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幡野さんへ
私の兄は通り魔に刺され、亡くなりました。当時、兄は15歳、私は10歳でした。成長するにつれ、兄が殺されたという事、それがどういうことか、輪郭がくっきりと見えてきました。兄の年齢をとうに過ぎ、虚しさでいっぱいになりました。なぜ殺されたのが兄だったのか。精神疾患だった加害者にとって、そんなの偶然で、殺すという行為が出来れば誰でもよかったらしいです。
父と母、姉もそれぞれ苦しみや葛藤があるのだと思います。けれど、ちゃんと前を向いて生きている。私にはそれが難しい。家族との関係は良好ですが、ふとした瞬間ぎこちないし、空気が重かったです。それを彼らも分かっていて、だから気を遣ってくれる。その事も何だか虚しかったです。
大学生になったら家を出ようと、高校時代は勉強に逃げ、国外の大学に進学、というよりも家族から逃げました。あの空気が嫌だった。家族の事が大好きなのに、前を向いているあの人達を見て、本来なら私も前を向かなくてはいけない。なのに、それが出来なくて辛い。親戚などは私が外国の大学に行く事を、目標に向かって進んでいるだとか、そんな風にポジティブに捉えていましたが、父も母も姉も、私がここに居たくないのだと理解していたように思えます。理解した上で行かせてくれたのは、優しさなのかな。うまく整理出来ません。
ふとした瞬間のぎこちなさというのは、私ばかりが犯人が憎いとか、出来ることならば殺してやりたいとか思っているような気がした時です。そんな時、疎外感のようなものを感じる。父も母も姉も、なんであんなにも人間が出来ているんだろうって思えます。だって、家族が理不尽に殺されているのに。
犯人は精神を病んでいました。それは犯人の家庭環境に問題があった。加害者もまた可哀想な人だと母は言っていました。けれど、病気とか、育った環境とかどうでもいいです。私は犯人を許せない。人を殺した奴が、私たちと同じように生きているのが許せない。一生許さない。今これを打っている時も、怒りが満ちてくる。
けれど、それに気づいた瞬間、兄の事を思い出します。その時、私の中で兄は被害者の、殺された兄になっている。兄の記憶はだんだんと別のもの、ただただ犯人が憎いという怒りに侵されています。それが悲しいし、遣る瀬無い。兄の事が大好きです。でも、一緒に遊んで楽しかったこととか、怒られて悔しかったこととか、このままじゃきっと、忘れてしまうのではないかって、怖いです。こんな気持ちをずっと抱えていくのかなと思うと、苦しいです。
それでも前を向けと、家族の視線や態度が訴えているように感じます。近々、姉の結婚式に出席するため、実家に帰省します。本当に前に進んでいるんだなって、招待された時に感じました。それが嬉しいのに喜べない自分がいます。私は一歩も進んでいない気がして。
この気持ちをどう消化するのか、家族とどんな風に接したらよいのかわからないです。
SNSなどを殆どやっていないため、この連載も知人に紹介され、初めて知りました。いつもは読んでいるだけだったのですが、あなたの言葉や写真はいつもとても真摯で、私自身があなたの言葉を聴きたいと思い、今回投稿することにしました。
長文失礼致しました。
(クロ 女性)
まず最初にぼくはあなたに謝っておかなければいけません。違和感を覚えたとおもいますが、あなたの現在の年齢を消してもらいました、そして被害に遭われたお兄さんの年齢を変えています。
どの事件なのか特定できてしまうというのが理由ですが、あなたのように人の感情を冷静に読み取れる人がそれに気づかないわけはなく、バレてもいいようにあえて年齢を書いたのだとおもいます。
この話がウソであるとおもわれたくない、ウソであるとおもわれることでお兄さんの存在までもが否定されてしまうように感じたんじゃないですか。年齢の表記があなたなりのお兄さんの存在証明なんだとおもいました。
でも世の中には悲しいほどいろんな人がいます。自分の理解をこえた理不尽な話を聞くと、自分の心を保つためにウソであるとおもいたくなる人がいます。それがウソでないとわかると、今度は被害者に落ち度があることを求めます。
この連載は、SNSをやっていないあなたが知って相談を送ってくるぐらい反響が大きくて、どんな人が読んでいるのかもうぼくにもわかりません。誰かの心ない言葉で、お兄さんがもう一度刺されてしまうかもしれないと感じてしまい、年齢を消しました。ごめんなさい、あなたの抱いた違和感から意図を汲み取ってくれることを願っています。
ぼくは日常的に心がけていることがあります、人に対してなるべく怒ったり恨んだりしないということです。5年間ほど狩猟をしていたので、散弾銃を所持していたのですが、鉄砲を所持している人が短気だったり、恨みだすような人だと怖いじゃないですか。煽り運転をする人の車に鉄砲が積んであったら、撃たれている人って結構いるとおもうんです。
その気になれば簡単に確実に人を殺すことができるから、その気にならないことが大切です。病気になってから自殺をしそうになったことがあり、鉄砲はすぐに処分したんですけど、所持していた頃のクセでいまでも怒らないことが習慣ついています。怒らないってとてもラクでいいんですよ。
でも、もしもぼくの息子があなたのお兄さんと同じように殺されてしまったら、相手がどんな人間であろうと、きっと復讐をするとおもいます、許すことなんてできないですよ。
鉄砲はなくても、どこの臓器をどれくらいの深さで刺せばどれくらいの時間で絶命するのか、なんとなくわかります。一般的な成人男性の体は5時間もあればバラバラに解体できて45Lのゴミ袋6枚ぐらいに詰め込められます。本当はもっと少ない枚数でいいんだけど、一袋あたりの重さも重要です、重さで袋が破れたら面倒じゃないですか。遺棄する場所も方法もなんとなく検討がつきます。
自分の子どもが殺されて、犯人を許せる親はいないんじゃないかな。あなたに対しても犯人を許せなんてことは誰もいえないですよ、神さまは乗り越えられない試練は与えないっていいだす人がいたら、頬をおもいっきりひっぱたいてやりましょう、きっと反対の頬を差し出してきませんから。人の本音ってそういうものです。
もしも、息子が殺されたのではなく、妻が殺されたら、できるかどうかはわからないけど、ぼくもあなたのご両親とおなじことをするとおもいます。息子がいるわけですから、復讐という選択肢はすぐに消えます、前を向いて生きるしかないとおもいます。
あなたのご両親は前を向いて生きているように見えるかもしれませんけど、それはきっとあなたとお姉さんのためでしょうね。あなたとお姉さんに前を向いて生きてほしいから、自分たちが手本を見せるように、前を向いて生きているんでしょう。犯人を許してなんかないし、事件当日の朝から事件発生までの自分の行動すべてを後悔しているとおもいます。
「加害者もまた可哀想な人だと母は言っていました」こんなこと普通はいえないですよ。本心だとおもうけど、だからといって許しているわけじゃないとおもいますよ。あなたのお母さんはあなたに、自分の人生を生きてほしいと願っているんでしょう。犯人は憎いけど、その犯人にあなたの心まで引っ張られないよう精一杯なんだとおもいます。
お姉さんはきっといろんな人から「お姉ちゃんなんだから、あなたがしっかりね」ってたくさんいわれているとおもうんです、いい子であることを周囲から求められ、悲しむことを許されない状況に陥ってしまう人もいます。お姉さんが事件当時いくつだったかわからないけど、周囲の大人によって強制的に物分りのいい大人にさせられちゃったのよ。あなたのお姉さん、そうとうつらかったとおもいます、自分がしっかりしなきゃ家族が崩壊するって感じていたんじゃないかな。
プレッシャーを与えるつもりは全くないのだけど、ご両親とお姉さんは前を向いて生きているのではなく、あなたが迷子にならないように、後ろから追いつけるように、あなたの方を向きながら、あなたよりも一歩先を進んでいたんでしょうね。あなたのためにしっかりしなければって考えていたのだとおもいます。
あなたの存在で3人がメンタルを保つことができて、あなたは家族が一歩先を進んでいるのだから疎外感や取り残されたように感じるかもしれないけど、それでも3人が前に進んだことで、あなたのキズも疎外感で済んでいるのかもしれません。
ご両親がメンタルを保てずにいたら、きっとあなたは国外の大学に進学することはおろか、勉強に逃げることも、家族から離れることもできなかったとおもうよ。親が一歩も進めなくなってしまうと、先に進もうとする子どもを逃がそうとしないだろうし、あなたも親のために進むことをやめちゃうの。共依存っていうんだけど、そういう例ってたくさんあります。
あなたのご両親ってすごいとおもいますよ、悲しさや悔しさの中で考えることを止めずに親としてできる自分たちなりの最良の選択を模索したのだとおもいます、普通はできないですよ。
あなたが疎外感を感じるのは、事件当時に10歳だったということも関係があるとおもいます、子どもだから理解できない、精神的に耐えられないという理由でおそらく情報を遮断されていたとおもいます。これは病気や事故で家族を失ったり、親が死ぬ病気になっても子どもには知らされず、死んでから事実を知って悲しむという、ありがちなパターンなんだけど、大人になったときに不信感や疎外感を感じてしまう人も少なくありません。
あなたに一番必要なのは、ご両親にあなたの胸のうちを正直に話すことだとおもいます。あなたとあなたのご両親だったら、まず大丈夫だとおもう、関係が壊れることもないよ。
ぼくの言葉なんかよりも、ご両親の言葉の方がずっといいとおもうよ、それに本当はご両親に知ってほしいんじゃないですか? 年齢の編集について謝りましたが、あなたの最初の一文だけで家族はあなたであると一瞬で気づきます。反響が大きくなることで家族が偶然気づいてほしい、きっと心のどこかでそう願っていたとおもいます。
なんてはなしたらいいか悩んだら、ぼくに送った相談文をコピーエーンドペーストして、そのまま送ればいいんです。あなたの本音がつまった文章です、きっとご両親だってあなたが悩むぐらいなら話してほしいとおもうよ。
きっと一歩先ではなくて、あなたと並んで歩いてくれるとおもいます。
今週の幡野さん
小籠包を食べに香港に行ってました。香港は危険だっておもわれるかもしれないけど、渋谷のハロウィンをみて、渋谷は危険っておもうことと同じです