機械学習と、同じ“轍”を踏まないために
そもそも、こうしたエンタープライズ向けのブロックチェーン技術は、一般的にイメージされる「ブロックチェーン」とは別物だという。
一般に「ブロックチェーン」が紹介される際は、誰でもネットワークに参加可能な「パブリックチェーン」が使われた技術のことを指していることが多い。ビットコインやイーサリアムが、パブリックチェーンを活用したサービスの代表例だ。
一方で、貿易や金融など、現在商用化が進んでいるエンタープライズ向けのブロックチェーン技術においては、パブリックチェーンは使用しない。
近年では、純粋な“ブロックチェーンらしさ”を求めるパブリックチェーン系のプレイヤーと、商用化に注力するエンタープライズ系のプレイヤーが対立している様子も目にするという。福島氏は、パブリックチェーンの先進性や、中長期的に見て社会実装が進むことには同意している。しかし、「先鋭的すぎて、現実的なUXも含め、まだまだ商用化は見えにくい」うえ、両者の軋轢については「正直ナンセンス」と否定的な見解を示す。
福島研究も商用化も、両方必要です。いがみ合って自滅してしまっては本末転倒なので、各々がやるべきことに邁進していくべきです。
こうした状況も踏まえ、LayerXは商用化に注力していく。
補足しておくと、福島氏は研究から逃げたわけではない。むしろLayerXは「R&Dでも日本トップクラスの実績を出していると自負している」という。メンバーの出した論文も高い評価を受けており(※)、「パブリックチェーンを含め、ここまで優秀なエンジニアを揃えている組織は他にはいない」と自信をのぞかせる。
(※)2019年9月には、研究を進めるCBC Casperの研究を評価されEthereum Fundationが運営するEthereum Foundation Grants programの対象企業に選定された。Ethereum Foundation Grantを取得するのは、LayerXが日本で初めての事例となる。同じく研究を進めるZerochain研究開発は、世界的なブロックチェーン財団、Web3 Foundationが進める金銭・技術的な支援プログラム「Web3 Foundation Grants Wave2」に選出されている。
それでも福島氏が商用化にこだわるのは、ある危機感からだ。2014年頃にブロックチェーンに目をつけはじめ、ビットコインのホワイトペーパーを見た瞬間に「これはやばい。ここ数年が勝負だろう」と直感していたという。その目論見通り、ビットコインは一世を風靡するようになる。
しかし、仮想通貨バブルがはじけた現在は、先述のようにエンタープライズ向けに商用化が進んできてはいるものの、「まだまだビジネスとして成り立っていない」段階。特に、日本国内における世間一般の期待値は下がる一方だ。
このままだと、海外のプレイヤーに一気に差をつけられ、取り返しのつかないことになる──そう危惧した福島氏は、「誰もリスクを取らないなら、自分が取ろう」とLayerXの設立、社会実装へのフルコミットを決意したのだ。
福島世界の潮流と国内の期待値とのギャップにより、グローバルな開発競争に取り残されてしまった事例は、これまでたくさん見てきました。機械学習のときもそうでした。もう、同じ轍は踏みたくない。僕らが先駆けて商用化の成功事例をつくっていくことで、ブロックチェーンへの投資を増やし、業界全体を成長させていきたいと思っています。