オーバーロード 骨の親子の旅路   作:エクレア・エクレール・エイクレアー

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42 愚かな選択と、滅びぬ国と村

 

 そこは王国の離宮の一つ。すでに王位継承の儀が終了したため、ここには前王たるランポッサ三世が住んでいた。ここの警備は以前同様戦士団に任されていたが、その戦士団も新王のザナックの警備もしなければならない。常時ここに居るわけにはいかなかった。

 それにカルネ村の一件でかなりの数の戦士を失ったということもある。このところ人手不足と言っていいだろう。八本指の多くを掃討したとしても、第二・第三の八本指が現れないとは限らない。六腕の二人が逃亡しているということもあって警戒は続けているので、街の警邏もしているところだ。

 だからいつでも王国最強と名高いガゼフが前王の離宮にいられるわけはなかった。ガゼフも人間であるため、休憩が必要だ。

 そんなガゼフが休みの日に、離宮を訪れる人間がいた。非公式ではあったが、ランポッサが呼び出した人間だ。彼を呼び出したことは他の誰にも言っていない。お忍び訪問だが、何よりも大事な用があった。

 

「お久しぶりです。ランポッサ陛下」

「やめたまえ。私はもう王ではない。ただの親として君たちにお願いがあるだけだ」

「わかっておりますが、我々にとってあなたが王であることに変わりはなく。すでにこちらも用意が済んでおります。あなたが命じてくだされば、すぐにでもバルブロ王子を解放できましょう」

「さすがに仕事が早いな。では頼む。もはや頼れるのは貴君らしかおらぬ。忠臣だと思っていたレエブン候も私の元を去ったからな……」

「心中お察しいたします。ではすぐに部隊を動かしましょう」

 

 男は頭を深く下げて、ランポッサの部屋から去っていく。誰にも姿を見られないようにマジックアイテムで姿を消して離宮から離れ、人通りのない場所まで行って伝言の魔法を用いて作戦開始を告げる。

 伝言の魔法は信用性がないが、風花聖典の補助があれば有用な連絡手段だった。

 

(これで王国は終わりだ……。頼れる者がいない?当たり前だろう。散々国民を苦しめておいて、その元凶たるバカ息子を助けるために他国を頼る?あとはあのバカに王都を攻めてもらって、疲弊したところを帝国に吸収させればいい。この二百年、失敗し続けた膿をここで全て取り除かせてもらおう)

 

 そしてラナーがエ・ランテルを出発して次の日、作戦が実行されて法国が貸し与えた戦力でバルブロがクーデターを敢行。エ・ランテルにいた戦力は身分も関係なく抵抗したが、法国の手助けもあってエ・ランテルは崩壊。

 そのまま王都へ攻め入るように進言したところ、先日の革命に参加していた冒険者チーム「漆黒」がエ・ランテルで有名で、カルネ村を拠点にしていると知ってバルブロが激怒。八本指と懇意にしていたために「漆黒」の情報も持っていたために、エ・ランテルにいなかったために進路をカルネ村に向ける。

 

 ここで法国が失敗したことはエ・ランテルが崩壊した時点で貸し出した戦力以外の、特に六色聖典は撤退したことだろう。あとはバルブロの監視を任せていた人間がバルブロの怒りに触れ打ち首。ここで法国の制御から外れた。

 貸し出した戦力は《支配》の魔法を喰らわせて簡易の命令のみを聞くように仕向けた王国の農民たちと、法国の下級戦士たち。下級戦士たちは事態の変化を伝える術がなく、上司がバルブロに殺されてしまったために反感を買うと殺されると思って追従。

 任務的にも最終的に王都を落とせればいいと聞いていたので任務が遂行できればいいと思ってそのままカルネ村の後にやれば良いと思ってそのままに。仕事が少し増えただけだと。

 

 エ・ランテルでの勝ち戦で調子に乗っていたということもあるだろう。一つの村と冒険者チーム一つを倒すことくらいわけないと。

 ここで構成員が法国で下級戦士ばかりだったために法国がカルネ村へ近付くことを禁止していたことを知らなかったし、知らされていなかった。王都から反対方向だったためにそちらへ行くことはないだろうと高をくくっていたからだ。

 だからこそ、この後の惨状は当たり前の出来事だったと言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エンリは召喚した天使の一体であるリリからこちらに向かってくる武装集団がいると聞いてすぐに大人たちを正門に集めた。天使たちはもちろん、モモンガが召喚したアンデッドなども正門に集合していた。

 天使の報告により、その集団が国旗を携えていることを知る。

 

「王国軍がこちらに向かって来ている……?エンリ、天使様はなんと?」

「今メイさんに状況を確認するために向かってもらっています。ただ、皆さんが言うには、避難の準備をしていた方が良いと。明らかに敵意を持ちながらこちらへ向かっているそうです」

 

 その言葉を聞いて自衛団が物見やぐらに登り、男の大人たちは武器を持ってきていた。女子供、老人はすぐにトブの大森林に逃げられる用意を。以前法国に襲われた後、こういう事態に備えて、前々から非常事態にはどう行動するのか決めていた。

 ある程度準備が済んだ頃、モモンガが召喚していたモンスターたちが一斉に村の中へ振り返る。それを不思議に思ったエンリも振り向くと、モモンガとパンドラが走ってやってきていた。

 

「モモン様!パンドラさん!」

「エンリ、何でまだ避難していないんだ。何かあった時は避難するようにって言ってあっただろう?」

「今メイさんに偵察に行ってもらっていて……。その報告を待っていたんです」

「もう待たなくていい。エ・ランテルが陥落した。あいつらはこちらに確実に敵意を持った逆賊だ」

「エ・ランテルが!?」

 

 その衝撃はかなりの物だっただろう。エ・ランテルの別名は城塞都市。いくら内側から崩されようが、そう簡単には落ちないから城塞都市と呼ばれ、三国の要所とも呼ばれるのだから。

 そんなエ・ランテルが落ちるという状況を聞けば、あの集団が大きな街を破壊することができる集団だとすぐにわかる。だからこそ、エンリは天使を呼び戻していたし、戦えない者たちは避難を始めていた。

 

「エンリも逃げろ。むしろ避難している者たちを天使と一緒に守ってほしい。もし何かあればあのグリーンシークレットハウスに逃げてもいい」

「でもモモン様。私だって天使の皆に指示を出しながら戦えます。もうっ、あんな風に村を襲われるのは嫌です……!」

「それもわかってる。俺が召喚したモンスターが絶対にカルネ村を守るから。それでも、もしもがあったら嫌だから。エンリもネムも、もう家族みたいなものだから。もう家族を失うのはたくさんだ」

「モモン様……?」

 

 モモンガはエンリの頭に手を乗せる。まだ小さい女の子なのに、妹のために頑張っている姿が鈴木悟の母親の姿と被った。だからこそ、一層庇護欲が芽生えてしまうのだろう。

 ブレインのことを仲間だと、友人だと思う心も嘘じゃない。この世界に流されて、そこそこ暮らして来ればわかる。もうこの世界から帰れないことを。他の友人たちにはもう会えないことも。

 年月の違いなどもあるだろうが、悟はそれでもと今の状況を受け入れていたし、ブレインのことを協力者で済ませるのは違うと思っていた。そして思いついた言葉をすんなりと受け入れられていた。

 それはきっと自分が産み出した存在がちゃんと生きているということと、こんな自分でも慕ってくれる存在がいたからだろう。アンデッドが忌み嫌われる存在でも、そうだと知っていても人として受け入れてくれた。それが、人としての心を残してくれている。

 

「エンリ。最悪、森の賢王に頼るかリザードマンの集落まで行ってくれ。道なら天使たちが知っている。このカルネ村には一切近寄らせないけど、それくらい遠くに避難してほしい」

「どうしてですか?」

「あいつらを撃退するし、あいつらの裏には絶対誰かがいるから。もうこんなことをしでかさないように、決着をつけてくる。またしばらく帰って来られないから、安全な場所で待っていてほしいんだ」

「……きっと、カルネ村が一番安全ですよ?だってモモンさんやパンドラさんが、皆と協力してたくさん準備したんですから。モモンさんが呼んだ存在も多いですし、夜中にこっそり魔法を使って色々してましたよね?」

 

 結構夜遅くに魔法を使っていたのだが、その姿をエンリには見られていたらしい。それを恥ずかしいとは思わなかったが、今回としては危険とかではなく見られたくないから遠くに行ってほしかった。

 その説得は無理なようだ。

 

「……どうしても、ここを離れるつもりはないのか?」

「だってここは私たちの村ですから。村を捨て置けるわけありません。それに、モモンさんとパンドラさんにだけ戦わせるなんてできませんから。私たちも戦います」

「……わかったよ。でも、向かうのは俺たちだけだ。エンリたちは村の防衛と、他に戦力がいないか辺りを警戒していてくれ。何か気付いたらすぐに連絡」

「はい。……いってらっしゃい」

「……いってきます」

 

 悟はそのまま、パンドラと共に転移する。こんな怒りを覚えたのは久しぶりのこと。エ・ランテルにも仲良くなった面々がいる。それを全滅させられたのだ。

 法国の部隊といい、八本指といい、悟たちを怒らせることに関しては相当優秀な者たちがいるらしい。アンデッドとしての特性で沈静化と再沸する怒りのごちゃ混ぜ具合を受け止めながら、悟は愚かな集団と相対する。

 

 


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