『おしん 一挙再放送▽第30週・自立編』のテキストマイニング結果(キーワード出現数ベスト20&ワードクラウド)
- 竜三
- オイ
- 魚屋
- 今日
- 佐賀
- オレ
- 気持
- 田倉
- 夫婦
- ホント
- 明日
- お母さん
- 一緒
- 大事
- タイ
- 行商
- 山形
- 手紙
- 商売
- お前
『おしん 一挙再放送▽第30週・自立編』のEPG情報(出典)&解析用ソース(見逃した方はネタバレ注意)
解析用ソースを読めば、番組内容の簡易チェックくらいはできるかもしれませんが…、やはり番組の面白さは映像や音声がなければ味わえません。ためしに、人気のVOD(ビデオオンデマンド)サービスで、見逃し番組を探してみてはいかがでしょうか?
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おしん 一挙再放送▽第30週・自立編[字]
主人公おしんの明治から昭和に至る激動の生涯を描き、国内のみならず世界各地で大きな感動を呼んだ1983年度連続テレビ小説。全297回を1年にわたりアンコール放送。
詳細情報
番組内容
おしん(田中裕子)の人生に、また、ひとつの大きな転機が訪れた。おしんが佐賀の田倉本家を出て3年が経っていた。佐賀へ残って離れ離れの暮らしが続いていた夫・竜三(並木史朗)が突然、田倉家を出て、おしんと息子の雄(ゆう)の前に姿を現した。竜三は、夢をかけていた有明海の干拓地を、一夜の台風で失い、失意のなかで満洲に旅立とうとしていた。それは、いつまた会えるかわからない夫婦の別離だったのである。
出演者
【出演】田中裕子,並樹史朗,山田昌,伊藤友乃,前沢保美,下川江那,赤木春恵,【語り】奈良岡朋子
原作・脚本
【作】橋田壽賀子
音楽
【音楽】坂田晃一
♬~
(テーマ音楽)
♬~
おしんの人生に また一つの転機が
訪れようとしていた。
夫 竜三が 突然 おしんと雄の前に
現れたのである。
失意を抱いて
満州に旅立とうとしていた。
それは いつ また
会えるか分からない
夫婦の別離だったのである。
(ひさ)諦めて どうする言うのや。
なあ 雄坊。
(竜三)ホントに 大きくなったな
雄…。
雄ば見てて 3年って月日が
どがん長かったか
よう 分かったたい。
おしん一人で あそこまでに…。
どがん苦労ばした事か…。
すまんと思うとう!
(おしん)そんな事…。
お願いです。
雄のそばに いてやって下さい。
満州へなんか 行かないで…。
おしん。 オイは
自分の土地が欲しかったけん
心ば鬼にして 佐賀に残ったたい。
誰のためでもなか。
土地も持たん三男坊の嫁が
本家に世話になるって事が
どがん惨めな事か
おしんば見てて
それば 骨身にしみたけん。
よく分かっています。
私 あんたの事
一度も恨んだ事なんかない。
オイの気持ちが
分かってくれとっなら
もう少し 待ってほしか。
土地なんか 欲しくありません。
親子3人が 真面目に暮らしてたら
飢え死にする事は ないんです。
オイでん そんぐらい!
だったら…。
オイは 亭主らしい事も
父親らしい事も
何でん しちゃおらん。
せめて 満州で 一旗 揚げて…。
あんた…。
オイでんが 男たい。
男の意地っちゅうもんがある。
分かってくれ!
♬~
おしん…。
きっと 戻ってくる!
待っててくれ!
なっとしたんや? こんな
朝早うから。 まだ4時やで。
すみません 起こしてしまって…。
今朝 あの人が
たつっていうもんで
せめて 弁当だけでも
作ってやりたいと思って…。
やっぱり 行くってか…。
あの人には
あの人の気持ち あって…。
諦めました。
おしんちゃん
あんた 物分かりがよすぎるんや。
無理に 引き止めたって…。
あの人が 心の底から
一緒にいてやろうと
思ってくれるんじゃなかったら
一生 後悔するんです。
(競りの声)
よっしゃ いこう! 20から
いってみよう! 20 どうや?
6! 6!
6! 持ってけ!
よっしゃ カレイ いこう!
10から いこう! 10 どうや?
15!
5! 5! 5!
25!
25 持ってけ!
よし 買うた!
よっしゃ タイ! タイは これ
20から いこう! 20 20!
7! 7!
持ってけ!
よっしゃ! アカウオ いこう!
アカウオ 30から!
よいしょ!
よっ!
汗 拭いて下さい。
私 代わります。
いや 大丈夫だ。
慣れてるから 私。
毎日 こがん重たか車ば
押していくとか?
私は 欲張ってるから
ほかの人たちの倍は持っていくの。
ほかの人たちより
安く売ろうと思ったら
量で 勝負しないとね。
町まで どれくらい あるんだ?
片道1里半。
女の身で こがん重たか荷物
押して 往復3里の道を?
帰りは軽いのよ 雄だけだから。
雄 降ろして 歩いたり…
結構 楽しいんだから 行商も。
せめて 雄を 誰かに預けて…。
雄まで連れていくんじゃ
大変じゃなかか。
ほかの人に 迷惑かけるようじゃ
母親の資格 ないもんね。
それに 雄が一緒だから
重い荷物だって 何でもないのよ。
代わるわ やっぱり。
すみません。
じゃあ ここで。 この道
まっすぐ行ったら 駅に出るわ。
私 お得意さん
回らなきゃなんないの。
あんまり遅いと ほかの人から
買われてしまうんだ。
元気でね。
魚屋です!
今日は いかがですか?
(よし)おはようさん!
(さだ)おはよう!
おはようございます!
今日は イカの いいのが
揚がってます!
焼き魚 何がある?
え~っと イサキに アジに
それから サバも 脂が乗って
おいしくなりました。
(さだ)ほんなら
うちとこ イサキ 7匹。
はい! ありがとうございます!
これ ホンマ ええイカやに! これ!
そうでしょ!
5 6 7!
はい! ありがとうございます!
どうも 毎度!
(よし)あら ありゃりゃりゃ!
降ってきたわ! こりゃいかん!
(さだ)降ってきたな。
(よし)おばちゃんの所 入って!
入って 入って!
すいません。
(さだ)入らせてもらうわい!
雄坊 おいない!
おいない おいない!
♬~
ガタンしたね。
よいしょ。 (雄)ガタンした。
うん。
♬~
はい おばちゃん ありがとう!
はい!
どうも ありがとうございました!
ありがとうございます!
いらっしゃいませ!
今日は カレイが きれいなのが
入ってるんですけどもね。
サバが
一番 今 脂 乗ってますけども…。
サバがいいね。
2匹 もらおうかな。
はい! ありがとうございました!
あっ どうも すいません
いつも いつも。
ありがとうございます。
よかったね 雄。 お利口してた?
♬~
(竜三)おしん。
あんた…。
大変なんだな
魚の行商っていうのは。
あんた こんなとこで…。
どがん商売ば しとっかと思って
見とったとやが
とうとう ここまで
ついてきてしもうたたいね。
途中 何度 引き返そうと
思ったかしれんと…。
ばってん 引き返せんやった。
あんた…。
しかし こがん きつか仕事とは
思わんやったたいね。
これ やらないと食べられないと
思ったら 誰だって…。
みんな やってる事だから。
でも うれしい…。
私 また これで働ける。
あんたが迎えに来てくれるまで
一生懸命 働く勇気 出た。
おしん…。
あんた 安心して
満州 行って下さい。
私は ホントに大丈夫だから!
やめたと…。
満州へは 行かん。
おしん一人に 苦労はさせられん。
手伝うよ。
オイも 魚屋ば やったいね。
♬~
おしんは 自分の耳を疑った。
竜三が 満州行きをやめて
魚屋をやる気になったなんて
おしんには とても
信じられなかったのである。
♬~
(テーマ音楽)
♬~
(竜三)ハハハ! ほら はい 行くぞ!
(雄)ポッポ~!
♬~
(おしん)行ってらっしゃい!
ポッポ~!
♬~
ポッポ~!
ただいま 帰りました~!
(ひさ)お帰り!
ただいま! 雄坊 お帰り!
お風呂が沸いとるで!
おばちゃんと一緒に入ろうな!
田倉さん…。 あんた
出発 延ばしなさったんか?
はあ~ あの…。
満州へは 行かないって。
田倉さん…。
けど よう 決心なさいましたな~。
魚の行商が
あがん きつかもんとは
思わんやったとです。
魚ば積んだ箱車を
自分で押して
1里半の道ば歩いてみて
やっと分かりました。
いや~ それはな 田倉さん
女子やよってに
できるのと違いますか?
女子は 男と違うてな
子どもや家族への愛情が
深いよってに
強うもなれるんですわ!
まあ 満州へ行って
一旗 揚げるて言うても
私が なんとかなるまで おしんは
行商ば続けんとならんです。
そいば思ったら
こがん苦労は させとうはなか。
させてはいかんて思うて…。
行商ば続けっとない
せめて 箱車だけでも
押してやりたかとです。
(ひさ)いや~ よかったな
おしんちゃん! はい。
やっぱり あんたらな
ホンマの夫婦やったんや~!
何年 離れて
暮らしとってもやで
ちゃんと 心が通うとったんやな!
羨ましい話やわ もう!
まあ これからも 何かと いろいろ
お世話になると思いますが
どうぞ よろしく お願いします!
まあ とにかくな
町に店を出す事を考えんと。
前からな おしんちゃんが
店 持った時に
ええなという
心積もりの家があるんや。
それがな 町なかから
ちょっと外れとんのやけどな
外れてるよってに
家賃が安いんや! お内儀さん。
まあ
少々 引っ込んどってもやで
そこまで お客さんの足を
運ばせるのが
商いの腕と違うか?
はい!
しかし
急に 店ば持つて言うても…。
(ひさ)元手の事やったら
心配せんかてええって!
おしんちゃんもな
夫婦が そろうたら
店を出す事が
念願やったんやから!
まあ さしあたっての費用はな
おたいが融通するよってに!
いいえ。 おかげさまで
私も 少しは 蓄えが出来ました。
いや もう 家賃 払うといっても
貸家だったら
なんとかなりますから。
おしんちゃん…。
こちらでは ホントに安い家賃で
置いて頂いて…。
漁がない時だって 佃煮だとか
かす漬けだとか 作って
持って回れましたから。
なあ あんた よう働いたもんな!
いや~ 店 出したら あんたや
雄坊やって 出ていくんやな…。
おたいも寂しゅうなるわ!
竜三が 再び
一緒に暮らす事になって
おしんの生活は
慌ただしく変わろうとしていた。
おしんも やっと魚屋の店を出す
決心をしたのである。
雄! 雄!
母ちゃん!
(ひさ)お帰り!
ただいま! 商いは もう?
はい! みんな 売れました!
今日 雄 連れていかなかったら
みんなに
「雄坊 雄坊」って 心配されて…。
ちょっと 早う早う!
このうちですか? うん!
はい!
へえ~!
あっ 思い出しました!
ここ 半年ほど前
畳屋さんだった所じゃないですか。
そうやがな。
ほんで 土間が広いんや。
あ~ この土間は
このまま 店になりますね!
そうやな。
魚を並べる台さえ 入れたらな。
あっ でもね 店に 魚 並べると
傷み 早いから
木箱とか樽に入れて なるべく
新しいままで置いとけるように
氷も たくさん使って…。
ほな 樽とか木箱だけかいな?
はい。 店 開いたって
しばらくは 今までどおり
お得意さんは 昼までに
回るつもりでいるんです。
そうでもしないと
わざわざ 店までは
来てもらえないと思うから。
(ひさ)そら まあ 急にはな。
仕出しもするつもりでいるんです。
お得意さんに頼まれた
こういう料理とかを作って
それで 配達もして…。
はあ…。
オイには さっぱり分からんたい。
何の役にも 立ちそうにはなかね。
冗談じゃありません。
あんたが 一番 大変なのよ!
港まで行って お内儀さんとこから
おりた魚を買って
ここまで運んでもらわなきゃ
なんないんだから!
そら 田倉さんには 無理やわ!
今までのように あんた
箱車だけでは 間に合わへんやで!
やっぱり 店に並べる魚いうたら
荷車で仕込まんと…。
どっか もっと ほかで
仕入れるって訳には いかんとか?
だって お内儀さんとこの魚が
欲しいんだもの。
種類が多くて 安いんだから!
分かった。 オイが行く。
魚ぐらい
オイにでん 仕入れられったい。
ただ どがん魚ば買うたらよかか
それが 分からん。
それは お内儀さんに任せとけば
選んで下さるから!
ねっ お内儀さん!
ハハハハ! そのかわりな
文句 言わん約束
してもらわんとな!
お内儀さんの目に
間違いはないもの!
それから 前の日に頼まれた
魚なんかがあったら
紙に書いて
持っていってもらいますから
その時は
よろしく お願い致します!
もう 明日からでも
店が開きそうやな!
ほな 大家さんに
早速 掛け合うてな
10銭でも
家賃 安うしてもらわんと。
それが決まったら
一日も早く 越してきたいな!
明日にでも 来れたらいいのに!
今日 オイが 掃除ばしとくけん。
だったら 私も!
気の早い人らやな!
ちょっと まだ 大家さんに
話 しとらんのやで!
そうだった! ハハハハ!
(3人の笑い声)
(ひさ)よいしょ! 持てるか?
はい。
気ぃ付けてや。
はい。
よいしょ。 よし…。
はあ~ よいしょ!
あ~あ。 これだけあったら
すぐにも 所帯 持てるわな。
さんざん お世話になった上に
こんな事まで…。
無事に 店も借りられた事やし
なあ あんたやて 一日も早う
水入らずで 暮らしたいやろう。
まあ 使い古しばっかりやけどな
まだまだ使えるよってに。
助かります!
これ 買ってたら 大変でした!
うちで 間に合うもんがあったら
遠慮のう 持ってったらええが。
無駄に お金 使う事ないねんで。
ありがとうございます。
まあ 縁あってな
あんたとは
1年余りも 一つ屋根の下に
暮らしてきたんや。
おたいはな
他人やと思ってへんで。
これからも 困る事があったらな
何でも 相談に来てや!
あの~。
うん?
あの~ 浩太さんが
おいでになったら…。
「おしんちゃんは
幸せに暮らしとる。
おたいも 無事に
責任 果たしたで!」って
大威張りで言うてやるわ!
ハハハハハハ!
こうつと! ほかに足りんもんは
なかったかいな?
あっ そうや。 布団やな。
布団はな
今 あんたらの使うてるの
あれ 持ってったらええわ。
すいません。
あっ そうや! 田倉さんが
魚 仕入れるようになったら
荷車が要るんやったな。
買うたら また 物入りやし
当分 うちの使うとき。
いや そんな事までは…。
おしんちゃん あのな
人間はな 人のやっかいに
ならないかん時がある。
そのかわり あんたやて また
人の面倒 見んならん時も来る!
世の中 持ちつ持たれつや。
それでええのや。 なっ。
早う あんたも 人の面倒
見るようにならないかんな!
はい!
早いとこ 片づけようか。 なっ!
はい。
こうつと…。
じゃあ これ。 はいはい。
♬~
(一同の笑い声)
でも よかったのう! 旦那と
所帯 持てるようになって!
ホントに お世話になりました。
あの~
これからは この人 来るから。
でもね 魚の事
ちっとも分かんないんだ。
だから よろしく お願いします!
どうぞ よろしゅうに!
そうか。 やっぱり おしんさんの顔
見られんようになるんか。
そのかわり 町 来たら
必ず寄って! 待ってるから!
これで 町へ出る楽しみも
できたわ!
ほな 田倉さん。
はい。
よっしゃ! 旦那さん いくよ!
(竜三)はい。
(一同)せ~の! よっ!
(ひさ)体に 気ぃ付けてな。
はい。
気ぃ付けてな!
♬~
その日も いつものとおり
行商を済ますと
おしんは 初めて 竜三と雄と
親子3人 水入らずの家へ
落ち着いていた。
よいしょ!
うわ~! きれいに
掃除して下すったんですね!
すみません!
ああ!
オイでんが
そんぐらいの事は せんば!
あんたに 掃除させたり
雄のお守りさせたって
佐賀のお母さんに分かったら
大変だ!
夫婦で 力ば合わせんばらんとこれ
男も女子もなかよ。
でも こんなに早く 親子3人で
暮らせるようになるとは
思わなかった。
あ~ ここは
私たちだけのうちなんだ!
震災以来よね
初めて 私たちだけになれた。
長かったわ この4年間…。
ねえ あんた
私 これからも 一生懸命 働く。
もう二度と
別れ別れにならないように…。
だから これからも
どうか よろしく お願いします!
おしん…。
でも 大丈夫かな?
毎朝 1里半の道を 荷車 押して
往復しなきゃなんないのよ。
ハハハ! オイでんが 男たい。
女子のお前にできた事が
男にできんはずはなか!
魚の名前も覚える。
包丁でん 使えるように
なってみすったいね。
いつまでも お前に 魚を売って
歩くようなまねは させん。
オイが 御用聞きに回って
魚の配達もするように
なってみすっけんね。
あんた…。
この町一番の魚屋に
なっとやけん!
もう 迷いはなか!
お客に信じてもらえる魚屋に
なっとやけんね!
果たして
店が うまくいくかどうか
おしんには まだ 自信がなかった。
…が 竜三の言葉を聞きながら
おしんは ただ うれしかった。
たとえ
失敗するような事になっても
竜三が そういう気持ちに
なってくれただけで
おしんには もう 何も
後悔する事はなかった。
♬~
(テーマ音楽)
♬~
(おしん)昔 あんた
おしゃれだったのに
そんな格好させてしまって…。
(竜三)ハハハ!
オイは 今日から 魚屋たい。
荷車ば引いて 往復3里の道を
歩かんばらんけんね。
どうしても 無理だったら
お内儀さんとこの魚は 諦めて
また 別の方法 考えますから。
オイば そがん情けなか男と
思うとっとか!
安心して 待っとけばよか。 うん。
魚屋としての おしんと竜三夫婦の
新しい出発であった。
竜三は 夜が明ける前に起きて
仕入れに出かけた。
おしんは 竜三が いつまで
そんな過酷な仕事に耐えられるか
不安であった。
(かしわ手の音)
♬~
(競りの声)
5! 5! 5! ほかにいないか?
ほかにいないか?
5! 5! 30!
(ヒデ)40!
よっしゃ! 40 いってみよう!
40 売った!
よっしゃ! タイ いってみようか
タイ! 20から!
よっしゃ! 30 持ってけ!
5!
5! ほかにいないか?
おはようございます。
(ひさ)田倉さん!
あんた よう来られたな。
あんたんとこのは
ちゃんと取ってあるよってに。
値段書きは
それぞれの箱に入れてある。
売値が決まらへんやろ。
勘定は 月末に まとめて
もらう事になってるよってに。
どうも すみません。
「行きは よいよい 帰りは 怖い」。
帰りは重いで。 気ぃ付けてな。
はい!
あっ そうそう!
あんたんとこ
今日 看板 上げるんやったな。
お祝いのしるしやと思うて
赤飯 ふかしてきた。
おたいが行かれんよってにな
そのかわりや。
おしんちゃんに
よろしゅう言うて。
いつも お心にかけて頂いて…。
遠慮なく 頂戴します。
はいはい。
父ちゃん… 父ちゃん 遅いね 雄。
≪(荷車の車輪の音)
あんた!
おっ おしん! お帰りなさい!
大丈夫だった? 何か心配で…。
何回か通った道だから
だいぶ 慣れてて よかったよ。
そう。 行きますよ!
おっ!
ちょっと かませますから
待って下さい!
はい どうぞ!
ねえ あんた ちょっと見て!
看板 上がったの。
縁起物だからって
朝一番に 看板屋さんが…。
あ~ いよいよ 開店だな。
もう 後へは引けんたい!
今度こそ
一生の仕事にしなきゃね。
よいしょ!
はい どうも!
(さだ)は~い。 はい 毎度!
おおきに。
ありがとうございます!
(さだ)あんたから買うとな
魚は おろしてくれるし
塩まで振ってくれるんやで
手が省けて 助かるわ!
(よし)東京 嫁にやった娘に
魚のかす漬け 送りたいんやけど
何が ええやろうな?
そりゃ タイが一番!
持っとるの? 今日。
あっ 今日は もう
売り切れてしまったんですけど
店に帰ったら あるんですよ。
昼から お届けします。
ちょっと あんた 店 出したん?
はい! 後で ご挨拶に
伺うつもりだったんですけども…。
あの~ 酒屋さんの角
曲がってもらったら
すぐに 田倉っていう看板
出てますから すぐ分かります。
あの~ 畳屋さんだった所。
(よし)あ~ 畳屋さんのあとか!
はい。 これからも どうか
ごひいきに お願い致します。
ほんじゃ
かす漬けにする タイと一緒に
何ぞ 刺身でも届けてくれるか?
はい。 何に致しましょうか?
あんたに任せるわ! あんたに
頼んどいたら 間違いないもん!
店 出したんなら
なにも そんに慌てて
買わいでもいいわさ! あんた
要る時に買いに行ったら
ええにゃでさ!
それも そうやな! ほいじゃね!
どうも!
うちとこ 明日 法事やねん。
あんたの魚 買うたら 手伝うて
もらえるて 聞いたけど ホントか?
ええ。 伺わせて頂きます。
あの~ でも もし よかったら
料理の種類と
それから 人数さえ分かれば
うちで 調理致しまして
お届けしますけども…。
そうやな。 そないして
もろうた方が 世話なしやな!
じゃあ 昼から
ご注文 伺いにあがりますから。
(竜三)お~ なかなか 上手かね。
これ 尻尾か?
じゃあ こっちが 頭か? よし!
≪田倉さ~ん。
はい!
はい。 あの~ 何か?
あんたんとこ 魚屋さんやろ?
はい そうですが…。
何にも あらへんな。
あっ 魚ですか?
魚だったら この中に…。
あ~! 何があるんや?
何って 魚ですが…。
そら 魚屋さんやさかい お鍋やら
お釜 売ってるとは思わへんわ。
今日は どんな魚があるんやって
聞いてんのや。
ああ…。 え~っと
これは 何て魚かな…。
あんた ここの主人と違うんか?
はあ… いえ…。
もう ええわ!
(竜三)おい
雄にも 何か取ってやれ。
あっ もう ミカン 食べるかな。
はい ミカン。 はい 雄。
雄? 雄!
(竜三)おい! ほっといたらよか!
近頃は 近所に 友達ができて
遊ぶのに 夢中たいね!
友達 できたの!?
ああ。
あら~ こっち来てよかったわね。
オイは…
何だか 夢のような気がしてな。
おしんと雄が そばにおる。
おしんと こうして差し向かいで
飯ば食うとる。
佐賀におる時
どれだけ 夢に見た事か…。
そいけん また
すぐ 覚めるような気のして
何だか信じられんとよ。
お内儀さんの おかげね。
うん。 ホントに ようしてもろうた。
この赤飯でん 血ば分けた母親でん
できんこったい。
いや お内儀さんだけじゃない。
加賀屋の大奥様
髪結いの お師匠さん
それから カフェの おねえさんたち
源じい 的屋の健さん…。
私 みんなのおかげで
ここまで生きてこられた。
おしん。
オイに 魚の事 教えてくれ。
魚の名も知らんとじゃ
店番も できんたいね。
それに 魚のおろし方も習わんば!
刺身でん 作れるようになりたか!
あんた!
お前に できた事が
オイに できんはずはなか!
御用聞きにも 出るたい!
何でん やってみすっけんね!
うん! フフフフフ!
ハハハ! うん!
これ イカ!
イカぐらい 知っとう!
あっ そう。
これ イサキ。
イサキか…。 うん。 はい。
それで アジにも いろいろあって
この尾っぽの…。
その日から
おしんの特訓が始まった。
教えても 一朝一夕に
覚えられるものではない。
自然と分かるようになるものだと
おしんは 思っていた。
…が 魚屋になりきろうとしている
竜三の気持ちが うれしくて
大事にしたかったのである。
これ ヒラメ。 これ カレイ。
手。 あんた
手を こういうふうにして。
こっちまで 包丁を出さないと。
あら~ あっ…。
もうよか。 商売物の魚ば こがん
無駄にしたら もったいなかよ。
どうして? あんたが 包丁
使えるようになるんだったら
魚100匹 無駄にしたって
惜しくない! 安いもんよ。
そがん事ば…。
はい もう一匹 いってみましょう。
こう 持って…。
はい はい。
あんた
今日は 一日 御苦労さまでした。
うん。 やっぱり
店に置いた魚は 残ったたい。
明日は 少し 仕入れば控えた方が
ようなかか?
残ったら残ったで 明日の朝
干物にしたり 佃煮にしたり
みそ漬けにしたり…。
いろいろ 手 加えたら
また それは それで売れるから
大丈夫よ。
ふ~ん。 魚屋も 楽じゃなかね。
明日 法事に使う魚
紙に書いときましたから。
うん。 分かっとう。
あ~ 明日は 大変だ。
法事で
刺身に 焼き魚に 酢の物でしょ。
それぞれ 20人前ずつ
作らなくちゃいけないんだもん。
その前に お客さんの所に
器を取りに行って…。
そうね… これから
仕出しもするつもりだったら
少しは 器も買った方がいいかな?
ねえ。
(竜三)こがん七輪では
数 焼くのは 無理たい。
いっぺんに いくつも焼ける
大きな七輪ば 作らんとな。
あ~ そうね。 でも そういうの
どこへ頼めばいいのかしら?
オイが作る。
レンガ 積めば 簡単な事けん。
あんた!
刺身は 作れんでも
魚 焼くくらいは
オイにでん できる。
いっぺんに いくつも焼けたら
オイの手間も省くっけん。
そろそろ 御用聞きにも出るかな。
オイが 注文ば取って
届くっけんない。
そうやって 商売できたら
いいわね。
町に 店 出したかいがあった。
とにかく やってみんば。
明日 お前と一緒に 町ば回って
お客に オイの顔ば
覚えてもらうとやね。
うん。
ホンマに あの人 あんたのご主人か?
はい。
なかなか 色男やんな!
ちょっと 夫婦で働けるやなんて
結構な話やね!
どうも お待たせしました!
どうか これからも
よろしく お願い致します!
♬~
こんにちは! あの~ 今度から
うちの主人が参りますので
よろしく お願いします。
(竜三)よろしく お願い致します。
どうも 奥さん。
うちの主人なんです。
行商をやめて
魚の御用聞きに回るというのは
新しい試みであった。
…が 少しでも
おしんに 楽をさせ
自分も 魚屋になりきろうと
している 竜三の気持ちを
おしんは 無にしたくなかった。
竜三の気持ちを大事にする事で
やっと 夫婦の絆を取り戻せたと
おしんは うれしかったのである。
♬~
(テーマ音楽)
♬~
(ひさ)魚が売れ残るんやったら
仕入れ 減らしたら どうやな?
(おしん)大丈夫です。
このごろは
わざわざ 注文 受けて
作るぐらいなんですから。
おたいはな 田倉さんが
御用聞きに回っとんのが反対やな。
あんたな 行商しとった時より
売り上げが
ず~っと減っとるん違うか?
やっぱり
あんたが 魚 持って回らな!
せっかく ついてくれた
お客さんかてな 離れてしまうで。
今 お茶 いれますから。
そら ほかにな 競争相手が
おらんのやったら ええで。
けど 今でも あんた 魚の行商は
ようけ 出歩いとるんやから…。
そんな 御用聞きやなんて
のんきな商売しとったら
お客さん
皆 取られてしまうがな!
(大根売り)大根!
大根 どうかな~?
(竜三)おはようございます!
魚屋です!
今日は
御用ございませんでしょうか?
(よし)う~んと 鍋にするもんが
欲しいんやけどな。
えっ… 鍋ですか?
ハハハ! 旦那さんには
分からへんわな。
いえ。 え~
今日 ございますものは…。
ええわ ええわ。
後で 店 行くよってな。
申し訳ありません!
ほなな。
(ため息)
(大根売り)どうも ありがとう!
ありがとね! ありがとよ!
安くしとくで 大根!
お内儀さんの
おっしゃるとおりなんです。
でも あの人が 自分でやるって
言ってくれたもんで…。
なんぼ 田倉さんが
その気になったやてな
商売の事を考えな!
私 これでいいと思ってるんです。
たとえ 商いが減っても
この商売に 自分から
打ち込もうとしてくれている
あの人の気持ちを
大事にしたいんです。
せっかく 店 出しても いつまでも
私が 表に立ってるんでは
あの人だって やる気
無くしてしまうんじゃないかしら。
この店は あの人が主人なんです。
だから 一日も早く あの人
「この店は
俺がやってるんだ!」って
そういう気持ちに
なってもらいたいんです。
責任 持って やってるうちに
いろんな事 覚えるだろうし
あの人は あの人で
自分なりの商売のやり方
覚えていってくれると思うんです。
まあ もうかるか
もうからないかは二の次にして
今は あの人 立てていかないと。
私たち 3年もの間 別れ別れに
暮らしてきましたから…。
分かった! よう分かった!
あんたが 何もかも承知の上で
やっとるんやったらな
余計な心配やった!
そうやな。
夫婦が仲良うやっていく事が
まず 金もうけより 先やわな!
夫婦が うまい事いったら
商売やて うまい事いく!
そういうもんやな!
≪(竜三)おしん!
お帰りなさい!
御苦労さまでした!
いらっしゃい!
あの~ 何か あったんですか?
いや。 町に 用足しに来たついでに
ちょっと寄ったんや。
あ~ どうぞ ごゆっくり。
はい。
はい! 注文たい。
あ~
今日も すごくあるじゃない!
あ~ それでん
おしんが回ってた時の半分たい。
そんな事…。
(竜三)この包みはな
村の ばっちゃんから
町へ嫁に来てる娘さんに
言づかったもんたい。
配達の時に持っていくから
忘れんようにな。
あんた そんな事までして!
お人よしやな~。
そのかわり お茶
御馳走になったりしっとですよ。
へえ~!
そこまでに なったんやったら
田倉さんも
一人前の御用聞きやな!
(竜三)あっ おしん 鍋にする魚は
どがんもんが よかとか?
鍋?
そりゃ タイが一番いいけども
今は ホウボウも おいしいわね。
あっ ホウボウか!
(客)魚屋さん! おるんか?
はい!
よか。 オイが出る。
(竜三)いらっしゃいませ!
(客)煮魚にするもん あるか?
はい! 今日は カレイに サバ
それに 太刀魚もございますが…。
(客)そうやな
カレイ もろうとこうか。
(竜三)はい。 1匹で
2人前が よかとこですが…。
(客)うちとこ 8人やから…。
(竜三)じゃあ 4匹ですね。
おろしましょうか?
(客)頼むわ。
(竜三)はい!
何だ まだ 起きとったとか。
手紙か?
あんた 佐賀には
何にも 連絡してないんでしょ?
うん…。
黙って 出てきたまんまじゃ
お父さんも お母さんも
心配してらっしゃると思うわ。
考えてみるとね
私も 佐賀を出てから
あんたには 手紙 書いたけども
お父さんにも お母さんにも
ひと言のお詫びも
してなかったのよ…。
申し訳ないと思ってる。
そうだな…。
黙っとる訳にも いかんない。
夫婦で 力を合わせて働いて
幸せだって事さえ
分かって頂けたら…。
(清)お父さん すぐ 伊勢さ行って
竜三ば 連れ戻してきてくんさい!
魚屋にすっために あたいは
竜三ば育てたとじゃなかですよ!
竜三が
黙って うちば出ていった時も
「竜は 男じゃっけん
きっと いつか 立派になって
帰ってくるじゃろう」て
諦めたとです。
そいば まさか おしんの所さん
転がり込んで 魚屋になって…。
よう そがん情けなか事を…。
(大五郎)魚屋になんのが
どがんしていかんとか? うん?
そいも 夫婦で始めたとない
こがん めでたか事は
なかじゃろうが。
喜んでやっても
連れ戻すの何のって
騒動すっ事は なか!
祝いの手紙の一つも
書いてやっとが
母親の情というもんじゃ
なかか?
ほんなこと
竜三が かわいかとない
竜三の思うとおりに
させてやらんば…。
魚屋じゃろうが 何じゃろうが
親子3人そろうて
食べていかるるごとなったとない
何でん言う事は なか!
子どもの困った時には
力になってやる。
幸せな時には 知らん顔してやる。
それが ほんな
親の愛情っちゅうもんたい。
竜三と おしんの仲ば裂いたとは
誰でもなか 母親のお前たい!
はっきり 言うとく。
オイの目の黒かうちは
二度と 竜三と おしんには
手ば出させん!
(大五郎)お清!
もう 母親の出る幕じゃなか。
なっ。 そん事ば
よう 覚えておかんば…。
(恒子)お母さん。
竜三さんの荷物 伊勢さへ
送ってやっぎ どがんですか?
こんうちには あたいどんが
おっでしょうが…。
竜三さんのもんは
送ってあげてくんさい。
お願いしますけん。
親より やっぱり
女房の方が かわゆうなっとか…。
息子てん つまらんもんたい…。
(竜三)よっ!
あ~! いや~!
明日 少し 仕入れ
増やしてみますか?
あ~ よか。 売り切れてしもうて
お客に謝るぐらいの方が
お客の信用も つくってもんたい!
だけど 何だか もったいなくて
明るいうちに 店 閉めてしまうの。
まあ もうしばらく 様子ば見て…。
(配達夫)田倉さ~ん!
はい は~い!
郵便。 どうも 御苦労さまです。
どうも!
あら? あんた。
うん? 駅に 荷物 来てるって。
佐賀から。
佐賀から?
オイのもんたい…。
ホント…。
洋服に 靴まで入っとう。
ねえ これ 今 手紙 来た。
お母さんから…。
(清)「おしんさんから
手紙ば もらいました。
魚屋の方は
うまくいきよっとですか?
夫婦で 店ば出したとか。
何よりでした。
あたいは 竜三が ふびんで
随分 心配もしたばってん
おしんさんと
出直すつもりになったとない
もう あたいが
気ば遣う事もありません。
伊勢で 魚屋ば
一生の仕事にしたかとの事。
竜三も 二度と佐賀さん帰る事は
なかでしょう。
また おめおめと帰るような事が
あっては なりません。
そがん思うて
竜三のもんば みんな
そっちさい 送っ事にしました。
今まで おしんさんも
雄ば抱えて 苦労したでしょう。
よう 竜三ば
待っててやってくれました。
どうか 竜三ば お願いします。
雄も大きゅうなったでしょう。
一度 会いたかて思いますが…。
こいからは 親子3人 水入らずで
仲良う暮らしていって下さい」。
おしん…。
お母さん
私の事 許して下すったのね。
あんな恩知らずな事して
出てきたのに…。
あんたの事
待ってたかい あった…。
お前の気持ちが通じたとさい。
あんた… きっと いつか
ここに お父さんや お母さんに
来て頂きましょうよ。
来て頂けるように 一生懸命
頑張って 立派なお店にして…。
おしん…。
きっと 喜んで頂けるように…。
ねっ。
うん。
♬~
佐賀の姑に許してもらえた事で
長い間 おしんの胸に残っていた
重い しこりが
ようやく解けていた。
いつか 佐賀の両親を
伊勢に招く事を夢に
おしんは 働き続けた。
しかし 相変わらず
世間の不景気は 深刻で
おしんの店も 掛け売りの代金を
踏み倒されたりして
なかなか思うようには
いかなかった。
…が 夫婦が達者で働け
雄が素直に成長してくれる事で
おしんには 幸せな日々であった。
♬~
(テーマ音楽)
♬~
昭和2年の初秋
夫婦で 魚屋の店を出してから
1年半の歳月が流れた。
昭和4年の春
雄は 満6歳の学齢に達し
小学校へ入学する事になった。
雄が生まれてから 雄を手放さず
雄の成長だけを楽しみに
生きてきた おしんには
何よりも うれしい事である。
その雄の入学式を
一緒に喜んでもらいたい人が
おしんには いた。
(おしん)ねえ もう行くの?
(雄)うん。 ふ~ん。
まだ 佐賀のお父さんやお母さんも
お呼びできないでいるのに
こんな わがまま言えた義理じゃ
ないんだけども…
雄の入学式に 山形の母ちゃん
呼んでやりたいの。
(竜三)来てもらうと言うとか?
うん…。
旅費 送るのも 楽じゃないし
御用聞きや配達には
自転車も欲しい。
今 余計なお金 使うのは
ホント 申し訳ないと
思ってるんだけども…。
雄が生まれた時に
母ちゃん 来てくれてて
母ちゃんに
産湯 つかせてもらったでしょ。
私が佐賀を出て 山形のうちに
世話になった時も
母ちゃん
雄の事 心配してくれてね。
その雄が 元気で
小学校に あがるんだもん
せめて
一目だけでも見せてやりたい。
うん。 お母さん
いくつに なられたかね?
58か59じゃないかな。
じゃあ 今のうちかもしれんない。
うん。 来てもろうたらよか。
あんた…。
伊勢神宮にも
お参りさせてあげて…。
ちょうど 桜も咲く
一番よか季節やっけんね。
ありがとうございます!
ああ。
お母さんでん 雄ば見たかやろ。
オイでん 雄ば見てもらいたか。
雄! あのね 父さんがね
山形の おばあちゃん
呼んでもいいって!
ホント? うん!
(庄治)とら!
そろそろ お前が 野良さ出て
うちの事は おふくろに
頼んだ方が ええ!
(とら)
オレは まだ 下のおぼこから
目 離さんねえんだもの
外さなど出らんねえず!
そだな事 言ったって
おふくろが畑さ出ても
役に立たなくなったら
しかたあるめえ! 俺一人では
到底 手 回らねえんだ!
うちの事よりも 田んぼや畑の
仕事の方が大事だからな!
んだら 働きもさんねえ穀潰しば
うちで遊ばせておくのが!?
(庄治)とら!
(とら)んだべよ!
こだい苦しいのに 役にも立たねえ
人間さ食わせる米など
どこさあるって言うの!?
とら! なにも おふくろの前で
そだな事 言わなくても!
(とら)ホントの事だから
しかたあんめえ!
はっきり言わねえど
分からねえんだ!
少しぐらい 体 きついったって
辛抱して 働いてもらわねえど!
おっ母さんだって
ちゃんと食ってるんだからな!
あ~ おっ母さんさ
書留 来てたんだっけ。
書留?
(庄治)ヒ~ッ!
おしんから 手紙 来てるぞ!
10円為替 入ってた。
(ふじ)開けたのが?
どうせ 母ちゃん 読まんねえべよ。
おとらに読んでもらったんだ。
おしんは なかなか
羽振りがいいらしいな。
母ちゃんに 遊びに来いって
10円も よこすなんてよ。
ただ 遊びに来いって
書いてあるのが?
雄は この4月に
小学校 あがるんだと。
その晴れ姿ば
見せてえんだそうだ。
せっかくだ 行ってこい!
おしんの気持ちは
ありがてえけんど
ほだい遠いとこ とても無理だ。
なにも 歩いていくって訳じゃ
あるめえし
汽車が連れてってくれるんだ。
なんぼ 羽振りがええっても
この不景気だ 楽ではねえべ。
娘のうちでねえが
何の遠慮が要るって…。
なっ 行くんだったら
早い方がええ。
明日にでも 俺が
駅まで送ってってやるから。
行くつもりはねえ!
この10円も返す。
商売にとっては 大事な銭だべ。
おっ母さん。 おっ母さん
おしんの事ばっかり
気ぃ遣ってるけんど
少しは 俺たちの事も
気ぃ遣ってもらいてえな。
俺たちだって 足りねえ米ば
やりくりして やっと食ってんだ。
おしんの所へ
口減らしに行けって言うのが?
おとらに そういうふうに言えって
言われたのが?
おっ母さんだって
俺たちと一緒にいるよりも
おしんのそばにいる方が
ええに決まってるべよ!
ちゃんと 旅費もくれた。
今 行かなかったら
一生 行けなくなるぞ。
おしんや雄にだって
会えなくなるんだからな。
伊勢さ行って いづらくなったら
すぐ帰ってくればええんだからな。
大きくなってるかな~ 雄も。
よっ!
おばあちゃん まだ?
もうそろそろだ。
何だ? その顔は。
おばあちゃんに笑われるぞ。
ほら 拭いて。
ねえ 雄 おばあちゃんは
大事な大事な人だ。
だから 雄も
優しくしてあげるんだぞ。
うん。
≪(竜三)おしん! お母さんだぞ!
来た 来た!
母ちゃん!
おしん…。
よく来たな~!
雄か?
こんにちは。
ハハハ てれてるの!
大きぐなって…。
大きぐなったな!
まあ とにかく休んで頂いて。
おしん。
今日は 店は オイがやるけん
お前は ゆっくり お母さんと…。
大きぐなって…。
♬~
雪が解けたら
田んぼや畑もあるし
兄ちゃんには悪いなと
思ったんだけども…。
兄ちゃん 機嫌 悪くなかったか?
おしんと雄の顔ば見てこいって
喜んで 駅まで送ってくれた。
そうか! んなら よかった!
でも 兄ちゃんも
少しは 優しくなったんだな
駅まで送ってくれるなんて。
せっかく 呼んでくれたのに
土産の一つも持ってこれなくて…。
母ちゃんの元気な顔さえ
見れたら もう それで…。
お前とは いつでも これで
会えねえと思って 別れてきた。
んだけど
こだなとこさ来られて…。
辛抱して生きてたら
ええ事もあるんだな。 うん。
ゆっくりしてってけろな
母ちゃん。
んでも お前には 店があるのに
そうそう 邪魔してられねえ。
オレは お前と竜三さんが
うまくいってんの 見届けて
雄の顔ば見たら
それで 来たかいがあった。
うちに 気兼ねする事はないって。
母ちゃんが食べる分ぐらいは
稼ぐから!
さあ そろそろ 昼だな。
母ちゃんも おなか すいたべ?
さて おいしい魚を
いっぱい 食べてもらおうかな!
おしん…。
うん?
オレ 雄の入学式 見たら
帰るから。
庄治も オレの事 当てにしてる。
そうそう うち 空けるまねは
できねえ。 何で?
当てにされてるうちが 華だ。
でも オレも 少し安心した。
母ちゃん 当てにされてたら
少しは 大事にしてもらえるし
大きな顔してられるもんな。
さてと!
(猫の鳴き声)
毎度!
三毛様 いらっしゃりませ!
どうした? 今日 元気ないね。
うん?
お帰んなさい!
あ~ ただいま! 御苦労さま!
よいしょ!
神山の お内儀さんがな
今日は 雄の入学式だからって
ほら こんな大きなタイば
下さったとよ!
あら~ ありがたい!
ほっ!
よいしょ! よっ!
お願いします!
よし!
はい。
頂き物ですけんが…。
うわ~ でっかいタイだこと!
は~い できました!
お~!
立派になって!
ええ1年生だこと!
母ちゃん オレは とうとう
小学校 行けなかったけども
雄は あげてやれる。
私が果たせなかった夢を
雄で果たせる。
おしん…。
母ちゃんには オレの気持ち
分かってもらいたかったんだ。
すまねえな。 親に
かい性がなかったばっかりに…。
母ちゃん 恨んで
言ってるんではねえんだよ。
雄を 小学校へ あげてやれる
私の うれしさなんて
誰にも分からない。
母ちゃんだけだ。
だから 母ちゃんに 雄の入学式に
来てもらいたかったんだ。
分かってる。 よ~ぐ分かってる。
いがったな。 ほんてん いがった。
ありがとう 母ちゃん。
オレも 来たかいがあった。
明日 山形さ帰っても
思い残す事は ねえ。
♬~
じゃあ 行ってきます!
はい 行っといで!
気を付けてな!
田倉さん。
いつも どうも。
おばあちゃん
ホントに 帰っちゃうの?
ああ…。
母ちゃん 預かってくれって
言われても…。
(竜三)庄治さんも
よっぽどの事やろう。
やっぱり 母ちゃんと兄ちゃん
うまくいってなかったんだ…。
はあ…。 なのに 母ちゃんったら
兄ちゃんや おとらさんに
邪魔にされてるとも知らずに
「帰る 帰る」って…。
いや 知らんはずはなか。
うちにおっても
迷惑ば かけるて思うて…。
まっ とにかく お母さんには
しばらく
うちに いてもらう事にしよう。
でも ホントの事は言えないし
何て言って
引き止めたらいいのか…。
とにかく オイは 配達あっけん。
おしん?
おしん? お前…。
何か ずっと変だと
思ってたんだけど…
やっぱり そうだった。
雄のあと 佐賀で出産した女の子を
死なせてしまった おしんの
それは
3度目の懐妊のしるしであった。
♬~
(テーマ音楽)
♬~
(竜三)本当に つわりか?
何か ものにでも
あたったとやなかとか?
(おしん)雄や愛の時と同じなの…。
もし ほんなことなら…。
おしん とにかく 体ば大事にして
丈夫な子ば産まんば! うん!
(竜三)お母さん!
おしんに
子どもの できたとです!
苦しそうに吐きよっけん
何か 悪いもんでも
食べたとやなかかて
心配したとですが…。
(ふじ)つわりか?
おしんが 間違いなかて!
んだが! いがったな~!
今度は ええおぼこ 産んだら
前の 死んだ おぼこの事は
忘れるべ。
これで ええ土産話が出来た。
心残りなく 山形さ帰れる。
お母さん お願いがあります。
おしんが
無事に 子どもば産むまで
そばに ついててやっては
もらえんですか?
2人目の子の時は 佐賀で ろくに
かぼうてやる事もできんで
おしんに
つらか思いばっかりさせて…。
せめて 今度の子の時は
安心して おしんに
お産ば させてやりたかとです。
お母さんが ついてて下すったら
おしんも どがん心強かか。
竜三さん…。
山形の お兄さんには
オイから よう お願いしますけん。
(ふじ)竜三さんの気持ちは
ありがてえっす。
オレも いてやりてえのは
やまやまだけんど
オレも もう 年だから
思うようには 働けねえっす。
役に立たないんだっす。
ほだな穀潰しがいたんでは
かえって 迷惑かけるから…。
母ちゃん!
穀潰しだなんて そんな事!
いつかは 人間は
自分の思ったとおり
動けなくなる時が来るんだ。
その時は せめて
人様に 迷惑かけねえように…。
だったら 山形に帰ったら
もっと つらいんでねえのが?
兄ちゃんや おとらさんは
ああいう人だ。
母ちゃんが働けなくなったって
分かったら
どんな仕打ちされるか!
おしん!
分がってる。
山形は オレのうちだ。
おっきな顔して いられる。
母ちゃん。 うちだって
おっきな顔していてくれたらええ。
何にもしなくてええ。
こがん事 言うのは
心苦しかとですが
おしんのために…。
このとおりです!
母ちゃん ええべ?
ええんだな?
雄の時みてえに
働けるか分からねえけんど…。
あんた!
こんな荷物 もう 早く 片づけて!
母ちゃんは これから
うちの人間なんだから! ああ!
(客)田倉さん!
はい!
あら もう 夕方のお客様だ。
(竜三)あ~ よか よか!
店は 水ば使う。
冷えたら 体に障っけん
お前は 店には出んように
した方がよか!
はい! あっ
どうも お待たせ致しました!
あんな事 言ってたら
商売にならねえのに…。
母ちゃん 今晩にでも
私 兄ちゃんに 手紙 書く。
兄ちゃんも
母ちゃんが帰ってくるの
待ってるだろうからな。
待ってる訳ねえって。
母ちゃん…。
おしん…。 庄治から
何か言ってきてるんでねえのが?
本当の事 言って オレは
もう 野良仕事 きつくてな…。
それが 庄治には
気に入らねえんだ。 そんな事!
無理もねえんだよ。
小作が苦しいのは
昔も今も 変わっちゃいねえんだ。
無駄飯 食ってるのがいたら
機嫌も悪くなるべ…。
今頃になって
ばんちゃんの気持ちが
よ~ぐ分かるようになった…。
母ちゃん…。
銭さえ あればな…。
貧乏は ほとほと やんだ…。
母ちゃんは ばんちゃんに
優しくしてあげたでねえの。
母ちゃんが
ここに いてくれるんだったら
いてくれたら ええんだよ!
竜三さんだって 私の気持ちは
よく分かってくれてるんだから。
おしん…。
私はな 母ちゃん…
母ちゃんと一緒に暮らすの
夢だった。
母ちゃんが 東京に
オレ 出してくれたんでねえが…。
あん時から 母ちゃんと一緒に
住みてえなと思って
それ 楽しみにして
働いてきたんだ。
だから 働けたんだよ!
母ちゃん
店の事は よく分からねえ。
魚のおろし方も知らねえ。
んでも うちの事だったら
まだ 手伝えるかもしれねえ。
どんなに助かるか 分からねえ!
じゃあ
オレ 店 手伝ってくるから
母ちゃん 米 といで
たきつけといてくれるか?
ああ…。
頼むな。
(竜三)どうも
お待ち遠さまでした!
どうも 毎度!
ありがとうございました!
おしん…。
大丈夫 まだまだ!
これ お煮つけですね?
ああ…。
あんた。
うん?
うん?
ありがとう。
今日の事は 一生 忘れない。
母ちゃんだって
どんなに うれしかったか…。
ああ。
私 あんたと一緒になれて
よかった…。
その日から ふじは
田倉家の家族として
伊勢で暮らす事になった。
おしんの おなかの子も
順調に育ち
ふじにも おしんにも
やっと訪れた幸せな日々であった。
はい。
うん。
また 佐賀さん送っとか?
この前 送った カマスの干物
お母さん 喜んで下すったから。
佐賀でん 魚ぐらいあったいね。
なんも ここから
わざわざ 送らんでも…。
いいじゃない
私の気持ちなんだもの!
手紙たい。
酒田の加代さんからたいね。
あら!
随分 御無沙汰してしまって…。
へえ!
(ふじ)元気にしておられるのが?
仕事の方は 旦那様に任せて
お加代様は 奥様に
おさまっておられるはずだけど…。
竜三さん一人に
忙しい思いさせて…。
おしんも だいぶ 腹の
重とうなってきたとですけん
オイにできる事は オイがせんば。
オレが 店の事
できたらええんだけんど…。
いや お母さんが
奥の仕事ば して下すっけん
おしんも安心して
店の仕事が でくっとですよ。
たまげた~!
お加代様 9か月だって!
何が?
「何が?」って…。
お加代様にも お子さんが
おできになったんだよ!
(ふじ)今頃になって?
いや~!
そりゃ
私にだって できるんだから
同じ年だもの
何も 不思議はないけど!
んでも 結婚して
10年も たってるのに…。
旦那様と 長い間
うまくいかなかったからな…。
でも 私 思い切って
酒田 出てきてよかった。
お加代様も
加賀屋に落ち着かれて
旦那様とも うまくいかれるように
なったんだな~。
皆さん 大喜びだべな。
加賀屋の たった一人の
跡取り娘だもの お加代様は…。
お加代様に
子どもが生まれなかった時の事
考えたら…。
大奥様も あだい 孫の顔 見るの
楽しみにしておいでだったのにな。
大奥様が この事 聞いたら
どんなに喜ばれるかな!
そうか。
うちと同い年の子のでくっとか!
おしんと お加代様が 同い年で
また 生まれる おぼこが
同い年か。
よっぽど 因縁があるんだな
おしんと お加代様は。
一生 縁が
切れねえかもしれねえな。
これで 加賀屋も安泰だのう!
まだ 起きてるのが。
お加代様に 手紙 書き始めたら
もう いっぱい 書く事あって…。
早ぐ寝ねえと
明日に こたえるぞ。
母ちゃん 眠れねえのか?
いや~ ここでは
楽させてもらってる。
でも 何だか 顔色よくねえな。
どっか 悪いとこ
あるんでねえのが? いいや。
でも このごろ
何だか 大儀そうだ。
若え頃のような訳には
いかねえって…。
そりゃ ついこの間までは
米の1俵や2俵 担いでも
平気だったけんど
年には かなわねえな…。
うん。 んだら ええけど…。
お前こそ 大事な体だ。
無理するんでねえぞ。
やがて 産み月の10月を迎え
その月の半ばに
おしんは
無事 男の子を出産した。
雄に似た ええおぼこだ!
早ぐ行ってやってけらっしゃい!
ここは オレが代わるから!
お母さん
ありがとうございました!
早ぐ おしんのとこさ! はい!
褒めてやってけらっしゃい!
♬~
意識の遠のく中で ふじの心は
山形の故郷へ帰っていた。
ばんちゃん お父っつぁん はる。
故郷の懐かしい家で
やっと また みんなに会える。
♬~
ふじは 幸せであった。
♬~