藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)
「安全保障や外交に支障」のまやかし 意識改革と態勢強化が急務
「安全保障や外交に支障が出かねない」という理由で開示を拒んだ日米関係の文書は、すでに自ら公開している文書と同じ中身だった――。ウソをついたと言われても仕方がない外務省のずさんな情報公開への対応を2件、朝日新聞は10月にまとめて報じた。
この奇怪な不手際を生んだ外務省の闇を、筆者の私がどのように探り、日本外交の足腰に危うさを覚えたか。新聞に書ききれなかった経緯と実態を報告する。(朝日新聞編集委員・藤田直央)
「外務省、公開済み内容を不開示に 沖縄返還文書など」(10月27日付朝日新聞朝刊1面に掲載)
きっかけは8月、日米関係史に詳しい信夫隆司・日本大学教授からの指摘だった。
文書開示請求から2年4カ月もかかってやっと外務省が開示した半世紀前の外交文書を示し、ニュース性を尋ねたときのことだ。「沖縄返還問題の進め方について」という文書に目をとめた信夫氏から、意外な反応が返ってきた。
「私が驚くのは、すでに公開ずみ、それも極めて有名な文書群の中にあるものを、開示請求に対し当初墨塗りした(開示しない部分を黒く塗りつぶした)ことです。外務省の担当者が不勉強なのかどうかわかりませんが、歴史的文書の持つ重要性を全く認識していないのではないか」
そうとは知らなかった私の「外務省ずさん不開示問題」の取材はここから始まったのだが、本論に入る前にまず、まさに紆余曲折を経たここまでの外務省とのやり取りを述べる。話がさらに溯るが、しばしおつきあい願いたい。
文書開示に至るこの2年4カ月のやり取りが、外務省自身がそこからさらに7年も前に公開していたのと同じ中身の文書を伏せたことによる確執だったという理不尽さを、読者にご理解いただきたいからだ。情報公開法に基づく文書開示請求という、多くの方にはなじみのない制度を理解する助けにもなるだろう。
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