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【社会】

「警察は悩み確実に聞いて」 桶川ストーカー事件20年

事件から20年を迎えるのを前に、詩織さんの写真を見つめる憲一さん(右)と京子さん=25日、埼玉県上尾市で

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 埼玉県桶川市で一九九九年、女子大生の猪野(いの)詩織さん=当時(21)=がストーカー被害の末に刺殺された事件は二十六日、発生から二十年を迎える。父憲一さん(69)と母京子さん(69)が、同県上尾市の自宅で本紙の取材に応じ「娘がもし生きていたなら、どんな大人になっていたのかと考える日々です。二度とこのような事件が起こらないことを常に願っています」と思いを語った。 (森雅貴)

 「二十年たった今でも、詩織の名誉を回復する戦いは続いています」

猪野詩織さん

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 憲一さんは力を込める。事件直後、埼玉県警の発表を基に、詩織さんが持っていたバッグや時計のブランドに注目が集中。「ブランド物が大好き」など、事実と異なる臆測だけの報道が相次いだ。各地で事件に関する講演を続ける憲一さんは今でも「亡くなった娘も悪いと思っていた」との反応を受けるという。

 「娘を殺した犯人、捜査を怠った警察、娘の名誉を傷つけたメディアに、娘は三回殺された。時間はたっても傷は癒えない」と率直に語る。

 大きな怒りを感じながらも、二〇一七年からは警察でも講演している。詩織さんがつきまといを受けた時の不安や、警察に助けを求めたにもかかわらず、命を救えなかった経緯を伝える。「入りやすい署の雰囲気をつくってください」「小さな悩みを確実に優しく聞いてください」と語り掛ける。娘と同じ被害に遭いそうな人を助けてほしいと願う。依頼があれば、埼玉県警にも講演するつもりだ。

 埼玉県警の幹部は「絶対に忘れてはいけない事件」と述べ、「小さな異変にも警察は寄り添っていく」と話している。

 事件を機に二〇〇〇年にストーカー規制法が成立し、全国の警察にはストーカーなどの事案に対応する部署が設立された。

 京子さんは「ストーカーの被害者は悪くない。事件に巻き込まれそうな時こそ、警察に相談してほしい。警察は、被害者が守られていると感じるくらい勇気を与える存在であってほしい」と話している。

◆被害相談 年2万件超 増加傾向

 警察庁によると、全国の警察が把握したストーカー被害の相談件数は二〇〇一年に一万四千六百六十二件だったのが、一三年以降は二万件超で推移し、増加傾向にある。

 一八年は二万千五百五十六件で、付きまといや待ち伏せを禁じるストーカー規制法違反容疑の摘発は八百七十件だった。

 同法は、一六年に男から会員制交流サイト(SNS)を使ったストーカー行為を受けた末、女性が刺された事件をきっかけに「SNSでの付きまとい」や「うろつき行為」なども対象となった。

<桶川ストーカー殺人事件> 1999年10月26日、埼玉県桶川市のJR桶川駅前で、大学生の猪野詩織さん=当時(21)=が、元交際相手の兄の依頼を受けた男らに刺殺された。元交際相手は詩織さんを逆恨みして中傷するビラをまくなどのストーカー行為を繰り返していた。詩織さんは事件前、名誉毀損(きそん)容疑で県警上尾署に告訴していたが、署は調書を改ざんするなどして放置。後に署員3人が虚偽有印公文書作成罪で有罪となった。

 

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