“インスタ小説”で30万読者獲得に学ぶ新たなストーリー戦略 ーー スマホに収まる「21世紀型 図書館」登場

by Takashi Fuke Takashi Fuke on 2019.10.26

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ピックアップ記事: Hundreds of thousands of people read novels on Instagram. They may be the future

ニュースサマリー: ニューヨーク公共図書館がInstagramストーリズで古典小説コンテンツを配信する「Insta Novels」の提供を2018年8月から開始。最初の作品は『不思議の国のアリス』。ストーリーを躍動的に伝えるためにアニメーションを加えた形で発表された。

以来、同図書館は古典文学を世界に広めるというミッションを基にストーリズを通じて若者をターゲットに作品を立て続けに発表。2019年9月末までの約1年間で30万ユーザーがInsta Novelsを閲覧したとのこと。ニューヨーク公共図書館のInstagramアカウントフォロワー数は13万に上る。

ニューヨーク拠点のデザイン事務所「Mother New York」がコンテンツ制作を委託されている。これまでKindleを代表とする電子書籍リーダーに古典文学作品を最適化させる試みはあったとのことだが、Instagram特化のコンテンツプロバイダーとして着地点を見つけ、大きな反響を呼んだ形だ。

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Image Credit: nypl

記事のポイント: 今回取り上げたニューヨーク公共図書館が目指すのは「21世紀の図書館」と言える試みです。たしかに図書館に足を運んで蔵書を読める公共価値は不変ですが、コンテンツを多世代に呼んでもらう努力がなければ、世代と共に価値が薄れてしまう危機感もあります。

そこで取り組んだのが「場所」と「コンテンツ体験」の2つ。マーケティング4Pの「Place」と「Product」に当たる2つの変革に当たったわけです。まずは読書する場所を4億ユーザーが集まるInstagramへと移行することで、スマホの中に収まる図書館へと市場ポジションを変更。

3、4年前に全盛期を迎えた分散型メディアに通じるコンセプトを公共施設へと適用し、自社施設にユーザーを呼び込むスタイルではなく、ユーザーが普段利用するSNSへと自ら“出向く”ことを意識してコンテンツ配信を開始しました。

次に、古い蔵書内容に“サクサク感”を付け足すことで製品体験をアップデート。長いページ数のある作品であっても1タップで次へ進めるストーリズにコンテンツを最適化。1ページを読み終える前に15秒コマで消えてしまうデメリットに対しても、ちょうど親指を画面に置ける右下にタップ場所を用意してゆっくりと読めるようにデザインに趣向を凝らしています。

また、アニメーションを散らしたり、古くに印刷されたフォントを若者向けに変更するなどして作品を現代風に新たに発表しています。このように読者の関心を継続して留められるプラットフォーム選択やデザインの工夫を古典文学に施すことで生まれ変わったのがニューヨーク公共図書館といえるでしょう。

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さて、ニューヨーク公共図書館が新たな読者を獲得した戦略はメディア市場を変える示唆に富んでいると感じます。たとえば出版社が本を出版することなく、印刷費用をInstagram運用に充て、新たに広告事業へ参入できるかもしれません。

具体的には人気作家をなかなか囲えずに苦しんでいる出版社が、著作権の切れた出版物をリメイクしてInstagramで配信することで人気を集めるケースも生まれる商機を指摘できます。

ストーリズの合間に作品にあった広告コンテンツを差し込むことで収益化。著作権フリーであるため、コンテンツの仕入れは無料。あとは印刷費用をデザイナー採用やInstagram担当者に充てることで、昔話や童話を若者向けにリリースすることで新しい市場価値が見いだせるかもしれません。

先述したように分散型メディアの最大のメリットはサーバー代金などのインフラ費用を一切負担する必要がない点です。この点を十分に活かすことで21世紀型に出版事業を刷新できるはずでしょう。

チャット形式で物語を読みすすめる携帯小説アプリ「Balloon」や「TELLER」、「LINEノベル」などが登場しているように、私たちが普段使うインターフェースに作品を最適化して配信する形式が流行っています。そこで過去の作品を現代版に改めて提供するストーリー戦略に、ビジネスモデル確立の視点を含めて注目が集まると思います。

なかでも世界展開を目指すメディアスタートアップが、InstagramやSnapchat、TikTokへ古典小説コンテンツの配信をし、「21世紀型 図書館」のコンセプトの名の下、市場参入する可能性を強く感じます。今回取り上げた事例は公共図書館ではありましたが、民間であれば十分に本事例を参考に収益化へ動くチャレンジをしても良いかと思いました。

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