2018年10月に刊行した「妻のトリセツ」が40万部超えのベストセラーとなった脳科学者・黒川伊保子氏(59)が、新著「夫のトリセツ」(講談社、800円)を発売した。夫婦関係に悩む夫の行動をレクチャーした「妻のトリセツ」の、いわばアンサー本。人工知能研究者・感性アナリスト・日本ネーミング協会理事・随筆家など数々の肩書を持ち、テレビやラジオなどでもおなじみの才人が、男女脳の食い違いから起きる夫婦関係から、人工知能(AI)の行く末まで幅広く語った。(樋口 智城)
インタビューの初っぱな、個人的な相談から入った。黒川さん聞いてください。20歳で付き合いだしてから結婚するまで15年、我が妻とケンカ一つしたことありませんでした。知り合いからは「あんな仲のいい2人はいない」と言われるくらい。それが結婚して子どもが生まれたとたんに私への敵意むき出し。今や、とりつく島もない。どうすればいいんですか―。
「それは普通の現象です。私もそうでしたよ。人の脳というのは生殖の戦略で、子育てがひと段落すると次の遺伝子を作ろうとする。それで女性の場合、より高い男子を求める代わりに今の男子を徹底的に嫌おうとするものなんですよ。家庭を作るというのは、どんな夫婦でもそういう男女脳の違いを巡る戦い。男性レベルが低い高いは関係ない。ブラッド・ピットですら、籍を入れた途端半年でボコボコにされるわけですから」
じゃあずっと嫌われたまんまなんですか…と聞くと明確な答えが。
「子どもがいる限りは収まることはございません。ただ、長く付き合って乗り越えていけば、女性も『私と考えが違うけど、そう来たか!』と面白く感じる時期が来るものなんです。手に手を取ってその“裏側”にたどり着いてほしい。この本でそういう思いも込めました」
ちょうど1年前、40万部を超えるベストセラーとなった「妻のトリセツ」を発売した。夫婦関係悪化に悩む夫の解決方法を分かりやすく説明。絶大な支持を集めた。
「今回は執筆を当初、断ってたんですよ。夫は『妻を何とかしてあげたい』と思っているものですが、妻は『夫はポンコツだ』と処置できないものと思っている。積極的に嫌おうとしているので、トリセツなんていらないと思うはず。前作は夫へのハウツー本でしたが、同じように書けない。だから、今作は男女を描いた哲学書と思って書きました」
男女の性格差への研究は、もともとは仕事のためだった。
「企業で基本は人工知能(AI)の設計をしていまして、1991年に世界初の日本語対話型女性AIを稼働させたんですよ。その際、女性らしさを感じさせてほしいといわれて、それって何なの?って思って」
対話型AIだと、男女脳の違いを把握して作らないと食い違いを引き起こす。
「今のAIは幼児レベルですが、将来は人間とおしゃべりするようになる。男女脳どちらを採択するかとか考えずに機械的に組み込むと、すごいムカツクAIができるんです。『その問題、気にしなくていい確率は25%ですね』とかAIに言われたらイヤでしょ?」
対話でどう、快・不快を紡ぐか、研究する必要性があった。
「進めていくうちに『AI以前に、生身の男女が迷っているじゃん』って分かって。それで男女脳にまつわる本を書いたんですよね」
ただ、現在はアプローチが変わった。
「28年前に研究を始めたときは、AIにどう感性を搭載させるかでした。でも、将来的に感性を搭載させることを踏みとどまらなければいけない日が必ず来ると思うんですよ。どこから足を踏み入れてはいけない場所なのか、探らなければいけない。今はそのための研究をしているんですよね」
◆黒川 伊保子(くろかわ・いほこ)1959年12月10日、長野県生まれ。59歳。83年に奈良女子大理学部卒業後、富士通ソーシアルサイエンスラボラトリで14年にわたり人工知能(AI)の研究開発に従事。コンサルタント会社勤務、民間の研究所を経て、2003年に(株)感性リサーチを設立、代表取締役に就任。大塚製薬「SoyJoy」のネーミングなどに携わった。