生…「あなたたちが目にしている情報はどれもウソよ、一方的な視点でしか伝えていないわ。信じちゃダメ」と言っても、彼らはわたしの方を疑うんです。「政府は自分たちを騙したりしない」って。ほんの一部の、きちんとした分析力を持っている人は理解してくれましたが、そんな人は本当に少数。ほとんどの人が政府が言うことをそのまま受入れて、香港人が「暴れている」と思っている。

――ご家族は、理解してくれたのではないですか?

黄:父はなんとなく理解してくれているようです。でも、わたしの友人には公務員だった父の同僚やその子どもたちがいて、今では政府の機関内で働いていたり、警察官になった人も多い。彼らが集まる場でそういう主張をすることは止めておけ、と父たちは言っています。わたしも以前はSNSに香港の写真なんかを流していたんですが、それらはフィルターで隠されていて、中国にいる人たちは受け取っていなかったようです。

だから、何を言っても無理なんです、すべて隠されちゃってますからね。さらにはこちらや両親に危害が及ぶ恐れもある。だからもう書かなくなりました。

とにかく里帰り中は人に会うのも嫌になって、毎日腹を立てていました。テレビでニュースを見ても腹が立つ。特に林鄭月娥行政長官の姿を見ただけで怒りが湧いてくる。

先日、立法会で彼女が施政報告発表をしたとき、民主派議員が抗議の声をあげて報告を中断させる様子を見て、いい気味だと、息を吹き返しましたよ。もしわたしが議場にいたら、絶対に壇上に駆け上って彼女を蹴飛ばしてやったわ(笑)。