前埼玉県知事の上田清司氏(71)が当選した参院埼玉補選。九月の内閣改造や今月一日の消費税増税後、初の国政選挙となったが、与党候補不在で盛り上がりを欠くなど、多くの問題も残した。
今回の参院補選は、八月の同県知事選で初当選した大野元裕氏の参院議員辞職に伴うものだ。無所属で立憲民主、国民民主両党埼玉県連が支援する上田氏に、「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏(52)が挑み、一騎打ちとなった。
今月一日の消費税増税直後の国政選挙である。増税の是非や税金の使い道が争点となってしかるべき選挙だ。選挙期間中、台風19号の影響で埼玉県内でも堤防決壊などの被害が出た。防災の在り方などを有権者に問い掛ける機会でもあった。
しかし、こうした論点が選挙戦を通じて有権者に浸透したとは言い難い。原因は、自民党が候補者擁立を見送り、与野党対決の構図にならなかったことにある。
自民党は上田氏が改憲に前向きなことを理由とするが、候補を立てても知名度に勝る上田氏に敗れれば知事選に続く連敗となり、消費税増税への有権者の判断と合わせて、政権には打撃となる。
逆に当選しても三年後の改選時は自公の現職と議席を争うことになるため不戦敗を選んだのだろうが、政権与党の責任放棄にほかならない。猛省を促したい。
立花氏の立候補で無投票は回避されたとはいえ、立花氏は七月の参院選比例代表でN国党首として初当選を果たしたばかりだ。
比例代表で党としての議席は維持できるとしても、得たばかりの自らの議席を投げ出し、同じ参院で議席を得ようとする選挙戦術に有権者の理解は得られまい。
さらに立花氏は補選告示後、神奈川県海老名市長選(十一月十日投開票)に立候補する意向を表明した。「非常に(補選)当選は厳しい」との理由だが、選挙戦期間中にほかの選挙への立候補を表明することは、有権者を惑わし、愚弄(ぐろう)する行為にほかならない。
旧民主党などの衆院議員として豊富な国政経験がある上田氏は、野党の支援を得つつも、九条改憲や原発再稼働に賛成するなど、自民党政策との近さも指摘される。国会でいきなり与党と行動を共にするようなことがないようくぎを刺しておきたい。
低投票率は有権者の関心の低さを示す。与野党ともに厳粛に受け止め、国民の負託に応えられる選挙の在り方を探るべきである。
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