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 望ましい税の姿を、中長期の時代の変化も見通して、どう描いていくのか。

 安倍首相は6年前、その役割を政府税制調査会に諮問の形で託した。「経済社会構造の変化に対応して、各税目が果たすべき役割を見据えながら、そのあり方を検討」する必要に触れ、税制の専門家たちに中長期の視点からの議論を求めた。

 その答えとなるはずの中期答申が、今年9月にまとまった。

 所得税は「少子化で減少を続ける勤労世代」への配慮から、法人税は「国際競争力への影響」から、さらなる負担増には限界があると指摘した。消費税は「役割が一層重要」と記したが、この先の方向性や課題には言及しなかった。

 具体性に乏しく、専門家ならではの「答え」にはほど遠い。

 政府税調の委員の任期は、3年。第2次安倍政権になって選ばれた委員たちは1期目、所得税の抜本改革の議論を進めながら「国民の個人的な価値観にかかわる」などとして答申の策定を見送った。同じ顔ぶれの委員たちは2期目、今年6月までの任期を3カ月延長され、9月にようやく答申を公表した。

 3年前も今年も、7月の参院選に配慮し、直前の答申を避けたのだろう。複数の委員は「委員の共同責任だが、政府税調の存在意義は、もうない」と打ち明ける。

 税制の議論は、政府と与党の税制調査会が役割分担してきた歴史がある。政府税調は専門家らが公平性などの観点からあるべき姿を論理的に検討し、与党税調は政治家が利害調整しながら、毎年度の改正にあたった。

 ところが、安倍政権は異なる意見を遠ざけ、負担の議論に背を向ける。与党税調も政府税調も、政権の意向をうかがう姿勢を強めるばかりだ。

 いまの日本は、消費税率を10%に上げたからといって、この先の税の議論をしなくてもよいという状況にはない。

 介護や医療など高齢化で増える社会保障サービスや、相次ぐ災害や老朽化したインフラへの備えなどに必要な財源を、どうまかなうのか。株式などの金融資産を多く持つ人への所得税、資金を有効に使えていない企業への法人税など、解消すべきゆがみも多い。

 政府税調の答申の最後には、「国民の間で幅広く建設的な議論が行われることを期待したい」とある。しかし現状のままでは、答申後に空席となっている委員が任命されても、機能不全が続くだけだ。

 多様で自由な議論を促し、真摯(しんし)に耳を傾ける。首相がまず取り組むべきは、民主主義で当たり前の環境を整えることだ。

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