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【社会】

「文化統制の悪例に」 「不自由展」出展の白川さん 美術館の自立侵す動き懸念

表現の自由について語る白川昌生さん=前橋市で

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 愛知県で開かれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が一時中止された問題で、造形作品を出展した前橋市の美術家・美術評論家、白川昌生(よしお)さん(71)が本紙のインタビューに応じた。白川さんは同展再開後、会期末の十四日に現地を訪れ、出展者として不自由展への抗議の電話に対応したり、来館者に作品の趣旨を解説したりした。今回の問題と表現の自由に対する思いを聞いた。 (菅原洋)

 -現地の様子は。

 まず、作品を出展した作家が再開に対する抗議の電話を受ける試みに参加した。私が受けたのは男女三人。中年の女性は(文化庁が問題を受けて芸術祭への補助金を不交付にしたことに)「国家が不交付を決めたのに再開するとは、日本国民か。国に従わないのなら国家反逆罪に当たる」と持論を展開した。作家としてはいい経験になった。

 -会場では、群馬県高崎市の県立公園「群馬の森」にある朝鮮人強制連行の犠牲者追悼碑をモチーフにした自らの作品を解説したのか。

 不自由展の再開後、来館者の理解を深めようと作家が展示案内する試みもあった。会場にはたくさんの来館者がおり、関心の高さを実感した。抽選で選ばれた来館者を案内したが、熱心で静かな印象。作品への批判はなく、創作の動機などを質問された。八日からの短期間でも、抗議を乗り越えて再開して良かった。

 -国が補助金を不交付にした点はどう考えるか。

 文化統制であり、表現の自由という観点から大きな問題だ。こうした展示を今後やめさせる悪例となった。国は芸術祭全体への補助金を不交付にしたが、今回問題となった企画展自体の運営費は全額、市民や企業からの寄付金を充てることを知ってほしい。

 -群馬県は二〇一七年、高崎市の県立近代美術館で展示予定だった白川さんの朝鮮人強制連行犠牲者の追悼碑作品を、抗議もない展示前なのに訴訟中を理由に撤去させた。

 行政の判断が上に立ち、美術館の自立が侵され、県民は全く私の作品を鑑賞できなかったのは問題だった。愛知の問題を受け、行政にこうした動きが拡大するのではないか。

<しらかわ・よしお> 北九州市生まれ。フランスの大学で哲学を専攻し、パリの国立美術学校で学び、ドイツ国立デュッセルドルフ美術大卒。前橋工科大非常勤講師。美術関連の著作も多い。

<朝鮮人強制連行犠牲者追悼碑訴訟> 追悼碑は、碑を管理する市民団体の前身団体が、県から碑の前で「政治的行事をしない」との設置許可条件を受けて建立。その後、碑前での慰霊行事で条件に反する政治的発言があったとして県が更新を不許可にし、市民団体が2014年に処分の取り消しなどを求めて提訴した。前橋地裁は昨年2月の判決で、不許可処分は「社会通念に照らし著しく妥当性を欠く」と取り消した。県が控訴し、東京高裁で係争中。

 

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