2019年、異例づくしのヒットを遂げている作品がある。TRIGGERが製作したアニメーション映画『プロメア』だ。
5月24日に劇場公開されるやいなや、口コミで熱烈なファンを獲得し、パンフレットは何度も重版するも売り切れ。受注生産を開始するとすぐに完売した。全国の劇場で応援上映が開催され、10月18日より4D版が新たに封切られることとなった。
「興行中にパンフレットの受注生産なんて聞いたことがないですし、4Dでの公開も……できたらなとは思っていたのですが、最初から準備していたわけではない。嬉しい誤算の連続です」
そう語るのは、メガホンをとった今石洋之監督だ。これまで『天元突破グレンラガン』や『キルラキル』など人気アニメを手掛けてきた今石監督をも驚かせた熱狂はいかにして生まれたのか?
堺雅人の狂演でキャラクターの画を変えた
──『プロメア』は、写実的な描写や実在する舞台設定など、現実感のある最近のアニメーション映画の流れとは逆をいってるように見えました。
あはは。間口は広げたいと思いつつ、自分があまり器用ではないので、付け焼き刃的に売れてるアニメの真似をしてもけして上手にはやれないだろうという自覚はありました。
やっぱり、驚きがあって、一回通りすぎるけど気になって二度見するようなものを作りたい。
自分に嘘つかない範囲で見やすいものを作ろうと思ったんですよね。そうしたら世間と逆行してしまう。どうやったら沢山ある作品の中に埋もれないか考えてるからかもしれないけれど、僕はアクションが大好きなので。
──キャストは松山ケンイチさん、早乙女太一さん、堺雅人さんなど舞台でも活躍する俳優さんですよね。どんな意図があったのでしょうか? アニメに俳優を起用すると合わないという話も聞きますが……?
3人ともアニメを理解した上で、声だけで全部表現しようとしてくれていました。
その上で『プロメア』の場合、アニメというより「中島かずきの脚本を読む」要素が強い。中島さんといえば、劇団☆新感線。あの派手な舞台を作る脚本を表現できる人はあまりいない。さらに僕の演出のテンポが加わると難易度が増す。
──どんな点が難易度を高くするのでしょうか?
突然、七五調のきれいな言い回しやらないきゃいけないとか、歌うように喋らなきゃいけないとか。激怒したかと思えば号泣したり。これを即座に対応するには特殊なスキルが必要なんです。
3人は中島脚本の経験があるし、その中でも光っていた。最初から第一希望のキャストたちでした。度肝を抜かれたのは堺さん。堺さんがこんなになっちゃうんだったら、クレイの顔をもっと激しくしないと追いつかない。描き直したぐらい(笑)。
終盤の戦闘シーンは松山さん、早乙女さん、堺さんの3人一緒に録りました。合流すると掛け合いが本当に気持ちが良くて、劇団☆新感線の芝居を特等席で見ている気分になりました。本来、芝居って相手と呼応するものですからね。その瞬間、一回しか生まれないものがある。
アニメは気を抜くとリアルになってしまう
──3人の力はもちろん、全体的にアニメでありつつ舞台のような雰囲気がある気がしたのですが……演出に意図はありましたか?
歌舞伎っぽい感じですよね。ガロは和の文化が好きな外国人という設定なんですよ。歌舞伎的なものを少し勘違いしながら真似してる。
舞台のような雰囲気が出ているのは、中島さんの脚本が大きいと思います。
とはいえ、僕は作品のことを「ショウタイム」っぽくしたいと思っていて、それに基づいた演出をしているから舞台っぽさが出るのかもしれません。現実ではありえない芝居がかった
ライブ照明っぽいライティングを使ったり、長い口上があったり。
……アニメって気を抜くとリアルに寄せがちだから。
──アニメがリアル?
描写も背景もデザインも意識しないとリアルになってしまう。日本人アニメーターは写実的な空間や動きが得意だし、絵であるが故に説得力を得るためにリアルに描くことはとても大事なことです。その大前提を踏まえた上で、あえて非現実的なマンガ的動きやデザインや演出を上乗せしていきたい。
──なぜですか?
虚構っぽさを強めつつ、キャラクターの全力で生きてる感が重なると、アニメならではの感情が高ぶる表現になるんじゃないか……。絵空事でファンタジーであるからこそ、キャラクターに人間味が出る、というふうにならないかと思っているんです。
ピクサーのデザイナーも「協力」
──アメコミのような描き方も印象的でした。監督は『スパイダーマン:スパイダーバース』もご覧になったそうで。
制作終盤にようやく見れました。すごくいい作品で勇気づけられた。やりたいことはやっちゃえばいいんだって。グラフィック、色味、エフェクト、3Dの使い方は背中を押されました。
3Dで組んでいるはずなのに、平面っぽい描き方をしていて手間をかけているなと……。いろんな手段の中から最もデザイン性の高いものを選んで表現をしている。リアルさと虚構感のバランスがよかった。
──『プロメア』も3DCGを使っていますよね。手描きのようなタッチなので驚きました。
これが今回の自分のアニメ表現の中で一番新しいやり方でした。手描きの平面感がありながら実は3Dも使っている。
──相反するもので二刀流。
人間と機械の得意技を詰め合わせました。CGと作画って得意技が違うんですよ。だからお互いの得意技を変えずにそのままミックスさせればいい。
ただ、作画との違和感をなくすのは工夫が必要なんです。CGは情報量が多いものを作れるので、人間の手で描いたものと情報量に差が出てしまう。
──「これはCGだな」とわかってしまう感じ?
そうそう。なので『プロメア』では、リアルで複雑な描写はせずに、シンプルな幾何学模様をメインに絵を作りました。三角とか四角とかデザインっぽいもので構成されている。色もほとんどがベタ塗りとグラデーションで描いてます。
あえて情報量を減らす。「動き」だけをCGでリアルにすればCGと作画が自然に融合できるんじゃないか。
──3DCGを使うと、どんな映像が可能になるんでしょうか? 新しさを実感した瞬間は?
戦闘シーンにおけるカメラワークですね。冒頭のガロとリオの戦いはCGの良さが全面に出ています。ビルの屋上から落ちて、下の階に行って、また駆け上がって、追いかけて戦う。超スピードで乱高下するシーンをワンカットで作るのは作画だと不可能だと思います。
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あと、例えば実写の映画だとカメラが俳優に移動して寄るだけで臨場感がでますよね。あれを作画でやると、顔がぐにゃぐにゃ動いてキャラクター自体が動いているように見えてしまうんです。生命感が出すぎる。キャラが意思を持って近づいてくる感じ。殴りかかるシーンは作画でやるとかっこいいけれど、立ってキメている所に静かにカメラが寄るだけのシーンには向かない。
新しく取り入れた実写のようなカメラワークでその空間にいるかのようにテンションを上げて、加えていつもやってる作画でアニメ的な感情移入を誘う。
──ポップな色味はどんな工夫が?
チームの意識共有をするイメージボードを描いてくれた1人がピクサーのグラント・アレキサンダーさんでした。もともと親交があったのでお願いしたんです。
発想が僕らとは違うから面白いんですよ。日本人から見ると「大丈夫?」と思う色味を混ぜる。ピンクとブルーグリーンで構成される炎の色は彼が描いたイメージボードを参考にしてコヤマさんと僕とで相談して決めました。普通だったら炎であの色味はありえない。でも、あらゆる色の配合を試して、これでいこうと。
色味やキャラクターの造形はコヤマシゲトさんの影響が大きかったです。特にリオはコヤマさんじゃないと生み出せない。中性的で耽美な少年は僕のアニメには出てこない。内面は中島脚本によく出てくるような漢なんですけれど(笑)。
『キルラキル』のような昭和のバイオレンス映画や劇画っぽさは僕がこれまでやってきた得意技。コヤマさんから出るアイディアは僕にはないものなので、そこを引き出すことを考えていました。
──いろんな「組み合わせ」によって新しいものが生まれた。
そうですね。得意技を封じながら、得意技を打つという矛盾めいたことをやりました。
強烈な一回性
──作品自体も新しいと感じましたが、ファンの反応も斬新な気がしています。
ファンの方々の声に劇場さんが応える形で応援(炎)上映が決まったり、上映自体が復活してます。4DMX版の公開も熱狂があってこそ実現しました。異例づくしですね。
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──観る側の楽しみ方が変わった……と感じたりしますか?
そうですね。今は配信オンリーの作品も増えてきて、みんなバラバラにアニメを見る。タイミングが選べて便利な時代に、映画館に行くのは不自由な鑑賞方法を選んでいると言えます。
でも、『プロメア』の広がり方を見ていると、みんなで同時体験をするのが快楽なんだろうなと。これは普遍的な欲求だけれど、以前よりもさらに強くなってきている。応援上映が人気なのはそこですよね、きっと。
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──祭り感。
「ショウタイム」らしさを求めるのは、そこもある気がします。
今この時間だけしか見られないから価値がある。そういう体験は僕も好きですね。いつも一回性を全力で作ろう思ってるんです。
僕は小学生の頃からガンダムが好きで今もよく見返しますが、実は小学5年生の時に学校から帰って来てテレビをつけたあの瞬間を思い出してるだけなのかもしれない。延々とあの一回を反芻してるだけなんじゃないか。その一回だけの時間ってロマンがあるなぁって思います。
──本当に舞台みたいですね。
近いですね。だから4Dでの上映が決まったのは嬉しかったです。もっと派手に演出できる。
座席の動き方も演出効果も全部TRIGGERが監修してます。「ここはもっと派手にして、ここは引いて」と口煩く注文しました(笑)。
──例えばどんな演出があるのでしょうか?
バーニッシュ系の炎が出ると熱風が吹いて、テロップの時にも風を出してもらったり、消火栓から水が噴出したら水が出る。心臓の鼓動にも振動を足してもらったり、匂いも出ますね。少しですが。
──匂い。
ガロの汗です。スタッフの汗を採取して……。
──えっ。
嘘です。冗談です。そんな不快なことはしない(笑)。でも、今までにない演出を考えられて楽しいですね。欲を言えば、花吹雪を吹かせたかった……ああ、そういうものじゃないか。本当にライブになってしまう。
──中島さんと今石監督、舞台とアニメ、CGと作画……いろんな異なる存在があって生まれたヒット作ですが、今後またタッグは考えていますか?
またやりたい。といいつつ、『グレンラガン』『キルラキル』『プロメア』と、いつも6年くらい時間がかかってしまうんですが……やりたいな。