トランプ氏の弾劾調査、米下院が決議案採択へ 「透明性を確保」と
野党・民主党が多数を占める米下院が、ドナルド・トランプ大統領が政敵に対する捜査をウクライナ大統領に働きかけたとされる疑惑をめぐる弾劾調査について、正式承認する決議案を31日の本会議で採決することが、28日に明らかになった。
民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長は、採決について「トランプ大統領や顧問弁護士への調査に対する適正手続きの権利を定める」ものだと説明している。
民主党が計画するこの採決は、トランプ氏の弾劾を決定するものではなく、弾劾調査における基本原則を確立することが狙い。
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トランプ大統領ら与党・共和党は、採決なしに開始された弾劾調査は憲法が定める適正手続き違反だと主張してきたが、ペロシ氏はこれまで共和党の採決要求に反論していた。
こうした状況で一部の共和党議員が、下院委員会の非公開聴聞会に押し入ろうとしたり、委員会の進行を妨害したりする一幕もあった。弾劾調査を進める下院委員会では、共和党議員も委員を務めているため、出席の権利がある。
さらに、民主党が弾劾調査で証言を求めている政府関係者のうち、数人が委員会証言を拒否している。ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の代理を務めていたチャールズ・カッパーマン氏は28日、証言予定だった下院委員会に出席しなかった。
政府のこうした対応についてペロシ議長は28日に民主党議員に宛てた書簡の中で、弾劾調査開始に下院本会議の採決は憲法上は特に不要だと説明。むしろ31日採決の目的は、議会調査とホワイトハウスの関係を整理し、「疑念を払拭」することが目的だと述べている。
ペロシ議長は、政府関係者が議会による召喚を拒否したり、ホワイトハウスが関係書類の提出を拒み、召喚状を無視あるいは事情を知る人物の宣誓証言を妨害したりすることが、手続き上可能なのかどうか、整理する必要性を強調している。
ペロシ議長はまた、採決によって弾劾調査の「透明性を確保し、明確な道筋を与える」ことになると、意義を強調した。
一方でホワイトハウスのステファニー・グリシャム大統領報道官は、採決の実施は「民主党が下院承認なしに勝手に弾劾調査を進めている」というトランプ氏の主張を、民主党側が認めたに等しいと述べた。
報道官は、ペロシ氏率いる民主党は「大統領への適正手続きの保護を拒んでいる。民主党が秘密裏に進めるうさんくさい非公開聴取は、完全に紛れもなく違法だ」と批判した。
民主党は、今年7月のトランプ氏とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話会談について、トランプ氏に対する弾劾調査を進めている。
ホワイトハウスが9月に公表した大まかな通話記録によると、トランプ氏はゼレンスキー氏に対し、来年の米大統領選で民主党候補になる可能性が有力視されているジョー・バイデン前米副大統領(民主党)とその息子に対する捜査を要請した。
弾劾手続きとは
合衆国憲法第2条第4節は、「大統領並びに副大統領、文官は国家反逆罪をはじめ収賄、重犯罪や軽罪により弾劾訴追され有罪判決が下れば、解任される」と規定している。
弾劾訴追権は下院が、弾劾裁判権は上院がそれぞれ持つ。下院が調査の後に単純過半数で弾劾訴追を可決した後、上院が弾劾裁判を行う。上院議員の3分の2以上が賛成すれば、大統領を解任できる。
現在の下院では、定数435議席のうち民主党が235議席を占めているため、弾劾訴追が成立する可能性は高い。
一方の上院は、定数100議席のうち共和党が53議席を占める。解任の動議成立に必要な3分の2以上の賛成票を得るには、多数の共和党議員が造反する必要があるため、大統領が実際に解任される見通しは少ない。
その一方で、トランプ氏を支持してきた共和党幹部のミッチ・マコネル上院院内総務は30日、もし下院が大統領を訴追した場合、上院としては規則上、弾劾裁判を開かないわけにはいかないと表明した。
過去の大統領で弾劾されたのは、アンドリュー・ジョンソン第17代大統領とビル・クリントン第42代大統領のみだが、上院の弾劾裁判が有罪を認めなかったため、いずれも解任はされていない。
リチャード・ニクソン第37代大統領は弾劾・解任される可能性が高まったため、下院司法委の弾劾調査開始から3カ月後に、下院本会議の採決を待たずに辞任した。