キャプテン

2007年 日本

キャスト:布施紀行(谷口タカオ)小川拓哉(丸井)中西健(イガラシ)小林麻央(三咲静香)江原修(佐伯)菅田俊(権藤)河野朝哉(佐野)高品充(小山)久保木くれを(松下)千代将太(浅間)宮崎美子(谷口孝江)筧利夫(谷口茂夫)

監督:室賀厚

墨谷二中に転校してきた谷口タカオをクラスメートに紹介する3年D組担任の佐伯先生。野球部の練習を見つめる谷口は二年生の丸井にキャプテンに会いたいと言う。「キャプテンは部室にいると思います」俺は野球部を辞めると言うキャプテンの芹沢。「お前、マジで辞めるの?新学期になって一か月だぜ」「この前の試験の成績が悪くて」「お前、キャプテンだろ。自分のことだけ考えりゃいいってもんじゃないだろ」「キャプテンと言ってもくじ引きで決めただけじゃないか」「……」「じゃあな」

どうすると話し合う小山と松下と浅間。「ありえないよ。三年生は俺たち三人しかいないのに」「4番でサード。でかい穴があいたな」「三咲の奴、顧問のくせに引き止めなかったのかね」「あの先生に期待しても無理だろう」「キャプテンはどうする」「またくじ引きで決めるか」そこに部室に入ってくる谷口。「キャプテンに入部届を」「キャプテンはいないよ」「え」「でも入部は大歓迎だ」

キャプテンが辞めたことを下級生に告げる小山。「新キャプテンはなるべく早く決める」この野球部は何なんだとため息をつく一年生のイガラシ。谷口のユニフォームを見て、あれは青葉学院の練習用にユニフォームだと驚く丸井。「3年連続日本一の青葉だよ」谷口に青葉にいたのかと聞く浅間。「うん」「ポジションは?」「一応サード」「すげえ」「僕はただ野球を楽しみたいだけで」「ちょっと打ってみてくれ」

松下の投げた頭付近のボールを谷口はよけようとするが、ボールはバットに当たり大ホームランとなる。4番でサードが決まったと喜ぶ丸井。「先輩、こうなったら谷口さんにキャプテンをやってもらいましょう」「ああ、キャプテンは決まりだ」

キャプテンは谷口に決まりましたと顧問の三咲静香に言う小山たち。「でも、谷口君は転校したばかりよ」「部員みんなの意見です」「みんなが決めたんならそれでいいわ。谷口君、頑張ってね」「はい」たまには練習を見るんですかと聞く佐伯にまさかと答える三咲。「私は授業だけで精一杯です。野球のことなんか全然知りませんし。後任が見つかるまで形だけです」「そうですか」

今日から店を持つことができましたと電話する谷口の父の茂夫。「ええ、谷口工務店。絵に描いたような零細企業です。今後ともごひいきお願いします」野球部のキャプテンになったのと谷口に言う母の孝江。「お前がかい」「僕が青葉にいたからって勝手に」「そういうことかい」お前には迷惑な話だよなと言う茂夫。「日本一の野球部にいてもずっと球拾いだったもんな」「一応サードだよ」「試合に出たことあったっけ」「ない。補欠の補欠だったから」「そうだよな。最後まで一年生と混じって球拾ってたもんな」「……」

墨谷二中は陽南中と練習試合をするが、谷口はエラーと三振を繰り返し、チームはコールド負けを喫する。落ち込む谷口にこのあとの練習はどうしますかと聞く丸井。「まかせるよ」谷口は青葉学院に三ヶ月しかいなかったと三咲に言う佐伯。「あそこにいる知り合いの教師に聞いたんですが、大工をしている父親が青葉学院の理事長の家の修理をした縁で、移転先が見つかるまでの間、特別に入学が許可されたそうです」「じゃあ別に名選手でもなかったんだ」「僕も変だと思ったんですよ。谷口は裕福そうじゃないし、青葉学院は授業料は高いですから」「ちょっと可哀そうかも」

落ち込んで家に帰る谷口に今日の試合を見たと言う茂夫。「今晩から特訓だ。覚悟しやがれ」「え」「お前を徹底的にしごいてやる。一人前のキャプテンになれるようにな」「もういいんだ、父ちゃん。俺、野球部を辞めることにしたんだ」「馬鹿野郎。お前は試合であんな赤っ恥をかいて口惜しくないのか」「口惜しいけど。俺は無理矢理キャプテンにされた。俺はただ野球を楽しみたいだけなのに」「でもお前にも責任がある」「なんで」「お前はキャプテンを引き受けた。そうだろ」「……」「引き受けたからには最後まで責任を持ってやれ。辞めるのはそれからでも遅くない」「わかった。俺、頑張るよ」

小山たちは谷口をキャプテンから辞めさせたいと三咲に訴えるが、三咲はダメだと断る。いいんですかと三咲に聞く佐伯。「谷口も辞めたいと思ってるんじゃないかと」「キャプテンをころころ変えるようじゃ顧問の責任問題と言われかねませんから。面倒くさいのはイヤなんです」丸井に球拾い専門だったと言う谷口。「紅白戦も出たことはない。でも隠すつもりはなかったんだ」

サードは二年生から選ぶと丸井に言う小山。「もうすぐ夏の予選も始まるからな」「キャプテンに黙ってやるのはよくないんじゃ」「言ったさ。全部まかせるって」グラウンドを黙々と走る谷口を見つめるイガラシ。

毎晩ノックを受けてバッティングセンターで打ち込みをする谷口。(父ちゃん。俺がんばるよ)ノックを受ける谷口を見つめる丸井に声を掛けるイガラシ。「先輩。初めての日にキャプテンがとんでもないボールをホームランしたことを覚えてますか」「ああ」「みんな、まぐれと言うけど、そうじゃない。ちゃんと体が反応してた」

夏の予選の組み合わせ抽選会が行われ、墨谷二中は江田川中と対戦することとなる。喜ぶ小山たち。「初戦の相手が江田川とはついてるな」「うちが唯一ボロ勝ち出来る相手だからな」「くじを引いてくれたキャプテンのおかげだな」「初めて役に立ったな」バッティングセンターで谷口にアドバイスするイガラシ。「肩を自然に回して腰の力で振るんです。楽にバットが振れてもっと鋭い当たりが打てると思います」「ありがとう」

墨谷二中は江田川中と対戦するが、1年生投手の井口に抑え込まれて、8回を終わって0対1と苦戦する。スタンドから丸井に声を掛けるイガラシ。「このままじゃ負けちゃいますよ」「わかってるよ」「代打を出すんですよ」「誰を?」谷口を見つめるイガラシ。

9回表、2死1塁となり、小山に代打を出したらどうですかと聞く丸井。「代打?そうだな、笠原か」「絶対いけます」「わかった。お前、審判に言ってこい」「はい」審判に「代打、谷口」を告げる丸井。驚く谷口に最敬礼する丸井。「お願いします。キャプテン」代打に登場した谷口は見事に逆転本塁打を放ち、9回裏の守備にファインプレーを連発してチームを勝利に導く。やっぱり谷口はキャプテンだと感激する丸井。

知ってますかと小山たちに聞くイガラシ。「俺たちが決勝まで勝ち抜くと青葉と当たることになるんです」「あり得ないよ。俺たちの目標は2回戦突破なんだから」ルールブックを読む三咲に顧問の自覚に目覚めたんですかと聞く佐伯。「全然。どうせ試合の時はついていかないといけないし。ルールぐらい覚えないと見ててもつまらないし」

墨谷二中は2回戦の陽北中戦も谷口の活躍で勝利し、12年ぶりに2回戦突破する。新聞部の取材を受ける三咲。「私は小さい頃から野球が大好きだったの。こうして野球部の顧問ができて、本当に幸せよ」「それで目標は?」「勿論優勝よ」

墨谷二中は準々決勝の陽東中戦も勝ち、ベスト4に進出する。イガラシをベンチ入りさせたいと小山たちに言う谷口。「マジで一年をベンチ入りさせるんですか」「実力があればそうしたい」「でも、うちの部の伝統で一年は九月まで試合に出さないことになってるんですけど」「でも僕らはベスト4に入った。それ自体伝統を破ったんじゃないのか」「なるほど」練習で攻守に秀でたものを見せるイガラシ。ジャージ姿で練習を見守る三咲にすっかりその気ですねと言う佐伯。「何を言っていいかわからないんです。だから黙って見ています」

墨谷二中は準決勝の金成中戦を代打イガラシのサヨナラタイムリーで勝利し、決勝戦に進出する。青葉学院のエースの佐野に僕のことを覚えているかと聞く谷口。「4月まで青葉にいた谷口だ」「正直覚えてない」

ここまで全試合コールド勝ちですねと新聞記者の取材を受ける青葉学院の監督の権藤。「決勝戦もコールド勝ちを狙いますか」「我々の目標は全国大会の優勝です」「次の試合でエースの佐野君を登板させる予定は?」「それは全くありません。佐野は全国大会に絞って調整させてますから。まあキャプテンなのでベンチ入りさせますが」「相手の墨谷二中については」「相手のキャプテンの谷口君がうちにいたと聞いて喜んでいます。まあ彼のことは全然覚えていませんが」

墨谷二中野球部の快進撃は学校中の話題になり、野球部員は女生徒から声援を浴びるようになる。練習中にデレデレする先輩たちを見て、ああいうのは青葉に勝ってからにしてほしいですねと苦言を呈するイガラシ。いいじゃないのと言う小山。「俺たちがこんなに注目を集めるのは初めてなんだから。キャプテンも言ってたじゃない。野球を楽しみたいって。ねえ、キャプテン」「あ、ああ」

茂夫が期限内に完成するのは無理だろうと言われた工事を完成させたことに驚く谷口に、下の人がついてきたからよと言う孝江。「父ちゃんは普段は優しいけど、仕事になるとすごく厳しいの」「……」「優しいのも大事。でも厳しいのはもっと大事よ」

部員たちに猛ノックを浴びせる谷口。「キャプテン。待ってください」「どうした」「近すぎるんですよ」「青葉の打球に比べれば、こんなものは大したことない」鬼のようなノックをする谷口に不満を漏らす部員たち。「やれやれ、やりすぎじゃないか」「今日は雨だからいいけど」

青葉に勝つにはこれくらいしないとダメなんですと言うイガラシに一年は黙ってろと言う小山。「キャプテンはいいよな。俺たちをしごくだけでいいから」そうでもないかもよと言う三咲。「聞こえない?あのノックの音が」丸井のノックを受ける谷口。「キャプテン。いくらなんでも近すぎますよ」「俺ができないことをみんなにやらせるわけにいかないんだ。さあ来い」

二人を見つめる部員たちに谷口君はみんなと分かちあいたいのよと言う三咲。「努力した者のみが味わえるもっと大きな喜びを。本当に野球を楽しむってこういうことなんじゃない?」俺たちもノックを受けると言う小山たち。三咲に感心するイガラシ。「先生って意外にイケてるんですね」「生意気なガキね」

こうして完全に一つのチームとなった墨谷二中は青葉学院との決勝戦に臨むがいきなり1回表に4点を取られ、その裏を二番手投手の橋本に三者凡退に抑えられてしまう。誰もが青葉学院のコールド勝ちを予想するが、墨谷二中はファインプレーを連発し、青葉学院の追加点を1点だけに抑える。そして4回裏にバンドヒットとファーボールでチャンスを迎えた墨谷二中は谷口のスリーランで2点差に追い上げる。何をやっていると激怒する権藤。

波に乗った墨谷二中は7回裏二死2、3塁のチャンスを迎え、谷口の打順となる。たまらず権藤は佐野をリリーフに送る。快速球で谷口を三振に打ち取る佐野。青葉学院は8回表に貴重な追加点である1点を奪う。9回表、墨谷二中のエースの松下は打球を肩に受けて投球不能となるが、急きょリリーフしたイガラシが相手の4番打者を三振に打ち取る。9回裏、佐野は簡単にツーアウトを取るが、丸井は内野安打で出塁し、浅間は振り逃げで出塁し、イガラシはセンター前ヒットを放ち、二死満塁で谷口が打席に入る。

谷口が左中間にヒットを放つが、一塁ランナーのイガラシはホーム寸前でタッチアウトとなり、試合は6対5で青葉学院が勝利する。谷口にお前のチームは素晴らしいと絶賛する佐野。「ありがとう」握手する谷口と佐野。感動して涙する三咲。よくやったと喜ぶ茂夫と孝江。

(そして俺たちは三年になった。今日、新しい部員を迎える)丸井にみんな集まってますと言うイガラシ。「うん」「三咲先生も結局顧問を続けるらしいですよ」「あんまり役に立たないけどな。あの先生」新入部員に怒鳴る丸井。「俺がキャプテンの丸井だ」

★ロロモ映画評

この映画の原作は言わずとしれたちばあきおの漫画でありまして、ちばあきおは高校は夜間学校で昼間は玩具製造工場に勤めていましたが身体を壊し退社。療養中に兄・ちばてつやのアシスタントとして漫画界に携わり、兄のアシスタントをしながら、1967年に「なかよし」掲載の「サブとチビ」でデビュー。そして1972年に「別冊少年ジャンプ」に掲載された「キャプテン」が全国の野球少年の心を捕らえ、勿論ロロモの心も捕らえたわけです。

内容はだいたい映画の通りで、野球の名門青葉学院から墨谷二中に転校してきた谷口タカオは、野球部へ入部。谷口は青葉学院では2軍の補欠でどうしようもないダメな選手でしたが、墨谷二中では周りの期待に応えるべく凄まじい努力を続け、キャプテンとしてチームを引っぱる存在となり、ついには青葉学院と対戦すると言う展開になりますが、普通野球漫画と言えば高校かプロが舞台になるのですが中学生を主人公にすえたのが斬新で、1961年生まれのロロモは谷口とか丸井とかイガラシとかほぼ同じ世代となり、彼らの一挙手一投足がとても身近に感じられたわけです。

そしてキャプテンの素晴らしいところは谷口が卒業しても話が続いていったところでして2代目キャプテン丸井、3代目キャプテンイガラシへとキャプテンは受け継がれ、イガラシの頃になると野球漫画としても読みごたえが出てきて、少年漫画と野球漫画がうまくミックスした形となるわけです。

ちばあきおは1973年から週刊少年ジャンプで「プレイボール」を連載。これは墨谷二中を卒業した谷口が弱小の墨谷高校野球部に入部して、少しずつチームを強くするという内容でして、1970年代半ばは墨谷高校と墨谷二中の活躍が楽しめ、丸井は「プレイボール」では墨谷高校野球部員として、「キャプテン」では墨谷二中のOBとして登場するなど八面六臂の活躍を見せるわけです。

しかしプレイボールは1978年に墨谷高校はこれから甲子園も狙える強いチームになるだろうと言う中途半端な形で連載終了。読者としてはイガラシも墨谷高校に入り、谷口・丸井・イガラシのゴールデントリオで墨谷高校が甲子園で優勝する展開を夢見ており、ちばあきお本人もそういう展開を考えていたとされますが、まだキャプテンも連載されていて、週刊誌と月刊誌での連載と言うのは体力的にも精神的にも厳しいものがあり、それを5年も続けたちばあきおは心身ともに限界状態にあったと思われ、どちらかを終わらせる必要があり、苦渋の決断でプレイボールの連載を終了させたと予想されるわけです。

ちばあきお本人は谷口が大学野球を経てプロ野球の選手として活躍する所まで描く考えを持っていたそうですが、1979年にキャプテンも連載終了。この終了もどうもすっきりしない形で終わっているのですが、それはちばあきおのコンディションの問題もあるのでしょうが、谷口→丸井→イガラシに続いた四代目のキャプテンの近藤が三人のキャプテンに比べると、選手としての能力はあるもののどう見てもキャプテンとしての能力に欠けていて、彼の魅力のなさがキャプテンの人気を落して、結局連載終了までにつながったのではとロロモは推測するわけです。

キャプテン連載終了後にしばらく休筆したちばあきおは弟の七三太朗原案の「ふしぎトーボ君」と言う漫画を1982年から月刊少年ジャンプに連載。これは動物や植物と会話ができる特殊な能力を持っていますが、その能力のためにいじめを受けてしまい、動物たちとはすぐに仲良くなれるものの、人間とのコミュニケーションを苦手としている少年を主人公としたものですが、あまり話題になることはありませんでした。

そして1984年にまた七三太朗原案の「チャンプ」と言う漫画を月刊少年ジャンプに連載。これは田舎育ちの少年がボクシングの世界に挑戦する物語ですが、このころのちばあきおはいい作品を書かなくてはと言うプレッシャーからアルコール依存症になっていたと言われ、精神状態が異常になった彼は、9月13日に高速道路を走行中のタクシーから飛び降りて41歳の若さで自らの命を絶ってしまうわけです。

と言うことでこの映画を見るにあたってはどうしても漫画家残酷物語とでも言うべきちばあきおの人生を振り返らずには見ることができず、なかなか映画に入り込むことができないわけですが、単純に谷口と丸井とイガラシが出てきてくれて嬉しいとも思い、3人ともロロモのイメージする彼らとは微妙に違う気がしますが、気が弱くて頑張り屋の谷口、勝ち気で負けず嫌いの丸井、自信家で皮肉屋のイガラシと言う3人の特徴は出ていたかなと思うわけです。

あと映画を見て思ったのは、松下が意外に好投手だったと言うことで、ここまで全部コールド勝ちの青葉学院を9回途中まで6点に抑えたのだから、彼が一番のヒーローではないかと考えたりもし、あとこの映画は三咲先生の成長物語でもあるのですが、あの役は小林麻央よりお姉さんの小林麻耶の方が適役だったかと考えたりもするのでありました。(2015年1月)

得点 58点

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