東日本に甚大な被害をもたらした台風19号の影響で、少なくとも東京や神奈川など13都県の100を超える公立図書館で浸水や雨漏りなどの被害が出たことが、文部科学省への取材で分かった。蔵書や貴重な資料がぬれる被害は大学図書館でも相次ぎ、地下の書庫ごと水没した事例もある。蔵書を守るための対策が手薄な図書館は多く、国も対策に乗り出す方針だ。
阿武隈川が氾濫し、市街地の大部分が浸水した福島県本宮市。1階に図書室がある中央公民館は、高さ約2メートルの自転車置き場の屋根まで水に漬かり、中に入れるようになったのは浸水から丸1日たった後だった。
本棚の2段目までが水没し、泥は5センチほどたまった。浸水時に本棚から浮き出て散乱した本もあり、蔵書4万冊のうち1万冊以上が被害に。ここにしかない1986年8月5日の大水害を記録した資料もあった。司書の斎藤美香さん(41)は「(被害を)想像できなかった」とこぼし、貴重な資料はキッチンペーパーを挟んで乾燥させるなどして修復を試みている。
文科省によると、28日までに東北や関東など13都県にある107の公立図書館で被害が確認された。そのうち雨漏りは56施設で、浸水被害も13施設に上る。いまだ復旧作業中で閉館したままの施設も少なくない。
大学図書館でも多くの蔵書が水損した。国立大学図書館協会によると、被害は東京大など5の国立大学に及んだ。屋上の扉から浸水した一橋大学付属図書館(東京都国立市)では1万~2万冊が水にぬれたとみられる。
近くに多摩川が流れる東京都市大学の世田谷キャンパス(東京・世田谷)は、図書館を含む敷地内の広範囲に川の水が流れこむ被害を受けた。視聴覚コーナーや書庫のある地下は天井まで水没し、蔵書の3割にあたる約9万冊が水没した。
地下の復旧作業は着手まで1週間ほどかかり、本には泥だけでなくかびもはえた。再開のメドは立たないままだ。同大学の企画・広報室の山本卓課長は「下水が含まれた水で本の傷みが激しい。修復するにも多額のコストがかかりそうだ。今後は地下に書架を配置しない選択肢も含め対策を練りたい」と話す。
都立図書館は2013年度に資料を守るために防災マニュアルを作成。書籍が水損した場合の対処法をホームページで紹介している。
作成に携わった都立中央図書館(東京・港)の資料保全専門員、真野節雄さん(68)は東日本大震災の被災地、岩手県陸前高田市の図書館でボランティアとして書籍の修復などの応急処置に対応した。今回は浸水した本宮市の図書館から修復について相談が来ているという。
真野さんは「資料の防災対策は図書館ごとに委ねられているため、災害に対する危機感が薄いところがあった。今回は多くの施設が浸水被害を受け、危機意識がようやく変わりはじめている」と指摘する。
図書館の書庫は温湿度の変化や紫外線の侵入が少ないなどの理由で、地下に設けられるケースが多い。近年まれに見る被害の広がりに国も動き出す方針だ。文科省地域学習推進課の担当者は「大きな被害が繰り返される恐れがある。国として対策マニュアル整備なども視野に検討したい」と話している。