「物語は暗闇のかがり火」 村上春樹氏、講演で創作論

2019/10/12 11:22

イタリアの文学賞を受賞し、記念講演する村上春樹さん(中央)=11日、イタリア・アルバ〈(C)Fondazione Bottari Lattes foto Murialdo、共同〉

イタリアの文学賞を受賞し、記念講演する村上春樹さん(中央)=11日、イタリア・アルバ〈(C)Fondazione Bottari Lattes foto Murialdo、共同〉

【アルバ=共同】作家の村上春樹さん(70)がイタリアの文学賞を受賞し、11日夜(日本時間12日未明)、北西部アルバで記念講演を行った。いつの時代も物語が果たす役割は変わらないとし、「(魂の)暗闇を照らす物語という、ささやかなかがり火が必要とされている。それは恐らく小説にしか提供できない種類の明かりです」と語った。

日ごろ、公的な場に出ることの少ない村上さんが、率直な思いを披露する貴重な機会となった。

ラッテス・グリンツァーネ文学賞の「ラ・クエルチャ」部門に選ばれた村上さんは、「洞窟の中のかがり火」と題した講演で40年前のデビュー当時を回想。「ねじまき鳥クロニクル」などの自作を例に挙げながら、計画を立てずに書き始める独自の創作論を展開した。

イメージや情景が浮かぶと、短い文章にして印刷し、いったん机の引き出しにしまう。そうした「衝動的に書き付けた使い道のない文章」は数多く引き出しに眠り、ごく一部が時間とともに熟成して「自発的」に物語へと発展すると説明した。

「最初から筋立てや結論を決めてしまうと、僕はあまり面白くない」と村上さん。自由に書くことで「自分の無意識の領域にアクセスできる」とし、頭で論理的に作るのではなく、心で見いだした物語を紡ぎ出せれば「人々の魂と深いところで結び付くことができる」と、その真意を語った。

自由を重視する書き方は、好きなジャズの即興演奏から「大いにヒントを得ているかもしれない」とも話した。

最後に村上さんが「僕が書いた物語が暗闇を照らし、これからも照らし続けることができるならこれに勝る喜びはない」と述べると、会場は大きな拍手に包まれた。

ラ・クエルチャ部門は国際的評価の高い作家に贈られ、今年で9回目。過去にノーベル賞作家のパトリック・モディアノさんらが受賞している。

〔共同〕

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