東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

IS指導者死亡 テロの温床を絶たねば

 過激派組織「イスラム国」(IS)にとって指導者バグダディ容疑者の死は大きな打撃である。だが、過激主義に染まる人は絶えない。テロの温床となる社会的不公正の根絶は世界的な課題だ。

 一方的な米軍のシリア撤収で国内外から批判を浴びたトランプ米大統領には、失点を挽回したという高揚感があったのだろう。米軍の作戦によってバグダディ容疑者が自爆したことを「米国は世界最悪のテロリスト指導者に正義の鉄ついを下した」と高らかに発表した。

 ISは最盛期には英国の領土に匹敵する地域をシリアとイラクにまたがって支配下に収め「国家樹立」を宣言した。

 SNS(会員制交流サイト)を巧みに駆使して過激思想を広めて賛同者を勧誘した。これに感化されて三万人以上ともいわれる外国人戦闘員が世界中から合流した。

 トランプ氏は今年三月、ISの完全制圧を宣言したが、米国防総省の監察官は八月、ISが復活しつつあるとする報告書を公表した。指導者の死はISの残党による報復テロを誘発する可能性もある。厳重な警戒が必要である。

 バグダディ容疑者の潜伏先は国際テロ組織アルカイダの系列組織の支配下にあり、ISとアルカイダが協力関係を復活させたのではないか、という懸念がテロ専門家から出ている。しかも、米軍のシリア撤収に伴う混乱で、拘束されていたIS戦闘員が収容施設から逃亡したとも伝えられる。

 テロ情報の共有はじめ国際的な監視・協力体制を再点検してほしい。二〇一五年のパリ同時多発テロではフランスと隣国ベルギー両当局の連携不足が問題となった。

 IS絡みのテロは欧州やアジアにも拡散している。パリ同時多発テロ事件の翌一六年にはバングラデシュのダッカで日本人七人を含む人質二十人が死亡した事件も起きた。ISはアフガニスタンやスリランカなどでも台頭している。

 ネット空間は過激思想の拡散を食い止める戦いの最前線だ。表現の自由を侵害せぬよう配慮しつつ、官民が連携して管理・規制を強める必要がある。

 ただ、武力や警察力、ネット規制によるテロ退治には限界がある。過激主義を助長するのは貧困、圧政、腐敗、差別といったような社会的矛盾だ。

 テロの芽を摘むにはこうした不公正を克服し、民生を向上させるべきだ。平和主義を掲げる日本も積極的に貢献したい。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報