小説家になろうや、カクヨムで人気の作品をいえば、異世界転生ものだ。
その勢いは衰えを知らず、未だにウェブ小説界の頂点に君臨している。
ネット小説を書こうと思っている人も、異世界転生でも書こうかな、と思っている人も多いだろう。
しかし、中には異世界系に埋もれた、非常に読み応えのある作品も。
今回はオレが利用しているカクヨムから、異世界転生ジャンルではない名作を紹介したいと思う。
書籍化されているので、面白さは保証する。
だってよぉ、『君の膵臓をたべたい』だって、なろう発だぜ?
■小説
●スーパーカブ (角川スニーカー文庫)
トネ・コーケン (著), 博 (著)
父死亡、母失踪。
奨学金の受給を受けながら暮らしている主人公の女子高生、小熊。
そんな彼女が、スーパーカブと出会った。
一万円でカブを譲ってもらった小熊は、節約のため、メンテやカスタムを自力で学ぶ。
時に友人の手を借り、時に孤独に耐えながら。
生活の幅が広がっていき、心も潤っていく。
異世界ファンタジー隆盛の時代にスーパーカブよ!
スーパーカブに乗るJKよ!
おまけに主人公地味子よ!
男性キャラはジジイくらいよ。それも積極的に絡むカンジじゃないよ。
ファンタジー全開のネット小説界隈において、かなり尖っている。
それでなくても、この作品はオレにとって一目惚れに近かった。
変な物好きなオレにとって、本作の持つ尖り具合は大好物だった。
本作はいわば、「少女が人間性を取り戻す」話といっていいだろう。
主人公の小熊ちゃんは、最初ひとりぼっちで、ヘタすると下流まっしぐらだった。
自分には何もないと自覚し、ひっそりと生きようと思った直後のこと。
たった一台のバイクが、彼女の価値観をガラッと変えてしまった。
食費を浮かすにも、「明日を生きるため」ではなく、「カブの部品を買うため」になった。
休みの日には、カブに乗って少し遠出する。自作のおにぎり片手に街の風景を見に。
これまで下しか見ていなかった少女が、様々な景色と出会い、思い出を積み重ねていくのだ。
「ヘルメットとカブが繋がりにくい!」と思えば、友人がツテを頼って「郵政カブ」のボックスをくれる。
友人にとってカブは愛車であり、自分の分身だ。
手入れはするが、フレームが折れるまで使い潰す。
富士山の登頂を目指すという無謀な行動をし、愛車を再起不能にしてしまう。
主人公の小熊は、カブを「道具」と見なす。友人と違い、ストイックな性格だ。
できることを最大限に活かすという一点に、彼女は惚れ込んでいる。
道具ではある。取り回しもきく。ただ、もう自分の手足となっていた。なくてはならないものだと。
現在、四巻まで書籍化されている。
●イックーさん (角川スニーカー文庫)
華早 漏曇 (著), コダマ (イラスト)
風が吹くだけで絶頂に達してしまう坊主、イックーさんがおりなす騒動。
下ネタ全開なんだけど、言葉選びにセンスが光る。
キッチョムさんのパロディキャラ、「キッチョメチョメさん」とか、名前のセンスもハンパではない。
下品なネタが好きな人におすすめ。
細川たかしやRGは出ない。
●ひげを剃る。そして女子高生を拾う。 (角川スニーカー文庫)
しめさば (著), ぶーた (イラスト)
踏切のそばで座っていたJKをかくまい、そのまま居候させる話。
素性を聞こうにも、家に帰りたがらない。
倫理上は帰さないと、と考える。しかし、家に帰した方がよくないのでは、というジレンマに、主人公は悩まされる。
少女の方も、彼の好意に甘えていいのかどうか、戸惑いの色を見せる。
JKと一つ屋根の下。めちゃうらやましい!
ただ、この作品最大の特徴は、「ヒロインが非処女」であることだろう。
ヒロインは援助交際を繰り返し、多くの男性と寝ている経験を持っていた。
ライトノベルではタブーとされている、性体験持ちをヒロインとしている。
当然、主人公も身体目当てなんだろうと、ヒロインは勘ぐってしまう。
主人公は、会社の上司に惚れている。ヒロインに一切手を出そうとしない。
このもどかしさ、恋愛ではない男女間のやりとりに、目が離せない。
現在、三巻が出ている。
●先生とそのお布団 (ガガガ文庫)
石川 博品 (著)
「先生」というネコは、主人公とだけ意思疎通が出来る。
先生は主人公にアドバイスを送り、先生はそのとおりに仕上げる。
書籍化はされるものの、成果は振るわない。
一方、友人の若い女性作家は、毎回新しいことに挑戦して、賞を総なめにする。
なんというか「売れない作家の悲哀」という言葉では片付けられない、身につまされる話だ。
「この挿絵さんには義理がある」といった事情もあって、主人公は我を通す。
先生の現実的な一言も刺さる。
作家を目指してなかったら、なんてことない一言。
目指している身としては、読む度に「うわー」とため息が出てしまう。
■ノンフィクション
●モノクローム・サイダー あの日の君とレトロゲームへ
鯨武 長之介 (著)
こんな感動する「たけしの挑戦状」は初めて見た!
主人公が、嫁さんに告白した当時を小説風に綴ったノンフィクション。
当時高校生だった主人公は、嫁さんと屋上で出会う。
嫁さんが持っているワンダースワンが気になったのだ。
彼女は成績もよく、品行方正だ。そんなオタとは無縁と思われた少女が、ワンダースワンなんてマイナーなゲーム機で遊んでいる。
生粋のオタである主人公は、彼女が気になって仕方がない!
勇気を持って話しかけ、一緒に遊ぶ。
こうして、二人きりの屋上デートが始まった。
この話、ありそうでなかった。
特に圧巻だったのが、「たけしの挑戦状」の扱われ方だ。
誰もが知るクソゲーを、壮絶な悲劇に扱うなんて思いもしなかった。
オタであるが故に、主人公は人生最大の失敗をしてしまうのだ。
いやぁ、この発想はなかった。
ネタバレになるので詳細は明かさないが、とにかく「たけしの挑戦状」が壮絶なドラマを生む。
是非読んでいただきたい。
●現役東大生が1日を50円で売ってみたら
高野 りょーすけ (著)
とあるホームレスさんに感銘を受けた東大生が、自分の一日を50円で売り始める。
よみうりテレビの情報バラエティ番組「大阪ほんわかテレビ」で紹介されていたので、興味を持って購入。
買ってよかった!
発達障害の少年に数学を教えに行って、玉砕。
チェスナンバーワンの男性にはマウントされ、ニューハーフには去り際にキスされる。
飲み屋に連れて行ってもらったら、元殺人犯の客引きと遭遇。
マルチ商法にひっかかり、自分も勧誘側に回ってしまった主婦の話なども。
もう、壮絶に個性的な利用者たちと出会う。
本書を推奨したい理由は、巻末の話を読んで欲しいからだ。
著者は、とる主婦から
「勉強しない中学生の息子を説得してくれ」
と言う依頼を受ける。
「勉強しろって言われて素直に聞かないのが中学生ってもんじゃないか!」
と、著書も「無茶」だと分かっている。
それでも、著者は中学生と対話する。
母親は」「とりあえず何になってもいいから勉強してもらいたい」と話す。
特に、強制するとかではないようだ。
このときに、少年に言った一言が、切ないのよ。
もう、今まで接してきた人たち、彼らから得た経験の集大成なんよ。
読書感想文に推したい図書ナンバーワン。
■まとめ
とにかく、オレが言いたいのは、
「ネット小説は異世界ファンタジーに限らない。みんなが知らないだけ」
という事実だ。
まだ読んでないけど、『限界集落オブザデッド』、最近書籍化された『トイレで読む、トイレのためのトイレ小説』など、書籍化されているだけでも、異世界ファンタジー以外の作品は、またたくさんある。
ぜひとも、毛嫌いしないでネット小説の世界を堪能して欲しい。
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