英トラック遺体事件と中国の不法移民問題、好景気の裏で広がる格差
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【10月27日 AFP】英国で23日、トラックのコンテナから中国人とみられる39人の遺体が見つかった。この事件によって、中国では世界第2の経済大国となった今でも多くの国民が、海外で生計を立てようと危険な旅に踏み入れている事実が再び鮮明になった。
英ロンドン近くで冷凍コンテナから発見された遺体が同胞かもしれないとの報道を目にした中国人たちは、ショックを隠しきれなかった。
中国では数十年にわたる好景気によって一部の人々が富豪としての地位を築き、多くの人々が貧困から脱出した。しかし国土の隅々まで潤ったわけではなく、今でも多くの国民が海外に出る機会を模索している。
まだ詳細が不明な今回の事件によって思い出されたのは、2000年に英ドーバー(Dover)港でオランダ籍のトラックから中国人移民58人の遺体が発見された悲劇的な事件だ。
英政府の2018年の報告書によると、人身売買の犠牲者となる潜在的な人数を国籍別に見ると、中国は前年の世界第5位から4位に繰り上がっている。
現代奴隷の問題を扱う非政府組織(NGO)「メコンクラブ(Mekong Club)」で人身売買問題を専門とするマット・フリードマン(Matt Friedman)氏は、「中国人は、世界中で日常的に密航させられ、人身売買されている」と指摘した。
フリードマン氏によると、中国の密航あっせん業者の標的とされる人々は多くの場合、「貧困中の貧困層ではない」が、求める仕事を自国で見つけるのに苦労している。そこに、あっせん業者が付け入り、海外ならばもっと稼げると説得しているという。このあっせん業者は、同じ地域の出身者であることが多い。
北京にある中国人民大学(Renmin University of China)で国際関係学を教える時殷弘(Shi Yinhong)教授はAFPに対し、中国からの不法移民は「当たり前」だと指摘。「中国経済は近年急速に成長したが、収入の格差はよりいっそう広がっている」と述べ、「一部の人々は常に、海外に行けばより良い就業機会があると考えているが、不法移民の状況については何も知らない」と語った。
■移民から被害者に
不法移住に踏み切った者は、犯罪組織にされるがままに被害者へと化す。
英国の慈善団体「難民女性のための女性たち(Women for Refugee Women)」の報告書によると、英ヤールズウッド(Yarl's Wood)の移民勾留センターに収容される中国人女性の数は増えている。その多くが、性的に搾取されるか、家族が抱えた借金の「返済」のために送られてきたという。
この団体に、夫が中国で暴力団から借金をしたと明かした女性がいた。「ある日、暴力団に捕まり、海外へ行って夫の借金を返済するために働くよう言われた」
■「蛇頭」の影
今回の事件をめぐっては、中国人の欧州への密航をあっせんする犯罪組織「蛇頭(Snakehead)」の犯行ではないかとの臆測も飛び交っている。
欧州警察機構(Europol、ユーロポール)は2015年、「中国の犯罪組織」が偽造文書を使って中国人を売春宿やマッサージパーラー、ネイルスタジオやレストランで働かせるために欧州へ送り込んだ事件を捜査し、警告を出している。
密航料金は高額に及ぶ。欧州拠点の中国語メディア、華聞周刊(Chinese Weekly)がインタビューした中国人移民らは、スペイン経由で英国まで移動するために、密航あっせん組織の蛇頭に16万元(約250万円)近くを支払った。(c)AFP/Helen Roxburgh and Catherine Lai in Hong Kong