今季の課題が浮き彫りになった試合がある。逆転でのクライマックスシリーズ進出の芽が出てきた9月1日のヤクルト戦(ナゴヤドーム)、中日は1-3の9回2死二塁から大野奨が内野安打で出塁すると、代走・遠藤を投入。その数分後、二盗を狙った遠藤がベース手前で憤死して、あっけなく幕が閉じた。
今季のチーム打率2割6分3厘はリーグ1位。しかも打率ベスト10には球団史上初となる4人(ビシエド、大島、高橋、阿部)がランクインした。なのにチーム総得点はリーグ5位の563点。同1位の巨人とはジャスト100点差だ。考えられる理由に12球団最下位の本塁打数(90)もあれば、得点圏での勝負弱さもある。だが、広いナゴヤドームは来年も狭くならない。ならばどうすれば…。現在の首脳陣が考える打開策の一つが、走塁面の向上だった。
「足のスペシャリストをつくらないといけない。ここ一番で盗塁を決められる選手を」。こう力説したのは伊東ヘッドコーチだ。現在の球界でいえば、侍ジャパン入りしたソフトバンクの周東、かつての中日でいえば英智(現2軍外野守備走塁コーチ)か。求めているのは塁上にいるだけで相手バッテリーにプレッシャーを与えられるスペシャリスト。今季の代走要員を務めた遠藤は、4盗塁で4盗塁死の成功率5割。あの日も「行けたら行け」のサインに応えることはできなかった。
今季、盗塁を成功させたのはリーグ3位の大島30を筆頭に、京田17、遠藤4、高橋3、平田3、ビシエド2、藤井、阿部、渡辺、堂上各1の計10人。主力を含めた現有メンバーの強化も必要だが、ファームからの新たな人材の育成は不可欠だ。今季2軍での最多盗塁は13の渡辺。そして伊東ヘッドが注目しているのは50メートル5秒9を誇る高卒2年目の高松。「高松あたりがそうなってくれれば」と期待を込めた。
最後に“体験入門”はさせた。残り2試合となった9月29日にプロ初昇格させると、阪神との2連戦(甲子園)ではいずれも代走で投入。29日は「行けたら行け」のサインが出たが、スタートを切れず、30日は相手が警戒していなかったことで盗塁は記録されなかったが、二塁への進塁は決めた。今季2軍で5盗塁。可能性を秘めた20歳は確かな一歩を刻んだ。
「いい投手からはなかなか連打もホームランも出ない。だから足はすごく大事になる」と伊東ヘッド。与田体制となって2年目となる秋。絶対的な走力を上げることはできないかもしれないが、盗塁に必要なスタート、スライディング、勇気を磨くことはできるだろう。就任1年目でチームの打力アップには成功した。あとはどう得点に結びつけるか。秋季キャンプは大きな意味を持つ。